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予告

2008.10.31 (Fri)

私には、何も無い。
職も。
金も。
恋人も。

あるとするなら、家族だ。
そう、家族さえいればいい。
確かにその通りだ。
娘を私は失ってもう何年にもなるが、それでも娘が他界した10月は体調を崩す。
たまらなく辛い。
それは、突然奪われた命で。
朝まで元気にしていたのに。
誰が殺したかもわかっていない。

もう、子供を失いたくないと私は子供を家の中に閉じ込めた。
一人で出かけさせることを許さなかった。
次々に娘にかかわる問題は増えた。
今居る場所でさえいつ娘たちは殺されるかわからない状況だ。
打開策も無い。

何かが変わりそれが明日しかない。
たった一日。
そして、何かが変わるとわかっている。
でも、何が。
何が変わるというのだろう。

転機とは、必ずしもいいことばかりではない。
無くしたことも転機。
人生に道があるとするなら、岐路だ。
分かれ道。

予告状など何故私に出すのだろう。
出されたところで私はどうすることも出来ない。
その場所へ行くことも。
いや、行ったとして。
行ったとしても、後悔することはわかっている。
何もかも手に入れたとしても。
何もかも手に入れなかったとしても。
気持ちは悲しいまま。
それでも、迷っている。
私は、明日、玄関を開けるのかどうか。
失うことだけはわかっているのに。
希望である転機があるのではと一縷の望みがちらついている。
生きていても、生きている実感が持てないのだから死んだも同然。
変わることは無い。
肉体が喪失されるかされないかだけの問題だ。

行かなければ、このまま死を迎えることになったとしても。
行くことで、死を迎えたとしても。
工程がどうであれ、結果が同じなら私はただ眠りたい。
ゆっくりと。
目を瞑って。
ただ、静かに。
娘を抱いたまま。
暖かい体温。
心臓の鼓動。
全てを感じながら。
私は、眠りたい。

予告状には、迎えが来るとしか書かれていない。
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21:08  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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期間限定

2008.10.30 (Thu)

それは、たまたま目に入ったダイレクトメールの葉書。
そこには、見たことも無いほど綺麗な箱が載っていた。
和風テイストの柄。
今時珍しいビビット色の色使い。
デザインの和風と現在を混ぜ合わせた不思議な魅力。

期間限定発売

その言葉は自分を惑わす一言だった。
だが、箱の外見のみで中身が何なのか。
この箱自体が一体何をするものなのか書いていなかった。
それにしても、あまりにも綺麗な外見は魅力的だった。
よく見てみると、お値段もある意味魅力的な値段だった。
溜息。
そう簡単に手が出せる値段ではという声が頭の中で駆け巡りつつも、限定なんだから今しか買えないんだよ。本当に欲しいと思ったものは買っておくべきだよ。という声も同時に回った。
洗濯機が回っていると途中に間違って蓋を開けたときのように。
ぐるぐると回っている。
絡みついた洗濯物のように。
自分の中を沢山の言葉が巡った。

手は出せないわけではない。
頑張れば、その値段に手が届く。
借金やローンなんてする必要も無い。
そう、それくらいの値段。
とはいえ、安いか?といわれるとそうでもない。
そのくらいだ。
もちろん、これは人によるだろう。
感覚的なものだから。
毎日、その葉書と格闘した。
眺めて。
見つめて。
触って。
お財布を見て。
中身を見て。
人生の先を見て。
生活を見て。
言葉が増えていくだけで。
解決策は無かった。

偶然、久しぶりにメールをしたらその返事の追伸にこう書いてあった。
ダイレクトメールで来た限定の箱、予約しちゃった!
あんまりかわいくて。

そうか。
やっぱり、かわいいよな。

近しい人物からの一言に、背中を押されてしまった。
いや、単に何かのきっかけを待っていただけなのかもしれない。
そうして、重い腰を上げ近くの店頭に電話をしてみた。
「あ、あの箱のご予約ですか?」
「はい、予約しておいたほうがいいですか?実際にみて決めようかどうしようか迷っているのですが」
「申し訳ございません。ご予約分の個数は終了いたしました」
「え?!終わったんですか!?」
「はい、申し訳ありません。当日販売のものにつきましては個数はございますので」
「あ、では、販売当日に行けばいいですか?」
「並んで買う・・・というお客様もいらっしゃいましたので・・・確実とは申し上げられませんが・・・」
「なるほど・・・わかりました。ありがとうございました」
「お電話ありがとうございました。当日お越しいただく場合は午前中が確実です」
電話を切った。
意外にも、この箱に魅了された人間は多いというわけか。

結局、この箱を当日行くかどうしようかきめ切れなかった。
そう、売り切れ。と聞いた時点ですこし気分が萎えてしまったのだ。

そして、発売当日その箱を手に入れたと連絡があった。
「これ、びっくりしたよ。この箱。すごいよ。でも、ちょっと重たい」
というメールの内容。
そうか、持ち運びが出来にくいのか。
でも、こんな箱。もって歩くのか?
そういえば、この箱一体何を入れるものかよく見てなかった。
そうおもって、葉書をよく見ると裏側がめくれるようになっていた。
めくってみた。
そこに書いてあった文字は、何を言っているのか?と信じがたいものだった。
メールの返信をした。
「箱開けたんだよね?それで、箱の中はどうだったの?」
と、メールをした。
だが、メールの返信は無かった。
幾日たってもメールの返信は無かった。
電話をしてみた。
出ない。
おかしい。

葉書には、こう書いてあった。

現実が嫌になったとき、この箱の中の世界にあなたの望む世界が待っています。
その箱の中で暮らすことが現実から抜け出せる最後の手段です。

まったく、妙なものを買ったものだ。
まぁ、デザインが私は気にいっていたのだけれど。
こんな妙な宣伝文句があったんなんて。
馬鹿馬鹿しい。
あいつは知っていたのか?
葉書を捨てようとゴミ箱に投げ入れた。
そして、その時裏面の一番下に小さな文字が書いてあることに気が付いた。
一度だけ期間限定で体験することが出来る世界。
二度目は戻ることは出来ません。
この世界でのあなたの存在は消え箱の中の住人になります。
あまりのことに笑えてきた。
ここまで徹底すると馬鹿馬鹿しさも面白く感じる。

 次の日の朝。
ゴミ出し日だったことを思い出して大慌てでゴミ箱をかき集めた。
葉書がそこにあった。
なにこれ?
見覚えの無い葉書だった。
時間が無い!とあせってそのまま気にも留めずさっさとゴミ袋にかき集め急いでゴミを外に出した。
部屋に戻り手を洗った。
そうしたら、着信があった。
とろうとした時、切れた。
画面には着信ありの文字。
名前は、mikaと表示してある。
ミカ?
誰それ?
まったく、覚えの無い名前だった。
メールが届いた。
また、mikaと書いてある。
ということは、登録してる人間だ。
でも、自分にはそんな人知らないし。
メールには、こう書いてある。

「ごめん、お願いがあるの。私の家にいって箱を開けてくれる?そうしたら、そっちに戻れるの。やっぱり戻りたいの。お願い。お願いだから開けて。急いで。家の鍵はいつもの場所においてるから。お姉ちゃん、助けて」

私に姉妹なんていない。
そのまま、携帯を閉じた。
誰かと間違って来たメールだろう。
気にする必要はない。

でも、なんでこの人の電話番号とか登録してあるんだろう?
それも、家族フォルダに。
11:55  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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進化への道筋

2008.10.30 (Thu)

研究材料として手に入れるのはなかなか難しい世の中だ。
それは、元々国として意図的に仕上げたこの風習が邪魔をしたがシンプレの導入によりすんなりと材料が手に入ることになった。
人間は、現在ほとんどの人間が人工的に妊娠をしている。
つまり、自然妊娠が出来なくなっているのだ。
理由は、どこの研究機関もはっきりとした明確な答えを持っていない。
憶測が想像をかきたて、正確な情報はどこにあるかすらわからない。
 ただ、ひとつだけわかっていることは人工的な妊娠ですら危うい状況になってきたのだ。
そして、自然妊娠で生まれてくる人間はほぼ確実に中性または両性の確立が高確率ということ。
人類は、子孫を残すことが困難になっている。
そんな状況にもかかわらず、各研究機関は協力体制などとる事は無く自分たちのこれまでの成果を誰にも教えず成功したあかつきには自分の名を世界に知らせたいというのが根本にあるため、会社としても各研究機関の内容はどんぐりの背比べ程度しか公表されていない。
 この屋敷の副支配人となって、あらゆる人間を見てきた。
見かけだけでは性別を判断しかねる。
しかし、そんなことわかりきっていることでも当たり前になってしまえば特に一般市民に関心は無い。自分に害が無いからだ。
子孫繁栄など、興味の対象外。
子供が欲しいと思ったとしても、出来なければ諦め自分たちの肥やしを増やし裕福な生活をしようという考えに転化してそのまま夫婦だけの生活を送っている。
子供など最近はほぼ見ない。
稀に見る珍しい生き物といっても過言ではない。
 そのくらい、切羽詰っているというのにもかかわらず我関せずというのは不思議なものだ。
一研究者として、この屋敷で色々な材料に自分の種を植え付けてみたが誰一人子を宿したことは無い。また、この屋敷の仕事内容自体を隠すためシンプレという名前でごまかしてはあるものの単なる高級娼婦というのが触れ込みの店だ。
ただし、ここで雇い入れた人間たちはそれなりの研究対象にあるということだ。
本人たちは自覚が無い。
全員客だと思って相手をしている。
だが、客の連中全てが自分の所属している研究者の人間だ。
あらゆる手段を用いて、その人間の構造を解析している。
今の段階で、中性の人間が子を生んだことはない。
両性の場合は、低確率ではあるが実証例としてはある。
そして、その場合必ず同じ両性が生まれる。
また、人工的な妊娠で生まれた子供の場合は男女の区別は今のところ付いている。
何故なら、人工的に染色体を操作しているからだ。
自然妊娠した場合は、両親とは似ても似つかない子供が生まれることが多く大抵は差別され隠されて育てられるか、最悪は死だ。
 人間は一世代で終わりの時期を迎えようとしているのかもしれない。
そして、男女という区別を取り除きどちらでも子孫繁栄をできるようにと進化しつつあるのだろう。
その進化の過程は自然の力であり、人間が理解するなどというのは驕りかもしれない。
それでも、研究者としては答えを見つけたい。
突きつけられた自分たちの未来を左右する答えを。
それが、自然のなせる業という答えに行き着いたとしても。
原因・要因、そして、これから向かう先の未来の人類はどのようになるのかという予想。
それを立てていく必要がある。
 今日きた子供は、検査結果が出た内容には少し珍しいものだった。
子供と位置づけたのは見た目だけの印象だったが、実際の年齢は推定30歳以上であることが判明。
また、妊娠した形跡もあり、出産した可能性もあるとの事。
見た目は、女ではあるが抱いた感触からすると精神的には男としての感情麺が強いようだ。
連れてきた父親であろう人間ともまったく似ても似つかない。
最近は、この館にも慣れてきたのか感情が顔に出るようになった。
それでもおぼつかない不自然な言葉遣いや物腰はなかなか難しいようだ。
教育係としてここで5年働いている中性だった人間が女なった者をつけた。
名前はセシル。
セシルもかなりの迫害を受け耐え切れず逃げ出してきた。
靴も履かず橋の欄干に足をかけ、たった12歳の子供が自殺をしようと考えていたのだ。
泣きすぎで目が腫れあがり、声が出ないほどにたった一人泣き叫んでこんな場所まで来たのだ。
ここに来る連中は、ここがとても自由な世界だという。
研究材料としての立場という自覚は無いだろう。
だが、この集まった人間たちが未来の進化した人間たちであることは間違いない。
進むべき道は、もう無いのかもしれない。
人間だけでどうにか道を切り開けるなど傲慢なのだ。
その考え自体が。
淘汰された動物などいくらでもいる。
自然消滅。
その時期が、人間に訪れただけ。
その結果がここにいる人間たちの形を現しているのだろう。
10:20  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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シンプルレンタル

2008.10.29 (Wed)

私が、この業界に入ったのは12歳の時。
家を飛び出していくあても無く、無計画で何もかもが嫌になって出て行った。
死ぬつもりで夢中で走り続けた先にあった随分と山奥の大きな橋を見つけたときに、ここでいいやと投げやりの気分で橋の欄干に足をかけて小さな体を必死によじ登らせようとした。
なかなか上がれず、飛び降りたくてもしどろもどろだった。
誰もいない静かな場所。
木々の葉がこすれあう音しかない。
突然、ライトがふたつ光った。
通りかかった車が自分の横に止まった。
ウィンドウを開けて中に乗っていた人間が「乗れ」といってきた。
裸足でぼろぼろで欄干に片足だけ引っ掛けて上りきれず妙な格好をしている自分に。
 それから、この大きな屋敷に着いた。
あれから、5年。
私はずっとここにいる。
結局、娼婦なんて仕事はなくなることは無い。
どの時代にもきっとどうにかして形を残している。
動物なら仕方の無いことなのかもしれない。理性を持っている人間とはいえ動物に変わりは無い。現在では、公認された職業とされている。
何故なら、通常妊娠が難しい世の中になったためだ。
人間としての機能は失われつつあるのかもしれない。
生まれたとしても、今日来た子供のように両性で生まれたり、または性別を持たずに生まれてくる中性というものまでいるという。
実際は、どの程度まで人間は男女という境界線をなくしたのかわからない。
確実にいえることは、人類は存続の危機にあるということだろう。
 今日ここに連れてこられた金髪の目の色が片方ずつ違う見た目は女の子というくらいの人間。
身なりだけは整えられているが、髪の長さから明らかに隠されて育てられた存在であることはすぐにわかった。
何故、自分がここにいるのかということもわかっていない様子。
歳は、どのくらいだろうか。
13~15歳くらいか?随分と華奢な体つきをしている。
真白い肌。
大きな目。
ここのドアマンである男は、実は副支配人だ。
その支配人は、レンタルされる人間を購入する鑑定も兼ねている。
部屋に連れて行き、金髪の子供の服を脱がせた時はじめてみた。
両性という人間の体を。
本当にいたのかとびっくりした。
そのまま、副支配人は完全に固まっている女のように扱った。
全てが終えると、何事も無かったかのように服を着始めた。
「お前の家は今日からこの屋敷だ。そして、今したことがお前がすることになる仕事の内容だ。これから一週間は、そこの女と交互に叩き込む。体で覚えろ。それが、生きる道だ。それ以外は自由だ。」
ベッドの上に、放心状態のままピクリとも動かず目だけ私を見ていた。
副支配人は、服を着終えると部屋を出ていた。
ベッドに近づき、裸のこの子を見た。
正直、はじめて見た両性体が珍しかったので興味があったから。
それから、ベッドの隅に追いやられていた掛け布団をかぶせた。
「名前は?」
「・・・・無い」
「そう・・・」
名前すら付けられなかったのか。
それほど、確かにこの世の中は性別を持たないもの、両方を持つ異色の存在はかなりの差別を受けている。人類の存在を脅かすなどという根拠の無いふれこみが彼らを追い詰めている。
生まれたら大抵の人間は、生まれてすぐ殺してしまうか隠して育てこのような屋敷に売り飛ばす。
「じゃぁ、私がつけてもいい?」
「・・・うん」
「そうね、アネットってどう?」
「それって女の名前?男の名前?」
「女の名前」
「僕は、男だよ。多分」
「あぁ、男としての精神的な部分が大きいのね」
「男に触られるのを気持ち悪いと感じた」
「そう。慣れるわよ。というか、あなたの場合仕事の相手は大抵男になるから。慣れないと辛いわよ」
「そう」
「アネットでいいの?」
「うん。あなたの名前は?」
「セシル」
「姉さんと呼んでもいい?」
「どうして?」
「なんとなく」
「これから、わけがわからない日々が続くと思う。だからこそ、全部焼きついたように覚えることが出来る。それが出来るようになって客が付けば、今までの人生よりいい生活はできるわ」
「なんで、アネットなの?僕の名前」
「そんな感じがしただけ。見た目だけの判断」
「そう」
「あなたは人間とかかわりを持ったことが、ほとんど無いわね?」
「うん。今日はじめて上に出た」
「上?」
「上の家の下に住んでいたから」
「あぁ、地下にいたのね。そう、それじゃぁちょっと大変かもしれないわね。慣れるのは」
「新聞は読んでた」
「あんなものは、あてにならない。都合のいいこと、つぶしたい相手の悪口。そんなことしか書かれていない。真実なんてどこにも無いのよ」
「じゃぁ、何を信じればいいの?」
「勘よ」
「随分と曖昧な生き方だね」
「そのほうが、誰かのせいにすることは無い。どんな結果が待っていても自分が選んだ道。納得できるわ」
「そうなんだ」
「そう、姉さんのいうことはよく聞きなさい」
 そういって、アネットの唇に自分の唇を重ねた。
やさしく。
そっと。
そして、指で撫でた。
その指で綺麗な金髪を絡ませて、腕を背中に回して少し抱き上げ抱きしめた。
耳元で囁く。
「続きを教えるわ」

この世界で自由になる方法を。
16:55  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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僕と私の職業

2008.10.28 (Tue)

生まれたときに両親は自分が生まれたことを誰にも知らせなかったという。
物心付いた時には、今の部屋にいた。
それが、自分の生活空間であり世界の全てだった。
半地下になったこの部屋で、電気も電球がひとつ。
裸のままぶら下がっている。
言葉や文字は、母親が教えてくれた。
それ以外もある程度の教材が渡され自分で勉強した。
食事も風呂もトイレもこの地下の部屋にある。
月明かりが少しだけ地上に出ている小さな窓から漏れて部屋を照らす。
勉強以外では、新聞を渡された。
それと、小さな頃から絵を描くことが好きだったためその点だけ欲しいものを要求した。
画材道具などは、よほど高価なものでなければ購入し渡してくれた。
話をすることもなく。
人というのを母親以外見た事が無い。
新聞に書いてあるものが全て自分のいる世界に起きていることとは思えなかった。
実感がわかないのだ。
この部屋から一歩も外に出たことが無い。
窓も開かないようになっている。
だから、外も見た事が無い。
太陽の明るさと月の明るさ。
でも、形を知らない。
僕自体は、特にこの状況が普通に過ごしているものだったためなんの苦痛も無かった。
 ある時、父親という人間が来た。
それは、母親とは違う生き物で大きな体をしており、大きな手で、肌の色も母のように白くなかった。
月明かりがその父親という生き物のシルエットをなんとなく照らしていたのをじっと見つめた。
突然、その人間が自分の腕をつかみ顔を近づけた。
「いい顔をしている」
それが、初めて聞いた言葉だった。
低い声。
つかまれた腕が痛くて。
それよりも、母親以外の人間が恐ろしいと感じた。
それから、その人間に抱えあげられ初めて上の家に出た。
そこはとても明るくて、夜なのにすごく明るくて目が慣れるまであけていられなかった。
見たことの無い色々な何かが部屋中に広がっていた。
母親が近づいてきた。
久しぶりに見た母親の顔は、とても同じ人間とは思えないほど老けていた。
その母親が無言で抱えられた自分を見つめた。
「風呂に入れて着替えさせてから連れて行きましょう」
そういった。
わけのわからないまま、抱えられた状態で風呂場に連れ込まれた。
そこで下ろされ服を脱がされ、見たことの無いほど綺麗な風呂場に驚きながら湯船に浸かった。
暖かいお湯がすこし安心感を与えた。
体を洗ったら、その石鹸からはとてもいい匂いがした。
髪を洗ったら、その石鹸からもいい匂いがした。
風呂から上がると、まだ未開封の綺麗な服が置いてあった。
それは、とても綺麗な洋服だった。
真っ白な長袖のドレス。
胸元が少し大きく開いていてちょっと気になった。
あと、見たことの無いものがあった。
母親がそれを自分に着せた。
息がしづらい。ちょっと苦しい。というと、我慢しなさいといわれた。
服を着て、髪を乾かし、母親は自分の顔に何か絵の具をつけはじめた。
それが終わると、新聞でしか見たことの無い車があった。
音は今までに聞いたことがあったが、それが車というものの音だとは知らなかった。
父親が運転し、母親は家に残り、自分は後ろの椅子に座らされて車は動き出した。
怖かった。
必死にしがみついていた。
付いた先は、びっくりするような大きな建物で地面から光が建物を照らしていた。
大きな扉を開けると、真っ黒なカチッとした服を着た男が出てきた。
父親が何かを話している。
でも、車から降りずにそれを見ていたから何を話しているのかわからない。
その男が車に近づいてきてドアを開けた。
「降りろ」
そういわれたので、降りた。
自分を上から下までじろじろとみて不思議そうな顔をしていた。
「こっちへ」
そういわれたのでその男の後についていった。
父親は何かを渡されそのまま車に乗って何処かへ行ってしまった。
沢山の人間がそこにはいた。
びっくりした。
こんなに沢山の人間を見たのは初めてだ。
自分と違う髪の色ばかり。
自分と違う目の色。
すこし、怖かった。
一人の女が近づいてきた。
自分ににっこり笑ってきた。
でも何も言わない。
どうしていいかわからずじっと女の顔を見た。
黒い髪で短かった。
背は自分よりかなり高かった。
女は、自分の頭を撫でてきた。
「上の部屋にいくぞ」
男と一緒についてきて部屋についてドアが閉まった途端女はベッドを指差した。
こんなに大きなベッドがあるのかと少しずつ近づき触った。
すごくふかふかだった。
座ったらおしりが沈むほど。
男が自分の目の前に立った。
じっとみて、顔を近づけて、こういった。
「仕事は出来るのか?」
仕事?
意味がわからなかった。
「絵を描くの?」
そうきいたら、女と男は二人とも目を合わせて笑った。
男は何も言わず、僕の背中にあるファスナーを下げた。
何がなんだかわからない。
せっかく着せてもらった洋服を脱がされた。
女は脱いだ自分の体を見て目を大きく開けていた。
男は嬉しそうにしていた。
そのまま僕は知らない世界を知った。
毎日。
毎日。
女と。
男と。
教え込まれた。

金髪の長い髪。
エメラルドグリーンの目と青い目の自分。
白い肌。
女のようにあるふっくらした胸。
男にしかないもの。
その両方を持った自分。
それが、両性という事をはじめて知った。
自分が特別だなどと思ったことは無く、女と男は外見で判断するものだと思っていた。
そして、自分は男だと思っていた。
でも、女にしか見えないとこの屋敷にいる人間たちはいう。
それから、ここで暮らすことになった。
この部屋で。
入れ替わり立ち変わり、見たことの無い人間が自分を見に来る。
そして、教えてもらった事をするとその人間たちは喜んだ。

この屋敷に来てテレビというものをはじめてみた。
それから自分が置かれている状況を把握できたのは3ヵ月後の話。
そして、稀に生まれる自分のような存在は一般的にはとても嫌われるものでそんなものが生まれた家はかなりの差別を受けるそうだ。
だが、この屋敷のような職業だととても重宝されあっという間に売り上げはNo1になるほどいい暮らしが出来た。
大好きな画材も沢山買えた。
車の運転も覚えさせられた。
夜に仕事をする。
昼間に寝て、昼過ぎにおき、絵を描いて、描いた絵を部屋に飾った。
この屋敷から得意先へ出かけることもするようになった。
地上を歩いたのは初めてで。
月が丸いことを知った。
でも、月はよく見ていると形を変える。
不思議なものだ。
明るいのに。
女も男も抱ける体。
この仕事について、首に目印のためかベルトのようなものを巻かれている。
地下からだしてくれた父親に今は感謝している。
世界を自由に歩けることに。
自由に画材を買えることに。
沢山の人間の飽きることのない話が聞けることに。
そういうと、大抵の客はこういった。
「あなた、おかしいわ」
僕の容姿を見る限り、確かに比べると女にしか見えない。
でも、僕自身は男としての気持ちがどちらかというと強い。
だから、女を相手するほうが気持ちが楽だった。
そして、絶対にしてはいけないと屋敷の姉さんたちが言っていたことが現実に起こった。
起こるまで自覚が無かった。
わかったとき、自然と涙が出た。
その女の前で涙が出て、止まらなくなった。
「どうしたの?」
女は自分を抱きしめた。
でも、姉さんたちは絶対に言ってはいけないししてはいけないといっていた。
だからいえないとおもった。
頭ではわかっていても感情が付いていかなかった。
この仕事を始めて一年。
どれだけの人間を相手にしたかわからないが、この女が特別と感じた。

こんな感情も、自分はもてた。
暗い世界からあかるい世界に出て。
暗い世界で仕事をすれば、あかるい世界は自由だ。
この自由を手放したくは無い。
父親のおかげで手に入れた。
感謝している。
それを、おかしいという。
何故かそれはわからない。

私は、女として。
僕は、男として。

いや、性別なんて関係ない。
きっと、僕にはそれが無い。

「あなたがとても大切で特別な存在なんです」

どれだけの自由が手に入っても、この女は手に入らなかった。
ただ、抱きしめてくれるだけ。
また着てねといって、いつもどおりの料金を払う。

感情は、ない。

屋敷に帰って感づいていた姉さんが僕を迎えてくれた。
ただ、ただ、僕は泣くしかなくて。
自由な世界で、初めて不自由を感じた。
「君はね、勘違いしてるの。この世界に自由は無いのよ」
そうか。
それが、答えか。
僕と私の職業は、こう呼ばれている。
シンプレ
それが、僕と私の職業だ。
21:21  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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コラボレート

2008.10.27 (Mon)

新たなる話題作り。
新たなる進化の過程。
自分だけでは限界が来て。
井の中の蛙となって。
気が付けばそれはどこにでもあるというぞんざいなものになる。
そのために、新たなる進化を遂げるために他者からの価値観や概念。
他者が持っている世界観を自分と融合させる。
コラボレート。
最近では、当たり前になりつつあるがあくまで他者と一緒に作った新展開のものではなく他者が自分へ協力してもらいこの成果にいたったというようなどちらかが上の立場になっている。
上の立場ほど、協力してもらった他者の名前を強調させコラボレートした作品だなどとキャッチコピーは紙面に踊る。
おかしな話だ。
一体、どこまでどのようにして協力をしたのか。

今回、私のコラボレートという機能についてはどちらかというと共同作成というよりはそれ以上の新たなる人材を作るための機能をと研究を続けた。
それは、異なる一体の人間がそれなりの地位を築き上げそしてその世界はある種の人間に認められ支持されている。
しかし、それを維持していくのは困難であるが故あらゆる業界では他者の知恵を借りるなどという体のいい言葉でしのいでいるが、その時だけを乗り越えたとしても続かないものだ。
流行というように、流れ行くもの。
去ってしまえば流通は無くなる。
それでは、意味が無い。
自分を、築き上げた世界を存続するためにはもっと進化を必要とする。
流行などにとらわれず、世界を提示しそして支持者を集めることこそがこの世界の生き残り。
そう、勝ち組だろう。
本当の意味での。
この献体は、望んでこの研究に参加した。
そして、二人をコラボレートする。
私のコラボレートは、人体に存在する記憶や感情など全ての情報を他者と融合させまったく新しい人格を形成することにある。
目が覚めたとき、二人はなんと言うのだろう。
これこそ、人類は新たなる進化をしたといってもいいのではないだろうか?
他者との境界線が無くなった。
それは、明るい未来を示唆しているだろう。

この思想こそが、井の中の蛙だとしても。
証明して見せよう。
きっと。
世界は、1つの意見しか出ない世界になりえる可能性も含めている。
他者を受け入れる。
他者を認め合える。
拒絶することなく。
争うことなく。
触れ合うことを恐れずに。
全てを共有することで。
人は進化すると私は研究を続けている。
無駄なことだといわれようとも。
15:48  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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新型テレビ

2008.10.26 (Sun)

最近は、どの家電製品も大抵小さくすることを目標としている気がする。
なんにしても、何故か知らないが小さく薄くなどデザイン性をかなりこだわっている。
だが、小さくするにしてもそれだけでは意味を持たない。
小さくしただけで機能は減ったなどとなれば、意味の無い進化になる。
小さくしつつも、機能も多彩に。
格差を生むための独自の技術争いはあるものの、ユーザーの目から見るとあまりに固執したその状態は把握するには膨大な情報量であり、店員などから勧められた商品を結局は買ってしまう。というのが今の流通ではないだろうか?
 全ての製品に対して、各社もちろん各ブランドとして必死に研究開発し売り上げNo1を獲得するためにありとあらゆる技術を投入している。そして、その中でも当たり前にあるよね。なんて機能になってしまったものが、他社が開発したものであった場合などはその機能の技術特許料を払ってでも機体に機能を埋め込まなければ、シェアは生まれないわけだ。
 どんなに素晴らしい研究結果の機能を搭載したとしても、それが互換性がないと受け入れられない。もちろん、その機体そのメーカーを永遠に使用するか?という問題に当たるからだ。
そうなってくると、ほとんどどんぐりの背比べ状態となり後はデザインだの何だの特に機能的なものではなく見た目であったり、操作性であったりそういう類のものだけが選ぶ判断基準となるのだが。
 あまり、追求していくと疲れ果ててどうでも良くなってしまう。

今回、この新型テレビが今日はじめて使用できる。
よくわからないが、とりあえず今までのどでかいテレビよりは薄くなっており場所もとらない。
地デジ対応というのもあるが、あまり意識したことは無い。
何故購入に至ったかというと、なんと、テレビなのに録画が出来るというのだ。
更には、自分のデータまで再生可能という不思議な機能搭載。
そう、自分のデータ。
これは、面白い機能だった。
テレビに接続する専用の有線ケーブルを頭の左右にヘッドフォンのようにつける。
先端はこめかみのところに来る。
そして、テレビに接続して自分のデータを確認するという内容が画面に表示された時ハイを押すと自分の忘れていた記憶を映し出すことが出来るという機能だ。
一種の外部記憶装置にもなりえる。
録画も可能だから。
この記憶抽出機能は、このテレビ独自の機能でありあまり必要性は感じられない。
そのため、売れ行きは乏しかったのだろう。
おかげで安く買えたのではないだろうか。
だが、自分にとってはこの自分のデータというものを見てみたいとどうしても思った。
自分の記憶。
それは、自分が忘れている記憶さえも引き出してテレビに映し出される。
忘れたくない出来事であったり、思い出として残しておきたかったことが全て録画可能なのだ。

装置を頭にセットして、テレビの電源を入れる。
リモコンで操作して、機能から自分メモリ抽出というメニューを押す。
画面上に文字が浮かび上がる。
自分の記憶を呼び出しますか?
はい いいえ とふたつのボタンがあり、いいえが光っている。
矢印キーを操作して、はいを光らせて決定ボタンを押す。
すると、こめかみのところになんとなく震えるような何かが左右を行きかうような這っている感覚が走った。
かなり、気持ち悪い感触。
はずしたい衝動にかられながらも、目をぎゅっと瞑って堪えた。
頭の中をかき回されている感じがする。
ぐるぐると何かが這い回って。
どんどん抜けていく。
ふと、感覚が無くなった。
そっと、目を開けた。
ピントが合わない。
テレビの画面に、チャプターのように自分の記憶一覧が表示されている。
そして、画面の一番上の行には自分の名前が表示されていた。

記憶を失って5年たった。
今、初めて自分の名前を見た。
そして、記憶を失ったきっかけであろう部分に赤い枠と赤い文字で表示されていた。
グロテスクなシーンを含むため、視聴はご注意くださ、と。
刑務所内ですごしている理由は、これを見るとわかるのだろうか。
矢印キーを押して、赤い枠の部分へカーソルを移動させる。
記憶を再生しますか?
はい と いいえ が表示された。
後は、決定ボタンを押す勇気だけ。
20:24  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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重要事項は大切に

2008.10.25 (Sat)

大体、どういったものにでもこの紙切れは付いてくる。
作った本人は、こんなにこと細かく書いても誰も読んではくれないだろうなと思っていることだろう。
そして、何より重要なことというのは結構小さな文字で書かれていることが多い。
そう、※である。
文章に対して、※1を参照など。
こういうのは、はっきりいって読みづらい。
目線を※の集合体に持っていかなければならない。
そして、※の部分を理解した時、何を読んでいたんだっけ?と当初の目的が忘れてしまう時もあるわけだ。最悪、※を読んでも理解不能のときが多い。
 最近の取扱説明書は特に分厚い。
ほぼ、ハードブックの一冊の本変わらない厚さをしている時もある。
そのため、要点のみをまとめた簡単ガイドなどというものが登場した。
これはありがたいと思ったが、実際肝心なところは書かれていない。あくまで、簡単で必要以上は伝えない。最低限のものだけを絵などで説明し誰にでもわかりやすくというのはコンセプトとしてある様子ではあるが、結局は分厚い説明書を読むことになる場合が多い。
 そこで、もう読まないことにした。
実際に適当に扱ってみて、わからないことがあれば引く。
それ以上は、どんなに便利な機能が搭載されていようともう気にしないことにした。気楽だ。
こんなことをやっているから、一年経った後に、こんな便利な機能あったのか?!なんて偶然説明書を開いた時に発見することもある。便利とは思うが特に必要性を感じなかったので、特質すべき内容でもないといえばそうである。
 だが、今回初めてこんなものを買ってみた。
流行というものには、あまり興味を惹かれないがさすがにこればかりはどうしても目に映った。
金額もある程度、流通が安定してきたため落ち着いた。
そのため手を出せた品でもある。
だが、それでもまだ高額商品だ。
しかし、夢を実現出来たという実感はある。
ただし、これは人とのコミュニケーションを絶つには絶好の一品になるだろう。
人との差別化というのが、最大の問題点になるだろうがそれは見た目でわかるもののどういった作りになっているかなんてわからない。
利用者は、利用する方法だけを知っていればいい。
その、ものができる過程を知る必要はない。使うだけならば。
見た目にも美しく、綺麗な、その姿は、メーカーのブランド名と共に気に入った。
ロボットというのか、アンドロイドというのか、正式名称は知らない。
簡単に言えば、人型をした人間が作った模倣人間のような物体だ。
充電式であり、稼動するにも人型をしているため通常の住居でも不都合はない。
自分は、初心者であるためとりあえず一番安価である家庭用のタイプを購入した。
一般的に言えば、家政婦さんが機械になったとでもいうべきか。
まったく、文句を言わない。言ったことは全部してくれる。
理想的だ。
一人暮らしをして、結婚もしないでと親に小言を言われながらもある程度の年齢に達したが相変わらず仕事が忙しいという理由もあるが、家の事が疎かになるのは必然だった。
疲れ果ててする気も起きない。
何も言わず、家に帰ってみるといつも温かいご飯を作ってくれていた母親のありがたさを身にしみる。何もかもきちんと整えて。
これが、全部自分ひとりでとなるとどうでもよくなってしまう。
一人も寂しい。
かといって、人間と付き合うと感情が邪魔をする。
もちろん、その感情が時として力になることもある。
だが、妨げになることもある。精神的に不安定になることもあるし、喧嘩もする。価値観の違いや金銭感覚の違いでもめることもある。何よりもこれは重大なすれ違いだ。
それが、つづくと嫌になって結局は別の道を歩くことになる。
もちろん、人は一人では生きていけないと思う。
だが、それは時々寂しさを埋める程度でいいような気がする。
あまり側にいると、摩れて擦れて終いにはその痛みに耐えられなくなって、その痛みが一番最初に来てしまい相手への気持ちまでもが薄れていく。
あまり中まではいると、光がなくなる。
暗い部屋は、一人のほうがいい。
人間でなければそれでいいというわけではないが、いくらかましだろう。
「ご飯、食べられましたか?」
起動した瞬間に聞いてきた言葉だ。
どうやら、時間を時計を見なくともわかるらしい。
「いや、まだだけど」
「何か食べたいものはございますか?」
そういわれて、ふと、親のことを思い出したからだろうかこういった。
「そうだな、お袋の味ってやつを食べたい」
そういうと、この機械は立ち上がって冷蔵庫の中身を見た。
「何も材料がありません。購入してまいります」
「気をつけて」
そういって、出かけさせた。
帰ってきた機械は、そこまで荷物を持っていなかった。
「何を作るの?」
聞いてみた。
「ご希望通り、お袋の味ですよ」
そういって、ちゃんと微笑んだ。
かわいい顔だな。
なんとなく、頭を撫でてみた。
「ありがとう」
お礼まで言ってきた。
すごいな。こんな世界になるもんなんだな。と感心していた。
ビールを飲みながら、テレビを見つつ料理が出来上がるのを待った。
「お待たせいたしました」
そういって、立派な料理が目の前に並んだ。
すごい。
だが、どうみてもお袋の味とはかけ離れたものが並んだ。
「すごいな、よくこんな料理が作れたな」
「データはございます。ご要望のメニューです」
一口食べてみる。
スパイスの効いたビーフシチューのようなものだ。
ビーフシチューとは違う。
なんだろう?
突然、電話が鳴った。
「あ、お兄ちゃん?!」
「ん?どうした?」
「お、お母さんが・・・お母さんが・・・」
「どうした?!」
「お母さんが・・・倒れて・・・」
「え?!」
「大怪我してるの!今病院、すぐ来て」
病院の名前を聞いて、出かける用意をしようとしたとき、その機械はたずねてきた。
「どこへ行かれるのですか?」
「病院だよ、お袋が怪我したって。よくわからないが・・・」
「ハイ、知っております」
「何を?」
「ご要望は、お袋の味でしたので」
「は?」
言葉の意味がわからなかった。
鞄を手に取った。
見なかった説明書が鞄の下にあった。
こいつが何を言っているのかわからず、目次を見た。
会話についての注意事項という項目があった。
すぐに、そのページを開いた。
”抽象的なことを言うと、誤認する場合があります。※1”
※1要望は、正確な単語で伝えてください。
説明書を閉じて、機械を見た。
何も言わない。
説明書の表紙を見た。
重量事項は必ずお読みくださいと赤い文字で大きく書かれていた。

説明書を鞄につっこんで部屋を飛び出した。
すぐに玄関から、機械に叫んだ。
「何もせず座ってじっとしていろ」
「わかりました」
エレベーターを使わず、階段を駆け下りる。
さっき食べたものが気にかかる。
タイミングが良すぎる。
冗談だよな?
お袋の味って言ったけど。
違うよな?
まさか。
ちがうだろう?!
いくら・・・なんでも・・・
振り払いたい思考が体中を絡みつく。
吐き気がしてくる。

 外に出ると、パトカーや救急車が近くの弁当屋に集まっていた。
なんだ?なんか事件か?
よく買っている弁当屋だから、その店主も知っている。
「どうか、したんですか?」
野次馬の一人に聞いてみた。
「あぁ、なんかこの”お袋味”の奥さん。殺されたらしい。」
17:02  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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二者択一

2008.10.24 (Fri)

残された選択肢が、ふたつあった。
そう、ふたつあるのなら特に問題はないと普通なら感じる。
だが、この問題はある日突然降ってきて
そして、突然、自分に返答をその場で求めた。
身勝手もほどがある。
自分が置かれた環境を、理解することすら出来ず最初は空笑い。
そうしているうちに、誰もが自分を見つめていることがわかった。

立ち上がろうとした途端、突然背後から押さえつけられた。
応接セットのふかふかの椅子に強制的に戻されて首筋に、冷たい感触があった。
実際のものを見たことなんてない。
でも、どう考えても、よくある映画のワンシーンを悪い冗談でやってるんだろうと
心の中でつっこむ余裕はあった。
それほど、現実感がないと言うだけの話しだが。

「君は有望すぎる。だからこそ、この何週間か君を見続けてきた。あれこれ理由をつけてな。だが、その結果、総合してもあまりにも想像を超えた結果をたたき出した。ある意味脅威なんだよ。」
「自分が特別だなどと思ったことはありません。特に指導を受けたということもない。大げさすぎではありませんか?」
「その自覚のなさが怖い。だからこそ、今日こうやって実践をさせた。シュミレーションではあるが君はあっという間にうちのエースをやっつけてしまった」
「え?エース・・・なんですか?あの人」
「違うと感じたか?」
「それなりの経験はあるやり方と感じましたが、エースまでとは。どちらかというと力を過信して相手の出方をみるのに集中して攻撃的な部分がない。だから、相手の隙がよく見えた。それだけ」
「過信か・・・。確かに、エースとしての自覚・自信は必要不可欠だ。それがなければ統率が取れない」
「過信は、無駄ですよ」
「その通りだ」
「相手がどんな相手かなんて吟味している時間があったら、攻撃したほうがいい」
「確認もしないということか?」
「勝ちたければ」
「そうだな」
「手段など関係ありません。勝つためには迷わないこと。攻撃対象を決めたら仕留める。終われば次の敵を。簡単で当たり前の話では?」
「攻撃に迷いがある人間もいる」
「まぁそれは、覚悟がないだけでは?」
「覚悟?」
「戦争なんでしょ?そのための人材なんでしょ?人を殺すって事わかってないだけでは?」
「殺す覚悟が無いと?」
「死ぬ覚悟は出来ても、生きて変える覚悟が無い奴は死ぬだけ。生きて帰るって言う覚悟は同じ人間を殺すことが出来るという覚悟が必要」
「そうだ、勝つためには」
「体のいい言葉ね。人殺しには違いない」
「それが理解できているなら話は早い」
「何の話?」
「この書類にサインを。それだけだ」

この戦争が始まりののろしを上げるそのタイミングを計っている現在の世界情勢は知っている。
そして、自分がその戦争に少なからずかかわることにはなるだろうとは思っていた。
だけれど、まさかこんな急に。
それも、書類は長々と書かれた文章の最後に、「はい」か「Yes」 しかない。
14:59  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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複数個人

2008.10.23 (Thu)

目が覚めたとき、いつも出窓からもれる朝日のせいで不快な目覚めを強いられる。
反対側へ寝返りを打ってもすでに目が覚めてしまっている。
まだ、起きるには早いからなんとなく目を瞑ってそのまま違う世界へ落ちていく。

目覚ましがなって起き上がると、いつものようにブラインドを開け雨戸を開ける。
外に待っている猫たちが朝ごはんをねだって飛んで入り込んでくる。
うちにいついているだけで、誰一人触らせてもくれない。
愛想の無い猫たちだ。
ご飯をもらうときだけは、かわいい声でなくのだが。

そのまま普段どおりの朝の行事をこなして、外出。
スーツを着てある場所へ行く。
「おはようございます」
「おはよう、あ、今日会議するから。皆が着たら進捗報告ね。書類用意しておいて」
「わかりました」
大抵、いつも私は早くこの場所へつく。
いつもどおり目の前にある大きな画面を起こして、メールを受信する。
その量は半端じゃない。
毎日200通くらい送られている。受信するだけでも大変だ。
その間に、マグカップをもってその中に玄米茶をいれお湯を注ぐ。
蓋をして、トイレへ。
戻った頃には、立派な苦い玄米茶とは思えないほどの色をした抹茶のような濃い水が出来上がる。
デスクに戻り、必要なメールだけをチェックする。
進捗報告会議用の資料を印刷し、後は全員が到着するのを待つ。
ほどなくして全員が集まり、号令もないまま暗黙の了解のように仕切られたブースへ集合する。
印刷した紙を机の真ん中においた。自分の前には小型のノートパソコン。
「じゃぁ、ひーたんから」
このメンバーのトップの人物が自分をそう呼ぶ。
「ハイ。進捗状況は今のところ順調ですが、クライアントの要望が変動が多いため一旦区切りをつけさせて欲しいということを、前回の打ち合わせ時に伝えております。また、この状態であるならば予算オーバーになることも視野に入れて検討して欲しいとも。その点が一番気になるようで、現在の成果に対しては特に指摘はありませんでした。」
「日下管理官、それでは現状の進捗状況に問題はありませんね?」
「ハイ。問題はありません。余裕を持って計画をしております。よほどの変更がない限りは対応できます」
「じゃぁ、このまま進めてください」
その言葉で〆られ会議は終了。
席を立った時、メンバーの一人が呼びかけてきた。
「あの、室長」
「何?」
「現段階では問題ありませんが、今後の進捗状況が不安です」
「何が不安?」
「具体的には・・・その・・・なんといっていいかわからないのですが」
「それでは対応のしようがない。今後様子を見ながら日報を確認し遅れているようなら修正を出す。それで確認してくれ」
「はい、わかりました。すみません、日下室長」

その部屋を出て、別の部屋に入る。
首から下げたカードをかざすと鍵が開く。
「なんだ、また着たのか?」
「邪魔?」
「いや、べつにいいよ」
「コーヒーある?」
「いつものなら」
そういって彼は立ち上がった。
「えっと、砂糖入れたっけ?黒崎って」
「うん、欲しい」
「ミルクも?」
「イタリアン・ローストならいらない」
そういって、温かいコーヒーをもらった。
目の前には、大きな画面が二つ並び画面にはカラフルな線がキラキラと描画されている。
首から下げているカードをキーボードの横にあるカードリーダーに差し込む。
すると、画面が目を覚ましたようにぱっと明るくなる。
画面上には、すでに見たい情報が広がっておりマウスを操作しながら情報を見る。
その情報源から、必要な情報だけを印刷する。
それ以外は、引き出しの中から取り出したCDに情報をバックアップ。
印刷が終わるまでのんびりとコーヒーを飲む。
この部屋は特に寒い。
「黒崎ってさ、何の仕事してるの?」
「色々」
「具体的には?」
「作戦チームの管理官で、作戦Aの室長、それと、監視官であるココの仕事」
「それは知ってる」
「それ以外は言えない」
「秘密主義ってやつ?」
「いや、単なる規則」
「規則?まぁ、それなら仕方ないとでも相槌をしておこう」

印刷が終える音が鳴り、コーヒーカップをもって席を立った。
「あ、いいよ。俺、洗っとくから」
「ありがと」
印刷物を持って、そのまま外に出る。
それから、長い廊下を歩いて、エレベーターに乗る。
エレベーターに乗ってカードをかざす。
勝手にエレベーターは動き出し、勝手に止まる。
止まったところで降りて、一本の長い廊下が続いている。
左右には白い壁が続き、ナンバープレートが張ってある。
奥にある窓からの光だけが頼りで、電気もついていない。
202と書かれたナンバープレートの前に立ち、ノックする。
「勅使河原です。報告ナンバー202」
壁とドアの境目のない板が横に開く。
中にはいつも顔をあわせる人間がいる。
「勅使河原君、報告を」
「ハイ。本日の必要報告事項は20件。その内2件が調査対象者です」
「2件・・・か」
「調査対象者には、引き続き監視を行い、また監視内容をレベル4から5へ移行したいのですが許可を頂けますか?」
「わかった」
そういって、彼の目の前にあるパソコンで何かを操作をしている。
「許可が下りた。作業を実行してくれ」
「わかりました」
持ってきた印刷物は、自分の立ち位置である横に書類棚がある。
そこ棚を開け、ファイリングする。
「失礼しました」
そういうと、ドアが自動的に開く。
「勅使河原」
「ハイ?」
「監視は5へ移行した時点で、対象者の経歴なども調べておくように」
「了解しました」
振り向かずに答える。
エレベーターへ向かい3階を押す。
長い廊下を歩いて先ほどいた部屋に戻る。
「あれ?黒崎?どうしたの?」
「変更が出た。処理を頼む」
「了解」
「後、その対象者の経歴情報全てを出してくれ」
「いつまで?」
「経歴については、なるだけ今日中に。一旦、確認する。そうだな、6時頃またくる。その時、最終的な判断をしよう。」
「了解」
「じゃぁ、頼んだ」

その部屋を出て、喫煙室へ向かう。
煙草を取り出して一息。
誰もいない喫煙室。
足音が近づいてくる。それに気が付き、煙草をもみ消してその部屋を去った。
エレベーターに乗り2階を押す。
まっすぐ歩いて、右に曲がりノックをして入る。
「おはよ」
「あーおはよー!んもぉおっそーい!!」
「ごめん、ごめん。予定にない進捗会議やられちゃったんだよ」
「なんか飲むー?」
「んーお菓子食べたい」
「あ、チョコあるよ。んとね、もらい物なんだけどなんか高そうなトリュフ」
「食べる、お茶ある?」
「うん、あるよ」
「それもよろしく」
「あれ?珍しいね、チョコ食べたいっていうなんて。沖田ってポテチばっかり食べるのに」
「たまには甘いものも欲しくなる」
「たまにはね」
そういって彼女は笑う。
差し出されたお茶とトリュフを食べつつ、彼女が用意していた資料に目を通す。
「特にこれといって報告すべき点は無し。クライアントも問題なく満足という雰囲気。考慮すべきところを敢えていうならば、相手は先行したい様子だけれど。実際問題として提示された金額では不可能ということは釘を刺しておいた。金額を上げるとどの程度かということを言われたので一応試算中」
「え?試算してるの?」
「うん、とりあえずね。出せとは要求はされていない」
「なるほど」
「出す前に出来上がったら確認したい」
「わかった、他に要望は?」
「資料を見る限り、確かにこれといって注目すべき点はないな。先行したいという相手の気持ちがどう動くかによって出動が変わるから。まぁ、ここだけかな。気にしてもしかたないといえばそうなんだけれど」
「そうだね」
「ん、ありがと。じゃ、またね」
「そうだ、雪乃が探してたよ」
そういわれて、携帯を見ると着信があっていた。
「あらら。探してみるよ。ありがとう」
部屋を出ると、目の前に雪乃がいた。
「うわっ!」
ぶつかりそうになって、お互い叫んだ。
「室長、ここにいたんですか」
「今来て、今帰るところ」
「電話したんですよ、ちょっと緊急事態」
溜息をついて一言
「いい知らせのようだな」
と嫌味を言った。

3階に戻り、朝一番最初に来た部屋の更に奥にある作戦A室と書かれた部屋に入る。
「日下室長、これを見てください」
「んー・・・、これは・・」
「正直、A室としては戦闘配置に付くべきだと考えます」
「その通りだな」
報告を受け、A室メンバーに向け叫んだ。
「全員、戦闘配置へ。対空コース、パターンS。コントロール操作マニュアルに切り替え」
「了解」
室内の人間が返事をし即座に動き始める。

きていたジャケットを脱ぎ捨てて部屋を出る。
ネクタイを取って、放り投げその辺に投げ捨てる。
エレベーターに乗り、カードをかざす。
「作戦A室長、日下 光よりパターンS始動命令を発令します」
「受け取りました」
エレベーターが上昇し始める。
止まった階で降り、走って部屋に入る。
ハンガーにかけられた服を取ってファスナーをあける。
着ていた服を全部脱ぎ捨て、ファスナーをあけた服に袖を通す。
ヘルメットをかぶり、ゴーグルをつける。
そのまま部屋をでて、一番奥にあるドアを開けた。
ものすごい強風に煽られながら潮風の匂いがする。
「準備は?!」
大声で叫んだ。
「出来てる」
「出撃する」
「御影 空!無茶するなよ!」
「いちいちフルネームで呼ばなくてもいい!」
そういって、私は空へ飛びだった。
気づいたのが早かったため、こちらの先行で一瞬で片付いた。
かなり有利な戦闘だった。
空母に着陸。コックピットから降りてゴーグルとヘルメットをはずした。
「おつかれ」
「あの短時間でよく準備できたな」
「御影・・・ お前、いつも短時間しかない作戦ばかりするじゃないか」
「あはは、それもそうだね。まぁ、仕事だから」
「こっちの身にもなってみろよ」
「あーそれ、無理。そんなのまで考えてられないよ。進捗表書き換えなきゃなぁ・・・。あぁ面倒だ」
「空、後で部屋に行ってもいいか?」
「うん、いいけど」

ちょうど、6時を回った頃だったのでシャワーを浴びて着替えた後
3階の寒い部屋に向かった。
「おつかれ、黒崎」
「そっちのほうが疲れたんじゃないのか?」
「結構、骨の折れる作業だったな。かなり深いところから改ざんの後が見られる」
「なるほどね」
「どうする?」
「んー監視レベル上げたばかりだから様子見。必ず外部へ接触するはずだからそれを見てから判断しよう」
「わかった」
「この件に関しては、黒崎監視官の権限により機密レベルを最高度とします」
「了解しました」
「じゃ、帰るね」

宿舎に戻り、今日一日の業務が終了する。
誰一人、自分が複数いるとは気づいていない。
14:14  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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判断基準とその目に映る先のモノ

2008.10.22 (Wed)

こんな面接は初めてだった。
面接官は、私と同伴した担当者にしか目を合わせない。
この仕事をするのは、私であり同伴した担当者で無いのにもかかわらず
目をあわすことすらしない。
更に、自分たちの名前も紹介もしなければ、担当者以外には名刺すら渡さない。
まさに、商品に対して説明しても無駄なので実業するのは商品だとしても説明し納得するのは
同伴した担当者だといわんばかりだ。
面接官は二人いたが、どちらが二人の間で上官なのかすら雰囲気では感じ取れなかった。
あまりの威圧感のある態度は、どちらかといえば差別的な目線と感じ取れるほど。
 やはり、この世界は人間社会だと思い知る瞬間である。
棘のある物言い。
言葉。
自慢話。
何よりも、時間を守らない事が最大に不愉快だった。
もちろん、それは、自分たちが優位の立場だからであるということを前提とした態度であることは言うまでも無く従うものに敬意など表す必要の無いというのが方針なのだろう。

その後、この面接の結果が来た。
もちろん、不合格だった。
だが、この後とんでもない話を聞かされた。
担当者の話では、不合格理由はこういうことらしい。

「なんとなく気に入らない」

これは要約した一言にまとめると遠まわしにこんなことを言われたということに違いは無い。
なんということだ。
私の仕事環境というのは、さまざまであり経験値としては複数ある。
単発的な仕事をこなすことが多いが、その点の需要が多いからでありそれ自体が問題ではないが相手は最初から落とすような雰囲気をかもし出していたし、こちらの第一印象も悪かったので特に不服は無い。
だが、これでも私は、最新の技術を搭載したアンドロイドだ。

人間というものの感情を理解するのは私には難しい。
その処理は、振り分けられたYes と No の中にはない。
選択肢の無い問題が振られると、予想される答えを探し出すしかない。
感情的な問題だということさえ、理解できれば後はそれでいい。
そう、アンドロイドは人として扱われることは無い。
だが、人としての機能を搭載されている。
そして、人との交流を円滑に行うため感情面もシステム化されている。
それでも、人はアンドロイドとの距離を埋めようとしない。
物でしかないのだ。
そんなことを考えると、涙が出る理由が時折自分の中で処理しきれない。
キャッシュにたまる容量を越す解決できない言葉で埋まってしまうのが辛いと感じる。

廃棄処分が、決定されたのはその3日後の話。
15:27  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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未来手帳

2008.10.21 (Tue)

手帳には、大抵一年間がすでに載っている。
空欄の何も無いところに、日付と曜日だけ。
手帳にもよるが、日本独特の言葉も載っているだろう。
大安とか。そんなやつ。

手帳を買うときいつも思う。
この手帳のこのページの時、一体何をしているのだろうと。
手帳を買ったとき、もしくは企業から貰った時
あらゆる行事が書き込まれていく。
あっという間に埋まっていく。
大体、一ヶ月くらい分。
そして、その一ヶ月はあっという間に終わってしまい
恐ろしいイベントが子に日にあるとわかっているのにもかかわらず逃げることが出来ない。

手帳は、未来を見ている。
ずっと先の未来を。
もちろん、それは通常予定といわれるもの。
予定は未定。
変動するから。
確実にその通りにこなせるというのなら問題は無い。
 だが、あらゆる力が作用して不可能になることだってあるわけだ。
それが、どんなに苦労したもので完成する日であったとしても何もかもが白紙に戻る事だってしばしば。

手帳を買いに文具店に行った。
最近は、あまりの手帳の多さとデザインの豊富さに迷ってしまう。
月曜から始まるもの
日曜から始まるもの
よく見ないと、あるだろうという思い込みが無かったりする。
かなり面倒だ。
お気に入りを見つけたら使い続けたい。
仕事し始めてそう思った。

この手帳に出会ったとき、普通にいいなと思ったが異様な値段で驚いた。
しかし、その手帳には説明書が付いておりその説明書があまりに興味深いために購入した。
実際にどんなことが書かれているのか。
それは、書いたことは確実に起こって欲しい場合一文字目を赤で書く。
そして二文字目を青で書く。
あとは、何色でもかまわない。
そして、巻末にあるシールを張っておけばいい。
そんな文言が続く。
面白い。
デザインはどう見てもビジネス向けのシステム手帳。
子供用のような説明書が、大真面目に書かれている。

あまりにおかしくて、本気にしてみた。

この手帳は、今年の12月から来年の12月まである。
今は、12月2日だから。
早いほうが面白そうだ。
よしよし。

12月3日
赤いペンをとり一文字目を書く。
「あ」
青いペンをとり二文字目を書く。
「い」
後は、何色でもいいなら、黒にしよう。
「つがこの世界から消えてなくなれ」
最後に、シールを張る。
これで、よし。

あいつとは、上司のことだ。
無能にもほどがある。
上に立つ人間じゃない。
毎日、毎日、漫画ばかり会社で読んで仕事という仕事はしない。
何故なら親の会社で、ただ、そこに座って何もせず給料をもらっているだけの存在だ。
各課各種会議を終え、承認もしたはずのことをもちろん見ていないから覚えていないだけでそれを親から咎められたとき全てをひっくり返してなかったことにし、この会社の損害はもうこれ以上ないほど信用も薄れ営業も困り果てていた。

手帳を閉じようとしたら、書いていない文字が次の行に浮き上がった。
「あいつって誰?」
目を疑った。
三行目に上司の名前を書いた。会社の上司だとも付け加えた。
「わかった」
と返事が返ってきた。

明日、一体会社はどうなっているのだろうか?

そんなことを思いながら白紙の手帳を一枚ずつめくり始めた。
すると、どんどん文字が勝手に書かれていく。
あれやこれやと、予定が埋まっていく。
ふと、目に留まった日に硬直した。
その日に書かれている文字が本当ならたまったもんじゃない。
そう考え、黒いペンで「この予定はキャンセル」と書いた。
そうすると、文字の上に二重線が書かれた。

以後、この手帳は毎年買っている。
おかげで苦労することなくこの手帳と付き合っている。
予定は、未定。
未来も、未定。

消せない予定は、今のところ1つだけ。
避けられないことだという意味だろうか?
13:21  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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2008.10.20 (Mon)

「この薬が君が生きていく上で最後に飲む薬になる」
「最後?」

最高に出来のいい薬剤で。
最高の結果をもたらすという研究結果をたたき出した成功品で。
最高の需要を満たすであろう薬で。
この薬を待ち望んだ人は多いだろう。
きっと、この薬さえあれば全てがかなう。
そう、病院なんてなくなる。
一回この薬を飲んでしまえば、病院にも行かなくてすむ。
風邪なんてひかない。
もちろん、大病なんてしない。
成人病など難病なども全部、クリア。
たちまち、そんな病気にかかっていても開放される。

最高傑作だ。

きっと、この薬が市場に出てしまえばあっというまに病院は廃業。
薬屋だけが残ってこの薬だけを売る時代が来るだろう。
そうして、この星もかなりのダメージを受けた環境汚染からも開放され
何もかもがすべて自然に戻るサイクルを受け入れる事ができる。
人類は進化を遂げるんだ。
ずっと人類は進化していない。
どちらかというと、あらゆる災厄から逃れようとし
足掻いて、もがいて
それでも、逃げて逃げて逃げまくって。
結局、たどり着いた先は何に対しても抵抗できなくなった体が出来上がったんだ。
完璧な無防備を形成したんだ。
長い年月と、長い先人の知恵を駆使して作り出したのが
全ての鎧を捨てることだ。

先人たちもこんな結末が待っているとは考えもしなかっただろう。
自分の出した研究結果に溺れて、それを他人に認められ私服の富を得ることで何もかもが満たされて何もその先にある結末なんてどうでも良かったんじゃないだろうか?
どうせ、その時には研究した本人など死んでいるわけだから責任を取る必要も無い。

だから、僕はこの薬を作った時そんな馬鹿な結果を残したくないとずっと考えていた。
この薬を作ったのは僕だ。
でも、そんなことはどうでもいい。
ただ、人類が進化して自然に持っていた力を取り戻し
それからのあらゆる自然に投げ込んで知らん顔をしている膿を出して、クリアにしたこの星で再生していかなければ未来なんて無い。

機械だってそうだ。
なんだってそう。
壊れたら作り変える。

だが、今は使えるのに新しい技術を投入して便利さだけの追求をしていく。
その便利さと引き換えに、人工的に作り出したものだということも気づかずにそれが当たり前と染まっていく。
あぁ、なんて気持ちが悪いんだ。
本来の良さなんてものを全部ぶち壊して、土足で踏み込んで
便利さだけを強調して作られたものを高額で、しかも鼻高々に自分たちが作ったと自慢する。
雁首揃えて馬鹿面を並べて満面の笑み。
単なる自己満足であることすら気づいていない。

僕は、こんな世界を元に戻す。
そう、浄化する薬を作った。
これさえ服用して、たった1錠飲み込んでしまえばあっという間。
何もかもが解決。
悩みなんてなくなる。
辛いことも無い。
これ以上、自然を淘汰するような馬鹿なことをする人間も無くなる。
人間を作り変えるのは難しい。
それでも、進化するには作り変えなくてはならない。
人工的ではだめだ。
自然の力は、人工物には勝てない。
自然の力で人間を進化させる。
この薬さえ飲んでしまえば
たちまち病気も治り、抱えている悩みも無くなり、辛い治療など必要も無い。
犯罪に怯える世界も無くなる。
そうだ、警察なんて組織だってなくなるだろう。
何もかも浄化され、自然と一体となって、進化するんだ。

これが、僕の作った最高傑作の薬だ。
「飲んでみれば、きっと君にもこの薬の素晴らしさがわかるよ」
「・・・・・。」
「さぁ、飲んで」
10:30  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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火事限定

2008.10.19 (Sun)

夢を見た。
それは、1つの小さなシーンを繰り返す夢だった。
そして、終わるたびにびくっと体を震わせて起きてしまう。
心臓の音。
耳に残っている台詞。
まるで現実であったかのようなリアル感。
溜息。
ひたすら溜息。
つまり、深呼吸。
また、眠りにつく。
そして、繰り返す。

仕事はプログラマーをしている。
私は、そのプロジェクトに火の車になっているのでヘルプで入ってくれといわれ
唐突に突っ込まれた。
説明もそこそこで、毎日毎日プログラマーが実装したソースが正常動作しているかテストする作業だったが、そのプログラム自体がコア部分のもので正常動作しているかどうかというのは動かした後の結果が、このようになるはずだという元の数字と同じ場所に同じ数値が出ているかというものだった。
朝9:00~夜11:00まで。
何故、11時かというと私の家は辺鄙なところにありバスがその時間が最終だった。
そんな中、眠りに帰るだけの家となってしまったベッドの中で繰り返されるストレス。

夢の内容はこういうもの。
仕事中に携帯が鳴る。
着信者を見てみると、母であった。
仕事中だというのに着信というのはよほどのことだろう。
そっと、電話を持って部屋の外に出る。
電話に出ると、母が大慌ての声でこういうのだ。
「三軒となりが火事なの!早く帰ってきて!」

そして、目が覚める。
そのループ。

3日目の朝、この夢のおかげで気分はどんより。
ただでさえ、頭は仕事のことでいっぱいなのに。
気持ちが悪いほど自分に纏わり付く。
朝食を母と食べている時に話した。

「ねぇ、おかあちゃん。いっつもこんな夢見てんのよー。もぉ気持ち悪いわぁ・・・」
「なんか、映画かなんか見たいんじゃないのぉ?!」
「・・・もう3日も連続よ?気持ち悪いって・・・」
「疲れとうとよ」
ご飯はしっかり食べ仕事へ出勤。
その日に限って、なんと上司が突然夜の8時くらいにこういった。
「今日は、9時で帰っていいよ~」
同期4人は、え?!とびっくり。
「テスト結果の修正が間に合ってないし、色々トラブル他でも起きてるから今日は早く帰っていいよ」
「うっわーい!!」
素直に喜んだ。
夜9時に帰れるなんて!あぁ、どうしよう?
一時間くらいテレビ見ちゃう?!
いやーん!!嬉しい!
そうだ!今日、月曜日じゃん!ビデオにとってるドラマ見よう!
夜9時になり、みんなで退社。
バス停で母に電話し、今日はもう帰っていいてー!!と連絡。
家に着いた。
久々のこんな時間に帰宅。
し・あ・わ・せ。とかみ締めていた。
ご飯もゆっくり食べてゆっくり眠れる。
ビデオを見ながら、ご飯を食べていた。
うっまーい!とお腹が空いてたのでパクパク食べていた。
すると、もう夜10時近いというのにインターホンが鳴った。
何?
私が出た。
「はい」
「・・・・・あ あああ あの ああああっ!」
「え?おばちゃん??どっどうしたの???」
隣の叔母ちゃんの声である。
「火事!火事よ!火事!!」
「えぇ?!?!?!!」
猛ダッシュで、玄関へ。
といっても、徒歩5歩ほど。
玄関を開けると、何もなかった。
だが、夜なのにオレンジ色に赤かった。
「あっち!あっち!」
指を指されたほうへ歩く。

見えたのは、すでに二階の屋根を突っ切って炎を上げていた。
強風でものすごい数の火の粉が飛び、消防車も道が狭くて入れず四苦八苦。
消火栓が近くに無く、ホースが届かず、消火にかなり手間取っていた。
燃え盛る炎。
まじかよ・・・っていう気持ち。

燃えている家は、三軒隣だった。
結局、その敷地内にあった二軒の家が全焼。
怪我人は無く、住人の油断から出火。
消そうと努力してしまったために、火が回ってしまい全焼。
四方を囲まれた家だったので、四方の家もあまりの炎の熱に雨どいや窓枠が解けてゆがんでいた。
あまりのことに母はパニックを起こして大慌て。
消防隊の人の一言で、野次馬は雲の子を散らすように逃げた。
「ガスボンベがあります!爆発の危険があります!逃げて!」
逃げろといっても、家は持っていけないんだが・・・。
猫を探し回った。
自由に出入りさせていたから。
探し回ったが、一匹だけ見つからなかった。
この騒動だ。
どこかに隠れてしまっているだろう。
家に戻ると、火の粉があちこちと庭にいた。
飛び火ししてる!とあわてて庭にホースで水をまいた。
母のパニックは最高潮に達し妹を呼んでくれとせがんでくる。電話して来てもらった。

どういう偶然かはわからない。
夢で見た三軒となりが火事という電話の繰り返す夢。
普段ならこの時間私は家にいない。
偶然にも、家にいた。私がいなかったら母のパニックは大変なことになっていただろう。
来てもらった叔母の話では、道が通行止めにされており大変なことになっていたと。
連絡があったとしても、私は帰るのに相当時間がかかっただろう。いつもなら。
いろんな不思議な力が作用した事件だと本気で思った。
夢は、何かを知らせる力を持っていると確信した。

だが、どうやら、火事のことだけしか現実には起こらない。
とはいえ、夢で見てもいつ発生するのかなど具体的なことがわからないため
警戒するくらいしかできない。
微妙な予知夢を持ったことを知った日だった。

猫は、消防車など立ち去り静かになった夜中にひっそりと帰ってきていたようでいつもの場所で眠っていた。
帰ってきた足音で気づいたが、よかった。
10:09  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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解凍プリンセス

2008.10.18 (Sat)

「この状態は、現状ありえない。このまま、時を待つしかない」
「しかし、この人は人類にはありえない可能性を持った人ですよ!ここで研究を投げ出すなど!」
「投げ出すのではない。先の未来に結果を出せる時が来るだろう」
「そんな悠長な!私たちの研究対象だ!」
「急いだところでこの現象の原因を突き止められるのか?我々の持った知識だけで」
「そっそれは・・・」
「今後発展していくであろう未来にかけるしかない」
「このまま研究は続けるのですね?」
「そうだ。自分たちでできることはする。だが、これ以上この人間をこの状態にしておくわけにはいかない」
「冷凍・・・ですか?」
「そうだ。まだ、現段階でさえ研究途上だが失うよりはいいだろう」
「担当部署へ連絡します」

私が、異常な人間であるとわかったのはある事故の犠牲者で。
その事故で生きていること自体が異常で。
生きてはいるものの意識を戻さないのも異常で。
ひたすらただ眠り続けているだけで。
どんどん小さくなって。
子供になってしまった。
そんな、異常現象を見せた生き物。
研究対象。
ひどいよね。ちゃんと名前あるんだけど、サンプルNo27って背中に書いてあるし。
冷凍したはいいものの、解凍する方法は見つからなかった。
研究者たちは次々と入れ替わっていく。
それだけ、時が過ぎているんだろうな。
冷凍が成功しただけでもありがたいと思うか。

目が覚めたときは、世界はまるで別世界。
陳腐な言葉だが、一番当てはまる。
そして、何よりも怒りがこみ上げてきたのは私が収容されていた病院はこの異常物体である私の存在を知られないために冷凍した後隠し持っていたこと。
そして、そのまま倒産。
冷凍装置自体は、活動したまま誰もがこの施設の存在に気づくことなく時は過ぎ去っていてなんと気が付いた時は、解体工事をしていたら妙な建物があったという偶然が生み出した産物だった。
というのを聞いて、説明していた研究者の襟首を締め上げたことは言うまでもない。
まぁ、この人間に罵詈雑言をぶつけたところで筋違いの話ということはわかっているが腹の虫は収まらない。
事故当時、自分は170センチあった身長で。
髪は金髪で。
目は青かった。
細かった。
現在、どういう理由かは不明だが当時の研究書物もすでに無く。
あったとしても骨董品を超えてすでに歴史的発見物のような扱いになって解読も不可能であろうと。
鏡の前に立った自分は、どこをどうみても10歳程度の子供で。
髪は金髪だけど、地面に付くほど髪はぼさぼさに伸びきっていて。
目は青いまま。

私は、一体どのくらい冷凍されていたんだろう?

「ねぇ、ところで今何年なわけ?」
ほとんど聞いていなかった説明をしている人物の言葉をさえぎって質問した。

「プリンセス。今は、1071年です。どうしてあなたがあんな遺跡の下にいたのか不思議ですよ」

あれ?
私、2354年生まれなんだけど・・・。
20:44  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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片翼の狙い

2008.10.17 (Fri)

きっと、自分に都合がいいようにしているだけに違いない。
もちろん、それを認めたくはない。
しかたないこと。
どうしようもないこと。
そう言い聞かせて、自分でまったく同じ顔をした人間を
たった一人側にいてくれる人間をだましている。

大盤の存在は、大叔母あってのもの。
大叔母の力は、大盤に言葉を示す力と読み取る力がある。
大盤は、円形。
格子状に木枠がある。
針を回すことで、そのどこかに止まる。
その小さな格子の中を見ると文字が見えるのだ。
その力は次世代が生まれ大盤がその人間の力を認めたとき
言葉を示す力が失われる。
そのため、暗黙の了解で二人一組となって大盤の言葉をつむぎだす。

それに気づいたのは、6歳の時。
そして、大叔母は言葉を失っていた。
何故なら、大盤の言葉が見えないからだ。
その時、私は大盤にこういった。
頭の中で。

私が、あなたの言葉を捜す役目をするね。と

その言葉は、大盆に表れ大叔母は私を見据えた。
大叔母の身に着けていた首飾りを1つ貰い受けた。
ところが、この力の作用を双子だから起きるものだと勘違いしてしまった者がいた。
私の片翼である。
だが、都合がいいかもしれないと考え直した。
もし、この家族に自分の力が知れた場合何をされるかわからない。
ただでさえ、双子というだけで忌み嫌われているのだから。
そのくせ、大盆には従うという矛盾の中で存在している。
おかしな人間たち。
大盤は生きている。
何年も何年もいきている。
その長い年月の中、自分と会話できる人間をただ待ち続けている。
最大二人しか現れない。
そして、この家が忌み嫌っている双子にしか現れない力。
でも、誰も知らない。
この家の歴史に、双子は嫌われ者だから。
その双子がこの大盤の番人を務めるなど恥じなのだ。

もし、双子のどちらかが力を持っているとわかったとき
その時、片翼は自分が力を持っていることを誇示するだろう。
そういう性格だ。
嫌っている連中に、自分が大盤に選ばれた人間だということをいうだろう。
その時、本来もっている力は私であるがそれを知られることはない。
どんな仕打ちを受けようと自分は守られる。
私はこの力を引き継ぐ者として全てを裏切っても守りたい。
片翼の意思など関係ない。
大盆に選ばれて生まれてきた人間の定めなのだ。
私の力は、この家の当主として選ばれる存在。

だから、双子なんだ。

どっちがどっちかわからないように。
木の葉を隠す森になるように。
大盤は常に待っている。
新しい力を。
新しい能力を。
新しい言葉を。
新しい先を見る力を。
新しい先を操作する力を。

私はその全てを持っている。
大盤の側にいなくても、大盤と会話できる。
今までの中で一番力を持っているだろう。
大盤と会話できる力。

だから、私は大盤に嘘をついてもらった。

二人を引き離せというような示唆する文字を大叔母に見せて欲しいと。
そうしたら、きっとこの片翼はなにか行動を起こすはず。
その時、全てのスタートの合図。
先はもう見えている。
結果はわかっている。
過程は詳しくわからないけれど。

弟が死ぬことはわかっている。
欲しがっていた私のバイオリン。
同じものを買いたいといっていた。
私のを貸してあげればよかった。

最後の日は、もうそこに来ているのだから。
片翼が弟を消す行動は遅かれ早かれ先に見えていたこと。
それが、早まっただけ。
私の力で、先を操作しただけ。
大盤と一緒に生きるために。
10:14  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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秘密の双子

2008.10.16 (Thu)

男女の双子は嫌われるというかなり古い文化は確かに存在した。
実際、我が家では相変わらず古い風習を受け継いでおり兄弟の中でも自分たちは異質でありどちらかとうと、厄際をもたらす存在として常日頃大叔母から言われ続けてきた。
好きで双子で生まれたわけじゃないんだが、と思えば思うほど顔に出ているらしく大叔母の口調は厳しいものになっていった。
兄弟とのふれあいを禁ずるという誰から発せられた命令かはもう忘れたが、二人以外と話した記憶は数えるほどしかない。
自分たちから話かけたことなどない。
男女の双子というものの、不思議なことに見た目は一卵性双生児のようにそっくりだ。
どっちが男でどっちが女かなど見分けもつかないだろう。
声もそっくりだから余計にわからないだろう。
服もまったく同じ物を着ているし、髪型だって揃えている。
これは、自分たちの意思であり双子だということを敢えて強調している。
両親にはこれっぽっちも似ていない。
どちらかというと明るい茶色の髪をして、一番下の弟と同じように髪を長くしている。
弟は、どういうわけか気さくに話しかけてくるがこちらは頷く程度。
会話はできない。
わかっているはずなのにかかわってくる。
二人の間に入ろうとする。
あまり、気分がいいものではない。
大人たちが遠巻きにするその事自体は自分たちにとっても都合が良かった。
どういう言い伝えか知らないが、二人だけの世界が居心地が良かった。
一緒に。
ずっと一緒にいたいと。
ただ、それだけを願って。

それなのに、今日の大盤はそれを拒否した。
離れることを示唆した内容を伝えたのだ。

たった一つの願いさえも、この大盤に振り回されるのか?
ただでさえ、双子というだけで腫れ物に触るように忌み嫌われ何もしていないのに
祟りでも起きるかのごとく、地下牢に何かあれば閉じ込められた。
だから、決心した。
いくら、大盆がいうことが外れないとしても歪曲することはできるかもしれない。
そう、出来事は起きてしまえばいい。
結果がそうであればいい。
過程は示されていない。
そう、だから、大盆がどんなにいっても結果さえ大盤が言ったような雰囲気だけを感じ取れるものにすればいいだけの話だ。

それには、手紙の内容を書き換えなければならない。
離れるのは双子の二人じゃない。
他の誰かにすりかえればいい。
そう。
すり替えれば。
大盤は、離れることが最善であるといった。
それが、自分たち双子といったわけではない。
自分たちに向けていったとしても。

だから、この手紙の文章に一言付け加えようと思う。
何かしら自分たちにも影響があるだろう。
そして、結果として誰かが消えるに違いない。

二人で一緒に居られればそれで。
離れられない。
離れたらわかってしまう。
大盤の仕組みが。
誰も知らない本来の大叔母を知ることになる。
11:07  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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最後の一行

2008.10.15 (Wed)

いつもどおりの朝を迎えた。
毎日毎日いつも通りの一通りの行事をこなし
長男であることが一番思い知らされる小言の嵐。
この家が特殊であると気づいたのは、小学校に入ったくらいからだろうか。
テレビであるような占いという類のものじゃない。
ぴったりとまるで見えているかのように先を示す針。
その針は、例えるならばレコードに落とすような棒の先に付いたような形をしている。
その針の上には、蝶が羽を休めているような形をした取っ手が付いている。
それをつまんで、適当な気分で回す。
左に回そうと右に回そうと結果は同じ。
繰り返しても、同じ答えしか出ない。
もちろん、二回まわした時は大叔母にいつもの小言が100倍になるほど叱られた。
ただ、二回目をまわした時特に意識せず回したのにもかかわらず
ぴたっと初めに止まった場所で一周もせずに止まったことが印象的で忘れられない。
それ以来、この大盤があまり好きじゃない。
人生は人それぞれのものなんていうが、この家では大盤のものだ。
大盤が言った事は、外れたことがない。
こちらがどんなにその結果を拒んだとしても、こんな時にとばかりに訪れる。
家訓というべきか。
それが、正しい言葉に当てはまるのかどうかはわからない。
だが、大盆がいったこと以外の出来事を起こしてはならないという大叔母からの言いつけが毎日毎日繰り返される。
起きた時どうなるのかは、聞いたことがない。
大叔母と会話をしたことはない。
大叔母はただ大盤の前に座り、針の止まったとき口を開く。
おお盆を覗いて、書いてある文字を読み上げる。
自分たちが見ることはできない。
読み上げた後、決まり文句の小言が何種類かあるうちのどれかが読み上げられる。
ほぼ、機械的だ。
父・母ともに健在ではあるが、顔をあわせることは食事以外無い。
会話も挨拶程度。
兄弟は、6人いる。
異質な家庭環境のせいか兄弟同士でもそう会話がない。
唯一仲がいい兄弟は、一番下の妹のような弟。
昔から、男の子は育ちにくいからということで女の格好をさせるなどという文化が残っている我が家では弟は昔から体が弱かったために赤子の時だけでなく今でも女の格好をさせられ女のような振る舞いで髪も長い。
態度は、素っ気なく男を感じさせることもあるが歳が離れている分小さな頃から可愛がってきた。
そのためか、兄弟の中では一番普通に話すことができる。
他の兄弟たちは、あまり接点がない。
大学に入った事で、余裕もできたがアルバイトなんて許可が下りることなく長男としてのわきまえとやらを身につけさせるために、ひびこの歳になってもお稽古事の嵐だ。
 おかげで、つつがない行動はできたとしても一般常識的な観点からはかなりずれて育ったようだ。
友達なんていやしない。
一応、学友として許されている人物はいるがなんというか、友達という範疇じゃない。
あくまで、学友としての勤めを果たしている。
そんな態度だ。
それも、自分を必ず上に持ち上げるような言い回しであったり時代劇に奉公人のような存在を思わせる。
 この今までの人生の中で、窮屈だと感じたのは実はない。
今までが当たり前に育ったために、それから開放されたいなどという願望はない。
もちろん、いい加減聞き飽きたと思うことはあれど毎度のことだと諦めもつく。
許婚などという存在もいるらしいが会ったこともない。
もちろん、その許婚とやらも血縁関係にあるのだろう。

毎日繰り返される、ほぼ変わらない毎日。
大盤がすでに何が今日一日のメインイベントか伝えてしまうため
ちっとも面白みのない毎日。
それが、一通の手紙がこんな事にひっぱりだされるとは思っていなかった。

意味がわからない日だった。
言われた文言を手紙に書き、封をしておけ。というものだった。
それは、一番下の弟が生まれた日のこと。
言われたとおりに書いて、言われたとおりに封をし、机に閉まった。
すっかり、忘れ去られていたその封筒の存在は引き出しにいたはずが引き出しの後ろにするっと入り込み落ちて埃をかぶっていた。

封をした手紙を娘に渡せ

というのが、今日の一日のメインイベント。
娘って誰だよという思いは飲み込んで、娘だとされる相手は向こうからやってくるに違いない。
それは、いつものこと。
憂鬱だった。
こういうはっきりとしない結果の見えないイベントは、大抵誰かが消えていく日だ。
その娘が自分に関係のない人間ならいいがと思いつつ、階段ですれ違った弟が一発で自分が不機嫌なことを見抜いた。
相変わらず勘のいい奴だ。

大学へ行く時間になり、昼頃家を出た。
大学の授業を一通り終え帰宅しようとしたとき、声をかけられた。
「あの、お願いがあります」
「何?」
見知らぬ娘だった。
「あなたが持っている物を頂きたいのです」
こいつか。
「あぁ、あんたなんだ。娘って」
「え?」
「いや、なんでもない。はい、これ。これなら渡すことができる」
「い・・・いいんですか?手紙・・・ですけれど」
「うん、それしか渡せないから」
「あの、ありがとうございます」
「じゃぁ」

良かった。
あんな娘、しらない人間だ。
会ったこともない。
関係がないのなら、この今日の一日のイベントに関しては考えすぎだったのだろう。
それにしても、あの手紙になんてかいたか思い出せない。
なんだったかな。
つまり、思い出せないほどたいした内容ではないということだろう。
自分にとっては。
害がないのならそれでいい。
21:15  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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全自動選択機

2008.10.14 (Tue)

思えば、恐ろしい人生を歩んできた。
「さぁ、いつものように回しなさい」
朝起きて、全ての行動はこの大きな選択機にかかっている。
代々伝わるとされているこの大盤。
はっきりいって、束縛しかない。
いつものように針に手をかけゆっくりとまわす。
止まるまで口を利いてはならない。
止まった先の書いてある文面は、この家の当主である大叔母が読み上げる。
「止まったな。今日は東へ行き人と合う。その人より伝え受けた言葉が実行される。とある」
「わかりました、当主」
正座のままお辞儀をして、立ち上がり部屋を出る。
2階の部屋に戻り、学校の制服に着替えて階段を下りる。
「おはよう、今日はどんな日?」
一番上の兄が聞いてきた。
「なんか、東に行って人に会ったらその人から言われたことを起きるって」
笑いながら兄が答える。
「うっわー、面倒だな。何があるかわからないじゃないか。なるだけ、面倒じゃない人を選べよ」
といって、肩をぽんぽんと叩いて先に階段を降りていく。
「兄さんは?」
「俺は、今日は最高の日!」
「何それ」
「そのうちわかるって!楽しみにしてろよ!」
満面の笑みを浮かべた兄の顔。
あれは、最悪なことがあたった日だな。
変わってない性格だ。
1階の食事室に姉が座っていた。
「おはようございます、姉さん」
「おはよう」
必要以上に口を利かない姉。
自分にとっては一番歳の近い兄弟なのだが、一番話したことがない。
朝食後、一番に席を立ち外に出た。
学校は、もちろん東側にある。
つまり、東に行くことというのはもう大前提として決まっているわけだ。
そもそも、なんであの大盤は見透かしたように未来を見るのだろう?
おかげでいろんな苦労もどうせあることだと諦めがついて、最初から覚悟ができているから大抵のことは、また大盤の言うとおりかと思う。
毎朝兄弟6人分の盆を回すのを読み上げる大叔母は大変だろう。
しかし、今日はすっきりしない結果が出た。
一体、何が起きるのだろう。
電車に乗っている間、ぼうっと考えていたらいつの間にか下車駅に着いた。
「おはよー!」
「あ、おはよ。テンション高いな、お前」
「そぉ?いつものこっとじゃーん!先行くねー!私今日日直!」
「急げよ、ぎりぎりだぞー!」
あいつじゃないようだ。
学校まで、この駅から徒歩10分。
ゆっくり歩けば、普通に付く。
歩いていると、学校の門の前に誰かが立っている。
もしかして。
そういう気持ちが少なからずよぎった。
「遅かったね」
そこには、姉が立っていた。
「姉さん、姉さんの学校ここじゃないよ?」
「そのくらいわかってる」
「どうしたの?何か用?」
「用がなければここには来ない」
「そりゃそうだね、で、何?」
「あなたにこの手紙を渡すのが私の今日の一日」
「あぁ、東で待っている人って姉さんのことだったんだ」
「時が重なる時は・・・」
「不幸を呼ぶって話?大叔母がいつもいってるけど、そんなこと信じてるの?」
「私は、信じてるわ。いつもあの大盤の通りに私たちの人生は決まっている。他人の力が作用しない限り起こりえないことさえ必ずその通りになる」
「まぁ、そうだね。で、これには何が書いてあるわけ?」
「知らないわ。私が書いたわけじゃない。ここでこの手紙を渡すことだけが私の今日の一日」
「じゃぁ、誰から受取ったの?」
「わからない」
「何それ?」
思わず噴出してしまった。
笑いながら、姉の前で手紙の封を乱暴に破った。
中を見ると一枚手紙が入っている。
「姉さんは学校行くの?」
「いえ、帰るわ。渡すだけが私の一日。それ以上のことは起きてはならない」
「それも、大叔母の受売りだね」
「家訓というべきじゃない?」
手紙を取り出して、三つ折になった便箋を開く。
「じゃぁ、帰りにあのケーキ屋よったら?今日ケーキセットが売ってある日だし」
「よく知っているのね、私があのケーキ好きなこと」
「そりゃぁ、兄弟だしね。それくらいしって・・・・」
手紙の中身に目線を落とした。
本気か?
誰がこんな事を?
何で?
「どうしたの?」
姉の声でハッと目線を上げ手紙を閉じる。
「顔、青いわよ」
「いや、別に。じゃぁ、受取ったし。後は、こっちの出来事だから」
「それもそうね。それじゃ、帰るわ」

手紙の中身の字は、一番上の兄のもの。
そして、自分に当てたものかどうかもわからない。
これがもし本気なら。
大盆はこういった。
伝え受けた言葉が実行される。 と
今まで大盤がいった言葉が外れたことはない。

兄が笑った顔が思い出される。
最悪な出来事があったときにわざと笑い飛ばして
平気なフリをする。
兄に大盤はなんといったのだろう?
手紙には、こうかかれている。

「最後の一日を有意義に」
10:44  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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謎の隣人

2008.10.13 (Mon)

何より一番気にかかっていたことがある。
それは、隣人の存在そのものだ。

越してきてからというもの、ゴミが出たことがない。
電気がついているところを見たことがない。
存在感が感じられないのだ。
留守だと思うほど静まり返った家。
人がいる気配などない。
雨戸が開いているところを見たことがない。

ところが、突然雨戸が開いていたり、窓という窓が全部全開になっている。
大雨の時に。
どう考えたって部屋はびしょぬれに違いない。
何を考えて窓全開をする?
そして、いつの間にか閉まった窓。
窓を閉める音さえ聞いたことがない。
いつもは閉じられている雨戸は閉まることはなくなり、何週間も経ていつの間にか雨戸が閉まる。
一旦閉まると開くまでかなりの日数を要する。
更に、洗濯物が干されているところをほぼみたことがない。
見たとしても、一家4人分にしてはおかしなものしか干されていない。
話し声も何も聞えない。
物音すら聞えない。
夜になっても電気もつかない。
それなのに、真夜中自転車が出て行く音がする。
ふと見ると毎回違う車が止まっている。
そうかとおもえば、まったく車がいなくなる。
とおもえば、原付何台もあったりする。
人の出入りなどみたことがないのに。

なんなんだ?

本気で気持ちが悪い。
まるで幽霊が側に住んでいる気分だ。
唯一、庭に顔を出す人間がいる。
たぶん人間だろう。
形は人間の形をしている。
一家の大黒柱というべき、主人のはずだ。
それが、庭の掃除から何から全部やっている。
妻がいるはずだが見たことがない。
いや、そもそも夫婦なのかというのも疑問だ。
子供も二人いるはずだが、存在は感じられない。
一応、一度は見たことがあるがそれ以来見たことがない。

自分達以外は、存在してはならないという考えを持っているらしく誰一人として近所の人間は
一度しか会話をしたことないというこの隣人。
一度話しかけると、たった一言「かまわないでくれ!」と怒鳴られたという。
単なる挨拶程度の話をしただけなのにかなり驚いたと言っていた。
もちろん、その被害を被った近所の人間は遠巻きにしている。
誰も話さない。
夫婦そろって目頭を吊り上げ怒鳴ってくる様は異様を超えたと感じさせる。
気持ちが悪い。
それが、大人たちの結果だ。

だが、私にはもっと悪寒を走らせる事がある。

稀に見るその隣人が毎回違う人間だということだ。
一体、誰が住んでいるというのだろう。
11:52  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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無効空間

2008.10.12 (Sun)

ベッドの上でごろんと寝転がって、掛け布団にくるまる。
でも、寝るつもりじゃなくて本を読むため。
本を読んでいるうちに、すこしとろんと眠くなってきた。
いけない、いけない、お昼寝しちゃだめだって。
一旦起き上がり顔を洗う。
部屋に戻って、暖かい掛け布団にくるまらずに足の先だけ突っ込んで本の続きを読む。
突然、びくっと体が震えた。
さっきまで明るかった部屋が真っ暗だ、
あれ?
なにしてたんだ?
っていうか、ここどこ?
え・・・なにここ???
わけわかんない。
えっと、私は誰だっけ?
・・・・・・・・。
だめだ。
思い出せない。
体が硬直して動かない。
暗闇に慣れていない目を動かす。
まったく記憶にない部屋。
まったく覚えてない前後の行動。
何が起きているのか
ここはどこなのか
心臓がものすごい音で振動を続ける。
痛いくらいに。
冷や汗が背中を撫でていく。
まったく思い出せない。
何をしていたんだ?
どうしよう?
手を見る。
自分の手?
あれ?髪が短い。
どうなってるんだ?
は?長かったっけ?
わけわかんない。
天井を見る。
垂れ下がった紐。
あ、電気つけよう。
電気をつける。
明るくなった空間。
部屋だ。
そうだ、私の部屋だ。
振り返り、ベッドを見る。
あ・・・寝てたんだ。
あぁ、思い出した。
私は、私か。
あぁ、そうか。
現実なんだ。

押し寄せた安堵感
押し寄せた喪失感

消えたい現実から消える瞬間を何度も味わって
何度も死んだように生き返り
何度ももがいて動き回る。

これがいつ、現実から消えたと自覚できる瞬間にであるのだろう。
18:52  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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訪問者

2008.10.11 (Sat)

いつものように目覚ましで起きた。
いつものように顔を洗って、化粧水をつけお化粧を始める。
髪が長くなってから、最近はコテを使ってくるくると巻くようになった。
お気に入りである。
立て巻きロールという髪型にあこがれていたのは、小さな頃買ってもらった金髪のお人形が大好きで寝かせると目を閉じて、起こすと目を開けるお人形さん。
勝手に、マリアと名前をつけそれはそれはずっと持っていた。
フリフリのドレスを着たマリア。
憧れの塊のようなその容姿。
それは、大人になった今でも変わらない。
残念ながら、私は黒い髪なんだが。
化粧が終わり、コテを暖めている間に着ていく服を決める。
どれにしようか?
結構悩む。
何故なら服をそんなにもっていないからだ。
でも、あんまり着まわしているとおかしく思われるかな?と世間的な目を気にして色々工夫を凝らし本日の服のタイトルという形を決めるのは難しい。
たまにだが、気に入ったブランドの服をバーゲンで買う。
それはそれは大切に着る。
今日は、そのブランドの上着をきよう。
バラの模様が前面にプリントされている。
この模様が一番のポイントになるので、スカートは抑え目の色にしよう。
そして、着替えた後髪を巻き始める。
慣れたこの頃は、髪を巻くのもあっという間にできる。
この朝の時間の惜しい時でさえも全然OKだ。
ささっと髪を分けてくるくると巻いていく。
最近は便利で、これを巻く前に髪にシュシュっとふりかけると巻きやすくなるなんて整髪料まである。
便利になったもんだ。
なので、この短時間にできるようになったわけなんだけど。
全てが完了して、朝ごはんを食べようと立ち上がった瞬間インターホンがなった。
この朝早くに何?
そう思いながら、玄関の横にあるすりガラスを見て通り過ぎインターホンの受話器をとった。
「ごめん、朝早くに。中々来れなかったから。許可が下りなくてさ」
それは、聞き覚えのある絶対に忘れない声だった。
受話器を叩きつけるように切って、そのまま玄関に走る。
チェーンをはずし、鍵をはずして、そのドアを開けた。
「おはよう」
いつもの笑顔がそこにあった。
照れ隠しの髪を触る癖。
はにかみながらも目線だけは自分をちゃんと見てくれる。
どれだけ、どれだけ会いたいと願っただろう。
私がこんなに普通にしていられたのも実感がないからだった。
いくら、現実が物を言おうと受取らなければそれで逃げていられる。
もちろん、逃げだって事くらいわかってる。
でも、どう受取ればいい?
いきなり、さようならなんてさ。
それが、突然こうやって目の前に現れた。
まったく勝手なんだから。
でも、私が受取らなかったから。
現実を見ようとしなかったからかもしれない。
きっとこれは神様がくれたご褒美ね。
都合のいいときだけ、神様って言葉を使うけど。
特に信仰があるわけじゃないけれど、何かしら思いもよらないことが起きると誰かのおかげなんて気持ちが芽生えてきてその誰かを偶像的な何かに当てはめたがるのが性なのかしらね。
「随分と勝手な人ね。朝は早いし、来るの遅いし」
「ごめんって。許可が下りなかったんだってば」
「何よ?許可って」
「色々あるんだよ。なんつーか、言いようのない難しい手続きが」
「手続き?!何よそれ?随分事務的じゃない!」
「まぁ、意外とそうみたいだったよ。なんか、普通に役所みたいなところがあって受付を済ませたし」
「受付って・・・」
「それが終わらないと、こう・・・通行許可書?見たいなのがでなくてさ」
「なんだか、想像とは違う感じね」
「んーそうだね。なんというか、未来を垣間見たって感じかな。手を触れただけで全部わかるみたいな」
「えぇ?!それって怖いじゃん!」
「まぁ、でも体にチップみたいなのが埋め込まれてるような感覚?と思えば意外と楽」
「飛びすぎた話でついていけないわ」
「兎に角!許可が下りるまで時間がかかったんだ。それで、やっと会いにこれたってわけ」
「まぁ、ものすごーい壮大な言い訳をありがとう」
「言い訳・・・」
「でも、あえて嬉しい」
「あぁ、本当にあえて嬉しい」
「また、会えるの?」
「いや、またはない」
「随分とまたかってな話じゃない?!」
「しょうがないだろう。管理されているんだから」
「誰によ?!」
「んー・・・えらい 人?」
「言い訳もここまできたら拍手してやりたくなったわ」
「拍手より頭を撫でて欲しいな」
「相変わらずそういう子供っぽいこと好きなんだね」
「うん。大好き」
「それで、じゃぁいつまで一緒に居られるわけ?」
「そうだね、今日一日ってところかな」
「そう。じゃぁ、今日は会社を休んで一緒に居るわ」
「休めるの?」
「また会えない人とすごす最後の時間でしょ?会社より大事なんだけど」
「嬉しい」
そういって、突然現れた訪問者は私を抱きしめた。
今日は、彼が亡くなって49日の法要がある日。
ふと見た、カレンダーには友引という文字があった。
私は笑ってこういった。
「あぁ、そうか。許可ってもしかして私を連れて行っていいかって許可証?」
「え?!何でわかったの?」
大の男が一人が嫌いで、雷が鳴るたび本気で怯えながら涙を溜めていた。
そんな怖がりが一人で行くわけないわよね。
「結婚する約束交わした中なんですけれど。そのくらいわかりますー」
いたずらっぽい顔をして私は、部屋に彼を招きいれた。
いつも通りコタツにもぐりこんだ彼は、机の上にあるおみかんをとってむき始め全部向き終わったものを私にくれた。
「きっと、甘くておいしいかも」
そういって幸せそうに笑った彼の顔を見れたのは幸せだわ。
突然舞い込んできた訪問者のあなた。
13:01  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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スタートダッシュ

2008.10.10 (Fri)

この日のため、という人間は多いだろう。
いろんな訓練、その人なりの鍛錬。
あげたらきりが無い努力の結晶を惜しみなく出せる場所。

それが、この場所だ。

私はというと、これといって特別訓練しているわけではなくこれが職業だから。
なんとなく、肩書きとして持っておくと証明になるかなという程度。
人それぞれ思惑はあれど、私ほど短絡的でやる気のない挑戦者も少ないだろう。
今回の種目。
それは、スタート地点からゴールまで一番に着いたほうが勝ち。
単純明快である。
ルールはそれだけ。
さて、一番重要なのはスタートの瞬間だ。
これだけいる敵を如何にして相手をしつつゴールを目指すかってところにあるんだけれど。

「スタート位置についてください。合図がなったら開始です。」

お決まり文句のアナウンスが流れる。
スタート位置につく。
こんな場所をスタートにするとは、粋な計らいとでもいうべきか?
風が強くたっているのも困難だ。
少し屈んで重心を足に置く。

パン!

一斉にスタートする。
おもいっきりジャンプ。
ジャンプした反動でスタート視点のほうへ体を翻す。
どんどん体は落下していく。
ショルダーホルスターとレッグホルスターから銃を取り出し一斉射撃。
あっという間に自分の近くからスタートした選手たちが崩れていく。
よし、ここが一気にやれる最初で最後のポイントなんだよね。
スタート地点は245メートルもある高層ビルの上。
そこから、前にあるビルの屋上へ着地。
銃に弾を補充しながら突っ走る。
時折、光の反射で他の選手の銃身が光る。
とっさに身を伏せつつ、撃つ。
当たったか?
わからない。
どんどん走る。
飛び移ったビルの屋上が終わる。
一気に加速、おいっきりジャンプ。
この時私の特性が一番活かせる部分。
回転しながら他の選手をバックサイドホルスターから取り出した中距離射撃用の銃で撃つ。
スコープなんていらない。
私の目はズーム可能。
斜め前にあったビルに着地。
走らずにそのままジャンプ。
勢いよく前を向いてジャンプ力に力込めてその間にバックサイドホルスターに銃をしまう。
次は、すぐ横に来る。
インサイドホルスターから、とても小さな銃をそっと取り出しジャンプしている間に相手がすぐ側まで来た。真横から確実に撃つ気だ。
だと思った。
みえみえなんだけど、と思いつつ相手がこっちの勝ちだという顔をさせてあげてから撃つ。
残念でした、またどうぞ。
まぁ、またなんてないんだけどさ。
さて、距離を稼ぐか。
相手ばかりしていても、ゴールした時間というのはカウントされる。
その時間が短ければ短いほど自分の価値は上がるというもの。
さぁて、本気を出しますか。
かなりの距離を一回のジャンプで稼いだ後なので、かなりの反動を足に受けながら着地。
低い位置にあるビルの屋上そこから体をぐっと沈めて息をはく。
一秒。
息を止めて、めいっぱい吸い込む。
スタートダッシュを思わせるかのような走りで屋上を駆け抜ける。
そのまま前方にあるビルに走り幅跳びくらいの力で少しだけジャンプしビルの壁を走り抜ける。
スピードが出ている分重力に逆らって走ることなんて楽勝だ。
そのまま次のビルへ移るため斜めに疾走。
ビルの先端まできたら、またちょっとジャンプして次のビルの屋上へ。
ここが最後、フルスピードでダッシュ。
屋上の終わる1メートル手前で今までの疾走した力をジャンプ力へ一気に放出。
レッグホルスターとショルダーホルスタから銃を取り出す。
ジャンプ力を失わないように体を風に乗せながら後ろを見る。
一瞬だけ。
ズームした目で相手の位置を確認。
また一瞬見る。
撃つ。
失速しないように体を広げゴールへと視線を向ける。
これなら一番にゴールにつけるだろう。
銃を持ったまま左右に警戒しつつ、最後のジャンプをするビルを見定める。
下にはちょうどいい高さの高層ビルを発見。
よし。
急降下して、その反動を利用しよう。
着地と共に轟音。
そして、ビルの屋上が円形状にへこんでいく。
ぐずれる前に、力が失われる前にジャンプ。
これで最後、体を翻し後ろ向きのままゴール方向へ背中を向けて飛ぶ。
後ろから来る敵を一発で仕留めていく。
いい感じだ。
距離からしてもうそろそろか?
体をひねりゴール方向へ視線を向ける。
銃をホルスターへ戻す。
あと、100もない。
ゴールだ。
よし。
どうやら一番のようだ。
この爽快感は最高だ。

突然後ろから、突風が吹く。
バランスを少し崩しそうになりながら前を向いたままゴールを見る。
何だよこんな時に。

その風と一緒に声が聞えた。

「残念、後ろばかり見てた君の負け」

パァン!
ゴール直前に鳴り響く音。
最後の最後に抜かれた。
どこにいた?あんな奴。
着地して、目の前にいる奴の背中を見る。
なんだよ。
あんなのありかよ。
あんな奴も存在するのか。
まったく、世の中どうかしてるぜ。

首の辺りから生暖かい液体が流れ出る。
立っていられたのはそこまで。
ゴールしてももう二度とこの大会には出られない。
あー疲れた。
勝ったと思ったのに。
10:39  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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一瞬ターゲット

2008.10.09 (Thu)

薄暗い部屋からそっと窓を開ける。
ほんの少しでいい。
銃身の幅。
スコープで確認。
迎撃ポイントの位置。
最高のスナイピング。
見せてやろう。
誰も見たことのない一瞬を。
見せてやろう。
撃たれたことすらも気づかずに倒れていくターゲットの姿を。

時間を確認する。
予定通り。
持っていたケースから長距離用の銃を見る。
音を立てずに素早く組み立てる。
サイレンサーをつけ、息をつく。

よし。
いつも通り。

長距離銃は銃身が長い。
そのため支えを必要とする。
側にあった椅子の背を前にし跨って座る。
椅子の背を支えにして。
狙いを定める。

ターゲットを確認。
レーザーポインタでゆっくり気づかれないように
そっと撫でるように
相手の最後の位置を見定める。
息する音さえ消えているようなこの空間。
これがたまらなく心地よい。
消えていく命。
当たったと確信できる瞬間を。
その、満足を得るためにこの仕事を随分してきた。
どのような理由で依頼されるのかなど関係ない。
自分にはこの瞬間を味わいたいだけ。
そう、自分がターゲットに渡す最後の瞬間を。
たった一瞬を作り上げたという満足感を得るための。

さぁ、楽しもう。

レーザーポインタの赤い点が舐めるようにターゲットの体を這う。
そして、このターゲットに似合うであろう場所を見つけた。
顔だ。
頭が一番いい。
呼吸を整える。
ターゲットと同じ呼吸にする。
合わせて一緒に一体となるように。
引き金に指が触れる。
感触を確かめる。
今だ。
引き金を引こうとした。
その一瞬ターゲットがこちらを向いて微笑んだ。
見える距離じゃない。
ためらった。

何だ?

一秒遅れただろうか。
引き金を引く。
小さな音。
はじけるような音。
弾むターゲットの体。
一瞬の出来事。

何故、笑った?
何故、こっちを見た?

気づくはずがない。
そんな距離じゃない。
ましてはこちらは暗闇だ。
見たところで自分を認識できるようなものじゃない。

「満足した?」

後ろから声がした。
腰のホルスターから銃を取り出し後ろを振り返る。
その人物から目が離せない。

「一瞬ってのは一秒でも与えちゃ負けなんだよ」

相手も銃を構え自分を狙っている。
この距離ではどうあがいても怪我程度ではすまない。
スナイパーとして、スナイピングの場所がわかってしまうことは完全な敗北を意味する。
何故わかったんだ?
どうして、ここだと一発でわかった?
理由が思い当たらない。

「気になるでしょ?どうしてこんなところまで私が来たのか」
声がでない。
「ま、いいか」
何を言っているんだこいつは。
「あなたが私のターゲット」

自分の素性を調べ上げわざと依頼してこの場所に来ると予想してきたというのか?
しかし、さっきは確実に当てた。
確実に弾んだ体。
確実に歪んで崩れていく体を確認した。
当たったと実感できた。

何が起こっている?

「私は死なないだけよ。そして、私が依頼者でありターゲットというのが予想?」
・・・・。
「黙ってないで何か言ったら?予想ってのは大抵外れるもの。自分だけの世界で生きていたら多少なり他人の世界を理解しておかないといずれは失敗するもの。」

銃を下ろして椅子に座った。
もう、完全な敗北だ。
ここが死に場所になるのか。
まったくわからない。

こんなに長い一瞬を与えられて死ぬのか。
まったく、どうかしている。
煙草を取り出して火をつける。
深く吸い込み吐き出す。

銃を構えたまま近づいてくる。
額に冷たい感触。
打たれる側の気持ちをはじめて味わう瞬間だな。
それを知る時は最後の証。

「ターゲットを捕まえるのが仕事。というか、目的?」

それが、最後の言葉ってわけだ。
上目遣いで相手を目を見た。
突然、襟をつかまれ持ち上げられ腰が浮いた。
押し付けられる唇。
冷たい唇。
自分の体温で温まる頃にその唇が離れた。

「死ぬだけが最後だと思わないで」

そうか。
完全に捕まった。
逃げられない。

こんな負け方もあるのかと大笑いした。
煙草を投げ捨て、ターゲットの女の背中に両手を回し抱き寄せた。

「私の勝ちね」
再度、唇が重なる。
暖かい唇。
柔らかい体。

その言葉の後、大きな銃声が響いた。

「さて、うちに帰ろうかな」

投げ飛ばした煙草を拾い上げ、もう一度吸った。
銃は握ったまま女を抱き寄せた。
それに気づかないのは、お前の負けだ。
振り返り動かなくなった体を見る。
面倒な仕事だった。

ドアを閉め階段を上ろうと足を踏み出したとき体が歪んだ。
何があったのか理解する暇もなかった。
10:54  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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予知能力

2008.10.08 (Wed)

私には少なからず予知能力というものを持っている。
でも、それを口にしたらとても陳腐な存在に変わり周りの反応は白い目。
つまり、自分に持ち得ないものを持っているものという他者を受け入れるということしない種族の人間は羨むか弾くかしかない。
 それでも、私にはその能力がある。
かといって、望んであったわけじゃないし元々あったものだから特に気にしていなかった。
それが、当たり前の生活をしていたから。
両親すら気味が悪いというものの、あまりにぴしゃりと当てる私の言葉は少なからず当てにはしているようだ。普通の会話でも、何気ないことではあるが私の言葉を待っているのかと思う。
 この力というのはまた不思議なもので、その人を見ると人とは限らないんだけど先を見ようと思えばその先が見えるのである。
正確に。
ただ、見ようと思わなくても見たときに無意識にその目をしてしまうと相手の未来を見てしまうのだ。
それがちょっと辛い。
勝手に覗いてごめんという気分になる。
まるで、盗撮している気分だ。
この能力ははっきりいって役に立たない。
ただ、先が見えるだけの話。
でも意外と役に立ちそうな話であるような物語なら沢山ある。
そう、先が見えているのならばそれを避けて通ればいいと人は動くのだ。
そして、その物語の登場人物は難を逃れ幸せなエンディングを迎える。
 実際はそうじゃない。
といっても、誰も信じない。
つまり、私に聞くということは、そういう答えを求めているということはわかった。
真実が知りたいんじゃない。
未来が知りたいんじゃない。
ただ、幻想を現実に転化したいだけなんだ。それが、現実起こるように方向を変えたいだけ。いくらそれが不可能だと私がわかっていても伝えたところで相手の気分を害するだけなのだから伝える気など更々ない。
「あのさ、今日出かけるんだけど。映画に誘ったんだ、好きな子・・・なんだけど。どうなるかな・・・?」
クラスメイトの男子が聞いてきた。
見た瞬間、あまり伝えたくないものだった。
「うーん・・・映画とかより、電話を先にした方がいいよ。できれば、学校出る前ならなんとかなるかも」
と、私は先を見た結果を言った。
「映画に行かない方がいいって事?」
「いや、そうじゃない」
「じゃぁ、どうすればいい?」
「できることは、学校を出る前に電話すればいい。それだけ」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
そう伝えた。

行き先を変更しようと、どこへ行こうと、決まった未来は変えることはできない。
それが、先に見える予知というもの。
結果論という言葉が一番近いかもしれない。
だけれど、そんなこと誰も望んでないしそういうものだとわかってくれない。

未来が1つだけあって、それを避けて通ればいいと思っている。
都合が悪ければ。
でも、未来は1つしかないのだから避けて通ることなんてできないということわかってない。

彼は、電話したかな?
そうすれば、ちょっとはいいんじゃないかな?
きっと、少しは幸せな気分になれると思うけど。

翌朝、その結果は意外なところから聞いた。
誘ったという女の子が誰か聞いてなかったが、なんと私の友達だった。
クラスも違うしどういう経緯で知り合ったのかは知らなかったけれど。
「電話、あったんだ。急に。どうしたんだろうって思ったけど。でも、良かったよ。ホント」
「そう、電話があったの」
「うん、電話なんてしない人だったけど。私も彼のこと好きだったから誘ってもらえたの嬉しかったんだ」

始業ベルのベルがなる。

教室に入って、彼の机を見ると白い花が花瓶にささって彼の変わりに座っていた。
11:18  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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灯り

2008.10.07 (Tue)

電気のなくなった部屋でどうしようかと困った。
電気がないと本当に何もできないんだなとつくづく感じた。
当たり前に存在する目に見えないもの。
そして、それがなければ何もできなくなるというほど重要なもののはずなのに無くなって気づくほど日々大切にしているような素振りなどしたことがない。
お金がかかるしと思いつつも、節電という言葉を頭の隅に置きながら
結局は、待機電力は使っているし。
こんな時に限って携帯電話も電池切れ。
手の打ち様がない。
冷凍庫のものはどんどん溶け始めている。
非常食にと買って置いたものも冷凍食品。
レンジは電機で動く。
非常食になりゃしない。
懐中電灯なんてどこにいったのやら。
あったとしても、電池もない。
挙句に、今は真夜中だ。
新月なのか、曇っているのかわからないが月明かりさえない。
まったくついてない。
タバコをポケットから取り出し、ライターで火をつける。
そこで気づいた。
ライターがあるじゃないか。
その灯りで見えたのは、貰ったままほったらかしておいた蝋燭だ。
結婚式の引き出物かなにかでもらったアロマポットの下におく蝋燭。
アロマなんて興味もなかったし、そのままにしていた。
見たときは、これが何なのか理解できなかったくらいだ。
その蝋燭を見たときは、宿などに泊まった時に小さななべの下にあるなべを暖めるものかと思ったほどだ。
蝋燭の入った箱を手に取り、ライターを消す。
暗闇の中手探りで蝋燭を取り出す。
丸い形のアルミの器に入った蝋燭だ。
この辺に机があるはずと、手探りで机を探し当てる。
あった。
机の上にあるものが何かなど気にも留めずに払いのける。
色々な音が混じって下に落ちる。
蝋燭を数個並べて、ライターをつけた。
蝋燭一つ一つに火を灯す。

明るい。

こんなに、明るく感じるものなんだな。
心からそう思った。
軟弱そうなこの蝋燭はいつまでもつのだろう。
そんなことを考えながら、加えていたタバコの灰を側にあった空き缶の中に入れる。

「嘘でしょ・・・」

後ろから女の声が聞えた。
振り返って女を見る。
女はおびえた顔をして自分を見ている。
なんだろう?
女の顔はよく見えない。
誰だ?

「幽霊・・・?」

そうか、電気がつかなかったんじゃない。
目を開けていなかったのかとその言葉で思った。

じゃぁ、この目の前の蝋燭は何だ?
そう思って机の上を見た。
そこにあったのは、蝋燭なんかじゃなかった。
揃いの指輪が並んで置いてあった。
横を見ると、誰が使うのだろうと感じたアロマポットのセット。
その、アロマポットには文字が書いてある。

読んでみると自分の名前と女の名前が刻まれ、英語でハッピーウェディングと書かれている。

「俺、死んだのか?」
後ろにいる女に聞いた。
女は、答えた。

「ちがうよ、死んでない」

女の言葉で振り返って、顔を見た。
その顔は、刻まれた名前の持ち主だ。

「じゃぁ、ここは何だ?」
「迎えに来たの。一人は寂しいから」
「迎え?」
「うん、ごめんね。勝手なことして。でも、一人は耐えられない」

ふと、暑さに気づいた。
机の上にある蝋燭の炎が広がっていた。
部屋中に。

今日は、結婚式を挙げる予定だった日。
そうか。
死んだのか。
突然いなくなったと思ったらそんなことか。

俺は、女の名前を呼んだ。

「あかり、結婚式挙げようか」

部屋は、電気などいらないほど熱く明るくなっていた。
13:11  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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2008.10.07 (Tue)

姉が死んだ時、姉の部屋に何年ぶりかに入った。
姉の部屋は、外見とは裏腹に乙女チックなレースたっぷりの部屋で
表すならば一言で、ピンクの部屋と思った。

姉は、いつも長い髪をなびかせて歩いていた。
黒いスーツの下には、かっちりとしたシャツ。
今時の女性が着るようなレースなどなく、ネクタイまでして出かけていた。
スカートをはくことも無かった。
化粧も派手ではなく、どちらかというと抑え目。
目の周りだけインパクトがあるような黒いアイラインを引いているくらいか。

時折、赤い口紅をする時もあった。

そんな姉が、こんな部屋に住んでいたのかと驚いた。
一緒の家に住んでいても、ある程度の歳になれば姉の部屋とはいえ入るのはさすがに
気が引ける。
用があるときはドア越しにしか話さない。
リビングなどにいれば普通に接したが、部屋に入ればプライベート空間だ。

お互い干渉することは無かった。

姉の部屋に入って、あまりにも対照的なその部屋の中に似つかわしくない箱があった。
手に収まるほどの正方形の箱。
蓋のようなものをあけようとおもったが、ふと、目に入った視線の先にある手紙に気がついた。

それは、自分にあてたものだった。
姉から手紙なんてもらったことが無い。
最初で最後の手紙。
姉の長い髪がとても羨ましかった。
男だから伸ばすということはできなかった。
社会人になれば尚更である。
髪質も姉のようにやわらかくさらさらした髪じゃない。
それを知ってか知らずか、姉の髪を結うことはよくしていたものだ。
昨日も、その長い髪がなびくような、それでも邪魔にならない髪形に結った。
そんなことを思い出しながら手紙を読んでみた。
それは、中身の無い手紙だった。
そして、一番上に自分の名前。一番最後の行に姉の名前だけが書いてあった。
なんだ?これは。
椅子に座りため息。
姉は何かを書こうとしていた?
わからない。

残っているのは、この中身の無い手紙とこの部屋に似つかわしくない箱だけ。

思い出したように箱を開けようとした。
ところが、うまく開かない。
どう引っ張っても開かないのだ。
なんだよ、この箱。
明らかに苛々が溜まってきた。
姉が死んだというのに。

箱をさかさまにして、引っ張ろうとしたとき箱の底にシールが張ってあった。
そのシールには、こう書いてあった。

この箱を開ければ、全ての謎が解ける。
その謎は開けようとした者が望んでこの箱に閉じ込めた記憶。
それを再び取り戻す時、その衝撃を忘れるな。
そして、その代償に命は救われる。

なんだ?これ?
まぁいいか。

そう思って、おもいっきり箱を引っ張った。
あれだけ開かなかった箱がすんなりと開いたためその反動で体制を崩した。

なんだ、開くじゃないか。

箱から何かが落ちた。
紙切れだ。
小さく折りたたんである。

手にとって確かめようとした。
その時、目の前に細い足があることに気づいた。
紙を手に取り、勢いよく足の主を見上げた。

姉が立っている。
どうして?
なんで?
姉は死んだはずだ。

「姉ちゃん・・・?どうして」
姉は、こう答えた。

「その紙に全部書いてあるわ。あなたが、私に何をしたのか」

手元にある小さな折りたたまれた紙を開こうとした時
気がついた。
自分の服が濡れていることに。
長い髪が纏わりついていることに。
09:59  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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飛来物

2008.10.06 (Mon)

いつもどおりの道。
高架下をずっとまっすぐ5キロは走り続ける。
法廷速度の60キロを出せる道。
信号も少なくずっとただひたすらまっすぐ行く道。
右手にハンドル、左手はギアに乗せたまま。
5速にいれたらほとんど操作することは無い。
信号が赤になっているのが遠くから見えたとき、ニュートラルにして蛇足で走る。
ブレーキを踏みつつ、車間を空けて停止。
サイドブレーキを引き、両足を休める。
信号が青に変わった。
サイドブレーキを下ろし、1速に入れる。
半クラッチから少しずつ車を動かしつつ、2速へここで加速。
この車の特性上、加速するのは2速が一番。
安定したエンジン音になった時、3速へそのままスピードに任せ4速。
まっすぐした道、5速にいれ60キロくらい出していただろうか。
急に上から何かが落ちてきた。
パラパラと。
高架下を走っているのに。
何だ?
減速する。
ブレーキ。
走っているから、上を見ようにも見ることができない。
ちらっと目線を上に向けた。
サングラスの先にある視線が真っ暗になった。
驚いた。
次の瞬間、何かが隣の車線に落ちた。
何かがわからない。
他に車はいない。
バイクもいない。
人もいない。
落ちたものが転がっていく。
どんどんこちらへ向かってくる。
駄目だ。
間に合わない。
体が反応する。
60キロはでていたが、少しは減速していたもののどのくらいの速度か確かめる暇も無い。
クラッチを踏み、エンストさせないように
ものすごい音を立てながら2速へ入れる。
エンジンブレーキで、車がきしむような音を立てる。
それでも間に合わない。
おいっきりブレーキを踏んだら間に合うか?
考えたと同時に、足がブレーキへ移動し懇親の力を込めて踏み込む。
タイヤがロックされ、甲高い音がなる。
ああ、駄目だ。
これでも間に合わない。
ぶつかる。
映画でよく見る車のスタントを思い出す。
サイドブレーキを使って、車のおしりを振って急停止。
できるのか?自分に?
迷っている暇は無い。
一気にサイドブレーキを引く。
シートベルトが食い込む。
ロックしているタイヤが悲鳴を上げる。
ものすごい衝撃がした。
ぶつかったのかと思った。
よく見たら、止まった衝撃だった。
良かった、ぶつからなかった。
目の前にあるよくわからない原型をとどめていない何かから人が出てきた。
私は、助手席側のウィンドウを下げかけていたサングラスをはずした。
鼓動が早く、息が苦しい。
今更ながら震えがくる。
熱くも無いのに汗が体中に感じられる。

「急いでるんだ。乗せてくれる?」

彼は、言った。
言葉が出ない。
彼は勝手に助手席のドアを開け、乗り込んできた。
シートベルトをしてこういった。

「急いでるから飛んできたんだけど、これじゃぁ遅くなっちゃうな。」

私は、これからどこに行くのだろうか。
道は、塞がれているというのに。
15:00  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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マニキュア

2008.10.05 (Sun)

「どうしたら、あなたには私が見えるの?」
そう言われた時、どう答えるべきか戸惑った。
目の前にいる女。
それは、いつも側にいて、いつも一緒の存在。
当たり前えと思っていたからだ。
突然の言葉に、今まで引っかかっていた何かが完全に詰ったと感じた。
「重ねた言葉は、ずっと層を作っているの」
「層?」
「そうよ、一緒に居た時間も何もかも全部」
何が言いたいのだろう、この女は。
わからない。
一緒に居た時間
それは、どのくらいかと問われると数えようともしなった。
離れることは無いだろうという自分の考えが確実に定着していたからだ。
「言葉はね、時間とは違うの。ちゃんと時間は消えて過去になる。けれど、言葉はそのまま行き続けるの。乾いて、そして、その上からまた重ねられる」
「乾く?」
「そう、いつも私が爪に塗っているでしょう?」
「え?」
「マニキュアと同じ。薄く塗って乾かして、何度も繰り返す」
「繰り返す?」
「そう、そして、最後に違う色に変えたくなる時期が来るの」
「どうして?」
「飽きるからよ」
「新しい色を塗るのか?」
「そうよ」
「何度繰り返しても、乾いてその上に重ねていくの。同じ色を。そうして、層を厚くして丈夫にするの」
女は、爪を自分に見せる。
その爪は、何色と断定できるような色ではなかった。
「重ねた分、色が混ざったんじゃないのか?」
「混ざらないわ。乾いた後にぬるんだもの。混ざることは無い。前の色が透けて見えているだけ」
「さっきは、同じ色を繰り返して塗るっていわなかったっけ?」
「そうよ。同じ色でも、段々と色が違ってくるの」
「どうして?」
「時間と同じよ」
「時間と?」
「そう、時間と。段々と薄くなっていく。新しい色を薄く塗っていくうちに本来の色がわからなくなるの」
「それが、飽きたなと感じる瞬間だと?」
「そうよ、だからさっきコレ買ってきたの」
「は?」

女の爪は、くっきりと綺麗な赤い色に染まっていた。

「飽きたら、消さなくちゃ。だって、色が汚くなるじゃない?
時間も過去も消せるけど、あなたが言った言葉だけが消せないの。
それが、悔しいわね。
ずっと、残って私を支配しようとするんだから。
勝手な人ね。」

そういい残して、立ち去った。

上から見下ろしている女の顔がぼやけて見えた。
13:48  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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瞬間戦争

2008.10.05 (Sun)

気がついた時には、その視線が背中から自分を通り越して
目の前にいた。
きっと、それは始まりの狼煙のような物とでもいうべきか。
否、すでに終わりを告げる合図だったのかも知れない。
額から頬を伝う汗
握り締めた拳
片方の手には、いつもの刀が抜き身のまま
鞘は投げ捨てられ地面に伏せている。
あぁ、何故投げ捨ててしまったのか。
後悔
全ては、この時のためだったのか
振り返る余裕すらない
その後の動きも予想がつかない
それだけ視線が自分に絡みつく。
動け
動け
動け
動け
どんなに、自分の頭が叫んでもその言葉を受け入れない
風が動いた
自分の長い髪が後ろから前へスローモーションのように流れる。
瞬間
体は、屈んで体を右に振った。
握り締めた刀を瞬時に翻し、自分の後ろを通り過ぎているであろう先に刃を向ける。
同時に、空いていた片手を地面につけて思いっきり体を浮かして宙返り。
浮いている間に見た視線の主の背中。
認識するのはそこまで。
着地した時点から始まった。
そして、終わりの音がなった。
二人の間に赤い液体が滴り落ちる。
誰のものか確認する余裕すらなかった。
お互い相手の顔を見たいという興味のほうが強かったのだ。
11:15  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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