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羽の生えた子供 リゼット・クライトマンⅨ

2009.03.19 (Thu)

両親はすぐに私を捨てた。
教会に。
それも、教会の十字架の前で側にあった小さな十字架で私の体を貫通させた。
両親はこういいながら十字架を振り下ろしたわ。
「この悪魔の子供をお返しします。私達には何の罪もありません。この子供は悪魔の子供、どうか救済を」
けれど、私は死ななかった。
 その後、その教会のシスター・マリアが私を見つけ私を捨てた両親の元へ返したの。
「救済され浄化された子供です。育てなさい。これは、神父様からのお言葉です。従いなさい」
両親は、何も言い返さなかった。
私は地下に閉じ込められ何もできない幽閉生活が始まった。
大きくなるにつれ私の背中の羽は絵に描いたような天使と呼ばれる人に似てきた。
見た目も両親とはまったく異なる金髪で青い目をしている。
両親は黒髪だし、目も青ではない。
私が7歳になったとき、勝手に外に出た。
「リゼット?君が天使のリゼット?」
突然、教会の近くを歩いていたら同じ年くらいの子供が話しかけてきた。
「そうだよ、私の名前はリゼットだよ。どうして知っているの?」
不思議だった。
会ったこともない子供が何故私の名前を知っているのか。
どうして、彼らには羽がないのか。
「だって、君は有名だよ。天使だって」
話しかけてきた男の子は顔を赤らめつつにっこりと笑って見せた。
私は、笑ったことがなかった。
「どうして、天使なの?どうして、君には羽がないの?」
聞いてみた。私にとって不思議な疑問。
大人になったら羽がなくなるのかと思ったから。
「羽がある人間なんていないよ!」
男の子は笑いながら言った。
「私は、あるよ」
「だから、君は人間じゃないんだよ。天使なんだよ」
「天使ってなに?あの絵本に出てくる人のこと?」
「そうだよ、空にいるんだ。神様の側にいる人のことだよ」
「神様って誰?」
「教会の十字架にいる人だよ」
「どうして、十字架に縛り付けられてるの?悪いことをしたの?」
「ちがうよ、悪いことなんてしてないよ。だって神様だもん」
「会ったことあるの?」
「あるわけないじゃん」
「じゃぁどうして、そんなこと知っているの?」
「誰でも知ってるよこれくらい」
そう言い放って男の子はどこかに消えてた。
神様?
天使?
不思議な事を話す子供だと感じた。
何故見たこともないものを、当たり前のように話すのか。
 この日、私が外に出たことで村中にはやり天使があの家にいるということが広まった。
それが私にとって不都合とは感じていなかったが両親は隠しておきたい存在だったようだ。
私のことを。
何故なのか不思議だった。
村人達の反応はとても好意的で「是非天使様にあわせてくれ」という懇願する声が聞えてきた。
地下にいてもわかるほどだ。
だが、両親は決して私を村人と会わせようとしなかった。
「外に出るときはこれを着なさい。それと、絶対に誰とも口をきいてはだめ。いいわね」
母の強い口調はいつも以上にこわばったものを感じさせた。
この洋服が何を意味するのか私にはわからなかった。
けれど、その服を着ているなら外に出ていいという母の言葉。
外に出られるならと喜んで着たが誰一人私に声をかけなかった。
どうして?
でも、口もきくなといわれている。
理由を聞くすべはなかった。
私は、誰とも話すことができなくなってしまったから教会で毎日歌を歌った。
村人はそれをききにやってくる。
けれど、誰一人私と話そうとしない。
それどころか、あれほど会わせてくれと懇願していた村人達が私を恐れるようになっていた。
何故?
何故なのだろう?
私の羽はかなり大きくなってきていた。
普通に飛ぶこともできるのだけれど、飛んではだめだと父から強く言われている。
だから、教会の屋上に上る時以外飛ばない。
教会に私がいるときは、歌っているとき以外村人は寄って来ないから。
背中が大きく開いたこの洋服。
もちろん、羽を出すためなんだろうけれど。
どうして、この服を着なければならないのかな?
この服を着て、羽を見てみんな怖がっている?
でも、天使。
神様に仕える側にいる人なんでしょう?
こんな立派な建物の教会に、まったく似つかわしくない像がある。
それは磔られた人の像。
この人が神様という人らしい。
会ったことはないからわからないけれど痛そうだ。
その会ったことない人に私は側にいたと思っているのかな?
「どうして、羽が生えているのかきいてもいいか?」
それは、随分昔私に話しかけてきた男の子だ。
もうあれからどのくらい経っただろうか。
十年は経っただろうか。
口をきくなという教えに戸惑ったが、誰もいない。
少し躊躇したが答えた。
「どうしてといわれても、私は小さな頃からずっと生えてる」
「天使は空にいるものなんだ」
「私は、天使じゃないよ」
「人間でもない」
「どうして?」
「羽が生えている人間なんているわけないだろう」
「じゃぁ、私はなんなの?」
あまりの物言いに私はちょっと不服な顔をした。
羽を広げ屋上の梁からふわりと少年の前に降り立った。
まっすぐ、その少年の目を見つめ私は怒った顔のまま黙った。
少年の顔は青ざめているが私から目を離そうとしない。
「私は・・・」
そういいかけたとき、少年が私を抱きしめた。
それが、十七歳の冬。
人のぬくもりと、羽のない背中を触ったのがはじめてだった。
少年が私の耳元で一言つぶやいた。
「…好きだ」
その意味が私はわからなかった。
ただ、温かいとその少年の体のぬくもりが気持ちよかった。
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08:13  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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出生の立会人 リゼット・クライトマンⅧ

2009.03.05 (Thu)

あの時、生まれた子供は教会の古びた十字架に突き刺さって死んだリゼットと俺を介して生まれた。
それは血の海の中から、産声を上げ十字架の下にある初代リゼット・クライトマンの墓から誕生した。
その子供を、次世代のリゼットから言われたとおりリゼット・クライトマンの子孫が住む生家に届けた。
産湯もできぬまま、側にあった聖水を子供にかけ血を洗い流し自分のスーツの上着を子供にくるませただ目の間にいるたった今死んだばかりのリゼットが幼い顔になった同じ声をした少女について行った。
「お待ちしておりました」
玄関に着くなり、何もしていないのにドアは開けられた。
リゼット・クライトマン。
あの姿で、話して。
あの姿を、愛した。
たった、何分かの出来事だけれど。
何故だろうか。
俺は、ずっと前からこの時を知っている気がした。
まるでデジャ・ブのよう。
「アルヴァ・オルブライト様、お久しぶりですね」
玄関に立っていた女性に会ったことはない。
だが、彼女は俺を見るなり懐かしそうな顔をして俺を見ている。
微笑んで。
「そうやって来るあなたを随分待っていました。あの時、そう…いつだったかしらね。どうぞ、お入りになって」
それから、玄関をくぐりその部屋を見たときデジャ・ブなんかではないと確信した。
「俺は、ここを覚えてる…」
全部、覚えていた。
キッチンの場所、リゼットのお気に入りのマグカップがどれなのか。
リゼットがいつも座っているロッキングチェアー。
お気に入りのひざ掛け。
お気に入りのぬいぐるみ。
いつも、着せていた洋服。
何故、こんなにも鮮明に記憶があるのだろう。
わからない。
わからない。
「混乱しているようね。まず、赤ちゃんを預かりましょう。いつも通り聖水をかけたのね。これで、リゼットは無事に生まれたわ」
教会から運んできた赤子を女性に渡し俺は力が抜けたように側にあったソファーに座った。
一緒に来たリゼットが目の前に座る。
「なんとなくじゃなくて、急に思い出したでしょう?この家のこと。リゼットのこと」
「…あぁ」
「私はね、リゼットなの。さっき生まれた子供は私が最後の歌を歌った後リゼットになる子供よ」
「…そうか」
「さっき死んだリゼットは今頃、村人達が集まって祈りの時間を始めている頃ね」
「祈りの時間?」
「リゼット・クライトマンは、神に反旗を翻し地上に落とされた不義の天使」
「天使?」
「というよりは、初代リゼットは悪魔と恋をしたのよ」
「悪魔って…」
「人間のことよ」
「人と天使の子供を生んだリゼットはその罪を背負うことになった。もちろん、リゼット自身それはわかっていたと思う。だけれど、子供にまでその影響があるなんて思ってなかった」
「影響って?」
「それは、いつか思い出すわ」
「初代リゼットの写真ってあるか?」
「こっちよ」
案内された部屋は、見覚えのある扉。
重苦しい木の扉で通常は玄関に取り付けるうようなデザインのもの。
その先に入ったことは一度もない。
それだけはわかっていた。
「この部屋は…」
「入れないことは覚えているわよね?」
「…入れないというより入った事がないと覚えている」
「そう、ならまだ不安定ね」
「なら、こっちの部屋に来て」
隣の部屋に案内され入った部屋には、飾られた写真の数々の中に一瞬で全ての記憶が戻る一枚がそこにあった。
それは、何故忘れていたのかと涙が出て止まらずその写真を手に取り抱きしめて俺は座りこんだ。
「姉さん…」
「覚えていたんだね、アルヴァ」
「アルフレッド…何故ここに?」
「検視官として、昨日から俺はこの村に来てたんだよ」
「でも、誰も来たがらなかったって…」
「そりゃそうだろうな。あの歴史的な惨劇の村といえばお前だって知っているだろう」
「え…まさか」
「そうだよ、ここがあの地に落ちた天使が生まれた場所。羽のある子供が生まれその子供の羽をひきちぎった。俺がずっと研究し続けてきたあの羽の持ち主の村」
08:32  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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知らないほうが幸せ リゼット・クライトマンⅦ

2009.01.30 (Fri)

俺がこの村に来たのは、まだ新人の頃だ。
まったく様変わりしないこの村の因習漂う雰囲気は忘れられない。
そして、二度とここに訪れたくは無かった。
たとえそれが仕事であろうとも。
「おい、アルヴァ・オルブライトはどこだ!」
署内に響く、署長の声はいつも以上に殺気だっていた。
あまり、いい仕事ではないようだ。
「お前をご指名だとさ」
机の上に投げ捨てられた書類を見て愕然とした。
何故、俺を指名した。
もう、あの村とは疎遠でありたかった。
あの、35年前の事件。
それが、この村との出会いでありリゼット・クライトマンと名乗る少女との出会いだった。
当時、新人だった俺は20歳だった。
あの時出会ったリゼット・クライトマン。
それは、俺にとって今までの人生の中で出会った女性で一番美人だと思った。
こんな、姿をしていても。
教会にある大きな十字架に上から突き刺さって死んでいた。
その死体を検視官が来るまで動かせずにいたため、眺めていた。
他の連中は、誰一人この村に来ることを嫌がり事件としては通常十人以上投入してもおかしくない事件なのに新人の俺一人に任されてしまった。
 その死体を眺めながら、じっと目を瞑ったままの金髪の少女を眺めていた。
すると、突然、目が開いた。
びっくりして動けなかった。
とても濃い青の目。
大きな目がこちらを見ている。
「なんで、見てるの?」
死体が話したのだ。
死体…のはずなんだが。
「いや…あ…え…と」
言葉が出なかった。
「私は、まだ、最後の歌を歌ってないのよ。だから、終わらないの」
「最後…の歌?」
「そうよ」
「リゼットの血を引くもの。それは、いつどこに現れるかわからない。リゼットは、この村の罪の証」
「罪…?」
「そう、私達はこの墓の下から生まれるの」
「え?」
「ここは、教会じゃないの。元はリゼットの墓。その墓を中心に立てられた教会なのよ」
「リゼットは君じゃないのか?」
「私よ、リゼットは私。でも、リゼットは一人ではないわ」
「どういう意味…なんだ?」
「不思議な人ね」
「え?」
「こんな姿の私を見て話し続ける人初めてよ」
「俺も…初めてだよ、こんな姿をした女の子と話すのは…おろしちゃだめなのか?」
「えぇ、ダメ」
「じゃぁ、この台の上に乗ってもいい?」
「え?」
「君の顔を近くで見たいんだ」
「変わった人」
「乗るよ?」
「うん」
十字架の台座に足をかけ、十字架に突き刺さったままのリゼットと同じ高さの目線になった。
その、綺麗な瞳。
その、綺麗な長い金髪。
その、澄んだ青い目。
その、きれいな真白い肌。
「最後の歌を聞いてくれる?」
「聞いたらどうなるの?」
「次のリゼットがあなたの側に現れるわ」
「次のリゼット?」
「私の役目は終わり」
「役目ってなんだい?」
「こうすることよ」
リゼットは、急に顔を近づけ俺の唇にキスをした。
何もいえず、そのまま見つめていると彼女は歌い出した。
泣きながら最後の歌を。
その歌は、ただ罪を償い終え天に帰ることの許しを請う歌詞だった。
彼女の口から、俺の口に彼女の血が入った。
その時、心臓がドクンと音を立てた。
苦しくなって台座から降り座り込んだ。
台座に背を向けて寄りかかった。
息も段々しづらくなってきた。
一体、どうしたというんだ。
次の瞬間、リゼットの歌が止まった。
そして、一気に彼女の口から血が流れ落ちた。
その血をみて彼女が本当に息絶えたと確信した。
たったあの何分かの間だった。
でも、俺は彼女を愛した。
本気で愛した。
ただ、この気持ちだけが残った。
そう考えながら彼女から流れ出た血を手ですくいあげると、その血だまりの下から赤子の鳴き声が聞えた。
教会のドアが開き、息絶えたリゼットと同じ顔をしたリゼットより若い女の子が立っていた。
「その子が、私の次のリゼット。私は、あなたの愛したリゼットの次の世代よ。リゼットが生まれるには必要なのよ。別の村から来たリゼットを愛した男の人の血が」
「・・・俺の血?」
「そう、その子供はあなたの子よ。届けてあげて、リゼット・クライトマンの生家に」
08:01  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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十一歳のリゼット リゼットクライトマンⅣ

2009.01.27 (Tue)

十一の時に、私はリゼット・クライトマンとしてこの教会に出てきた。
その前日、リゼット・クライトマンが十七歳でいつもどおり最後の歌を歌って使命を遂げた。
あの歌を知っているのは、私だけ。
リゼット・クライトマンとなる人間だけ。
どうしてかといわれたら私にもわからない。
でもね、リゼットは私と同じ顔をしていて私と同じ声をしていて私も同じ記憶を持っている。
生まれたときから私はずっと地下で暮らしてきた。
この地下から出るときは、地上で暮らしているリゼットが最後の歌を歌った時。
もちろん、このことも昔から何度も繰り返されていることだから覚えているわ。
最後の歌は、自分があの十字架と一体になれる日。
それが私達、リゼットとして生まれた者への罪を表す。
初代リゼット・クライトマン。
 彼女は、何故最初にあんな事件を起こしたのかは私達も流石に理解できない。
私達がわかることは私達の繋がりだけで、その繋がりが過去であり現在であり未来へと続いていく。次のリゼットが生まれたとき私達はすぐに察知できる。
その能力があることを知っている村人達は、子供が生まれるとすぐに教会へ来て子供を私に見せてくる。
そんなことをしなくても、わかるのにと思うが。
リゼットが生まれた家はすぐにその子供を手放す。
そして、生んだ母親には死産だったという話が伝えられている頃だろう。
リゼットは、この村にとって神の歌を歌える唯一の聖人でありながら最大の罪を犯した罪人でもある。
その罪を償い終えるまで、私達の存在はこの村から消えることは無い。
もしリゼットが生まれない年があった場合、神からの罰がくだると言われている。
実際、そのようにリゼットが途切れた時期は無い。
だけど、私は今までのリゼットの中でも異質な存在だった。
私は姉妹がいた。
通常、リゼットはリゼットとその次世代のリゼット二人が共存している。
二人は会うことはないけれど、記憶を共有しているから特にその点は問題ない。
だが、私が生まれた年それは起きた。
リゼットが二人誕生したのだ。
もちろん、私が生まれた当時のリゼットはかなりのバッシングを受けたそうだ。
前代未聞の話だからだ。
リゼットが二人も生まれるなど何か不吉な前触れかと怯える村人達にこういったんだ。
「リゼットは、殺されるでしょう。そのための代わりなのです」と。
リゼットは、必ず最後の歌を歌って十字架と一体になる。
その最後の歌が流れた時、村人は教会に集まり十字架と一体になったリゼットを前に祈りを捧げる。
命が尽き歌が消えるまで。
リゼットを殺そうとするような存在がいるなどとは誰も恐ろしくて考え付かないことだろう。
だけど、私はわかっていた。
二人一緒に育った。
私達だけが、人と会話をして笑って過ごした。

私が、殺されることは二人ともわかっていた。
だからこそ、私達は決めなければいけないことがあった。
最後の歌は、必ず歌うために。
私達は、リゼットとして生きていくために。
未来を紡ぐために。

嘘をついたのだ。

リゼットが二人生まれたという嘘を。
生まれたときに、そのことを感じ取った当時のリゼットが協力して。
私達は、二人いる。
でも、誰もそのことを知らない。

私達の本当の母親と当時のリゼット。
そして、教会のシスターだけ。

彼女が、リゼットを殺すことももうわかっている。
大丈夫。
あの人は、私達リゼットの罪そのものだから。
その、罪の証だから。
きっと、いつかはこういう日が来るというのはわかっていたことだから。
初代リゼットが行ったことは、どれだけの人が助かったとしてもこのシスターにとって、神にとっても誰が見ても残酷な罪を犯した神を裏切った子供なのだから。
神がお許しになるまで私達は歌い続ける。

懺悔の歌を。
命が尽きるとき、最後の歌を歌う。
聖歌を。

最初で最後の聖歌。

それは、唯一許された神への祝福の歌。
私の命が尽きるその苦しみを神は待っている。
何年も何年も。
何度も何度も。
その苦しむ姿を、自分と一体化させて私達を殺すのだ。

それが、私達の神。

初代、リゼット・クライトマンが眠る墓の上に立つこの十字架の上に立てた教会。
08:30  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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五年前の話 リゼットクライトマンシリーズⅢ

2009.01.07 (Wed)

教会から聞えてくる歌声は、早朝5時から始まる。
特に決まった決まりがあるわけではないがなんとなく目が覚めてしまうから。
ベッドから起きて、顔を洗って口をゆすいだら紅茶を入れるの。
必ずアップルティーを入れる。
好きなんだ、この味。
暖かいアップルティーをゆっくりと飲んだ後、スコーンを食べる。
それが、決まった朝の朝食。
スコーンは、プレーンで何も入っていないものが好き。
お気に入りのティーカップとセットのお皿。
薔薇の模様が絡まってほどけないくらいなのに美しく見える。
私を別のもので表すならこの薔薇だと思う。
リゼット・クライトマンとして私が目が覚めたのは一年前。
その一年前以前の事は、一族最大の秘密として扱われているんだそうだ。
理由はよくわからない。
元々、私はその一年前まで普通に村の人間と共に生きてきた。
ただし、絶対に顔を見せてはならないという掟があった。
それも理由がわからない。
必ず顔が見えない黒いベールを被り葬式のような格好をさせられていた。
同年代の人間と話したことは無い。
普通に過ごしていると思っているが、その生活が生まれてから当たり前だったから普通だと思っていた。
ところが、一年前のある日。
リゼット・クライトマンが死んだと聞かされた。
なんと、十字架に上から突き刺さって死んだというのだ。
あの教会にはよく行っていた。
だから、リゼット・クライトマンを見たこともあるし歌も聴いたことがある。
誰も近づかないこの教会は、ほとんどリゼットだけが居た。
でも、時々どっちかわからない人が居た。
目の前で歌っているリゼットと同じ顔をした人間がやってくる。
楽しそうに話している。
そんなリゼットの姿を見るのは、この同じ顔をした人間がやってきたときだけだ。
リゼット・クライトマンと会話をしてはならない。
これは村全体の掟。
だから、リゼットも私に話しかけようとはしなかった。
でも、このリゼットと同じ顔をした人はいつも笑って話していた。
不思議だった。
もし、村の連中誰かに見られたらどんな仕打ちが待っているかわからない。
ただでさえ、相手はリゼット・クライトマンだ。
神に捧げる神の歌を歌うことが出来る唯一の人物。
その神に最後は命を捧げ生を終える。
それが、彼女の生まれたときから死ぬまでの人生が決まったレール。
誰一人として、聖なる少女のこの人と口を利くことは出来ない。
建前だということは、子供の私でもわかる。
聖なる少女なんかじゃない。
この、リゼット・クライトマンは神の子ではない。
この村に産み落とされた神に反旗を翻した反逆の子供。
その罪を背負って生まれてくる証として首には縫い付けられたような後がある。
生まれたときからそのような痣があるというのが通説だが、実際は首を切って他の体に付け替えて生き続けているというのが秘密だとされてきたことでもすでに知れ渡った我がクライトマン一族の秘密のひとつ。
リゼットと同じ顔をして、同じ声をして、二人とも本当に見分けがつかないほど似ている。
だが、この彼女がどこからやってきて誰なのかというのは私も知らない。
私も、村の住人とは誰も話しをしたことが無い。
否、それは語弊があるか。
話しかけられたことに対しては話していいが、自分から言葉を発してはならないという掟がある。
これもまた理由不明。
生まれたときからそうやって育ってきたのだから別に窮屈だと感じたことは無い。
不思議なことに、このリゼットが今どこで何をしているかというのが私には感じ取ることが出来る。
だから、リゼットしか知らない歌も私は歌える。
リゼットがあの同じ顔をした人と話していることも、話している内容も聞えない距離に居ても私はわかる。
もっともっと昔のことも知っている。
今のリゼットではないときのことも。
どうしてだろうか。
現在のリゼットは今までの中でも比較的はやくリゼット・クライトマンとして目覚めたそうだ。
十一歳の時。
それが、早いのか遅いのかというのが問題なのか私にはわからない。
このリゼットが死んだ時、真夜中だった。
寝ていたのに、その光景が私には見えた。
汗をかいてベッドから飛び起きた。
鼓動が止まらず震えているからだが冷たい。
いつもなら、リゼットは十字架に突き刺さって最後の仕上げの歌を歌って死ぬの。
それは歌ってはならないとされている禁聖歌。
それもね、私は知ってるの。
今のリゼットの記憶じゃない。
多分、もっと前の記憶。
この歌を歌った時、リゼットは死ぬことが出来る。
やっとね、リゼットから開放されるんだよ。
きっと、幸せだろうな。
どんどんね、記憶が鮮明になってくるんだ。
昔の記憶が。
どちらかというと、今よりもっと昔のことを覚えている。
私がうまれてもいないはずの時のことなんだろうけれど。
どうしてかな。
でも、こんなこと誰にも話したことが無い。
話せないからさ。
だけど、私が知っている、私がいつも教会で見ているリゼットは最後の歌を歌えなかった。
どうして。
どうしてシスターがあんなことをしたのか。
あんなことをいったのか。
私にはわからない。
シスターの顔も、いつもベールに隠れて見えなかった。
なのに、シスターはリゼットによく似ている。
リゼットよりももっと年上だけど。
リゼットに似てるわ。
シスターがどうして教会で、それも最後の歌を歌わせずにあんなことをしたのか。
意図的なのか。
それとも、違うのか。
でもね、シスターは驚いていた。
その先に見たのが、なんだったのかわからないけれど。
次の日、死んだはずのリゼットはいつもと同じように歌を歌っていた。
でもね、振り返って私に笑いかけたの。
だから、すぐにわかった。
この人は、リゼットじゃないって。
だって、リゼットの行動も気配も感じ取られないんだもの。
でもね、代わりに何故かシスターの言葉が時々聞えるようになったの。
こういってたわ。
「リゼット、あなた本当にリゼットなの?」
08:35  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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事件発生 <リゼット・クライトマン シリーズ Ⅱ>

2008.12.15 (Mon)

勤務している病院に検視の依頼が警察からきた。
検視するということはなんらかの不審な点があるということだろう。
あまり、グロテスクな遺体はみたくないんだが。
という思いだけ過ぎったがこれも仕事だ。
「刑事さん、この事件があった場所って一体どこなんです?聞いたことないんですが」
もらった資料で書いてある住所はまったく知らない地域だった。
「あぁ、すまないね。かなり、田舎の村なんだよ。どこの警察も管轄だというのに、どうしてもあの村には行きたくないと拒んでいるそうだ」
電話した先は、この検視を依頼してきた警部のアルヴァ・オルブライトだ。
自分のいる街も大して大きいわけではないが、このあたりでは一応大きな街と言えるだろう。
アルヴァとは長い付き合いだ。
といっても、彼のほうがダイブ年上だが。
「何で拒んでるんです?」
「よくわからんが不吉なんだとよ」
「は?不吉?今回の事件がですか?」
「いや、あの村自体の存在とかなんとかわけのわからんことをいっておった」
「確かに、わけのわからないことですね」
笑ってしまった。
「一緒に連れて行ってもらえます?」
「車に乗れる人数は限られておるんでな、後ろからついて来い」
「えぇ、それでかまいません。方向音痴なもんで」
かなりかかる難事件になるだろうという話は前もってあった。
どうして難事件といえるのかは、まだ聞いていない。
死体を見ればわかることだ。
しかし、ついて行くと言った自分が馬鹿だったと本気で思った。
なんという悪路だ。
山道をひたすら越え続け、やっとくだりになったかと思ったら、また山。
そんな長い道のり。
更に驚いたことは、なんと一日がかりでやってきた道は半分だという。
検視官の自分が言うのもなんだが、まさに何かが化けて出てきそうなモーテルに一泊。
女を呼んでもそれが化けてきた何かかもしれないと思うほどだ。
そのモーテルの主人が聞いてきた。
「あんた、あの村に行くのか?」
ロビーにあった動いているか定かではない自販機にコインを入れると電気がついたのでビールが買えた。
「あぁ、仕事だよ」
「仕事か・・・。なんにしても、早く出ることだ。あの村は呪われているんだ」
「呪われる?何に?」
「女だよ」
「なんかあったのか?」
「あの村には、死なない娘がいるんだよ」
「死なないなら呪いもしないんじゃないか?」
「死なない娘なんかいるもんか」
「どっちなんだよ」
「死んでるが生きてるんだ。何世代も同じ顔した女が生まれてるんだよ」
「へぇ~興味あるな」
「興味だけですめばいいがな」
話の内容は興味的なものだが、ビールがまずくなったのはいうまでもない。
せめて、休んでいるときくらい仕事モードの頭を解除したいのだが。
どうやら、尾ひれのついた噂はあるようだ。
大抵そんな噂は、何かを隠したい事があるからこそ村に誰も寄せ付けないようにするためというのが目的ではないだろうか?
今回の事件は一体なんだというのだろう。
朝起きて、事件は起きた。
モーテルの店主が死んでいた。
理由は不明。
だが、病死でもない。
表情は、おびえた顔をした状態で固まっており死後硬直というより冷凍されたように冷たくなっている。
この事件は、この地元の警察を呼び対処してもらうことにした。
地元警察がやって来たとき、自分たちを見て全員が怪訝そうな顔をした。
そして吐き捨てた言葉。
よそ者が来るからだ。呪われた村に行こうとするからだ。
なんだか、よほど今から行こうとしている村は嫌われているようだった。
また、あの山道をひたすら運転するのかと思うと気が重くなった。
やっとたどり着いたところには、日が暮れていた。
その村ははやり因習漂っているというほど、よそ者が入った形跡はない。
自分たちが入るや否や、事件があって要請されてきたというのに出て行けなどの声が時折聞こえる。教会のシスターが村の案内役として出てきた。
病院もなく、教会と病院が併用しているんだそうだ。
シスターは医師の知識はあるようだ。資格があるかどうかは知らないが。
泊まる場所まで案内してもらい荷解きをした。
仕事道具を取り出して、白衣を着て外に出るとアルヴァがかなり不機嫌な顔をして下の会にある談話室でタバコを吸っていた。
なんかあったなというのは、すぐわかった。
それも、アルヴァがあんな顔をするときは警察が関与することを断られたときだ。
「で、なんていって断られたんです?」
「もう葬式が終わったとさ」
「え?」
これほど苦労して必死に来た道は無駄となったということか。
「まったく、何考えているんだか」
「あれほど嫌がっていた地元警察が処理したんですか」
「いや、勝手にやっちまったんだよ」
「勝手にって、警察を呼んでおきながら争議をさっさと警察が来る前に終わらせたって事ですか?」
「そういうことだ!」
「それはまた、いいように使われてしまいましたね」
「そうだ。この村の人間が仕組んでたってわけだ」
「建前で警察には連絡をした、来た途端葬儀は終了して遺体も無し。僕の仕事も無いですね」
「一応、死体を確認した人間に聞いてみてくれ」
「じゃぁ、あのシスターですか?」
「いや、それが、死んだはずの人間がいるそうだ」
「は?」
「死んで葬式をあげた人間が突然どっかから出てきて同じ名前を語って同じ記憶を持っているそうだ」
「アルヴァ、呪われてませんよね?」
「ふざけるな!」
相当、怒っているな。珍しいことだ。よほど阻害されたのだろう、捜査に対して。
「じゃ、会ってきますよ。その、死んで生き返った人間に。どこにいるんです?」
「教会の隣にある併設さされた病院だ」
その病院に行ってみることにした。
時間はもう夕刻だったが挨拶がてらと思っただけだが。
病院について出迎えたのは、あの村に入ったときに自分たちの案内役といって出てきたシスターだった。
あぁ、そういえばそうだった。
シスターは病院も担当しているといっていたな。
次の日、死んだ人間の記憶を持った女の子が来るということがわかったがシスターは別人だと言っている。
どうしてそこまで確信をもてるのかはわからないが明日になればわかること。
朝から支度し朝食を済ませた後、病院へ直行した。
病院にはシスターだけが居た。
女の子は16歳の少女だという。
葬儀すでに終わってしまった最初の事件の被害者も16歳の少女。
何故、死んだのか。
それは、シスターに聞いてみるしかできなかった。

「リゼットは、殺されたんですよ」
「え?」
それが、シスターの第一声だった。
意外にもそんなあっさりと他殺を認める発言をするとは思わなかった。

「ですが、リゼットの遺体はあっという間に埋葬されて」
あっという間というのなら何故警察を呼んだのか。
こんな僻地で他殺事件があったとしても、周りの人間はこの村には近づかない。
他人など入れなければ事件だったとしても、誰にも知られずに隠蔽することも可能だった。
それを、わざわざ何故外部に知らせたのだろうか。

「何故です?」
「見るに耐えないものだったから」
「損傷がひどかったということですか・・・」
他殺だと犯人が断定できる何かがあったということか?

「いえ、違います」
違う?なら、一体何があったというんだ?
「では、何故?」
「理由はわかりません。どうやったらあんな死にかたが出来るのかも」
「死にかた?」
「教会の十字架に上から突き刺さっていたんです」
「え?!あの、教会ですか?」
相当高い位置にある十字架だぞ?
それに突き刺さって死ぬなんて梁の上から飛び降りるしかない。
誰かが突き落とすにしても死体を抱えて上れるほど立派な梁じゃない。
子供ならまだしも16の女性を抱えてなど。
絶対に無理だ。
なら、自殺ということになるじゃないか。

「はい、それが、二週間前なんです」
二週間前?
二週間前に、アルヴァの所属する警察署に連絡が来た。
だが、現地警察が動かない理由がわからず管轄外なので勝手な行動はできないということで時間がかかってしまった。
この二週間の間、それがなぞを解く鍵なのだろうか。

「リゼットは、死んだのです」
「どうして、そういい切れるのですか?見てないんでしょう?遺体を」
話の内容から察したことはひとつ。
このシスターは死体を確認したわけではなさそうだということだ。
シスターはその問いに答えなかった。
はぐらかされてしまった。
神にどうとかという話ばかり。
つまり、このシスターもその事件の当事者ということになる。
リゼット・クライトマン。
それが、今回の事件の被害者。
十字架に突き刺さって死んだ娘。
そして、死んだと同時にどこからか同じ顔をした同じ記憶を持った人間が現れるという言い伝え。
それが目の前に起きている。
リゼット・クライトマンと言われる少女の生前の写真を見せてもらった。
現在のリゼットの両親だ。
だが、彼らの子供ではないそうだ。
では何故そんなリゼットを育てているのかというと、この両親は代々リゼットと名乗る少女が現れると必ず保護して育てているという風習があるそうだ。
何故なら、初代リゼット・クライトマンの子孫だからという話。
どこまでが事実なのかわからないが。
その生前の写真は、小さな頃から大体16歳から大きくても20歳くらいまでの写真しかない。
それ以上生きたことが無いという。
子孫ということは、彼女は一度は子供を生んでいるということだ。
多分それは、初代のリゼット・クライトマンだろう。
だが、そのリゼット・クライトマンの人生はどういうものかというのは絶対に一族以外に伝えてはならないという面倒なしきたりの為聞くことができなかった。
 だが、このリゼット・クライトマンに会った事がある。
それは、自分が小さな頃自分の父親が担当した殺人事件。
否、殺人事件かどうかすら判断のつかなかった怪奇事件の唯一の写真。
その写真の提供者は、当時の事件関係者から内密に受け取ったものだったという話を聞かされていた。
昔、その写真はさすがに気持ち悪かったがその美貌の少女にあってみたいと思った。
その少女が、今、死んだという連絡を受けたのにもかかわらず目の前に居るのだ。
リゼット・クライトマンと名乗って。
だが、シスターは頑なにリゼットではないと否定する。
その根拠はわからない。
あの写真をいつも持っていた。
教会に行ったとき、シスターにその写真を見せた。
シスターの顔が一瞬にして青ざめた。
やはり、同じ死に方をしたようだ。
腹から貫通した十字架の上部。
十字架の真ん中で体は止まり、顔を上げて手を祈るように手を合わせ笑顔で歌っている。
その、異様な姿。

「では、ひとつだけ確認を」
「何でしょうか?」
「リゼットの生前の写真を見つけました。ご意見をお聞かせください」
もちろん、この写真は現在の事件に関与したリゼットの写真ではない。
父親が持っていたリゼットの写真だ。
リゼットという名の少女かどうかはわからないが、背景にうつる教会のステンドグラスも十字架も同じ形だ。
同一人物と考えて間違いは無いだろう。
もちろん、謎はこの写真が自分が十五歳の時に撮影されたもののはず。
「こっこんな!こんな写真を、どうして・・・」
さすがに動揺しているな。
しかし、隠したいのはなんだ?
十字架に刺さったまま歌うやつがいるとすれば、リゼットはそのまま行き続けているのではないか?
「十字架に刺さったまま生きて歌っていたなんて、信じがたいですがね」
「・・・どうか、どうかその写真のことは誰にも話さないでください」
「なら、全部お聞かせ願えますか?」
「・・・わかりました」
やっと話す気になったのか。

「死なないリゼットが死んだのですか?」
「はい、死にました」
「どうやって」

自分とシスターしか居ない教会ののドアが開いた。
そこは、教会の十字架の前。
血の跡が拭いたとはいえ残っている。
最近のから随分昔のまであるようだ。
錆びの様に見えるが、全部血で染まった十字架だ。
ドアが開いた音と同時に声が聞こえた。
リゼット・クライトマンと名乗る現在のリゼットが立っていた。
「こうやって、死んだんだよ。リゼットは」
彼女は首に巻いていた包帯を取った。

「まさか・・・」
「首を斧で切られの。それでも私は話し続けた。
首だけこの教会に置かれてたのだけれど。私が歌い続けるから、別の体に縫いつけたの。
皆、私に歌をやめさせるために」
「これが、リゼット・クライトマンの残った体です」

現在のリゼットと自分の持っているリゼット・クライトマンとの違いのひとつ。
それは、髪の長さ。
ちょうど、彼女が言うように首の位置でばっさりと乱雑に切られている。
冗談だろ?
首を縫いつけた?
じゃぁ、この体は一体誰のだ?
「シスター、彼女の言うことが真実だとしたら彼女の体は誰のものなんですか?」
「貫通した体をそのままにしておくことはできません。リゼットを死なせるわけにはいかないのです」
「何故ですか?何故そこまでリゼット・クライトマンにこだわるのですか?」
「彼女は、神の歌を歌う人なんです」
「歌?」
「そうです。その歌を歌い続けるためにこの村に居るのです」
「歌って何かそんなに意味があるものなんですか?」
「歌い続ければ、災いは一人だけに訪れるという言い伝えがあるんですよ。この村には」
この村が、嫌がられる理由はすでに他の村にも伝わっているだろう。
なんせ、どういう仕組みなのか理解はできないがリゼットは生き続けている。
首を据え変えて、同じ人間を言い伝えのために思春期の娘の首を切断し体をリゼット・クライトマンに渡す儀式。
更に理由が不明なことがある。
それは、何故同じ死に方をするのか。というところだが、深くかかわるのは恐ろしい。
正直、あの教会のドアを開けたリゼット・クライトマンの目は背筋が凍る思いをした。
死亡診断書には、検視をしていないがシスターと話し合った結果を記載することにした。

リゼット・クライトマンは、死亡。
死亡原因は特定不可能。
事故により死亡と断定。

彼女は、一体何者なんだろうか。
村を出る前に一度だけ聞いた。
教会から響く、彼女の歌声が。
それは、とても美しく響いて村中に聞こえていた。
村人の顔も安堵したような顔をしている。
たった一人の人間が災厄の根源だとも気付かずに。
言い伝えにとらわれた村の謎か。
首を切断してもなお生きている人間が居るというのは、信じがたい話だがね。
08:56  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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思い込み <リゼット・クライトマン シリーズ Ⅰ>

2008.12.01 (Mon)

「それでは、間違いありませんね」
「はい」
「もう一度伺います。あなたのお名前は?」
「リゼット・クライトマン」
「歳は?」
「16です」
「現在の職業は?」
「学生です」
「何を専攻していますか?」
「歌です」
「どんな歌が好きですか?」
「神に捧げる歌です」
「わかりました。今日はこれで終わりです」
「失礼します」

部屋を出る。
この部屋に来るようになって、2週間経つ。
何度も、何度も、あの部屋の中にいる女は同じ事ばかりたずねる。
何度も、何度も、無表情に答えを言い続けるしかない。
でなければ、余計に時間がかかった。
はやくこんな部屋から出たかった。
何をどうしたいのか、大人の考える事などわからない。
私は、ただ歌っていたいだけ。
一体、どうしてそうまでして、歌うことを禁じるのか。
いつも、教会で歌っていた。
ただ、ずっと。
一人で。
それだけが、一番幸せな時間だったのに。
何故彼らは、私を拘束する。

「どうでしたか?」
「相変わらずですね、どうしてもあの子にはリゼット・クライトマンという人物になっています」
「ここまで頑なにリゼットにこだわる理由は?」
「まぁ、無理もないとは思います。ショック状態というべきか」
「何かあったんですか?」
「リゼットは、殺されたんですよ」
「え?」
「ですが、リゼットの遺体はあっという間に埋葬されて」
「何故です?」
「見るに耐えないものだったから」
「損傷がひどかったということですか・・・」
「いえ、違います」
「では、何故?」
「理由はわかりません。どうやったらあんな死にかたが出来るのかも」
「死にかた?」
「教会の十字架に上から突き刺さっていたんです」
「え?!あの、教会ですか?」
「はい、それが、2週間前なんです」
「自分は、その2週間前に検視官としてこちらに来たの結局遺体を見ることなく自殺として警察が終わらせた理由はそれですか」
「えぇ、教会で、それも、十字架に突き刺さって死んだなどと。このような小さな村では、あっという間に広がってしまいます。それが、他の村などに知れたら・・・」
「神の怒りをかったような・・・というやつですか」
「・・・決して、決してリゼットは神に背くような子ではありませんでした」
「にしても、十字架に刺さって死んだとあればそうとられかねない。だから、ですか?」
「だから、なんです?」
「僕に検視をさせなかった」
「神はきっとリゼットを救われたのでしょう。何かの罪から」
「どうでしょうかね。僕は信仰心なんて持ってないのでわかりませんが、僕から見ればあなた方が勝手に自分たちを守るために一人の死を美化しているだけに見えますが」
「リゼットは、死んだのです」
「どうして、そういい切れるのですか?見てないんでしょう?遺体を」

教会に行って歌うことがダメだという。
自分のことをリゼットだといっても、誰もわかってくれない。
何故、村のみんなは私がリゼットじゃないと言っているのか。
どうして?

「これで、全部です」
「これが、全部の資料ですか?」
「はい」
「答えになりませんね」
「私から言える事はありません」
「では、ひとつだけ確認を」
「何でしょうか?」
「リゼットの生前の写真を見つけました。ご意見をお聞かせください」
「こっこんな!こんな写真を、どうして・・・」
「十字架に刺さったまま生きて歌っていたなんて、信じがたいですがね」
「・・・どうか、どうかその写真のことは誰にも話さないでください」
「なら、全部お聞かせ願えますか?」
「・・・わかりました」

私は、いつもここで歌っていた。
いつも、ここで。
教会の十字架を見上げるのではなく、上から見るのが好きで。
だから、梁まで上って腰をかけ、歌っていた。
ずっと。
だけど。
突然、シスターが下から話しかけてきたの。
びっくりしちゃって。
私は、落ちた。
体に何かがつき抜けた気がするけれど、平気だった。
そのまま立ち上がって。
シスターに近寄ったら、シスターは近くにあった蝋燭立てで私を殴った。
それを見ていたほかの人達も、沢山集まってきて私をずっと殴り続けた。
動かなくなるまで。
だけど、それは、私が動かなくなっただけで。
みんなが、手を止めたとき、気が済んだのかなと思って立ち上がったら
悲鳴が聞えたの。
私は、歌いたいだけ。
戻りたいな、教会に。

「へぇ、これが真実ですか」
「はい、リゼットは、死にました。確かに死んだのです」
「でも、さっき居たあの彼女はどうみてもこの写真のリゼットそのものですよね」
「そうです。ですが、彼女はリゼットではありません」
「じゃぁ、誰なんです。あの子は」
「わかりません」
「わからないって」
「リゼットの顔をして、リゼットの記憶を持つ、誰かとしか」
「死なないリゼットが死んだのですか?」
「はい、死にました」
「どうやって」

二人のいる部屋のドアが開いた。
そこは、教会の十字架の前。

「こうやって、死んだんだよ。リゼットは」

私は、首に巻いていた包帯を取った。

「まさか・・・」
「首を斧で切られの。それでも私は話し続けた。
首だけこの教会に置かれてたのだけれど。私が歌い続けるから、別の体に縫いつけたの。
皆、私に歌をやめさせるために」
「これが、リゼット・クライトマンの残った体です」
「嘘だろ・・・そんな・・・」
「嘘じゃ、ないわ。私は、何をされても死なないもの。ずっと、神のために歌い続けるのだから」
「どうか、この事はここだけの話に。心に閉まってください。
明日、この村を出て行ってください。これ以上、ご協力できることはありません」

リゼット・クライトマンは、死亡。
死亡原因は特定不可能。
事故により死亡と断定。

「シスター、また、私を殴ったりしないでね」
「・・・あなたは、リゼットなんかじゃないわ」
「あなたが殺したリゼットだから?」
「殺してなんか無いわ!」
「じゃぁ、何で私がリゼットじゃないと言い切れるの?」
「リゼットは、不幸な事故で死んだのよ」
「不幸な事故?それが、あなたが私を殺した事かしら?」
「殺してないといっているでしょう!」
「じゃぁ、私は誰なのかしら?」
「リゼットは・・・リゼットは、もう、5年前に死んでるのよ!」
「へぇ、そうだったんだ。やっぱり、5年前に殺そうとしたのはリゼットだったんだね、私じゃ、なく」
「・・・なんですって?」
「首を切られて生きている人間なんかいるわけないじゃない。あなたとは違うんだから、本物のリゼットさん?」
08:08  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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