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パンドラの箱 恨み

2008.11.30 (Sun)

「この箱は、あなたにあげるわ」
「綺麗な箱ですね」
「そう見える?パンドラの箱。聞いたことくらいはあるでしょう?」
「あぁ、希望しか残らなかったとか言う・・・なんでしたっけ?」
「そんなところよ」
「貰っていいんですか?」
「ええ。7日間の苦痛の後あなたには望んだ幸せが訪れるわ」
「幸せか・・・」
「頑張ってね、あなたの7日間を楽しみにみているわ」

一日目
こっそり外出した事がばれた。
母親から、はさみで切り付けられ。
父親から、殴られて。
服を破かれ、ほぼ裸の状態になったら今度は兄がやってきて自分の部屋に連れ込んで。
後は、おもちゃとして遊ばれる。
兄の友達も一緒だ。
むちゃくちゃにされたら、部屋から追い出される。
「汚らしい」
そういって、母親が首をつかんで風呂場まで連れて行き洗剤をぶっ掛けられ水で流される。
湯船にたまったお湯に顔を突っ込まれて、暴れる自分を見て笑う母親。
飽きたら風呂から出て行く。
その後、自分でゆっくりとお湯に浸かれる。
水は、そのときに沢山飲んでおく。
風呂を上がると服は置いてある。
部屋に上がれば、皆の食べ残しが置いてある。
これが、私の日常。
どれが、箱の苦痛なのかわからない。

二日目
朝起きた時、8時を回っていた。
何故、寝坊してしまったのか。
慌てて服を着て、部屋を出た。
そこには、鬼の形相をした母がいた。
「何様だと思ってんのよ!」
朝は、5時に起きなければならない。
掃除・洗濯を音を立てずにしなければならない。
それをしなかった。
殴られ、蹴られ、ぶっ飛ばされて壁にぶつかる。
その勢いで、棚にあった花瓶が落ちた。
ごろっという音を立てて。
母親の顔を見た。
花瓶を見た。
私は、迷わず花瓶を持って母親に向かって思い切り殴りつけた。
花瓶が割れる音と、母親の頭が割れる音が聞えた気がする。
崩れ落ちるガラスのカケラが自分に突き刺さり。
こんなにも吹き出るものかというほど、あたりに血がスプリンクラーのように舞った。

三日目
父親は、母の虐待があって追い詰められていたのだろうと警察に話した。
全ての原因を母に押し付けた。
死んだ母は、何も言うことが出来ない。
自分たちまでもが虐待をしていたなどとわかってしまえば社会的制裁を受ける。
それならば、死んだやつに全てをかぶせてしまえばいいという連中だ。
そして、それから生まれた自分はなんなのだろうか。
家に帰って、母の葬儀などはすべて密葬で終わらせた。
終わったあと、父親からの暴力が再開した。
今まで以上にひどかった。
「お前というやつは!殺しやがって!お前が死ねばよかったものを!あの女が死んだせいで俺の人生まで狂わされたらどうするんだ!」
父親にとって、妻を失ったというのは問題ではないらしい。
ある程度、殴るのが疲れたのか終わった時、兄が二階から降りてきて「何か作れよ、腹減った」
といってきた。
そこで、私は料理を作り始めた。
料理は、昔やらされていた。
だが、突然母がするようになった。
理由はわからない。
父は、酒を飲んでいて食べる様子はなかった。
兄はテレビを見ながら料理が出来るのを待っている。
ふと、台所の調味料のところを見ると見慣れない粉があった。
それは、薬が入ったビンに入っている。
どうやら、薬を粉上にして入れていたらしい。
まさか、母はこれを混ぜて私を殺すつもりだったのか?
確かめるには・・・。
匂いをかいでみたが、特に何も無い。
作った料理のスープを器に入れる。
一応、食べないだろうが父の分も用意した。
そして、兄のスープのほうに粉を全部混ぜて溶かしてみた。
もちろん、自分の分は用意していない。
後で食べようと思う。
皆が寝静まった後にでも。
兄の前に料理を並べた。
父の前に並べようとしたら、俺はいらん!と一喝された。
兄は無言のまま料理を食べ始めた。
私は、その部屋を後にし自分の部屋に戻った。
一応、納戸が私の部屋としてあてがわれている。
「おい!どうした?!」
父の慌てる声が聞えた。
やっぱりね。という考えがよぎっただけで特にこの部屋から出ようとは思わなかった。
都合のいいことに、騒ぎが収まった後部屋を出てみると兄はスープを全部食べていた。
食器を急いで洗って何も無かったようにした。
救急車で運ばれた後の静けさは居心地が良かった。
帰ってきた父親は、落ち込むどころかニヤニヤと笑っていた。
「あいつには、結構保険金かけてたんだよな。まったく、偶然とはいえ発作を起こして死んでくれるとはな。結構遊んで暮らせるかもな」
そんなことをぶつぶついいながら帰ってきた。
どうやら、私が粉を入れたのが原因というのはわかってないらしい。
ご機嫌なのか、この日の暴力は殴る蹴るなどではないものだった。

四日目
朝、5時に起きた。
ふと、思った。
父しか居ないと。
掃除などする必要があるのだろうか?
特に父は気にしていないはず。
昨日もかなり遅くまでおきて酒を飲んでいた。
リビングを見ると散らかった酒のビンや缶が転がっていた。
そこに、父も転がっていた。
どのくらい眺めていたかわからない。
でも、不思議と手は動いた。
転がっている一升瓶を手に持ってうつ伏せで寝ている父の頭に思い切りたたきつけた。
割れたビンを更に突き立てた。
転がっている父は、動かなくなった。
汚れたので部屋をきれいにして、その後にシャワーを浴びた。
ゆっくりと。
それから、朝ごはんを食べた。
どれくらいぶりか、自分でテレビをつけ、チャンネルを選んだ。
そうだ、あの箱を飾っておこう。
部屋に戻って、鞄を持ってリビングに戻った。
鞄を見ても箱がなかった。
どうして?!
鞄に入れておいたはずなのに。
無い!無い!
家族が私のものを触るはずが無い。
どこに?!どこにいったの?
どこかに置いた?
いや、そんなはずは無い。
突然、インターフォンが鳴った。
出てみると、聞き覚えのある声が聞えた。
「箱は、必要なくなったわ」
「箱が無いんです。鞄に入れていたはずなのに」
「そう、必要なくなったからよ。あなた、自分で叶えちゃったじゃない。家族を消したいという願いを」

警察のサイレンが響く。
家の前で止まった。
私の人生も終わったのか。
全部、バレたんだ。

「警察です!開けてください!あなたを保護しに来ました。大丈夫ですか?!」
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08:22  |  パンドラシリーズ  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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忘れ物

2008.11.29 (Sat)

「いくぞ!」
「よし!」
開店OPENの大売出しが、今日の9時からである。
争奪戦だ。
はっきりいって、貧乏な自分たちにはこの機を逃すわけにはいかない。
広告をチェックし、開店前の1時間前には到着して何を買うかを全て計画済み。
何より買いたいものは、食糧である。
食料は、今日のご馳走!
鍋料理だ!
そして、その鍋料理の中でも最大のターゲット。
それは、タラバガニ!
カニなんて!カニなんて!贅沢品!!
これが、なんと、限定で5杯だけ、1杯の値段が3000円!!!
ありえない値段!
ターラーバー!
と、昨夜から旦那と叫んでいた。
もちろん、肉も必要。
牛肉国産500gで、ヒレ肉が4枚はいってなんと1000円!
きゃぁーーーーーー!
もう、絶叫である。
日々、節約という文字だけを目にしてきた。
レシートとにらめっこ。
家計簿と戦闘態勢。
電気・ガス・水道と即座に止める!
無駄遣い禁止!
必要なもの以外却下!
ここまで、徹底しているのは自分たちの責任である。
駆け落ちして、考えなしに飛び出した子供の行動といわれればそれまでなんだけれど。
私は、16歳
一緒に駆け落ちした彼は、18歳
高校卒業まで。
その後、結婚するというのが猛反対されたのだが。
結婚する理由は、きっかけとなったのが子供だった。
そう、妊娠したのである。
15歳で。
そして、こういうときに限ってというべきか?
私のおなかの中には、みっつの命がいっぺんに住んでいた。
自分たちも驚いたが、私の両親は卒倒した。
特に母は、これは語弊ではなく本当に真後ろにぶっ倒れて母がベッドに運ばれた。
父は、妊娠自体にも驚いていたが、三つ子となるとという部分を何よりも驚いていた。
猛反対したのは、私の両親ではなく彼の両親だ。
18歳で高校卒業と同時に、3人の父親になるわけだ。
暮らしていけるはずが無い!という。
確かに、現実的に考えればその通りだった。
私の両親は、結婚云々より体を心配していた。
といわけで、所帯を持つと決めた二人は駆け落ちしますと置手紙を残し家を出た。
母が、また倒れたら困るので内緒でお願いしますと私への連絡は取れるようにしてある。
それから、1年。
同じ顔が、三人生まれた。
女の子だ。
はっきり言おう。
倒れそうだ・・・。子育てって大変・・・。
駆け落ちした先は、実家から実はびっくりするほど遠くない。
とはいえ、頼ってはいけないという旦那と二人で決めたその信念を貫くため私達は今ここにいる。
ベビーカーを持った私と、旦那と。
開店OPEN前のスーパーで。
開いたと同時に、旦那が猛ダッシュ。
私は、レジへダッシュ。
食料・粉ミルク・オムツ そして、やっとできるかもしれない贅沢の カニと肉!
鍋よ!鍋の材料をゲットして来い!と、旦那にはメモを全て渡してある。
そして、旦那は次々と戦利品をいれたカートを持ってレジに走ってくる。
それを、もらって私はカラのカートを渡す。
もう一回走る。
もらったカートを見ると、見事カニゲット!!きゃぁあああああああああああああ!
嬉しい・・・。
次にカートがが来た。もちろん、私は空のカートを用意して待っている。
バトンタッチで今度は私が走る!
ベビー用品は、普段私が買い揃えているため説明が難しかったので私のダッシュの番!
兎に角、詰め込む!
安い!安いわ!!
レジに戻ったら、カートが3個になるほど詰め込んでいた。
もちろん、計算して買っているはずだから問題は無い。
気がついたのは、清算後だった。
もってかえる方法を考えていなかった。
ここでタクシーなんぞ使おうものならあほだ!
「どうしようか・・・」
夫がしょんぼりとしている。
肉もカニもゲットできてほくほくだったのに、帰りのことを考えていなかったのが間抜けすぎて肩を落としていた。
私も、どうしようかと本気で困っていた。
歩いて帰れる距離なのに、もって帰れない。
そうしたら、お隣のとっても親切なおばちゃんが居た。
「よく買ったわねぇ~、すっごい量じゃない」
「あら、こんにちは。えぇ、買ったはいいんですが・・・どうやって持って帰るか考えて無くって」
「うわ、すごいメモ。広告を隅々まで見たのね?」
「はい、もうやりくり大変ですから」
「随分と若いお母さんと思ってたけれど、あなたはしっかりしてるわ」
「あはは、でも、帰れない・・・」
「面白い人ねぇ、本当に。私、車だから、乗せてあげるわ。赤ちゃんは乗せてあげられないからお父さんと荷物を車に乗せたらいいわ」
「え?!本当ですか?!本当に助かるんですが・・・」
「いいわよ、それくらい。すぐそこなんだから」
「ありがとうございます」
この、お隣のおばちゃんは本当にいい人だ。
ご夫婦で住んでいて、私たちがこの家に来た時も変な顔ひとつせず若いくせにという偏見の目も無かった。ちゃんと、大人として扱ってくれた。
ただ、おばちゃんのおかげで色々お世話になったのも事実。
おばちゃんがいなかったら、もっと大変だったと思う。
赤ちゃんの世話とか、色々教えてもらった。
本当にお金が無くてご飯が食べれない時があった。
子供には我慢させられないから、自分たちが我慢していたらおばちゃんが「作りすぎちゃったのよ」といってカレーを沢山鍋ごと持ってきてくれた。なんと、お米まで。
おばちゃん夫婦は、カレーを好んで食べるような方ではない。
このご恩は本当に涙が出るほど嬉しかった。
それほど、とてもよいご近所さんを持ったのである。
旦那と荷物を詰め込ませてもらい、バイバーイと手を振って私は家にベビーカーを押しながら帰った。
そして、先に着いていた旦那が戦利品を冷蔵庫に入れていた。
私は、子供たちを布団の上に寝かせて「ちょっとみてて、お礼言ってくる」といってお隣へ。
こういうとき、本来ならありがとうの心ばかりの品があるほうがいいのだがその余裕も無い。
本当に、言葉だけのお礼をして沢山ぺこぺこと頭を下げた。
家に帰り、戦利品は旦那に任せ、私はミルクタイム。
三人に飲ませてげっぷをさせてよしよしして。
オムツ点検もして。
さぁて、本日のメインディッシュ!
「カニの鍋よ!」
ということで、子守をバトンタッチ。
材料を、冷蔵庫から取り出し、カニさんをどっどーんとまな板の上に置いた。
そのカニを眺めながら、ニヤニヤしていると旦那が私に向かって一言。

「ねぇ、うちって鍋あるの?」

しまったぁぁああ!!!
08:39  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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パンドラの箱 リカバリー

2008.11.28 (Fri)

望んだ望みが叶った後で、それが望んだ結果と違うこともある。
それが今、目の前にある。
昔の私がここに居る。

一日目
箱をもらったが、問題は七日間の苦痛に耐えられるかという恐怖が自分を縛り付けた。
まったく眠れず朝を迎える。
階段を下りるとき。
キッチンへ向かう時。
母が包丁を握った瞬間。
全てが、恐ろしかった。
何が、自分に、降りかかるのかと。
「おはよう」
後ろからした声に飛び上がるほど驚いた。
「どうしたの?顔色、悪いよ」
「別に・・・」
妹が話しかけてきただけでも、背後から何かが起きるのではないか。
「学校休んだほうがいいんじゃないか?」
朝ごはんに手をつけない自分を見て父が心配そうにこっちを見ていた。
「・・・そうする、ごめん朝ごはん。食欲ない・・・」
二階に上がって、ドアを閉めた。
カーテンもぴっちりと閉めて。
気が狂うと本気で思った。
勝手に薬箱から取り出した睡眠薬を飲んで寝てしまおうとベッドにもぐった。

二日目
睡眠薬のおかげで眠れたはいいが、目が覚めたのが朝の4時。
風呂にも入らず、まったく何も食べずに一日を過ごした。
さすがにおなかが空いてしまった。
シャワーを浴びて、台所に行くと母が居たのでびっくりした。
「どうしたの?こんな朝早くに」
背中を向けている母に声をかけても返事をしなかった。
冷蔵庫を開けて取り出したペットボトルのジュースを飲もうと口をつけたとき、母は、ゆっくりとこちらを振り返った。
その手には、包丁が握られていた。
瞬間、自分は殺されると思った。
持っていたペットボトルを投げつけた。
ペットボトルはまったく別の方向へ飛び、食器棚にぶつかった。
ガラスが割れる音が響いた。
「どうした?!」
家族が起きてきた。
「何をやっているんだ?!」
父が慌てた様子で自分に駆け寄ってきた。
「え?」
包丁を持っていたのは自分だった。
母は、どこにも居なかった。
ガラス片を浴び血だらけになった自分。
その状態で包丁を持っていた。
その姿を見て、妹と母は怯えた顔をして近寄ってこなかった。

三日目
無理だと。
もう、無理だと。
箱を開けずにもらった人に返そうと思った。
そして、今、この場所にいる。

「わざわざ返しに来たの?」
「はい」
「随分とひどい怪我ね」
「7日間苦痛があるとおっしゃったじゃないですか」
「苦痛は、肉体的苦痛だけじゃないわ」
「そうですね、気が狂いそうですよ。何が起こるのかとびくびくして過ごすのなんて。自分には無理です」
「そう、あなたには必要だから渡したのだけれど」
「何故、必要だと?」
「ここは、その人にとって必要なものしか売れない場所なのよ」
「そんなことを言ってましたね」
「別人になった。それなりの人生を楽しんできたはずよ」
「確かに、この人間になってから楽しい生活はできました。普通に」
「でも、まさか自分が別に存在するようになるとは思っても見なかった。というところかしら?」
「はい、あの時自分は別人になりたいと思っていました。でも、まさかあのまま自分のままだったらあんな人生を送っていたなんて思いもしなかった」
「素敵よね、時々テレビで見るわ。元のあなたを」
「はい、テレビ出てますね」
「取り戻したくないの?あなたの人生よ」
「都合がいい話じゃないですか。それに、苦痛に耐え切れません。今のままでいいです」
「残念だけど、ここは返品が出来ないのよ」
「知ってます」
「じゃぁ、どうするの?」
「あなたに差し上げます」
「なるほどね」
「では、失礼します」

これでいい。
最初から、自分は間違った望みを持っただけだ。
そして、それが必要だなんてあの人が言っただけ。
それを鵜呑みにしたのはそれなりの信用があったから。
でも、ちゃんと自分の人生。
今の自分を生きていかないと。

4日目
あの箱は返した。
いや、返したという表現が正しいのかわからない。
でも、あの人にあげた時点で所有者は変わったはず。
だから、もう大丈夫。
「ねぇ、邪魔なんだけど」
階段をゆっくり下りていると後ろから声をかけられた。
「あ、ごめんなさい」
学校は、つまらない世界だ。
ただ、枠からはみ出さないことを学ぶためだけの時間でしかない。
無駄といってもいいだろう。
「存在が邪魔だっていってんのよ」
また、同じ声が聞えた。
振り返ろうとした時、声の主が背中を押した。
体制が崩れ、落ちそうになった。
何かをつかんでとっさに自分の全体重をかけて前のめりになってこけた。
こけたと同時に、何かがつぶれる音がした。
静寂の後に、悲鳴が響き、誰も居なくなった。
振り返りざまに、体制を崩し、落ちないようにと自分の背中を押した人間をつかんだ。
その反動で自分は体勢を立て直し、階段側へ倒れた。
当然、自分の体勢を立て直すための犠牲になったのが下に潰れている人間だ。

5日目
「それじゃぁ、お姉さんが亡くなったのは事故ではないと?」
「はい」
「では、何だと思うの?」
「きっと、消えたんです。姉は、嫌がってました。よくわからないけれど。元に戻りたいとか」
「元に戻る?どういう意味かしら?」
「わかりません。なんとなく、そう感じたから」
「では、遺体の確認をしたのかしら?」
「いえ、見てません」
「そう」
「お姉さんの顔は覚えているかしら?」
「覚えてます」
「妹さんの顔は?」
「妹はいません」
「兄弟は何人いるの?」
「二人です、姉と自分です」
「わかりました。ここでちょっとまっててね」
階段から落ちた。
潰れている人間が、目の前にあった。
自分が突き落としたという思いが姉にとって重圧だったのだろう。
だから、姉は事故だったとしても耐えられなかったんだ。
あんな、死に方をするなんて。
「明日もお話を伺いたいのだけれど、大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」

6日目
「どういうことなんですか?」
「一体何が起きたのか私にもわかりません」
「先生!」
「落ち着いてください、お父さん」
「しかし!」
「理由ははっきりしません。ですが、現実にお姉さんは亡くなっている。そして、原因もはっきりとしている。その原因のせいで自殺した。これが、今の彼女の全てです」
「どうして、こんな事に・・・」
「あまりにもはっきりとしたイメージ、いえ、記憶があるんです」
「ショックで記憶がおかしくなったということですか?」
「どちらかというと、おかしくはありません。決して、おかしいことはひとつもないんです。受け答えもはっきりしている」
「悲惨な事故にあったのは確かです。ですが、理解が難しいですね。どうしてここまで彼女を追い詰めたのか。慎重に対応をしていかなければ」
「・・・お願いします」

7日目
「あなた、鏡を見たことはある?」
「ありますよ」
「その顔を見てどう思った?」
「懐かしく感じます」
「そう」
「あの・・・」
「何?どうして、姉はあんな死に方をしたんですか?」
「いいえ、死んでないわ。姉という存在は元々居なかったのだから」
「何を言って・・・」
「まぁ、まさか自分が自分を殺すなんて思ってもなかったでしょう。でも大丈夫よ、そのうち皆忘れてしまうから。あなたは、別人になってあの事件のきっかけに自殺したの。それは元に戻るための段階のひとつよ。そして、あなた自身の魂というべきものを妹に移した。だから、あなたは妹の顔をしているのに姉としての記憶がある。この点で、ご両親はかなり動揺しているわね。名前を呼んでもあなたは返事もしないんだもの。もちろん、これも準備が整うための必要な出来事」
「まさか、箱は、箱は返したわ!あの人にあげたもの!妹の体になったのよ、突然!意味がわからないわ!なんで、あなたが箱のことを知っているの?!」
「箱を私にあげるといっても所有者は変わらないのよ。だから7日後の今日、箱を開けた」
「え?私はあなたにあげてない。私はあの店の・・・」
「大丈夫よ、7日間耐えたのだから」
「苦痛を耐えたって何も変わってないじゃない!こんな、妹になって、私は死んで、あんな死に方・・・」
「望んだことでしょ?元のあなたに戻りたいって。今のあなたは死んだのよ、跡形もなくね。今日帰る家、間違えないでね」

窓に映った自分を見ると、それは、妹の顔ではなかった。

「嘘・・・」

8日目
「おはよう!」
「あ、おはよう」
「ねぇ、昨日のB組みの事件聞いた?!」
「・・・階段から踏み外して転んだってやつ?」
「もぉすっごい血だらけで、人間の形してなかったんだよー!マジ、気持ち悪かった」
「え?見たの・・・?」
「うん、見ちゃったんだよー。ほら、あの突然転向してきたあの子だよ」
「え?転向してきた子?」
「もぉ判別つかないってくらいひどかった!あれじゃぁ最悪だよ」
「ちょっとまって。転向してきた子が階段から落ちたの?」
「そうだよ。急に階段から飛び降りたって感じ。こけたとは思えなかったなぁ」
「・・・そっそうなんだ。今日、私モデルの仕事入ってるから、先に帰ってて」
「今や売れっ子のモデルだもんね。しっかし、人生わかんないものだよねぇ。別人になりたいなんて本探していたやつが、しっかりモデルやって自分の道歩いているんだから」
「本当、私はいい人生を送っていたのよね」
「何言ってんの?」

9日目
「ねぇ、あのB組みの死んだ子のニュース見た?」
「見た見た!」
「一家で心中だって?あれ、マジ?」
「とりあえず、家は全焼してたよ。俺んち、近いし」
「うっそぉ・・・」
「なんか、変な家族だって近所じゃ有名だったけどね」
「え?なんで?」
「おかしいんだよ。母親とか父親とか妹もいたはずなんだけど、実際に見たやつって居ないんだよ」
「なにそれ?どういうこと?」
「すっげーボロ屋だったんだよ、あの家。なのに一家四人で引っ越してきて、毎日あの家から一人であいつでてきてるのに、誰も居ない玄関に向かっていってきますとか言ってたしさ」
「うわぁ・・・なんか気持ちわるぅ~!!」
「大体、あの階段で死んだってやつも噂なんだろ?」
「まぁ、尾ひれついてるけど実際にあの子が死んだとかいうのは噂みたいだね」
「えぇー、でも見たっていってる人結構いるよー!」
「でも、警察も救急車も来なかったじゃん。普通、事件になるでしょぉ?そんな階段から落ちて形も判別できないほど潰れてたらさ」
「そうぉだけどぉ~」
「俺も、あの階段いたとおもうんだけど段々記憶が曖昧になってきて覚えてないんだよな。大体、あのB組みのやつがどんな顔だったとか言うのすらあやしくなってきた」
「存在しない子だったんじゃない、元々」
「なにそれ、本の読みすぎ!古本やめぐりもいい加減にしなさい!」
「えへへ、大丈夫だよ。もうすぐ、みんな忘れるから」

10日目
「どう?元に戻った感想は」
「あと一ヶ月の命しかないことを知りました」
「短い人生ね。でも、楽しんで。本来のあなたの人生を」
「だから、看板に書いてあるんですか?薬屋って」
「最適なものだけを、売る店だから」
「いくらですか?」
09:02  |  パンドラシリーズ  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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最後の日

2008.11.27 (Thu)

突然、訪れた死だった。
まさか、死ぬとは思っていなかった。
まぁ、もちろん誰しも今日この日のこの時間に死ぬなんて事がわかるはずがないのだが。
朝起きて、普通に会社に出社した。
昼になったので、弁当を買いに外に出た。
弁当を買って、横断歩道を渡っていたとき一瞬だった。
何かが体に当たった。
そのくらいの記憶しかない。

それが、僕が見た最後の記憶だ。

助けを呼ぶ声と、急停車した車から飛び降りる運転手。
惨状に叫ぶ声。
何もかもが、一瞬で目の前を走り回る。
救急車に乗った。
だが、誰も何も治療はしなかった。
事故現場にて、その場で死亡が確認されたのだ。
損傷がかなり激しく、それなのに直視しても平気だった。
何故だろうか。
どういったらいいのか。
現実感はある。
血の匂い。
鉄の匂い。
寒さ。
冷たさ。
何もかも。
わかっている。
理解だけしかしていないのだろう。

事故は、明らかな運転手側の原因で起きたものだった。
なので特に死因に関する解剖はすぐ済み、後は形成を整えるような手術をしてもらったようだ。
ずっと、側にいた。
家族に連絡はしたものの、実家は遠い。
結局、実家まで遺体を搬送する手続きを取り飛行機で移動した。
迎えた家族は、今まで自分と同じように現実感がなかったのだろう。
棺を見た途端、崩れるように座り込んだ。
涙なんか出ていない。
あまりに突飛な出来事が起きた時、人間感情はすっ飛んでしまうのだ。
それが、悲しみの場合に限ってだが。
怒りの場合は、爆発するという。
その言葉通り爆発した瞬間行動に移る。
それこそ、感情だけの動物になって瞬時にその怒りの矛先へ向けることが出来る。
だが、悲しみは別だ。
わからないのだ。

それでも、時間は過ぎていく。
周りの親戚たちらしき人々がてきぱきと動いている。
どうやら葬儀屋などへの連絡は終わっているようだ。
霊柩車ではない車に乗って葬儀場まで移動した。
瞬く間に作られたであろう祭壇には、生前の旅行に行ったときの写真が飾られてあった。
運びこまれる棺を見て、葬儀場で待っていた他の親族たちが続々と出てきた。
皆、一様に「嘘だ」「嘘だよね」
そういっている。
僕もそう思いたかった。

祭壇のまん前に立ったままただじっと見つめていた。
そして、考えた。
人生ってこんなにあっけないものなんだなと。
事故の瞬間。
走馬灯なんてものは見る時間なんて無かっただろうな。
スローモーションのように覚えているなんていうけれど、それも無い。
気がついたときには、時間は途切れて、生物としての機能は止まったのだから。

明日が通夜、明後日が葬式となった。
葬儀場には宿泊施設があり、そこで寝泊りすることになった。
喪服を持っていなかったが借りることが出来た。

こんな風に、人生は終わるのか。
儀式的に。
そう思うと現実感が沸いてきた。
そこでやっと、涙があふれ出た。
死んだという現実。
もう、生きていないという現実。
何もかもが、押し寄せてきた。

どうして。
なぜ。
なんで。

疑問符だけが押し寄せて、答えが見つからない。
答えてあげることも出来ない。
何もしてやれないのだ。
ただ、ただ、涙が出てきた。

「大丈夫か?」
「母さん一人になってしまうのが心配だよ」
「そうだね、こんな事が立て続けに起こるなんて思ってなかったな」
「僕は、父さんと母さんがやっと笑ってくれるようになったことが嬉しかった」
「辛かったよ。お前が死んだ時、まさか事故に会うなんて本当に考えても無かったから」
「僕は、何も出来なかった。父さんと一緒にいたのに。ずっと、守ってあげようと思っていたのに」
「大丈夫。お母さんのおなかに赤ちゃんがいる。お前が母さんを守ってくれ、父さんの分まで」
09:07  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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出窓

2008.11.26 (Wed)

小さな出窓を眺める。
小さなピクシーがそこには閉じ込められている。
このピクシー達は、ただひたすら歌い続けている。

彼らは、ピクシーの中でも最大の罪を犯した。
それなのに、その自覚がない。
姿かたちだけは、妖精といわれる部類に入る。
だから、自分達と変わらない。
同じ同属として、このような者が存在したその事実を無くすことは出来ない。

彼らは、同胞を殺した。
無残な姿で、引きちぎられた同胞の体を彼らは食べていた。
笑いながら。
引きちぎられた手が口からはみ出して。
手には目玉が握られ。
首はもぎ取られ転がっている。
腹の中身が引き出されて。
それを、口に運んで音をたてながら。
口を動かして、飲み込んでいた。
発見された時、彼らはこういった。
「ただ、食べているだけなのに」
出窓から見える顔は、いつもこちらの様子を伺って目が合わないようにカーテンの隙間から覗いている。時折、遠くから見える顔は、拗ねた顔をして、何故自分達がこのような扱いを受けるのかという無自覚が恐ろしかった。
その証拠に、楽しそうに歌い続けているのだ。
そして、出窓の近くを通った時に聞えるように彼らは言う。
「ただ、遊んでいただけなのに」
一人は笑いながら。
「遊んびなのに」
一人はむくれた声を出して。

このピクシーたちにとって、同胞を食べたのは遊びだったというのだ。
何が悪いのかと、出窓の近くに居るものに愚痴をこぼす。
睨みつければ彼らはからかっている子供のように笑ってカーテンの後ろに隠れる。
隙間から覗いてこちらの様子を見ている。
言い終われば、また歌いだす。
その繰り返しだ。

この事件は、最大の問題だ。
これが、人間に知れ渡ったら終わりだ。
我々ピクシーは、ただでさえいたずらをする妖精として思い込まれている。
そのいたずらは、大抵が小さなものだ。
そして、そのいたずらによって人間に幸福をもたらす存在としていたはずだった。
だが、段々と人間達は我々のような存在を疎ましく思ってきている。
単なるいたずら目的で楽しんでいるだけの邪魔者だと。
結果を見れば、ピクシーが動いたことはわかっていてもそれを当たり前だと思うようになったようだ。
動いて当たり前。
ピクシーが人間に尽くすのは当然の話だと。

 こんな時に、この事件だ。

ピクシーは、人間の一部の種族によってその存在が作られている。
魔法使いだ。
ほとんど、最近ではまともな魔法使いが居なくなった。
その魔法使いの魔法の力として、我々の命を使っている。
大抵が、我々の命を使用する魔法にろくなものはない。
ピクシーが持つ力を増強させ、元々持ついたずらをする心を利用した黒魔法。
その黒魔法使いが、あのピクシー達の存在を知ったら即座に魔法に転化してしまうだろう。

ピクシーが同胞を殺した時にだけ、そのピクシーを使って唱えることが出来る禁呪を使うために。
そのために、彼らを閉じ込めている。
あの出窓の部屋に。
人間に気付かれないように。

「さぁ、出してあげるよ」
「本当?!」
「あぁ、君達が出てきてくれるのをずっと待っていたんだ」
「嬉しい!やっと、この出窓の部屋から出られるんだね」
「さぁ、僕の手をつかんで。出ておいで」
「うん!行くよ!ここから出られるなら僕達を連れて行って!どこでもいいから!」
「うん。わかってるよ、ここが嫌いなんだね。連れて行ってあげるよ。どこでも」
「嬉しい!」

出窓に閉じ込められていたピクシー達は、出窓から飛び降りて死んでいた。
発見されすぐにピクシーの上役達が慌てて処理をした。
死んでしまえば、魔法使いに使用されることもない。
だが、彼らのようなピクシーが存在したという汚点だけは人間に知られてはいけない。
その手際のよさは凄かった。
僕が人間になれることを彼らは知らなかった。

ちょっとした、いたずら心だよ。
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世界の終わり

2008.11.25 (Tue)

映画の予告編など、よく見る。
世界の終わりが迫る!など。
私には、すでにこの世界は終わっているように思える。

私には、世界がない。
居場所もない。
どこにも求められる場所もない。

家を飛び出して、私は今駅前のベンチに座っている。
適当に荷物を詰めて、ただ、黒い空を眺めて。
目的は世界の終わりを見たいと思った。
馬鹿らしいって思う?
そうかな?
だってさ、この世界でまともな事ってあるの?
みんな、潰しあって生きている。
殺しあって。
生き残ろうと必死なの。
ちょっとしたことで、沢山のメディアはそれなりの立場の人間をすぐに潰すよね。
あることないこと、本当かどうか確かめるすべを持たない世界に住む人間に向かって自分の持っているう放送電波という力で潰すよね。
それが、まともで正常なことなの?
学校、私はもう行きたくないと思ったの。
理由はひとつ。
いじめなんかじゃない。
成績。
どんなに頑張っても、どんなにやったとしても、私は、私でしかなかった。
そして、そのことに一番自分が悔しかった。
なのに、友達はこういったのよ。
「やっぱ、ニートになるしかないんじゃない?」
笑いながらさ。
友達は、成績上位。常に。
友達ももちろん努力した結果だろう。
だからといって、友達という枠からの人から言われた言葉はこの一言だった。
冗談なのか。
本気なのか。
だが、冗談で言える一言だとは思えない。
私は、笑ってただその場に立っていることだけが精一杯だった。
友達にとって、私は怠け者で、やれるべきことをやってない人間として映っている。
その場で反論など無意味だというのも一瞬で理解できた。
反論したところで、友達の考えが変わるわけはない。
結果を見てか、現状を見て、そう思っているのだから。

次の日から、学校を休んだ。
勉強も未来も捨てた。
だから、私には世界がない。
世界ってひとつだと思う?
ひとつなら、私が世界が終わったと思ったら、終わってるわけだよね?
ってことは、ひとつじゃないわけだ。
それから、私はそんなことを考えてなら私の世界の終わりを見てみたいと思った。

そして今、私はこの駅前に居る。
ずっと座っていた。
ただ、じっと。
真っ暗闇のどんよりとした重い雲を抱えた空を。
今にも、冷たい白い雪が降ってきそうで。
少し前に買ったコーヒーがすでにぬるくなっていた。
蓋を開けたまま、一口も飲んでいない。

この話を、ベンチの端に座っていたおじいさんが聞いていた。
多分、おじいさんだと思う。
風貌からそう思った。
あと、ホームレスであることは見た目から判断できた。
おじいさんは、何も言わず聞いてた。
聞いて、時折、うなずいていた。
そうしたら、おじいさんはごそごそと沢山の荷物の中から、大事そうに新聞紙にくるまれたものを二人の座っているベンチの真ん中に置いた。

「それを、お前さんにやろう」

おじいさんは、そういったのでベンチの真ん中に居る新聞紙に包まれたものを受取った。
「開けていいの?」
そういったら、うなずいた。
持っていたコーヒーが邪魔だったので、さめてしまったしどうしようかと思った。
「さめちゃったけど、おじいさん、飲む?まだ、口つけてないから」
「ありがとう」
そういって、おじいさんはベンチの真ん中を指差した。
そこに置けということらしい。
コーヒーを置いて、包みを両手で持った。
開けてみたら、何重にも包まれた新聞紙が沢山あって中身が出てこない。
やっと、出てきたと思ったら小さなビー玉だった。
手にとって、月明かりに照らしてみると中には七色の線が螺旋を描いて変わった模様をしている。
「それは、世界の終わりを見ることが出来る飴玉だ」
「飴?」
「だが、私にはそれを舐める勇気がなかった。だから、こうして世の中からはみ出した生き方をしている。はみ出ているだけで一緒の世界に居ることに変わりはない。世捨て人などと蔑まれるが、世を捨てることなど出来ないんだよ。同じ場所で生きて、同じように息をしている。同じものを食べている。
何も、変わることはない。
ただ、生き方が違うだけだ。それは、自由に選べる。死ぬのも生きるのもな。
その飴玉は、もらい物だが世界の終わりを見る勇気が私にはなかった。
終わりということはきっと死ぬことを意味しているんだろうと思ったからだ。
私は、それを持っていても使うことはない。おまえさんにやろう。
あとは、おまえさん次第だ」

おじいさんは、そう言ったあとにコーヒーを手にとって飲んだ。

「おいしかった。ありがとう」
そして、沢山の荷物を抱えて暗闇に消えていった。

どうみても、ビー玉で、硝子で出来ている。
別に、手に持ってもべたべたしない。
何故、飴玉なんていったんだろう?
食べるの?
舐めたらどうかなるの?

世界の終わりが私に訪れるって事。
なら、願ったり叶ったりじゃないか。
しかし、そんな都合のいいことがあるのだろうか。

半信半疑で、私は飴玉を袖口で拭いて口に入れた。
飴玉を舐めるように。
すると、目の前が真っ暗になって足元に雲が見えた。
瞬く間に、自分の体が移動していることがわかる。
凄い速度で。

たどり着いたのは、世界の終わりだった。
思っていた世界の終わりじゃなかった。
だから、笑ってしまった。
「地球は丸いって言ってたけど嘘だったんだね。本当は端っこがあってこれ以上進めないんだ」
大きな壁に囲まれた自分たちの住む世界が見下ろせる場所に浮いていた。

「目が覚められましたか?」
看護婦が私を見ていた。
何故か病院のベッドの上にいた。
「あの・・・どうして・・・?」
「通行人の方が、ベンチで倒れていると救急車を呼んで運ばれたんですよ。特に問題はありません。体がかなり冷えていて少し熱が高いですが。にしても、何でビー玉を食べていたんですか?あぶないですから、やめてくださいね」
高校生にもなる人間がビー玉を食べていたことが面白かったらしい。
苦笑した顔で注意された。
「あ、ビー玉。ここに置いてますから。絶対、食べないでくださいよ」
「わかりました」

なんだ、夢だったのかと溜息をついた。
暗かったので、ベッドの上にある小さなライトをつけてビー玉が置かれているサイドテーブルを見た。
ビー玉は、貰った時より小さくなっていた。
09:04  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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ドアがある部屋

2008.11.24 (Mon)

目が覚めたとき、床の上に転がっていた。
六角形の部屋。
六つのドアがある。
重厚な雰囲気をかもし出した、アンティーク調の木のドア。
ドアノブの形もねじくれた形をした不思議なデザイン。
六つの蝋燭立てが壁にあり、大きな蝋燭が火を灯している。
そして、その蝋燭は一本だけ火が点いている。
火の点いた蝋燭と、点いていない蝋燭を比べると半分くらいの大きさだ。

そのくらいの時間、僕はここにいるということになる。

手には、手錠がかけられている。
だが、ある程度自由になるくらい手と手の間の鎖が長い。
足も同様に、両足に輪がかけられ間に鎖でつながっている。
首には、首輪がしてある。
少し、苦しい。

目を開けただけの状態で、この部屋と自分の状態を確認した。
上半身を起こしてあたりをもう一度見回した。
よく見ると、蝋燭立ての下に鍵が引っ掛けてある。
ひとつの蝋燭立てにひとつの鍵。

つまり、これは、その側にあるドアの鍵ということになる。

鍵を開けるのは自由だ。
鍵を開け、ドアの外に出るのも自由。
それは、自分で決めること。
そして、ドアの先に待っている結果だけはわかっている。
ただ、ドアを開けたあと何が起こってその結果にいたるのかというのが問題だ。

なんで、こんなところに転がっているのか。
その理由は、明確にわかっている。
時間が来たということだ。
いつ、どこで、という詳しい状況はわからない。
だが、いつかこうなるということはわかっていた。
それは、突然に起こった。

いつここに来たのか。
どうやって来たのか。

わからない。

時間の制限は、最大でこの蝋燭が消えるまでだろう。
喚起もない。
酸素がなくなる可能性のほうが高い。
否、確実になくなるようになっているだろう。

もしくは、なくならなかったとしても強制的に真っ暗闇の中またこの部屋に戻ってきているはずだ。

ドアを開けることで、それが、解決になるのかはわからない。
だが、それを望んでいる人間がいるということで僕自身はまったく望んでいない。
どちらかというと、このドアのどれかに自分が思っている結末とは違うものが待ち受けているほうがありがたいのだが、そんな希望は捨てたほうがいい。
持っていたら、期待はずれのショックは大きい。

この画期的なシステムのおかげで、僕たちは永遠の苦しみを味わうことになった。
苦しみを味わう姿を見るのは、天井が透明でありその透明な天井から複数の人間が僕を見ている。
時折聞える笑い声。
一体、僕にどうして欲しいのだろう。

このドアを開けたあとの事をしっているのだろうか?
どうなんだろう。
上の人間たちは、何が楽しいんだろうか。

人の不幸は蜜の味だっけ?
そんな言葉を最初に言ったやつは、相当性格が悪いやつだな。
だが、このシステムはそれを具現化したものだ。
ストレスを解消するために、作られた施設。

ドアを開けたあと、最大級の痛みや苦痛に屈辱が待っている。
そして、最後は死だ。
その、苦しんでいる姿。
その、最中の叫び声。
その、悲痛な顔。

それを見るために彼らは集まっている。

ドアには、ナンバーがあり、そのナンバーでどのような苦痛が待っているか僕は知っている。
僕は、何度もこのドアを開けた。
僕は、何度もこのドアの向こうで死んだ。

そして、何度も僕は生き返る。

1から6まであるナンバー。
今回は、何番にしようか。

彼らのストレス発散のために作られたクローンである僕は、同じ人間のクローンで、記憶も移植されきちんと製造されている。
時折、欠陥品が生まれる。
そういう時、このような場所に売り飛ばされる。
そして、最後の記憶まで僕は僕のあとに作られた僕に伝えるために記憶を送信し続ける。
サーバーにたまって行く僕の記憶は、痛みや悲しみなど感情をどのようにシステム化するかということの分野で活躍していて、それはとても名誉なことだといわれている。
なら、お前が体験しろと言いたかった。

だから、僕は今、天井から下を見ている。
僕を作った人間の記憶を、僕の体に移植して僕だと思い込んでいる仲間たちから笑われている姿を。
僕と僕を作った人間は入れ替わった。
もちろん、誰も気付いていない。

さぁ、名誉な体験の始まりだ。
もう蝋燭は、あと一本しかない。
早くドアを開けろよ。
その後が見たいんだ、君が僕を見て笑っていた姿が忘れられないんだよ。
09:26  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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パンドラの箱 幸せの味

2008.11.23 (Sun)

「この箱を差し上げるわ。この箱は、あのパンドラの箱」
「パンドラの箱?」
「そう、7日間の苦しみに耐えればあなたの望む幸せが手に入る」
「7日間も?!」
「幸せを手に入れるための代償だと思えば楽なものよ」
「幸せが手に入ると確実なものなの?」
「そうよ、あなたの望む本当の幸せは受け取った7日後に箱を開けると訪れるわ」
「わかった。頂くわ」
「もし、7日間過ぎていないのに箱を開けた場合は契約が無効になる」
「うん」

一日目
学校へ行くと、今までがうそのような現状が起きた。
「おはよー!今日、自習だってよ。一時間目、超ラッキーじゃん」
「え…、あ、そっそう」
「何?どうしたのぉ?あのエロおやじの授業なんて最低じゃん!消えろってね」
「…そっそうだね」
クラスメイトどころか、学年の全員から無視されていた私。
何故、この女が話しかけてきたのか。
この女だけではない。
他の人間も、普通に話しかけてくる。笑顔で。
今までに私は経験したことのない現象だった。
どうやって他人と話したらいいのか戸惑ったが、無視されているときはそれが当たり前だと感じていた。
しかし、昼ごはんを食べるとき一緒に食べようと誘われ一緒に話しながら食べた。
それが、何よりうれしいと思った。
幸せだった。
こんな幸せってあったのかと。
驚いた。
ただ、一時間目にあった授業の先生は私の恋人である。
恋人という表現が正しいかどうかわからない。
そういう関係だけと割り切ったような大人の付き合いといえばいいのだろうか。
引き換えか、それとも私をつなぎとめておくためかお金をもらっている。
私は、愛情があれば、いやなかったとしても自分を見てくれるその存在がうれしいと思っていた。

二日目
昨日の一時間目の授業を行うはずだった先生は、自宅で自殺していた。
私は、その連絡を学校の放送で朝一番に聞いた。
涙が流れた。
そして、その放送が終わった後みなが私を見ていた。
そうか、もしかしたらみんなにばれてしまったのだろうか。
昨日は夢のような一日を過ごした。
そう、それこそまともな学園生活というものだ。
夢は夢なんだとそう思った。
「君、指導室へ行きなさい。先生たちと少し話をしよう。聞きたいことがある」
自殺していた先生の話をどう話すべきか。
それだけが、頭にあった。
自分はどうなっても、自分はいつも一人だったのだから。
失ったことはとても悲しいと感じている。
でも、彼には家族がある。
その家族を奪ってまで私は彼を独占したいとは思わない。
だから、彼をかばう言葉を捜していた。嘘でいいから。
生徒指導質に入った瞬間、物々しい先生方の険しい顔。
そして、見慣れない大人の女がいた。
「先生の遺書に、書いてあった。全部」
「え?」
校長先生の言った一言が私をどん底に突き落とした。
先生自身が、告白したというのか?
「あなたは、先生に共用されて性的虐待を受けていたのね。断れない性格、大人しいというあなたの気持ちを利用していた。もちろん、極秘に対応いたします。私は、児童保護センターのカウンセラーです。まず、あなたの体調の検査を行いたいので病院へ行きましょう。」
「あの…」
「なんですか?」
「先生の遺書には、なんと書いてあったのですか?」
「詳しくはお伝えできません。ただ、あなたに謝罪の言葉がありました。性的な関係を強要してしまったことについての…」
「そっそれは!」
「え?!」
突然の大声に室内の全員が驚いた。
「それは、誤解です。先生は、自分をかばったんです。その、自殺した原因は他にあると思います。私の事ではないと思います。その、私は先生のことが好きでした。でも、先生に家族があるのはわかっています。だから、その点は理解しています。割り切った関係でと…」
「これ以上は、カウンセラー室で聞きましょう。あなたは、精神的にもコントロールされているようですね。その気持ちは、嘘です。それを、ちゃんと理解しましょう」
「嘘じゃ…!」
校長先生が立ち上がり、窓際に行ってため息をついた後口を開いた。
「では、この先生との関係は認めるんだね?」
しまった。
「・・・・。」
「話は終わりだ。まず、カウンセラーの先生に従いなさい。」
教室に戻った私を待っていたのは、クラスメイトの涙をためた目だ。
どうしたというのだろう?
目線の対応に戸惑い、立ち尽くしていた。
すると突然、一人の女が飛びついてきた。
そして、そのまま泣き出した。
「聞いた。噂で聞いてたけど、まさか先生に。あの親父に…」
そういった後、声を詰まらせまさに嗚咽を漏らすという言葉が似合う泣き方だった。
私の一件がバレたことで、批判の眼を浴びるだろうという予測は外れた。
一体、何が彼らの気持ちをここまで変化させたのあろう。
あれだけ、無視しておいた人間たちが。
急に、私への対応は哀れみと親しみだった。
正直にいうと、気持ち悪いという思いと嬉しいという気持ちがまざっていて理解ができなかった。

三日目
カウンセラーの先生のところへ行けというのが学校からの指示だった。
カウンセラーの対応は、信じられないほど自分をいたわる対応だった。
かわいそうな子供。
性的虐待を受けた子供。
その、対応をしてくれる女医さん顔はまさに微笑みはとてもやさしいもの。
そうね、聖母マリアとでもいうような笑み。
そのやさしさは、母親のいない私には嬉しかった。
優しい手で触れてくれる。
優しい声で私の声を聞いてくれる。
その日、一緒に夕食を共にした。
外食を他人と食べたのは、人生で初めてだった。
幸せって、こんなことなのかな。
そう思った。
そして、しばらく学校は保健室登校になった。

四日目
保健室登校になったとはいえ、クラスメイトはちょくちょく顔を出して話に来てくれる。
自分への気を使ってくれる。
優しく。
笑って。
今までが嘘のような。
私も、段々とみんなとの会話が楽しいと感じてきた。
そして、会話も弾むようになってすごく幸せかもしれないと思った。
その兆候は、カウンセラーの先生もいいことだと言われた。
問題は、後、ひとつ。

五日目
問題のひとつである父親の存在だった。
父親の虐待は、小さな頃からあったものだ。
だから、これも日常と化していたため苦痛とは思っていなかった。
最初は、殴ったり蹴ったり。
暴力的な攻撃。
次は、タバコとかお酒を飲まされた。
ある時、髪を下ろした自分を見た父親は真後ろに自分を引き倒して上に乗っかった。
それは、小学生のときだったと思う。
それが、続いていたが先生との関係がばれた時はどうなるかと焦ったが鼻で笑ってもらっていたお金を渡しなさいということだけでそれ以外の攻撃はなかった。
だが、父との関係もどうして先生にまでわかってしまったのかが謎だった。
誰も、誰も知らないはずだった。
聞いてみた。
答えてくれるかどうかは賭けだったが。
そうしたら、噂だったけれどというクラスメイトの相談があたっという。
そしてそれに、ものみごとに私は引っかかってしまった。
自分で自白してしまったのだ。
大きなため息をついた。
家に帰ったら、どんな仕打ちが待っているんだろうかとそれだけが気がかりだった。
しばらく、ご無沙汰だった暴力は復活するのだろうというのは容易に考え付くことだった。

六日目
家に帰ったら父親が私を抱きしめて泣き出した。
おまえに母親を重ねていたと。
小さな頃のお前に暴力をしてすまないと。
仕事に子育て。若かった自分はどうしてもその両立が大変だった。
金を渡せといったのは、その金を相手の男につき返して関係を経たせるためだった。
どうしても、お前を人とに渡したくなかった。
それが、奪われてから気付いた。
だが、今更どうしたらそれを償えるのかわからない。
だけど、離れたない。一人にしないでくれ。
そう、懇願さた。
父親らしい言葉をはじめて聞いた。
父親らしい抱擁をはじめてしてもらった。
私の、大好きなお父さんが今目の前に出てきた。
自然に涙が出てきた。
そして、自然に手が動いてお父さんの背中に触れた。
幸せってこれなんだ。
そうだったんだ。
箱のおかげだろう。
明日が楽しみだ。

七日目
今日が苦しみの最後の日。
考えてみれば、おかしな七日間だった。
苦痛を引き換えにして、幸せを手に入れるはずだ。
だが、私にとってそれはすでに幸せだった。
苦痛ではない。
一体、何が苦痛だったのだろう。
わからない。
学校へ行こうとしたら、お父さんが今日は休んでほしいといってきた。
だから、わかったといった。
初めて、デリバリーでピザを取った。
好きなだけ、好きなものを頼んでいいということだった。
おどろいたけれど、お父さんの笑みが嬉しくて一緒に頼んだ。
どれにする?これにする?
笑いながら、そして、笑った私の顔を見ながら頭を撫でてくれて。
嬉しいと本当に思った。
沢山のご馳走を目の前に一緒にご飯を食べた。
食べ終わったら眠くなって横になって寝ていた。
ふと、目を覚ますと自分を抱きしめてお父さんが寝ていた。
起こさないようにゆっくりとかばんに手を伸ばして箱を取り出した。
そう、7日目が終わった。
私の幸せは、これからもっと素敵な時間が待っている。

箱を開けた。
そこには、綺麗な丸いクリスマスツリーに飾るオーナメントのような丸い形をしたものがあった。
取り出そうとした瞬間、全てが飛び出して目の前で弾けとんだ。
「うわっ」
避けようとして、飛び起きた。
なんだったんだろう?
これで、終わり?
箱には何も残ってない。
あの、綺麗な丸いものが飛び出して目の前で弾けとんだだけ。
キラキラとそのカケラが中を浮いている。
綺麗なそのカケラを見つめていた。
すごく綺麗で。
幸せがこれからもっと大きくなっていく。
あまりに綺麗だから、横で起き上がったお父さんに微笑んだ。
「綺麗だね」
そういったら、お父さんはにっこりと笑った。
すごく、優しそうな目で。
でも、なんか悲しそうな顔をして。
そして、すぐに首に両手が絡み付いてきた。
少しずつ力がこもって、泣きながらお父さんが私の首を絞めて。
どうして?
なんで?
その言葉がでない。
涙だけが出てきた。
体が動かない。
どうして?
幸せが待っているはず。
そう、願いがかなうって。

「自殺したかったんだろう?それを、お父さんが叶えてあげる。できることはこれだけだ。お前の望みを叶えてやる。」

それは、7日目前の望みだった。
今はもう違う。
ふたを閉じて無効にしたい。
でも、手が動かない。

幸せを味わって死ぬというのが苦痛だったんだ。
本当に、これ以上の苦痛はない。

これが私の望んだ幸せの形なの?
死ぬことが私の望みだった。

愛されて死にたいと。

それが、望みだった。
でも、愛を知ったら死にたくないって。
愛されるという意味を知らなかった。
こんなにも、自分が笑えることを知らなかった。
幸せは、もう、手に入っていたんだ。
それなのに、私は蓋を開けた。

この幸せは愛されて死ぬための用意された偽物?
だとしたら、悲しすぎる。
愛されて死ぬことが、こんなに悲しいことだったなんて。
こんな苦痛を最後に味わうのね。
でも、これが私の望みだった。
09:12  |  パンドラシリーズ  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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覚えてる?

2008.11.22 (Sat)

「ごめん、突然電話して」
友達から急に電話がかかってきた。
「ん?どうした?」
「あのさ、この前オススメだよって教えた曲あったじゃん?」
「あぁ、聞いたよ。いい歌だったね」
「タイトルなんだっけ?」
「なにそれ、自分で教えたのに忘れちゃったの?」
「なんか、ど忘れしちゃって全然思い出せなくてさ。すっげー苛々してんの。で、電話したの」
「あっはっは、えーと・・・」
「なんだっけ?」
「えーと・・・あら、なんだったっけ?」
「うっそ?!覚えてない?!」
「あれ、思い出せないや」
確かに、曲を聴いてみてくれといわれた気がする。
で、聞いたはず。
なんだったかな。
いい曲だった気がするだけ?
あれ?もしかして、本当は聞いてない?
「うっそぉー!あーん!めっちゃ気になるのにぃ!」
「ごめん、ごめん。私も、忘れちゃったみたい」
「あ、そういえば電話来た?唯子から」
「唯子?」
「うん、今度、またライブするって。着々とデビューに向かって頑張ってるよねぇ~」
「知り合い?」
「は?唯子だよ?」
「え?知らないけど」
「んもぉー、まったそんなこといって。曲名忘れたのはもういいから。」
「いや・・あの・・」
「そうそう、それとね。同窓会があるって聞いたの。で、結婚した人とか名前変わってたり住所もわかんないから、一斉に集めるって話らしいのよ。結婚したことみんなに言ってないんでしょ?だから、連絡を委員長にしておいてね」
「委員長?」
「うん、委員長」
「誰?」
「さっきからしつこいぞぉ!もぉ!真面目な話なんだから。あ、私、委員長に電話かける用事があったんだ。ついでだから、伝えておくよ。えーっと、苗字なんになったんだっけ?」
「え?私?」
「うん、もう婚姻届けだして新居のほうにいるんでしょ?だから、そっちの住所に同窓会の案内状送るように伝えておくから」
「苗字、なんて名前に変わったんだっけ?」
「・・・・え?」

私は、結婚した?
私は、新居にいる?

ベランダに向かって外を見てみる。
見知らぬ街が広がっている。

「もしもし?聞いてる?ねぇ?聞えてる?」

立っている場所を見渡す。
段ボール箱が沢山ある。
今まで座っていたソファー。
何故、私はこんなところにいるんだろう。

「ちょっと、電波おかしいの?ねぇ?聞えてるの?」

あれ、私は・・・。

「もぉ!聞いてる?!寧々?もしもーし?寧々ー?」

寧々?

私の名前、そういえば、私の名前は・・・?
私は、誰なの?
どうして、ここにいるの?

私は、誰?

玄関が開く音がした。
部屋の真ん中で突っ立っていた。
スーツを着た男が靴を脱いで部屋に上がってくる。

「起きた?僕のお人形さん」
そういって、私を抱きしめて頬にキスをした。

「ちゃんと、飲んでくれたんだね、薬。これで、もう余計な記憶は無くなった。新しい記憶を僕と一緒に作っていこうね。もう、逃げ出したりしちゃダメだよ」

私の足は、長い鎖でつながれていた。
09:53  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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宅配ボックス

2008.11.21 (Fri)

生まれて3ヶ月目の初めての子供をつれて買い物に行った。
ベビーカーを押しながら、買い物の戦利品を抱えてかなりの重力を感じつつ
ポストを見た。
すると、宅配ボックスにランプがついていた。
宅配ボックスとは、マンションについているロッカーみたいなもので
宅急便などが届いてもその中に入れておく。というシステムである。
マンションの号数を指定して、ロッカーへ入れる。
閉めるとロックがかかり、あけるにはその号数の住人が指定したパスワードが必要という便利なシステムだ。
ランプがついているということは、宅配ボックスも見てね何か届いてますよ。
というサインである。
宅配ボックスへ移動し、見てみると確かにあった。
406と表示してある。
私の家の号数だ。
パスワードを入力した。
「ERROR」
と、表示される。
おかしい?
あれ?まちがった?
もう一度、号数が表示してある小さな電光掲示板を見るとやはり406だ。
ゆっくりと、パスワードを押すと開いた。
どうやら押し間違っていたらしい。
ロックが解除された音がする。
扉を開けると、そこにはでかい段ボール箱がたたずんでいた。
大きな荷物の戦利品と、ベビーカーを押している状態でこれをもって帰れと?
開けた事を、少々後悔した。
あけた理由はひとつ、自分が注文していた通販のおしゃぶりが届いた!という喜びからだったのだ。
つまり、今その喜びは明らかに違うものだったというショックからと、どこをどうみても重い中身というのがわかったためである。
箱には、彩と書いてある。
そして、みかんの絵。
親戚が、みかんを送ってくるとは言っていたけれど。
二人と赤子を含めても、こんなにみかんをもらってもなぁというより今持ち帰りたくない。という気持ちのほうが大きかった。
だが、宅配ボックスは一旦開錠してしまったら閉めなおすことは出来ない。
もって帰るしかないのだ。
沢山の戦利品と、ベビーカーon the 息子+みかん5キロ
重いにもほどがある。
エレベーターに乗ろうかとしたとき、後ろからなんだか妙な動きをする男がいた。
気持ち悪いなと一瞬悪寒が走る。
エレベーター一緒に乗りたくない。
ひたすらそう願った。
エレベーターがついた途端、男がこちらへ向かってきた。
慌てたいが、慌てられない。
何かされそうとか、そういう雰囲気かもし出している。
エレベーターを通り過ぎた。
速攻で、ドアを閉めたあと4のボタンを押した。
怖かった・・・。

家について、戦利品を床に置いた後子供を抱っこして布団に寝かせた。
ベビーカーをたたみ、戦利品を冷蔵庫へ落ち着かせる。
そして、最後に開けた事を後悔したみかんの箱を持ち上げてこたつの上にのせた。
あれ?発送地が埼玉になっている。
親戚は、愛媛のみかんを送るといっていたはずだが。
三島律子と書いてある。
三島?そんな名前はしらない。
あれ?でももしかして、りっちゃん?
親戚に、律子という名に覚えはあった。
結婚したのかな?
だから、名前変わった?
でも、なんでりっちゃんが?
よく見ると、宛先名に三島律子と書いてある。
そう、差出人ではない。
差出人は、宅配サービスセンターと書いてある。
私の名前ではない。
しかし、宅配ボックスはうちの号数だ。
どういうこと?
しばらく考えた。
届け間違いであるのは確かだろうけれど、宅配ボックスには届け先の号数を押す。
そして、この番号で間違いは無いか?というのを2度確認する。
それなのに、間違うはずが無いだろう。
なら、一体なぜうちに三島律子宛のものが?
前の住人?
住所を見た。
住所は2行に分かれて書いてあった。
一行目の一番最後に不自然なまでの1という数字が最後。
二行目には406号だけ。
そう、つまり、1406号室へのお届け物だったのだ。
妙な改行するなよ!
重たい荷物を、こんな時にという時に見つけて必死に運んできたのに!
送られてくるはずの、みかんだったし。
当然、宅配ボックスで間違いが起こるなんて思っても無かったし。
なんにしろ、我が家宛に間違って宅配業者は宅配ボックスに入れたわけだから私があけないと本来のお届け先1406号室の三島律子さんには届かないわけだ。
どうしようかと思ったが、同じマンション内だし。
開けてないから良かったものだ。
夜、旦那が帰宅してからみかんを届けに行こうと重い腰を上げて重たいみかんを持って部屋を出た。
エレベーターで14を押して上がる。
14階に着き6号室は、右側だった。
玄関の前に立ち、インターフォンを押した。
「はい」
女性の声が聞える。
「あの、宅配ボックスに入ってたんですが、どうも号数間違って入ってたみたいでこちらのお宅宛のようでしたので届けに着ました」
「え?」
がちゃんとインターフォンを着る音が聞える。
玄関まで走ってくる音。
玄関が勢いよく開く。
「あの、このみかん…」
と、差し出した瞬間でてきた三島律子は箱を取り上げて玄関にしゃがみこみ箱を開けた。
あまりのことに呆然とその様子を見ていた。
「あぁ、嘘!嘘!届いた。届いた」
そんなに、珍しいみかんだったのかな。
立ち去るに、去りにくい。
「あの・・・、ではこれで・・・」
聞えるか聞えないかの声で言った。
「ちょっとまって!」
その、凄い声に背中に何かが刺さったかと思うほど寒気を感じた。
「あなた、中、みたの?」
「え?いえ、見てませんけど・・・」
「だって、あなたみかんっていったじゃない!」
「え、だって、箱にみかんの絵が描いてあるから」
三島律子は、箱を見る。
「あぁ、そう。じゃぁ、見てないのね?」
「え、はい・・・。あけてません」
つかまれた腕がちぎれるかというほど、力をこめて握られている。
恐ろしい。
だが、三島律子の顔はどちらかというと怯えている。
「これ、届いたこと。誰にも言わないで」
「は、はぁ・・・」
「誰にも言わないでよ!間違ってあなたのところにいったなんて誰にも言わないで!」
「わかりました」
あまりのことに、こちらの返事もハキハキと答えた。
早く手を離して欲しい。
その、気持ちが動作に現れて手を解こうとするが余計に力がこもる。
「誰にも言いませんから!」
あまりの恐怖に、こっちが叫ぶと三島律子はびくっと体を震わせ手を離した。
「ごっごめんなさい。届けていただいたのに。ありがとうございました」
逃げるように三島律子は玄関のドアを閉めた。
私も、逃げるようにエレベーターに向かった。
一階にいるエレベーターが憎い。
早く来い!!
なんと長く感じる時間だろうか。
何度も、三島律子がまたあの凄い形相で出てきやしないかと玄関をちらちら振り返った。
やっとの思いで到着のエレベーター。
飛び乗って、速攻で閉まるボタンを連打する。
連打しても意味は無いのがわかっているが、閉まって欲しいのだ。
4階を押して、エレベーターが動き出す。
少し動揺が収まる。
だが、一刻もはやく家に入りたい。その一心だった。
エレベーターが止まり、飛び降りる。
玄関まで、猛ダッシュ。
といっても、大また3歩の距離。
玄関を開けて飛び込んで鍵を閉める。
「どうしたの?」
背中を向けたままの旦那が話しかけてきた。
「ちょっと後悔した。届けるんじゃなかった。よく考えたら、配送会社のミスなんだからそっちに連絡すればよかった。どんな人が住んでるかなんてわからないんだし、危ないよね」
そういったあと、靴を脱いで部屋に上がった。
「何それ?!どうしたの?!」
振り返った旦那が、血相変えて自分に飛びついてきた。
「何?!何?!」
おなかの辺りに、どす黒い赤い液体が付いていた。
みかん箱の大きさの形をしている。
抱えていたみかん箱が重かったので、一回だけよっと持ち上げて揺らした。
その時、みかん?と違和感を感じたのを思い出した。
二人とも、考えがまとまらず私のおなかの辺りを見つめていた。
突然、インターフォンが鳴る。
二人とも、肩を震わせるほど驚いた。
足が動かずにそのままでいると、玄関のドアをドンドンと叩き始めた。
「開けて!開けなさいよ!なんで!なんで、箱を揺らしたのよ!なんで!!どうして!」
三島律子の声が響いた。
09:09  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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玉手箱

2008.11.20 (Thu)

帰宅すると、宅急便が届いているぞという置きメモがあった。
差出人蘭を見た。
もの見事に空欄である。
誰だよ。
送ってもらうような、通販をした覚えは無い。
品名を見る。
ワレモノという文字の上に、沢山の輪が囲んでいる。
よっぽど割れやすい物なのだろう。
品名は、玉手箱。
いや、送られても困るし。
玄関の前でじっとたっていると不審な目で近所の人間から見られていることに気付き鍵を開けて中に入った。
時刻は、20時を回っている。
宅配便のここに電話してくださいという番号へかけてみた。
「あの、すみません。宅急便届いてたみたいなんですが」
「あ、ハイハイ。えーっと、その紙に書いてあるNoをいっていただけますか?」
「759485768です」
「あ、ハイ。今からでも伺うことが出来ますがいかがいたしますか?」
「今から来てもらえるんですか?」
「近くにいますんで」
「じゃぁ、お願いします」
しばらくして、宅急便は無事届いた。
はやり、玉手箱と品物名には書いてある。
そして、差出人はやはり真っ白。
段ボール箱に入ったその包みを開けた。
きっちりと、クッション材に包まれた明らかに重箱のような黒い和風の紐で結ばれた箱がある。
クッション材を取り除き、箱を取り出した。
箱以外、何も入っていない。
玉手箱。
大体、浦島太郎じゃない。
俺は。
まして、亀も助けてない。
それよりも、竜宮城へさえいってもいない。
それなのに、この箱を空けたらじーさんになるってか?
いや、ありえないだろう!!
不条理すぎるだろう!
女も囲って、ハーレム楽しんでないし!何もやってない!
いや、そういう問題じゃない!
大体、玉手箱なんてあるはず無い!!
だが、はっきり言って気味が悪いという品物である事は変わりない。
どうしたらいいのだろう?
捨てるか?
いや、気になる。
気になるが・・・
開けたらどうなる?
どうしよう?
じーさんになったら、今日誕生日で23になったばかりというのに速攻でじじいかよ。
箱を横に置いて、コンビニから買ってきた弁当を食べた。
横目に見ながら、買ってきた弁当の味がわからなくなるほど考え込んでしまった。
馬鹿らしいという考えと、本物だったらどうしようという考えが音を立てているかのごとく頭を駆け巡る。あまりの速さで駆け巡るため、整理がつかない。
興味という言葉も加わってしまった。

意を決して、開ける事にした。
そう。
本物なわけがない。
そうだよ。
竜宮城に宅急便やが引き取りにいけるのか?
乙姫が地上に出てきてコンビニから発送でもしたか?
ありえないだろう!
・・・・・。

紐をほどく。
つばを飲み込む。
ゆっくりと、重い縦長の黒い箱の蓋を持ち上げる。
少しずつ。
ちょっと、抵抗があったので力を入れたらすっぽんと抜けるように開いた。
げ!
最悪の事態が目の前に起こった。
もくもくと白い煙。
どんどん部屋中が真っ白になる。
蓋を落とした。
「まじ・・かよ・・・」
だんだん、気分が悪くなってきた。
そのまま横になる。
このまま、じーさんになるのか。
なんで、俺なんだ?
もしかして、届け間違い?
あ、亀、助けたとか?
いやいや、亀なんて。
亀?
・・・・、そういや、亀の置物なら拾った。
先日、亀の置物があって。
道端に。
ぽつんと。
手のひらに乗るほどの。
気になって、拾った。
それ?
でも、竜宮城は?
綺麗な姉ちゃんに、もてなしとかないけど。
そこが、抜けてない?
そこで遊びまくった、浦島の太郎さんは過ぎた時間を取り戻したらじーさんだったんだろ?
遊んでないよ?
それなのに、時間だけ吸い取るつもりか?
白い煙リがだんだん薄くなってきた。
体がだるい。
本気でじーさんになったっぽい。
どうしよう、会社。
誕生日にこれ?!
こんな、こんなじーさんになるようなことしたか俺。
重たい体を引きずって起き上がった。
箱の底に紙が一枚あった。

誕生日 おめでとう。
まじで玉手箱って思った?(笑)
これ、ドライアイスだから。
凄い量つっこんでるから、はやく窓開けて換気しなよ。
二酸化炭素中毒になるから(笑)
妹より

だるい体を引きずって窓を開けた。
あけた途端、笑った。
大笑いした。
俺って、何真面目に考えてるんだか・・・。
玄関の開く音がした。
かぎ閉めるの忘れた。
そうか、そういえばこれ冷蔵で送られてきていた。
その時点で気付けって話だよな。
妹がからかいに来たのだろう。
あまりのことに、怒る気力も失せて本気であせったことを報告してやろう。

「あれ?おじーちゃん、なんでお兄ちゃんの部屋に来てるの?」
09:53  |  パンドラシリーズ  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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ポイントカード

2008.11.19 (Wed)

「今なら無料で作れますが」
「あ、なら、お願いします」
何の気なしに作ったポイントカード。
あふれるほど、カードが沢山ある。
その中で、作ったはいいものの一度も使用しないこともある。
なので、時折財布の中を整理してはカードを抜き取っていた。
捨てるために。

見覚えのあるこのカードを見たとき、何の店か思い出せなかった。
カードを作った時のレジでのやり取りは覚えている。
でも、何を買ったのか。
それが、思い出せなかった。
店構えもなんとなく覚えている。
何屋だったのか。
店の名前は、チェンジ・ザ・ワールド。
名前から連想される店など思い当たらない。
あても無く入った店でカードなんか作ったのか?
いや、カードを作るということはもう一度はいくつもりだったということだ。
それも、ポイント数もかなりある。
カードの裏面を見たところこのポイントは使用可能にまで達している。
しかし、思い出せない。
何故、思い出せないのか。
何故、気になったかというと。
買ったであろう商品名がカードに書いてあったからだ。
みゆき 15000pt
みゆきって何だよ。
それしか、言葉が浮かばなかった。
ネットで店の場所を探した。
確かに近所だった。
いける範囲内。
時間は、午後20時を回ったところ。
24時間営業らしい。
気になったので上着を着て、財布を持って出かけた。
「いらっしゃいませ。あぁ、今日もですか?」
「え?今日もって?」
「あ、そうでしたね。いえ、こちらの勘違いです。カード、お持ちですよね?」
「はい」
「お預かりいたします。では、本日はこちらのプランがございます」
目の前に、メニュー表のようなものが出てきた。
「えっと、・・・これは」
「現在、お客様はみゆきですのでこのプランを使用中です。ただ、みゆきの場合は少々安いためバグが残ってまして店を利用したことを忘れるという現象があるんですよ」
「はぁ・・・」
「みゆきはいかがでしたか?」
「いかがっていっても、みゆきって・・・」
「あ、そうでしたね。そのバグもありました」
何を言ってるんだこの店員は・・・。
「とりあえず、選んでいただけますか?二回目ですので半額になります」
「はぁ・・・」
メニュー表には、名前しか載っていない。
みゆき 1500円
あやこ 2000円
さくら 3500円
あいら 4000円
みすず 5500円
まったく、意味不明だ。
「あの、選ばないといけないんですか?」
「現在、みゆきを選ばれていますからね。この店に来たということは、期限が切れかけているという証拠なので。選んだほうがいいですよ」
「この名前から選んだらどうなるんですか?」
「それは、選べばわかりますよ。大丈夫です。あなたに損はぜったいありませんから」
「え、でも、意味がわからないのにお金払いたくないんですが」
「なら、今回はみゆきで終了ということで本当によろしいですか?」
「あ、えぇ。それが、できるなら」
「このポイントカードは、使用可能にしておきます。いつでもいらしてください」
「はぁ、どうも」
「では、みゆきをフォーマットしますのでしばらくお待ちください」
ピン!
音が鳴った。
「はい、フォーマットしました。いかがでした?みゆきは」
「・・・・」
「あぁ、バグのせいでちょっと混乱してます?良かったら椅子に座ってください。コーヒーでもお持ちしますから」
側にあったテーブルと椅子。
その椅子に座る。
目線の先に、テレビがあった。

「現在、この犯人は逃走中とのことですが」
「そうですね、奥さんを殺害後顔を変えて逃走しているという情報が入ってきています」
「顔をですか?」
「えぇ、最近のフェイスチェンジは楽に出来ますからね。警察も手をこまねいている状態です」
「違法性は無いのでしょうか?」
「違法というわけではありません。ですが、無許可で運営している店がありその店での使用まで取り締まるとなるとかなりの人数を投入しなければならない。このフェイスチェンジを承認した時点ですでに問題視されていたことです」
「無許可で運営している店では、その架空の人間の人生を送ることが出来るとありますが」
「いえ、架空ではないのです。実在している人間に成り代わって生活をするという手段が最近出始めてきています。ですが、これはかなり危険なのであまり流行はしないでしょう」
「危険とは?」
「一種の記憶障害とでもいいましょうか。忘れてしまうんです。自分が誰なのかとういことを」
「では、一度使用すると元に戻れない可能性があると?」
「そうです」
「これが、犯人の本来の顔です。この顔を見た方は画面下の番号までご連絡ください」

店員がコーヒーを持って現れた。
「どうぞ、熱いうちに」
「ありがとう」
「どうです?落ち着きました?」
「思い出しました・・・」
「そうですか。よかったですね。」
「違法なフェイスチェンジしてたことあなたは気付いてなかった。こんな店にくるなんて思ってなかったんでしょう?」
「え?」
「あなたが殺したのは別人、私じゃないわ」
09:35  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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パンドラの箱 幸せの定義

2008.11.18 (Tue)

7日間の苦しみを耐えた後、その箱を開けるとあなたの望みは全て叶う。
それが、このパンドラの箱。
もらったその日、私は幸せをつかむためならば耐えられると思った。
これ以上ひどい人生なんてないと、本気で思っていた。
それが、幸せの代償だとしても。
幸せを手に入れられるならと。

1日目の朝
学校へ行く途中電車に乗る。
ホームでいつも同じ時間に乗る親友が珍しく遅れてきた。
「おはよー!ぎりぎりじゃん!」
「まじあせったよー!」
その言葉を聞いて、親友の背中を私は普通につっこみを入れる程度の叩いた。
突然、親友はそのまま目の前でぐらっと倒れていく。
ホームへ落ちて。
スローモーションのように。
手を伸ばそうとした時、目の前で跳ねられた。
特急の列車にはねられた。
私は、親友の血を全身に浴びて手には親友の腕だけが残っていた。

2日目
警察などからの事情聴取など終えた後、自分が突き落としたのではないかという疑惑が浮上した。
お葬式に行った際、あれだけやさしかった叔母さんが鬼のような形相で出てきて私をぶったたいた。
「この人殺しが!」
違う!違う!そう、心で叫んでも、誰も側にはいなかった。
お葬式にも出られず、その場から帰ろうとした時、後ろから自分を尾行していた警察官が遠くから話しかけてきた。
振り返ったら、誰もいなかった。
おかしいなと思って、曲がった角を戻ってみるとそこには小さなナイフで刺されて倒れている警察官がいた。
「ナイフを抜いてくれー!!」
そう叫ぶ警察官の人に従ってナイフを抜いた。
その時、お葬式帰りのクラスメイトたちが私を見た。
全員が悲鳴を上げ、あっという間に人だかりとなり私は警察へ拘束された。
疑いを持っていた警察官の殺人容疑まで加わったが、ただナイフを持っていたというだけであり刺したところを見たものは居らず、その場は釈放となった。

3日目
学校へ行くと、門に立っていた先生から校長室へ呼ばれた。
自宅待機という処分が下った。
期間は未定。復帰は担任からの連絡を待つようにというものだった。
無言のまま部屋を出た。
上靴も無くなって、ぐしゃぐしゃになった靴箱とロッカーの中身
人殺しと書かれた張り紙が、学校中のあちこちにあった。
死ねとも。死んで償えとか。そんなのも。
靴を履いて、門まで向かう間のたった20メートルしかない道で全校生徒を対象に罵声を浴びたのはこの日が最後。
人殺しというシュプレヒコール。
ある意味、綺麗なコーラスを聴いているようだった。
涙は、ただ静かに流れ続けた。
家に帰ると、母親が居間にある柱からぶら下がっていた。

4日目
この日は、警察で目が覚めた。
事件の被害者なのか加害者なのかわからない扱いを受けている。
父は、出張で帰れないという。
母が死んだというのに。
母の自殺というのは考えにくいものだった。
性格上、どんなことがあっても自殺などするような人じゃない。
人を殺したとしても。
それが、自殺だ。
だが、解剖の結果がまた私を追い詰める。
他殺という判定が出たのだ。
とはいえ、私は学校にいた。死亡時刻とされる時間帯には。
それから間もなく、父が母の殺害容疑で逮捕された。
父は、すでに他に女を作っていた。

5日目
家は事件現場として押さえられているため止まる場所もお金も無く、母の事件以外では容疑者あつかいのままなので、警察で保護という形がとられた。
父も母も失うとは思わなかった。
だが、父と母の死よりも気がかりなのは歳の離れた妹のことだった。
一緒にいるものの、妹はおかしくなっていた。
母の発見時の様子を聞きたいというので、私は部屋を出た。
妹は婦警さんが見ているとの事だった。
唯一の家族、そして、私のことを怖がらないたった一人の姉妹。
部屋を出て事情聴取が始まった。一時間ほど説明を淡々とした。
突飛なことが続きすぎていて実感が無かった。
これは、夢なのではないか?
何でこんなことが起きているのかと。
その日の深夜、家が放火により全焼した。
妹を預かっていてくれているはずの婦警さんは、部屋から出るなといっただけで見ていてはくれなかった。
そして、全焼した家からは妹の焼死体が発見された。
放火されたであろう時間、私を見たという証言が相次ぎ私はおかしくなった妹を殺した容疑までかかった。

6日目
拘置所というところに移動になった。
その時、鞄の中から箱を見つけた。
思い出した。
何故、今頃になって。
何故、忘れていたのか。
私は、まったく覚えていなかった。
こんな有様の人生を何故起きたのかとあれだけ考えていたのに。
覚えていなかった。
親友を殺した容疑がかけられ、家族を失い、家族を殺した容疑がかけられ、これ以上の幸せというのがあるのだろうか?
私は、耐えられなかった。
悲しかった。
こんな箱のために、私は今ある幸せを全部ぶち壊して無くしてそれ以上の幸せなどあるはずがないと。
何が幸せなんだ?
何が幸せだったんだ?
学校でのいじめはひどかった。
それが、本当に何より耐えられなかった。
そのいじめられている環境を変えたいと願った。
それが、叶うのだと。

家に帰っても母は何もしていない。
自分の分のご飯の用意しかしていない。
掃除も洗濯も洗い物も何もしていない。
昼間も何をしているかわからない。
働いても無いのに、お金もないはずなのに、高級なブランドの服やバッグはそろっていた。
妹は保育園に預けられっぱなしで、最大3日間迎えに行かなかったこともあった。
私は、バイトをするには年齢が足りず嘘をついてバイトするしかなかった。
普通のバイトでは、生活費が足りず夜働くしかなかった。
たまに帰ってくる父。
父といっても、義父である。
帰ってきた義父は、必ずお金を沢山くれる。代償は必要になるが減るものじゃない。
お金が必要だった。
妹の保育園のお金。生活費。何もかも。

これが、私の最悪だった日常だ。
それでも、今より断然幸せに思える。
最悪だったのに、それが最上に思えた。

人殺しになんかなるとは思ってもみなかった。
たった一人の親友を亡くした。
たった一人の家族といえる妹も亡くした。
そして、二人とも私が殺したことになっている。

その命の上に立って、踏み潰してどんな幸せが手に入るというのだろう。

箱を開ければ、元の生活に戻るといわれた。
それでも、今よりましだ。
人殺しよりも。

私は、後一日を我慢できる気力は無い。

7日目
誰が死ぬのか。
誰を自分が殺したことになるのか。
それしか頭に無かった。

朝起きて、箱を手にした。
「もう、なかったことにして。何もかも無かったことにして。幸せなんていらない。元に戻して」

涙があふれ出た。
自分の声を久しぶりに聞いた気がした。
蚊の鳴くような声。
擦れた声。
自分のものでないような、誰か別人の声に聞える。

私は、箱を開けた。
中は空っぽだった。
何も入っていない。
どういうこと?
何も起こらないじゃない。
なんなのよ、これのせいじゃないの?!

目の前に、突然、箱をくれた女が現れた。
私を見据えて、目を細め腕を組んで立っている。
見下ろしたその目線は、箱を見ていた。

「途中であければ契約は無効になる」
「無効にして欲しいから開けたのよ。この箱に残ったのがどんなに幸せな希望だったとしても、こんな状況から幸せなんかになれるはずが無い!親友も、家族も!たった一人の私の妹も!唯一の家族さえ失ったのよ!それも、私が殺したことになってる。何も!何もしてないのに!!」
「無効にしても、過ぎた時は変わらない」
「どうして?!どういうことよ?!無効になるんでしょ?!元に戻してよ!!」
「あなたの願いは、毎日成就していたのに。何故、無効にしたの?」
「成就なんてひとつも・・・」
箱を見ていた私は、女を見た。
女は、口だけ微笑んで私の耳元まで顔を近づけて囁いた。

「自分を苦しめる人間全部いなくなればいい。そう願ったじゃない」
09:12  |  パンドラシリーズ  |  Trackback(0)  |  Comment(10)

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バンジージャンプ

2008.11.17 (Mon)

空を飛ぶ夢をよく見る。
身一つで、羽も生えてなければ
呪文も唱えずとも、すでに飛んでいる。
コントロールも自由自在。
スピードもハイスピード。
最高の浮遊感。
最高の爽快感。
風が長い髪を揺らして、顔に冷たい風が当たる。
でも、寒くない。
とても、気持ちがいい。
自由に。
どんどん向こう側へ。
先の、もっと先まで。
地上は、どこまでも続く緑色。
ところどころにある家。
森林、川。

この気持ちよさがわかるだろうか?
体感する夢
目が覚めても爽快感が薄れない。
夢は人によってなんと色がついていたり、モノクロだったりするらしい。
自分は、いつもフルカラーなのでそれを知った時は驚いた。
この空を飛ぶという夢は、たまに見る。
覚えている限りでは、飛んでいる間だけのこと。
それ以外は覚えていない。

その爽快感を味わえる。
自由になれる。
あの、空高く雲の近くを飛びながらスロットル全開にした爽快感のを実際に味わいたい。
自由という言葉そのものが、形容された形。
あんな気持ちのいい世界は、ない。

私は、今、もっとも高い場所にいる。
人生で初めて、バンジージャンプに挑戦する。
呪文を唱えても
何度も地上でジャンプしても
羽が生えろ!とお願いしても
空を飛ぶことは出来ないから、ここに来た。
下から見たときは、そんなに高くない場所かな?と思ったが実際上ってみると怖いほど高い。
風が強くて何かにつかまっていないと立っていられない。
点くらいにしか見えないが、沢山の人達が見ている。
自分の周りにも人がいる。
カウントは自分でよし!と思ったときに飛べばいい。
さぁ、自由になろう。
私の初めてのバンジージャンプ。
空高く飛ぶことは出来なくても、飛んでいる爽快感を味わいたい。
飛んでいる時だけは、自由だから。
「いきまーす!」
大声を上げて勢いよくジャンプした。
両手を広げ、足も広げて。
体で風の抵抗を感じ。
冷たい風が体中に纏わりつき。
体中の血液が、流れる方向を迷っていることがわかる。
気持ちがいい。
空を飛べた。
すごい!気持ちい!
これ以上の爽快感は無い。

片道切符のバンジージャンプ
09:17  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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繋がり

2008.11.16 (Sun)

それは、いつもなる着信音だ。
使い分けている着信音。
通常着信音
仕事関係着信音
メールの着信音

個別に登録されている着信音もある。

そして、その個別の中の親友の音が鳴った。
画面には名前が表示されている。
「もしもし?」
つながっているようだ。
でも、返事が無い。
電波が悪いところにいるのか?
二秒ほどして切れた。
ここでかけなおすと、お互いかけなおしあってつながらなくなるので待つようにしている。
 だが、かかってこなかった。
何か別の電話でも入ったのかな?
そう思って電話を机に置いた。
すると、またあの着信音。
「もしもーし」
つながっているのかどうか判断のつかない音がする。
声は聞えない。
プッっという音と共に切れる。
一体どうしたというのだろう?
何故切れるのか理由がわからない。
自分の携帯電話がおかしいのかな?
そう思って、携帯を見る。
電波の状態は、とてもいい状態だ。
特に問題は無い。
そう、着信音は鳴る。
意外と長い間。
なのに、出てしまうと切れてしまう。
それが、何度も続いた。
そして、何度かするうちにつながっているかもしれない状態の感覚が短くなって切れるようになった。
雑音のような。
テレビの砂嵐のような。
そんな、音。
そして、無音に。
それから、最後の音。
何故だろう。
どうして、こんなに電話がかかってくるのかな?
かけてきているのに、出ると切る。
よくわからない。
どうしたんだろう?
理解が出来なかった。
また、着信がなる。
「もしもしぃ~????」
「あーごめん!何度も」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと携帯にハンズフリーのマイクつけてみたらうまくいかなくて」
「へぇ~。あれか。いいな、あれ私も欲しいんだよね」
「でも、なんかうまくいかなくって」
「それで、つながったり切れたりしてたのか」
「あ、つながってたの?」
「うん、つながってたよ」
「今、大丈夫?」
「うん、平気」
「ちょっと出かけててさ。歩いてるから電話したの」
「つくまでお話タイムだね」
「うん、よろしく~」
「今日は寒いね、よく冷える」
「うん、最近寒くなったよね。あ、忘年会これそう?」
「どうかなぁ?行くことはできると思うけど」
「おいでよ~、うちでするしさ」
「そうだね、行こうかな」
「あ、そろそろ着く。んじゃ、またねー」
「おーまたね」

他愛も無い会話で、電話は終了した。
私は部屋でじっと本を読んでいる。
ソファーに腰をかけて、横には猫がすやすや丸くなって寝ている。
まさに、絵に描いたように丸くなっている。
にゃんもないと になっている。
この上なくかわいい顔。

あ、そういえば、私、昨日死んだって言いそびれた。
09:14  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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予報注射

2008.11.15 (Sat)

注射というものが大嫌いだ。
はっきり言おう。
いや、嫌いだからといって駄々こねているわけじゃないんだ。
嫌いは嫌いだ。
高い金額を払い、わざわざ痛い思いをしなければならない。
大嫌いな注射を。
何が嫌かって?
刺さった瞬間の遺物が自分の中に入り込んでくる感覚。
刺さった中から、液体が染み出してくる感覚。
その刺さったものが、慣れてきたかと思ったとき抜け出ていく感覚。
これが、嫌いな理由だ。
最後の仕上げに、今針をぶっ刺した場所を揉みまくるという行為。
ありえないだろう。
普通、針刺したら痛いから何もしないだろう!!
と、言いたくなるがよく揉んでおかないと次の日から結構な間腫れあがった二の腕と戦って
寝返り打つたびに激痛に悩まされることになるから揉まれた方がいい。
これは、ウィルス感染した際に大嫌いな筋肉注射を三本も腕に打たれたときの結果だ。
あれは、ひどかった・・・。
注射よりも、ウィルス感染のほうだが・・・。

あんな思いするよりは。
そういうことで、注射をすることになる。
「よっぽど嫌いなんですね・・・」
看護士の女性が、自分の顔を見てそう声をかけた。
「・・・思いっきり」
そういうと、苦笑しながらこう答えた。
「私は、注射は打つのは好きなんですけど打たれるのは大嫌いなんです」
なんという、マニアックな答えだ。
「打つのは好きなんですね・・・」
「意外と。好きなんですよ。するっと痛くないように打つ方法はわかってるから」
「なるほど・・・」
腕に、脱脂綿の濡れた小さな正方形がぺたっとくっつけられ拭かれる。
あぁ、とうとう・・ とうとう・・・ 来る。
「では、ちくっとしますよー」
目をぎゅっと瞑った。
痛みが来ない。
「あの、無意識かもしれませんが・・・ 逃げてますよ」
しっかりと、上半身が後退していた。
すると、それをみていた年配の看護士が自分の背中をぎゅっと押さえた。
「逃げられないように抑えてあげます」
「ありがとう」
お礼を言って、いざ・・・
ぐっさり・・・・。
刺さった針の痛みより、この後の液体が入ってくるほうが痛い。
「・・・・・・・いやーーーーーーーーーーー・・・」
蚊の鳴くような声で、叫び声。
意外とこれが長い!
一気に押し込められないらしい。
終わったら、あとは揉まれるタイム。
これはさすがに、痛い!痛い!と叫んでしまった。
力いっぱいもまれるものだから、つかまれた二の腕自体が本当に痛かった。
「よし!おわり!」
精神的苦痛で、かなりの力を消費した。
もうぐったりだ。
「様子を見ますので、10分間待合室でお待ち下さいね。気分が悪くなったりしたらすぐに言ってください」
そういわれた。
それから、待合室に戻った。
10分経っただろうか?看護士が話しかけてきた。
「どうですか?気分は悪くありませんか?」
「機嫌は悪いです」
「あはは。チェックリストがあるので答えてもらえますか?」
「ハイ」
隣に座った看護士が読み上げ、全てハイにチェックされた。
看護士が立ち上がり、向かい合って立ち上がった。
「これで、本日午前0時までにあなたは死ぬことが出来ます。臓器提供に了承していただきありがとうございました」
「こちらこそ、殺してくれてありがとう」
10:42  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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最後の一人

2008.11.14 (Fri)

「一体、どういうことなのよ!」
「しらねーよ!ふっざけんなよ。お前がやったんじゃないのか?!」
「もぉ!怒鳴らないでよ!うるさい!!」
「五月蝿いだと!」
怒鳴り声と共に、鈍い音が部屋に響く。
「何してるんだ!殴るなんて・・・。大丈夫か?」
「ほっといてよ!さわんないで!気持ち悪い!!」
「どれだけ騒いだって事態は変わらないよ」
「何冷静に言ってるのよ!こんな!これじゃぁ、意味が無いじゃない!」
「意味が無いってどういう意味よ!?あんた、やっぱり何か知ってるんでしょぉ?!」
「知らないわよ!あんたこそ、いなかったじゃない!パーティーの時!」
「行くわけないじゃない!あんたみたいな年下の女が継母になるなんて!それなら、男と寝てたほうがまだましだわ!」
「みっともないことを言うな!」
「何よ!あんたが私と寝てたくせに!」
「余計なことは言うなって言ってるんだわからないのか!!」
また、鈍い音が響く。
「いい加減にしないと・・・」
「どうでもいいわ、もう。どうしようもないのよ」
「何がどうしようもないだ!お前のせいで何もかも計画がめちゃくちゃだ!」
「計画って。本気であんな無謀なことをしようとしてたわけ?」
「無謀ですって?!完璧な計画よ!何の問題も無かったわ!」
「うまくいかなかったからこうなったんだろう?」
「なんで、お前がうまくいかなかったなんて事を知ってるんだ?!」
「うまくいってりゃ、あんたたちが怒鳴ってるわけ無いじゃないか。あれだけの大金を手にしているんだ。それなのに、怒鳴りあっている。何らかの計画が失敗したということだろう」
「貴様、何を聞いた!?お前、もしかして!こいつとも寝たのか?!」
「ふざけないで!そこの死んだふりして起きない女と同じにしないで!いつまでそんな格好でいるわけ?!」
「殺したんじゃない?また」
「何人殺しても、もう人数なんて関係ないんだよ」
「あんた、一体何人殺してきたって言うのよ」
「あの金を手に出来たのは、お前の計画があったからだ。だが、あれだけじゃ不完全だ。それくらい、お前の頭だってわかっているだろう。だから、そうやって俺に向かって怒鳴っているんじゃないか」
「そうよ!だから、怒ってるのよ!一体、どうなっているのかって!」
「金が手に入れば文句が無いんだろう?」
「そうよ!人なんて信用できないわ!お金さえ手に入ればそれでいいのよ!」
「だったら、お前の好きな金を抱いて消えてしまえ!」
「あんたこそ、返してよ!私のお金!!」
倒れる音が、床に響く。
目を見開いたままの女。
女の手には小さな鋭いナイフ。
それを、喉に貫通させたままもがく男。
部屋に出ようとドアノブに手をかける。
血ですべり、開かない。
そのまま、崩れ落ちる。

「もう、どこにもお金なんて無いよ。あんたらが計画したその行動は、お見通しってやつだ。金が手に入ったと思った。思い込んでくれさえすればよかった」
「そう、そうよね。都合よく、事が運んだと思ったわ」
「こんな事にならなければね」
「勝手に争って消えてくれればそれでいい。渡せる金などない」
「あんたは、他人じゃない。関係も無い。何もない。権利も家族でもない」
「だからこそ、残酷になれる」
「わかってないわね」
交差した血飛沫が、白い壁紙を赤に染めていく。

転がった死体の数は、4人。

「争いは、争いたいやつだけに任せておけば事は進む。」
そういって、一人がこの部屋を出て行った。
何もせずに得た大金の入った鞄を持って。
09:08  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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出会い系

2008.11.13 (Thu)

ちょっとした興味だった。
出会い系サイトというもののページをクリックしてしまったのは。
画面全体に踊る文字。
点滅する文字。
多数の写真。
一見、綺麗な若い女がそこには写っている。
あまりに、当たり前な顔しかなかったので期待はずれという気分だった。
面白いように同じ顔。
同じような化粧をしているため、見分けが付かない。
角度で可愛く見せているようだが、逆に気持ちが悪い。
何を塗っているか知らないが、口に付いたべたべたしてそうなものが気持ち悪いと感じた。
その中で、浮いている女性を発見。
この中では、地味なほうかもしれない。
だが、一般的に見ればどこのキャバ譲だ?と聞かれてもおかしくは無いだろう。
 この、出会い系サイトというものの仕組みはこうだった。
その気に入った女性がいたら、写真をクリックするとプロフィールが出てくる。
そして、メールを送るというボタンを押すと金を払えといってきた。
そういう仕組みらしい。
で、一度払うとメールのやり取りはご自由にというようだ。
値段は、5000円。
高いのか安いのかわからないが、そのまま了承して進んだ。
コンビニで支払いが可能だったからだ。
自己紹介のメールと出来れば普通にメール交換してメル友くらいに考えてます。と付け加えた。
一回ごとに5000円も払ってられない。
返事が来た。
なんと、メールアドレスも普通のアドレスが書いてあった。
相手のほうも、メル友でよろしければ。ということだった。
女性は、職業ははやりキャバ譲だそうだ。
だが、はじめたばかりで新人。
事情があり、家を考えなしに飛び出して今の職業に付いたと。
自分より5歳は若い。
この年齢が本当なら。
彼女の名前は、サクラという。
源氏名というやつか?
自分は、清葉と名乗った。ハンドルネームを考えるのが面倒だった。
なので、これは本名である。きよはというのが俺の名前。
女みたいであまり好きじゃない。
このサイトとは、使用は一回きりの出会いでその後は直接サクラとのメール交換が続いた。
出会い系サイトという名前もおかしいものだ。
出会い「系」という、分類されている。
だが、出会いを分類すると出会いを筆頭に何に分かれるのだろう?
であった後のことを示すのだろうか?
何故、出会い仲介サイトとかそういう名前にならなかったのだろう?
気になったのは、サクラの写真はずっとそのサイトに掲載されたままということだ。
つまり、他の男ともやり取りをしている。
もしかすれば、このサイトを利用してそれこそ「出会い」をしているかもしれない。
男と女。
出会いを求めているということをビジネスで考えてしまうのは失礼だろうか。
そういうことをしているんじゃないかと疑ってしまうのは。
だが、自分がどうしてこんなことで苛々しなければならないのかという考えでも苛々した。
サクラとの他愛も無いメールのやり取りは一ヶ月は続いている。
普通に。
恋人のように。
遠距離恋愛のように。
認めたくないと思ったが、この文章の主に恋心があるのが苛立たせる原因だ。
サクラに直接電話したいと思ったが、携帯の番号は知らない。
メールアドレスは教えてもらった。
メールで、写真をサイトから消せないか?という趣旨のものを送った。
何故かと言う問いが帰ってくると思ったからだ。
だが、返事は無かった。
切られたか?
やっぱり、彼女にとってビジネスだったのか?
そういう考えが浮かんでしまった。
フラれたらこんな気持ちか。というそんなことを考えていた。
返事が来なくなって1週間目。
あのサイトを見た。
すると、彼女の写真が無い。
サクラ、写真を取り下げたのか?!
なら、何故連絡をくれないんだ?!
慌てて、メールした。
サイト今見た。写真無い。なくなってる。消したんだね?嬉しい。
お願いだから一度電話でいいから連絡くれないか?
この時、本気で惚れていた。
切れかけていた糸をつなぎとめたかった。
返事がすぐに返ってきた。

電話は、ごめんなさい。
でも、お会いすることは可能です。
駅の下にあるコーヒーショップで明日10時に。
窓際のカウンター席にいます。
髪の色でわかると思います。明るい色だし。
くるくるに巻いてますから。

簡潔なメールだったが、嬉しかった。
サクラが自分の住んでいる場所と近所だったことはこの一ヶ月くらいのメールでわかっていた。
駅は近くにひとつしかない。
明日は、土曜で仕事も休み。

嬉しいです。
ありがとう。
一応、電話番号教えておきます。

それが、俺からの返事。

そして、いよいよその10時が近づいた。
コーヒーショップには入らず、店の出入り口にいた。
だが、サクラらしき人物は来なかった。
15分前からここにいる。
店の中を見てみた。
なんと、カウンター席にサクラらしき後姿があった。
いつ入ったんだ?
まったく気づかなかった。
最初にここに来た時、店内は確かめたのに。
俺は、サクラの横に座った。
カウンターの窓の向こう側を見ながら、顔を見るのが照れくさくてそのまま口を開いた。
「おまたせ。俺、清葉。入り口で待ってたんだけど気づかなかった」
言い終わって、一呼吸置いてサクラを見た。
綺麗な顔だ。写真で見るより違うと見とれていた。
だが、サクラの顔は、硬直していた。
不思議に思って、サクラをじっと見つめた。
次第に、俺の顔も硬直した。
「・・・兄貴?」
09:10  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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本当の私

2008.11.12 (Wed)

記憶の無い買い物をした請求書が届いた。
クレジットカードの支払いで、その品物は私の手元には無い。
引き落とし額も結構な額だ。
思い当たったのは、あるサイトに私が登録をした。
それが、いけなかったのか。
だが、そんな犯罪というか・・・高額なものではないはずだ。
よく見てみると、請求書には店の名前が書いてあった。
つまり、ネットは関係が無いということがわかった。
どういうことだ?
盗まれた覚えも無い。
人に預けるなんて馬鹿なことはしない。
まったく、思いつかなかった。
不思議なことに、購入しているものは私が欲しいなと思っているものばかりである。
ネットで眺めながら、買い物かごに入れるものの結局買ってない品物ばかり。
決済をした覚えはもちろん無い。
だが、品物の名前見る限り私が欲しいものばかり。
そしてそれを買っている。
無計画に。
一品、一品。
日付は毎日買っている。
合計したら、とんでもない金額になっていた。
さすがに、冷や汗をかいた。
慌てて電話をした。カード会社へ。
「こちらは、お客様本人が買い物したことに間違いは無いようですが・・・」
「え・・?でも、私勝手ないし。商品も手元に無いんですよ!」
「先日よりお問い合わせいただいておりましたので、厳重に確認しましたがサインもお客様のものと一致しております」
「先日?」
「えぇ、昨日お電話があり同じ内容のことをおっしゃられていましたが・・・」
「私、電話してませんよ!?」
「え?いえ、あの、私が対応しましたので。お声も同じですし・・・」
「まさか・・・」
「お客様、あの、沢山最近買い物をされて連日カードを使用されている状況ですので限度額が近づいてます。その点もお気をつけくださいませ」
「限度額って・・・そっそんなに今月何か買ってますか?!」
「えぇ、毎日」
「そんな!買ってないです!カードを止めてください!おかしいですよ!」
「止めて・・・よろしいですか?」
「はい!止めてください!」
何が起こっているのかまったく理解できなかった。
もしかして、やっぱり何か犯罪に巻き込まれたのかもしれない。
どうしたらいいのだろう?
警察の相談窓口とかあるのかな?
ネットで調べたらあったので、窓口に電話してみた。
事情を話してみたが、相手も何を言ってるんだ?状態だった。
「カード会社が、あなたのサインだということまで確認しているのなら犯罪の可能性は薄いです。結論から言うとそうなりませんか?あなた自身のサインなのですから」
「そっそうですけど!見に覚えが無いんです!商品もありません!」
「カードが偽造された場合、使用にはリスクがありますから限度額までその日のうちに使い切るというのが手段です。毎日、少しずつ購入していくというのもおかしい話なんですよ」
「・・・。どっどうすれば」
「カードを止めたということなので、しばらく様子を見てはいかがですか?これ以上カードは使用できないわけですから」
「・・・・はい」
確かに、相談に乗ってくれた警察の人のいうとおりだった。
私のサインで購入している。
サインかどうかまで確認した。
その連絡を、私以外の誰かがカード会社に依頼している。
私と同じようにおかしいと思っている。
でも、なんでカードを止めなかったの?
そうか、買い物に困るから?
私は全てカードにしている。
そうすれば、家計簿をつける手間が省けると思ったからだ。
一体、どうなってるの?
 次の日、会社を休んで今までのカード会社からの明細を見た。
そこで、じっくりと見ていなかったその明細に目を疑った。
同じ商品を私は前日に買って、その次の日も買っているということがわかった。
でも、手元には1個しかない。
突然、携帯が鳴った。
「はい」
「カード会社の高橋と申しますが、渡辺様のお電話でしょうか?」
「あぁ、ハイ。私です」
「先ほどの件ですが、カードは一旦止めてしまいましたので復旧には本人確認が必要になりますので郵送先の確認をとご連絡いたしました」
「先ほどって?」
「先ほど、カードが使用できないが何故か?とお問い合わせがありましたが・・・」
「してませんよ?」
「渡辺様・・・ですよね?」
「ハイ」
「30分ほど前に、そのお電話があってお店で使用できないというご連絡がありまして」
「店?私、家にいますけど」
「・・・あの、一体どのようにしたらよろしいのですか?同じ方からの意向の変動があまりに大きいのでどちらを優先するべきなのかこちらとしても、大変恐縮ですが困っております」
「え?ちょっとまってください。カード会社に私本人が電話したのは昨日が初めてです!」
「こちらの記録、そして電話を頂いた時のナンバーもこちらで表示されて記録しておりますがお客様の携帯電話です。ご本人様以外が、携帯を使用されることはありますか?」
「まさか!」
「では、ご本人様からのご連絡ということになります。また、担当は高橋がずっとしておりますが、お声も同じです。テープで録音しておりますのでこちらで確認しました」
「そんな!」
「お客様、カードはどうされたいのですか?」
「ちょっとまって、そんなの、おかしいわ・・・。私は、何もしてない」
もう、涙が出てきた。
「お客様、先ほど連絡いただいたときも同じようにいわれました。同じように泣いているようでした。何故同じ事を二回繰り返すのですか?」
繰り返す・・・。
その言葉がひっかかった。
私は、携帯を勝手に切った。
繰り返す?
誰かが?
誰が?
私が。
なぜ、私が?
覚えも無い。
同じものを買っている月があって。
今月は、欲しいと思って諦めたものを全部買っている。
私がこれを欲しいなんて誰にも言っていない。
どういうこと?
ネットの買い物籠に入れて結局買わなかったのよ?
どうして?
なんで、こんな私の欲しいものを買って私には手元に無いわけ?
記憶喪失でも何でもいいけど、それなら品物くらいはあるでしょう。いくらなんでも。
それも、無いってどういうこと?
携帯が鳴った。
「ハイ」
「あ、渡辺君。どこにいるんだ?さっきの会議資料を持ってきて欲しいんだよ」
「あの、本日はお休みを頂いてますが・・・」
「何言ってるんだい。はっはっは、ご機嫌なのか?商談が決まったからってそんな事を」
「冗談じゃありません!」
携帯を投げつけて切った。
見事に携帯は真っ二つに折れた。
なんなの?
一体、何が起きてるの?
どういうこと?!
怖い・・・。
どこからか、電話の音がする。
クローゼットを開けた。鞄の中から音がする。
探してみたら、携帯が出てきた。
さっき、真っ二つになったはずの同じ携帯電話。

「携帯を投げつけても、終わらないよ。君は、ひとりじゃない。君は君だ。離れられない」
そういって、切れた。
どうして?
なんで、携帯が二台あるの?
同じ機種。
わけがわからない。
部長から?今の声だれ?
ひとりじゃないってどういう意味?
また携帯が鳴る。
無言で出た。
「カード 使えるようにしたわ。一人になりたいなんて都合のいいことをできないの。一人じゃないのよ。あなたは。」
また切れた。
カード会社の女?
名前、名前なんだっけ?
覚えてないや。

インターフォンが鳴った。
出る。
インターフォンの画面に映し出された顔に私は悲鳴をあげた。
同じ顔をした私がそこにいた。
「私を語って、私に成りすまして、過ごしてきた感想聞かせてよ」
去年、私が殺したはずの女の顔。
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コウノトリさん

2008.11.11 (Tue)

結婚して子供を生んで育てて、そういう当たり前のことが自分にとって難しい問題となるとは考えても無かった。
他人事ではあったが、問題視されている現在の状況。
そして、職場でそのような悩みを抱えていたという人達にも出会った。
ただ、その立場に自分がなるとは思わなかった。
今時、珍しいかもしれないが仲人さんがとりもってくれたお見合いに行った時の事。
お見合いというイベント自体も初めてで、どうしたらいいものかと本当に困った。
お互い履歴書でも見せ合ったほうが早くないか?と思ってしまった。
ちょっとした、小料理屋の個室。
まぁ、イメージとして振袖というものが出てくるが残念ながら持ち合わせていない。
普通に、ちょっとおしゃれなドレスを着て行った。
事前に、相手のお見合い写真と職業や年齢を聞いていた。
歳は、自分より5歳上。
しかし、そうは思えない顔。
随分とかわいい少年というイメージだ。
職業は、よくわからないが絵描きだそうだ。
英語かカタカナか・・・よくわからないがグラフィーなんとかってやつらしい。
よくわからん。といったら、絵描きですという事だった。
断る理由もないし、年齢的にも結婚を考える年頃。
彼氏いない歴を数えたくないくらい過ぎている。
人付き合いに疲れたんで、特に率先して作ろうとはしなかったのだ。
結果的に、結婚したのよ。
昔のドラマであるような堅苦しいイメージのお見合いの始まりをぶち壊したのは私。
恥ずかしかったな・・・。
お料理が出てきてね。
お豆腐が豆乳状態で出てきて、ぐっつぐっつ煮えてるの。
「固まってきたら、すくって食べてください」
といわれてさ。
それが、美味しそうで。
それまで、じーっと固まって料理ばかり見てたの。
その間、両家の主人公たちの紹介が仲人さんがしていたのだけれどほぼ気になるところしか耳に入ってなかった。
堅苦しかったものだから。
で、豆腐が固まった!と思ったのよ。
多分、顔に出てたんでしょうね。
「とりましょうか?」
って、相手の人がいってくれたの。
ありゃ、見られてたんだ・・・とちょっと恥ずかしかったけど
「ありがとうございます」
と、いったわけ。
で、お豆腐をすくおうとした時
「あ、その春雨のところが欲しいです」
といったら、皆の目が点になったの。
なんで?
とおもったら、お店の仲居さんが一言。
「そちらは、ふかひれでございます」
お里が知れるって奴かしら・・・。
もう、さすがに真っ赤になってしまった。
一瞬の静寂な空気の塊を感じた。
でも、突然みんな大笑い。
静寂は空気はぶっ飛んで、仲人のおじさんが一言
「こんな子です」
どんな子だよ!
結婚した後聞いたんだけど、旦那も春雨と思っていたらしい。
くぅ~!私一人恥かいたみたいだったじゃんとむくれてた。
仕事はやめて、専業主婦になりました。
理由は、料理が出来なかったのです・・・。料理教室に通い頑張ってます。
本も買いました。
でも、未だに果物の皮はむけません。包丁で皮むきは難題です。
結婚して、そろそろ子供をと思ったときに中々できない事がわかりました。
気になって、こっそり病院に行きました。
出来にくい体質といえばいいのかな。
原因は、色々あるみたいだけれど不妊治療の値段にびっくりした。
結局、どうしようかな。って上の空でその日は病院を後にした。
うちに帰って、ご飯の用意して、でも食欲無くて。
旦那が、それに気づいて。
ぼーっとしてる私に後ろから抱き付いて「どうした?」って聞いてきたの。
だから、答えた。
そうしたらね、こういったのよ。
「じゃぁ!お願いしなくちゃ!」
「お願い?」
「だって、子供はコウノトリが運んでくるっていうじゃないか」
「え?あ・・・あぁ、コウノトリね」
「そうそう!お願いするんだよ!」
といって、そそくさと自分の部屋に入っていった。
何する気だ?
そうしたら、七夕みたいに短冊を持ってきた。
沢山の折り紙も持ってきた。
二人でせっせと、折り紙を縦に細長く切ってわっかにしたのをつなげた飾りを作った。
後は、短冊を目立つようにしよう!ということで金と銀の折り紙で短冊をキラキラに飾りつけた。
「でもこれ、何に飾り付けるの?」
「明日!笹をどっかからもらってくる!」
旦那の思考は、七夕になっている。でも、おかしくなって笑ってしまった。
二人でせっせと作った七夕セット。
今、もう12月よ?
クリスマスツリーでもなくて、七夕に何でしたんだろう?
可笑しい。
次の日、かえって来た旦那はよくエレベーターに乗ったね・・・というほどでっかい笹の木を持って帰ってきた。
「ほら、あの近所にある大きなお家に笹があるじゃん?あそこにお願いしたら快くくれた!」
満面の笑み。
「あぁ!あのお屋敷の?!凄いね・・・行ったんだ」
「お願い事をするんだぞ!全国各地、コウノトリだって飛んでるだろう。気づいてもらうには目立たないと!」
「あっはっは。わかったわかった。とりあえず、笹はリビングにおいてご飯食べよう!」
この頃にいたっては、料理は出来るようになった。
あ、ごめん。
まだ、皮むきは無理。旦那の役目と化した。
理由は、見てられない。とのこと。危なっかしいそうだ。
ご飯を食べた後、二人でおおはしゃぎしながら二人暮しのマンションに似つかわしくないでっかい笹に季節外れの七夕の飾り付けをした。
ところが、笹が大きかったため意外と寂しい飾りになった。
「願い事は、ひとつだけだから同じ事を何枚でも書いておけばどれをとっても叶うかも?」
あまりのすごい発想に苦笑した。
「わっわらうなよ!!」
そうして、また旦那は部屋に行って短冊を作って折り紙を持ってきて二人でせっせと飾りと短冊を増やした。
短冊にはすべて、子供に恵まれますように。と書いた。
短冊は、迷惑じゃないだろうかと思うほどぶら下がっておりキラキラのラメラメ。
すっごい飾りつけ。
ここまで豪華な七夕の飾りつけは今までの人生の中した事無かった。
二人でそれをえっちらほっちらベランダに持って行って、必死に固定した。
そして、夜の中ぽっかりと浮かんでまん丸になっているお月様に手を合わせてお願いした。
流れ星を待っていられなかった。
寒い・・・。

ベッドに入って二人で祈りながら寝た。
夢を見た。
大きな真っ白い鳥がベランダにいて、くちばしで器用に窓を開けて入ってきた。
鳥は、テクテクと歩いてベッドの上に乗って来た。
私は、ベッドの上で正座している。
「どちら様?」
「えーっと、ご注文いただいた宅配便の鳥です」
「あ、そうなんですか」
「えぇ、だから僕ペリカンなんですよ」
「ペリカンさんなんですか?見た事無くて」
「あ?そうですか?動物園とかに仲間がいますよ。意外とあの仕事も大変みたいです」
「へぇ~」
「じゃぁ、はい。お届け物です」
「あ、どうも」
「受け取りにサインをお願いします」
「サインでいいんですか?」
「あ、ペンは羽の右側にくっつけてるんで取ってください」
「準備いいですね・・・それも、これ羽のペンだし」
「まぁ、抜けた羽を利用してるんです。鳥業界も結構不景気で。色々節約なんですよ」
「燃料費とか?」
「燃料・・・まぁ、確かに。食事代は増えますよね」
「お魚とるのも大変ですね」
「仕事している自分たちはとりませんけどね。もう、狩を職としている鳥から購入してますから」
「そんな流通があるんですか?!」
「ありますよ。空に」
「冷凍されてそうですね」
「まぁ、新鮮さというのは難しいですが便利ですしね」
「あ、サインこれでいいですか?」
「はいはい、どうも。これ、受領書です」
「あぁ、ありがとうございます」
「では、お元気で。お幸せに」

ピピピピピピピ
目覚ましの音で目が覚めた。
むくっと起き上がった。
なんだったんだ?あの夢は。
そうしたら、まだ起きないはずの旦那まで起きた。
「あ、ごめん。起こした?」
「いや、変な夢見て」
「夢?」
「うん、ペリカン便が来た」
「・・・・ペリカン・・・便」
起き上がった足元に受領書が置いてあった。
「あれ・・・私のサイン」
「え?!俺もサインしたよ!?」
「あ、本当だ。ふたつサインがある」
品物名を見た。
子供と書いてある。
二人で目を合わせておなかに手をあてた。
「ほっほんとかな?」
朝っぱらから大笑いした。
よっこいしょとベッドから、降りた。
掛け布団をめくったその時、旦那がうわぁっ!と叫んだ。
「何?」
と振り返ったらそこには確かに子供がいた。
「願い事が・・・かなったのかな・・・」
旦那は、子供を見てつぶやいた。
「そうだね」
私は、あまりのことに笑ってしまった。
ベッドの真ん中には、多分短冊の数だけいることであろう子猫達と子犬達がすやすや固まって寝ている。
子育てが大変だ。頑張ろう!
私達が、お母さんとお父さんになりました。
みんな、よろしくね。
09:32  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(6)

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リアルタイムコンタクト

2008.11.10 (Mon)

このようなものを開発した人間はよほど変わった人だろうと考えていた。
何を考えて、こんなものを作ったのかと首をかしげて研究所に勤めている。
「大体、普通に考えて需要があると思うか?」
確かに、機能性だけを見れば便利かもしれない一品だ。
この開発者、芹沢 羽瑠香は自分の最高傑作としてこの研究所内に配布されるニュース配信に研究が終えたことを発表した。
もちろん、研究所としては鼻高々の状態であり最先端技術を駆使した素晴らしいものだということは誰の眼にも明らかであった。
それは、研究所に勤めているだけのただの研究員である名取 優も理解していたが納得はしていなかった。
理由は、使用方法があまりにも危険だからだ。
ただでさえ、情報量が多い世界に更にその情報を取り込みやすくするための装置。
あっという間にその情報は、自分の中に届き確認することが出来る。
携帯電話は、電話だけとメールだけの機能を残して後はなくなってしまうだろう。
本来あった姿である、携帯する電話に姿を戻すはずだ。
こんなものが世の中に出回れば。
そう、便利とは引き換えにそれなりのリスクを背負うことになる。
それは、誰しもわかっていることではあるが目の前にある真新しい技術と利便性。それに付随する波及した際の収入を考えればリスクなど使用者にしか現れないため、研究所としては特に問題視していない。
その体制も気に食わない名取ではあったが立場は雇われ職員。
名取自身は、何も言うことが出来ない。
ただでさえ、この研究に携わりそして芹沢の右腕として働いてきた。
彼女の腕前は確かなものであるが、研究所の考え方と同じであり研究結果がより素晴らしい進化したものであり更に普及させより経済効果のあるものというのが思念だ。
 金儲けという悪魔と言い換えても過言ではないが、この開発には名取も勉強にはなっていた。
そう、それだけ技術としては最先端であり最新のモデルだ。
それが、この研究所が開発した硝子。
「芹沢先生、研究結果で問題視されている点についてはどうなさるのですか?」
「それは、大した問題ではないわ。大丈夫よ」
「自分には、大きな問題と思えますが」
「名取君、この技術自体がどれだけの進化を進めるかはわかっているのでしょう?」
「それは、もちろんです」
「なら、研究者として結果をみるならばメリットとデメリットは必ず存在する。そして、メリットが大きければそれは成功といえるんじゃないのかしら?」
「成功かどうかはわかりません。しかし、デメリットを公表しない点が自分は納得が出来ません」
「公表するかしないかは、私が決めたわけじゃありません。この、研究所です」
「公表すれば、普及しないからでしょう?」
「そう、その通りよ」
「なら、デメリットのほうが大きいと考えるべきではないのですか?!」
「普及しない理由は、たった一つのデメリットだけよ。そして、人によってそれはメリットにもなる」
「物差しは人によって異なります。ですが、研究者としての判断はデメリットの部分は大いに問題視すべき点です」
「私は、すでに使用しているの」
「え?!」
「それでも、特にそのデメリットを感じていないわ」
「そっそんな・・・!使用するなんて」
「実験台が自分なら許可は要らないでしょう?」
「そういう問題じゃありません!!」
「情報量は凄いわ。こんなに瞬時に自分の脳がリンクしてあっという間に答えを出す」
「それが、メリットです」
「そうね。でも、言葉で言うより体感したほうがこの素晴らしさはわかるわ」
「芹沢先生!!」
「私は、最高傑作だと思ってるの。より、人間は進化した存在になれるきっかけを作ったといっても過言じゃないでしょう。そして、感情に振り回されること無く情報処理で稼動できるようになる」
「先生・・・。もう、やめてください」
「ただ、ひとつ実験時にはわからなかったことがひとつだけわかった」
「・・・何ですか?」
「この、コンタクトレンズは目と一体化する」
「え・・・?」
「実験時には起きなかったことね。ただ、長くつけていると剥がれにくいなと思って。よく見たら一体化していたの。」
「そっそれでは。取れないんですか?!」
「そうよ。私には、あなた自身も情報の塊に見えている。どんどん貴女に関する情報を勝手に集めてくる。そして、目の神経を伝って脳へ信号を送る。あなたという存在を、情報として処理できる」
「そんなことしていたら・・・」
「まだ、開発段階ということだし普及はどうなるかわからない。でも、これで無駄な感情を抑えることが可能になった。この点は、いいと思うの。争いも起きない。何もかも、言語で済む」
「それだけが、人とのコミュニケーションではありません。確かに、争いは感情的なものです。ですが、それを言語で全て解決することが何もかもの解決にはなりません」
「もう、無理よ。私は、これを装着したのだから。考えが変わることは無いわ」
「デメリット以上に、役に立っていると?」
「そう思うわ」
その言葉を聞いて、持っていたバインダーを机に投げつけて研究所を後にした。
名取は、納得がいかなかった。
勝手に、まだ開発段階のものを自分に使用して体感することであんな論文をかけたのかという答えだけは見つかった。
そして、デメリットの解決を待たないまま彼女が使用したことも研究者としてとても苛立たせた。
付けたら最後、情報処理に脳が追いつかず機能停止するという結果はでているのにと。
脳死するわけじゃない。
脳の機能が自発的なものではなく、コンタクトレンズによる指令で動くようになる。
つまり、人間ロボットの完成というわけだ。
彼女の研究は、人間を進化させるというプロジェクトだ。

名取の目には芹沢が開発したもっと以前のコンタクトレンズが装着されている。
名取にコンタクトレンズを使用したことを彼の記憶から消去している。
名取は失敗作だった人間ロボットとしての。
感情は、消えなかったのだ。
「名取もだめね。結局、研究だけに熱心にならない。目の前にある進化する世界を受け入れないなんて傲慢だわ。自分たちで進化を遂げることが出来る知恵のみを食べた人間なのよ。何を迷う必要があるのかしら?情報としてしか私を見えていないはずなのに。何が失敗の要因だったのか。不思議だわ」
芹沢は、席を立ってからコーヒーを注いだ。
暖かいブラックの苦いコーヒーだ。
飲みながら、歩いて席に着く。
カップを机において、溜息。
「脳が機能するなら、ほぼ永遠の命が手に入ったも同然よ」
これが、芹沢の本当の目的。
進化の完成形と考えている。
本当にそれが、進化した形なのだろうか。
名取はすでに記録上150年は稼動している。
だが、記憶には150年も生きるはずが無いという概念があるため彼の記憶の誕生日は常日頃書き換えられている。
姿も、衰えることなく過ごせている理由はいまだ不明。
「名取だけは解体できないわ。実証例だもの。感情を残している失敗作でも」
芹沢は、今年で35を迎える。
焦りが募るばかりだった。
結果、焦りが行動を起こさせた。
コンタクトレンズを目に入れるという行動に。失敗作だとしても。目的は果たせている。
09:14  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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一瞬の先

2008.11.09 (Sun)

いつも最先端の服やアクセサリーに靴を履いている。
それは、誰よりも先に着て、誰よりも先に世の中の人間に見せることが出来る。
沢山の人が集まって眺めている光景は凄いと思う。
綺麗な顔をして、澄ました顔。
凛とした姿勢。
少し微笑んだ顔。
大抵、その季節がやってくる少し前に最先端の流行になるという服などを着飾って店に立つ。
流行というものは、それぞれが作り出すものであり個人の主義主張ではなく流通でのどういった傾向があるかという結果から導き出されたものに、沢山のファッション誌などがこぞって取り上げればそれは流行と変化する。
面白いことに、着ていると沢山の人間たちは買っていく。
自分用として。
あるいは、プレゼントだろうか?
特に、プレゼントの場合自分を見ていく人間は多い。
それは、基準がわからないから無難な流行者で済まそうというのが根本にあるのだろう。
本当にプレゼントとして喜んでもらいたいのなら、相手の趣味などを考慮したものを選んであげたほうがいいような気がするが他人にあげるだけで精一杯で相手の趣味思考を吟味する時間はないようだ。あくまで、体裁というやつだろうか。そんな気持ちで買われては物にとって失礼じゃないかと思う。
 そういう事柄で着ている服が売れていく。
そして、あるブランドから次のブランドへと周期的に変化していき、どんどん真新しい服は脱がされ違うものへ着替えなければならない。
本当に、少しの間だけだ。
時折、限定などといううたい文句が付いている。
本当に限定はは知らないが。
 また、新しい服を着ていると沢山の人間が見ている。
それは、着ている服によって見る人間たちも変化する。
かなりの人数で、相当人気のあるブランドのものなのだろう。

「何してるの?」
「いや、いつもここで」
「あぁ、なんだ。結構意外だね。好きなの?」
「いや、コロコロよく変わるからさ」
「まぁ、そりゃぁそうでしょう。マネキンなんて」
「これだけ凄い値段なのに、不景気を感じさせない勢いで着替えるんだよ」
「不景気っていうけれど、あるところにはあるのよ。お金なんて」
「無いから感じる感覚か」
「あはは、そうね。その通りだと思う」
「いつもみてて、すごく欲しいと思う服があったけれど着替えちゃった」
「欲しかったの?」
「うん、でも、もう、この子が着ないということは売れたのかそれとももうなくなったのか。どっちかだよね」
「そうね。流行なんて一瞬よ。後ちょっと、先に進めばまた着替えていい服着てるんじゃない?」
「悲しいな」
「手に入らないからこそ美しく見える。綺麗に見える。側で見えたら案外大した事無いものよ?」
「まるで、ガラス越しの恋心ね。触れることの出来ないショーウィンドウの貴女に」
11:35  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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欲望

2008.11.09 (Sun)

どうしても欲しかった。
見た瞬間、ものすごく欲しいと感じて。
それが、諦めようと思っても逆に思いは強まるばかり。
大人になって情けない。
こんな感情に振り回されるなんて。
だけれど、それを欲してもどうやったら手に入るのか。
つい、目が行ってしまう。
横を通る時に。
どうしても目が行く。
追ってしまう。
欲しくて、欲しくて。
手に入れたくて。

寝る前に、妄想してしまう。
もし、手に入ったらという構想だ。
妄想ほど楽しいものは無い。
自分に都合のいいことしか起こらないわけだから。
色々考えて。
色々幸せを噛みしめて。
色々心を飛ばして。
色々夢に踊って。
眠りにつく。

夢の中では幸せなことばかり。
現実とは違い手に入っている。
そう、あれだけ欲しいと思っていたものがすでに側にある。
あぁ、なんて幸せなんだろう。
そんな感じの夢。
具体的なことは覚えていない。

欲しいけれど。
どうやったら手に入れられるかわからなくて。
考えあぐねて、泥沼にはまって、勝手に落ち込んで丸一日無駄に過ごしすぎていく時間の中で現実と妄想との境目がつかなくなってくる。
妄想の中では、都合よくとはわかっているがもう幸せの絶頂期なのだ。
それが、目の前で起こっていることは正反対の手にいれても無い世界。
そのギャップが自分を惑わす。
わからなくなってきた。
一体、自分はどこにいるのかさえ。

「どうかした?」
我に返った。
「あ、いえ。大丈夫です」
「顔、青いけど・・・」
「いえ、あの、、、大丈夫です」
驚いた。
もう、世界が見えていなかった。
でも、その声が心に響いた。

私が手に入れたい大好きな人。
好きで、好きで。
馬鹿みたいにちょっとした事で嬉しがって。
思春期のガキじゃあるまいしと何度言い聞かせても、気持ちはどんどん飛んで行く。
夢の世界へ。
あぁ、なんて・・・。
でも、現実はこんなもの。
そう、手に入れるどころか届かない存在なの。
好きですなんて告白する勇気も無い。
もしかしたら、彼女いるかもしれないし。
そんなこと考えている現実では、足踏みどころか留まってしまって一歩も足が動かせない。
いや、動きたくないのかな。

そんな時に声をかけられた。
エレベーターという狭い空間。
もちろん、二人きり。
「あのさ、突然なんだけど今日、飯でも食べに行かない?」
「え?!」
声をかけてきた主の前に立っていた私は振り返る勇気も無い。
「あー、嫌なら・・・いいんだけど」
「嫌・・・ では、ありません」
「よかった。じゃぁ、仕事終わったら裏口で」
「はい」

私は決心した。
そう、告白することを。
好きですって言わなくちゃ。
そう、前に進めない。
手に入れるどころか、何も変わらない。
だから、ここで自分から何かを変えたいのならば足を進めなくては。
仕事が終わり、裏口に行く途中に彼がいた。
「あの、少しお話してもいいですか?」
「何?」
そういって、裏口の手前にある自販機の前に座った。
「あの、私、あなたの事好きです」
言い切った。
どんな顔してるのだろう。
私は。
きっと、くしゃくしゃで真っ赤な顔してとても綺麗とはいえないよね。
相手の顔をまともに見れない。
伏せてしまった顔を上げれない。
「ありがとう」
彼の返事だった。
顔を上げた。
笑っている。
微笑んでいる。
あぁ、うれしい。

あまりのことに涙が出てきた。
その場で携帯電話の番号とメールアドレスを交換した。
「すみません、ちょっと顔、直してきます」
急いで、一回上に上がりトイレに駆け込んだ。
化粧もぼろぼろ。
涙を拭いて、それからファンデーションをつけてアイシャドウもつけて。
最後に、口紅を引いた。

裏口には、すでに待っていた。
「遅かったね」
「あの・・・」
「何?」
「食事・・・」
「寒いから、車乗ってから話さない?」
「え?あ・・・はい」
車に乗り込んだ。
雪が降っていて本当に寒かった。
「あのさ、俺、ずっと君を見てて欲しくて欲しくてたまらないって思ってた」
「え?」
「うれしいよ、横に座って。俺の車に乗ってくれるなんて」
後部座席のドアが開いてそこに誰かが乗ってきた。
振り返った瞬間、意識は途切れた。

彼に告白した。
その勇気に対して背中を押した要因は食事に誘われたから。
自分の気持ち、ちゃんと整理つけたかったから。
私が、好きなのは、あなたじゃないと言い切るために。

「ねぇ、知ってる?」
「何?」
「営業課の佐藤ってさぁ、顔だけはいい顔してるじゃん?」
「まぁ、顔もいいけど性格も普通によくない?」
「あいつ、経理課の鈴木と同期でさよく入ったばかりの佐藤に気のある女を見つけては連れ込んでるって噂」
「噂なんでしょー」
「でもさぁ、あの子消えちゃったじゃん?」
「あー営業事務のパートの子?」
「そうそう、失踪届け両親が出したらしいよ」
「失踪するような子には見えなかったけどなぁ」
「失踪する前に一緒に居たのが、なんと鈴木らしいのよ。警察が来てたもん」
「うっそ。まじ?!」
「そうそう、でね、佐藤とあの子付き合ってたらしいよ」
「えぇーなんか、それって尾ひれ付いてない?」
「わかんないけどぉ~、あやしいよねぇ。二人で連れ込んでんじゃないの?」
「連れ込まれてるなら逃げればいいじゃん。つか、助け呼べば」
「殺されてたりしてぇ?!」
「やめてよ、気持ち悪い」

手に入れた事に違いは無い。
私は、彼を手に入れた。
このまま、鎖でつながれていたとしても。
彼が私を見て、私に触れてくれるのなら、私はそれで幸せなのよ。
なんで、わかってくれないのかしら。
ねぇ、鈴木君。
あぁ、もう無理か。
返事できないよね。
さっき、思いっきり鎖で首絞めちゃったし。
佐藤君は、私に抱きついたまま。
冷たくなってきた。
佐藤君の体も。
09:35  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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オンリーショップ

2008.11.08 (Sat)

毎日、気休めというわけではないが気になっていて。
不思議なことにやっぱりそれは当てにしていて。
あの店に行ってからというもの、どうしても真実というか信じられるものというか。言葉に表すとあほらしく感じるから人には言わないんだけれど。
 古本屋めぐりが趣味で、結構裏路地とかに行くわけよ。
まぁ、あまりいい雰囲気ではないわね。
学校帰りの寄り道ってのも、淑女たるものしてはならないという校則があるため、いや字が違うか。
拘束があるため、見回り組みの下部たち=先生にみつかると厄介だ。
彼らは仕事としてしか、教員ということをこなしていない。
子供からしても先を生きる人とは、呼べる人なんて思えないよ。
単なる、学校という中にある社員で。
その会社にお金を払って授業を受けて、勝手に作られた理不尽な世界というのを体験しましょう学習ということになっているのだろうな。
 まぁ、見回り組みももちろんほとんどが手抜きだからこの古本屋地帯で見つかっても特に文句は言われない。

見回ったこのあたりではめぼしい本が尽きてしまった。
何か他に本屋は無いだろうかとほっつき歩いていたらさ、あったわけよ。
あれが。
それも、店の名前が「おんりぃしょっぷ」よ。
ひらがなよ。
何のオンリーがわかんないし。
あやしいという言葉以外でこの店を表すなら、明らかに あほだ!
店の雰囲気は、店先でカーテンがある。
それを、全部開けずに閉じた状態で、紐で端っこに寄せてある。
だから、店の中は見えない。
真っ暗。
何屋さんなのかも不明。
興味が沸くが、入りたいとは思わない。
出てこられそうに無いもん。
そうしたら、その店からものすごく普通の人が出てきて店先を掃除し始めたの。
見た目、20代後半かな?
普通にエプロンして。
普通にお化粧してて。
普通に今時の若い人で。
何より、人間だった。
私はじっと見つめていたから、視線を感じ取ったのだろう。
彼女は、振り返って私のほうを見てニコッと笑ってきた。
「よかったら入りません?」
断りにくい状況になった。
でも、あまりに意外な普通の人が現れたことでかなり安堵感はあった。
「あぁ・・えぇ、まぁ。。。みっみるだけ・・・」
そうはいっても、内心かなり怯えている。
店内は、表とうって変わって静寂な世界。
そして、商品は無い。
何屋だ?!
奥にたどり着くとやっと灯りがあった。
今時、蝋燭。
「電気、止められちゃって・・・」
まじかよ!
雰囲気や店の志向じゃないわけ?!
「どうぞ。ブルーベリーの紅茶のめるかしら?」
「あ、ありがとうございます」
そういって、彼女はティーパックから紅茶を取り出してお茶を入れた。
「お砂糖いる?」
「あ、はい」
「何本?」
「一本で」
そういって目の前に出されたお茶はとてもおいしかった。
蝋燭囲って、洋風のテーブルセット。
二つの椅子。
背もたれが異常にでかい。
二人で無言でお茶を飲む。
結構、耐えられない長い時間だ・・・。
「この店、何の店かわからないってよく言われるの」
「そうですね・・・看板見てもなんのことか」
「え?!やっぱりそう思ってるの?!」
「・・・・えぇ、まぁ・・・」
思わないほうがおかしいだろう。
なんの、オンリーなんだよ・・・
「何がいけないんだろう?ずっとこの店やってるんだけれど、お客さんは一度来てくれたら必ずずっと固定客になるからつぶれることは無いんだけれどね」
「そんなに、お客さんくるんですか?」
「必要な時だけ・・・かな?その人にとって」
「必要?ここで買っていったものが消耗したとか?」
「んーそんな感じかな?後は、気に食わないから違うの買うとか」
「返品ですか」
「あ、それ無理。びっくりしたよ、世の中買ったものを返すって仕組みがあったなんて」
「返品不可ってことなんですね」
返品の仕組みを知らない?クーリングオフは覚えておいたほうが店主としてはいいのでは?
「返品できないし。うちで売ってるものは」
「そういえば、何を売ってるんですか?」
「え?看板に書いてある通りだけど」
「・・・看板って・・・・。オンリーショップとしか書いてないですけれど」
「あぁ!そう!」
「???え?みっ見間違えました?!」
「いやいや、いいのよ。問題ないわ。そうかそうか、それじゃぁ意味わかんないよねぇ」
当たり前だといいたいところを飲み込んだ。
「ちょっと、わかりづらい・・・ですね」
「そうねぇ、補足するならあなたに売れるものは1つしかないって事なのよ」
「え?1つしかない?」
「そう」
「あぁ、まぁオンリーでしょうから何かにこだわった商品を置いてあるんですよね?」
「そういう意味じゃなくて、本当に一個だけって事」
「一個って、何が一個なんですか?」
「欲しいものがあるんじゃない?よく古本屋で探してるけれど見つからない本が一冊だけあるとか?」
「え?!なんで知ってるんですか?」
「なんとなーく」
そういって彼女は立ち上がって、飲み終わったティーカップを下げた。
「もしかして、その本があるとか?」
「あーごめん、本は無い」
期待させといてそれ?!
「そっそうですか」
「本に書いてある内容のほうがある」
「内容って・・・・」
「そう、書いてある内容。だって、あなたはそれを探しているわけじゃない?」
「まぁ、中が読みたいのは確かですが」
「よしよし」
「あの、でも、それっていくらするんですか?」
やばい、売りつけられたら怖い。
お金そんな持ってないし。
500円くらいしかしないはずだぞ。あの本。
「んーっと、いくらだったかな?」
彼女は、天井を見上げた。
私も、つられて見た。
天井だ。
「あ、そうそう、500円だ」
もしかして、適当?
「そっそうですか」
「どうする?」
「見せてもらえますか?」
「残念だけど、あの本の内容からして見せることは無理ね」
「え?どうしてですか?」
「本の中に書いてあること自体が欲しいものなんでしょう?」
「・・・そっそりゃぁ、そうですけど」
「じゃ、決まり決まり」
「え?!ちょっちょっと!!」
聞く耳持たずとはこの事だ。
さっさと、店の奥に消えていった。
そして、真っ白いただの箱を持ってきた。
「おまたせ」
満面の笑みである。
「500円です」
引けない・・
「・・・はい」
受取った。
「あ、その箱は単に入れただけだから。ここで開けて」
箱までケチるか?!
箱を開けたら何も無かった。
「どう?」
「どうって、空っぽじゃないですか?」
「大丈夫よ、あなたの欲しいものは手に入ったんだし」
だまされた値段は500円ですんだならいいや。
早く逃げよう。
「えっと、もう帰ります」
「また、気が向いたら着てくださいね。いつでも、開いてますから」
鞄を持って急ぎ足で外に出た。
紅茶代とでも思っておくか。
まったく、こんな店。
目の前にある店の透明なドアを見た。
そこには、私が写っている。
これは、どういうこと?
「あぁ、お嬢さん!」
後ろのほうから声をかけられた。
いつも行く古本屋の店主だ。
「あれ?あぁ、すまないねぇ。いつも来てくれる子と同じ制服を着ていたから間違っちまった」
「どうか・・・されたんですか?」
「いや、あれだけ欲しがっていたあの本が手に入ったから来てないかと思って外に出たんだよ。いわくつきでね。売りたがらない人が多くて”別人になる方法”っていう本なんだけどさ。」
07:30  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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一方通行

2008.11.07 (Fri)

急な話といえば、急だった。
事の運びはあれよあれよという間に片付いた。
それまでが、長かったわけだが。

私が生まれてすぐ、母は違う男と会う機会が増えたそうだ。
結局、私自身も誰の子かというのはわからないらしい。
出て行った母は、当時私はまだ一歳にもなっていなかった。
感謝すべきは父である。
父は、母のことを信じていた。
子育てにはお金がかかるからという理由からパートに出ていることに。
実際は、男の家にいっていたのだが。
結果、その男とは結婚前からそういう関係であり続けたというのだ。
離婚は父は考えなかったようだ。
そして、いつの間にか出て行った母親を追いかけることなく残された自分の子供かもしれない私を育ててくれている。
 これは、父から聞いたわけではない。
父の母、つまり祖母から聞いたのだ。
たまにやってくる祖母は私を毛嫌いしている。
あんな女から生まれた誰の子かわからん娘をと何度言われたか数えてやろうかと本気で思ったこともあるが、疲れた。

 そんなある日、唐突に父が私に相談してきた。
「デートは、どういうところが女の人は喜ぶんだ?」
あまりのことに、口に運ぼうとしてすくったスプーンの上にのったカレーがお皿に戻った。
「は?」
「いや、急な話なんだがデートすることになって・・・。正直と惑っている。父さん自身いい人だなぁって思って。でも、デートなんてもう随分してないし。どうしたらいいのかと・・・」
「いくつくらいの人なの?」
「5歳年下だ」
「うーん、あんまり張り切るのもおかしいと思うけど。父さんらしいところをみたいんじゃない?」
「父さんらしいところ?」
「うん。その歳でデートしようつったって難しいじゃない。わけわかんなくなって墓穴掘りそう。それなら、普通に食事だけとか。その後の展開は成り行き任せのほうがいいんじゃない?」
「そうか・・・・食事か」
「ちょっとだけ、豪華なランチとか誘ってみたら?」
「そっそうか・・・」
思春期の娘と父の会話が間逆な家庭はそういないだろう。
 そのデートから、2ヶ月もしないうちに結婚することになったといい始めたときは度肝を抜かれた。
ただでさえ、私の存在はまがい物である。
相手も、嫌がるのではと思ったが相手も子供がいるそうだ。
そうか。
いくつの子供なんだろう?
とりあえず、父にとって妻という存在を持つことはやはり嬉しいだろうと一緒に食事することになった。
びっくりするほど美人で、何故父なんかにというのが本音だ。
見かけとは正反対にさばさばした人で、女でひとつで子育てしたという力はあふれて父より頼りがいがありそうといったら申し訳ないだろうか?
反対する要因もなく、結婚した。
引っ越した先は、我が家。
元々、大きな家を中古で買っていたのでこっちに引っ越してきた。
相手に子供がいるといったが、5歳も下なので妹か弟だとおもったら「兄」が出来た。
会ったことなかったが、まさか兄になるような人とは。
といっても、学年は同じ。
つまり、誕生日が向こうが早いだけなんだけれど。
受験で塾という理由から会ったことが無かった。
私は、エスカレータの学校なので受験とは無関係。

一緒に住み始め、母という存在がちょっと嬉しかった。
同姓であるがゆえに、買い物に行ったりとかそういうのを一緒に楽しめる家族というのはすごく嬉しかった。
付き合わされた、父・兄は私たちのはしゃぎように驚いていた。

しばらく、そんな「当たり前の家族」という生活が続いたある日。
インターネットで、メールをしている人が出来た。
メールの内容は、他愛も無いものだが相手が男か女かなどわからないまま日々続いた。
それが、どんどん相手が増えていった。
学校では、友達は少ないためこのメールの相手がすごく嬉しかった。
帰ってきては、即座にメールを確認。
返信を書くことが日課となった。
その中でも、返信を書くとその日のうちに返ってくる人がいる。
その人だけは、男の人だろうというのはわかっていた。
会ってみたいな。
正直、その言葉は何度も喉から出そうになってキーボードのうえにある手を動かしてしまうがすぐにバックスペースで消してしまった。
幻想を抱いて、勝手な想像で、恋した子供みたいに。
あぁ、ダメダメ。

結局、返信が帰ってくるようになったのはその一人になってしまった。
時折連絡は来るものの、返信をしても返事が来る頃には何を自分が書いたのか覚えていないくらい時間が過ぎ去った後。
 あぁ、あの人か。
私のこと忘れているのかと思った。
そう感じるくらいの長さ。
もちろん、それだけ彼とのメールが頻繁になっていたため自分の感覚がおかしくなっているのかもしれない。
学校での出来事、悩み事、色々書いた。
色々、返事をくれた。
時折、綺麗な風景の写真を送ってくれる。
写真を撮るのが趣味なんだそうだ。
私は自分の写真を送ったことは無い。
彼も顔の写真は送らない。
あまりに、長く続けていたので顔を見てみたいというのが言い出しにくくなったというのが実際のところ。

学校から帰っていつもどおり、パソコンの電源をつけた。
当然帰ってきているはずのメールが無かった。
不思議に思って何度も送受信ボタンを繰り返し押したが0通のメールだった。

考えもしなかった。
この人まで失うことになるなんて。
何があったのだろう。
メールでどうかしたのか?という趣旨のメールを送った。
晩御飯を食べてすぐに部屋に戻り、またメールをチェック。
やはり、0通。
誰も、誰もいなくなった。

あぁ、こんな事になるなんて。
つながっていた糸は、とても脆い繋がりだったということを改めて知った。
いつでもお互い糸をはさんで、はさみを持ったままだったのだ。
そして、それを握り締めるのはいつでも出来る。
いつでも。
切れてしまった糸の先をたどることが出来ない。
ただ、こちらから一方的なメールを送ることくらいしか。
でも、あまりしつこく送っても嫌われたくは無い。
現時点で、嫌われていないという保証も無い。
考えがまとまらず、とうとう私自身もそのはさみを握った。

誰一人、私の周りにはいなくなった。
結婚してすぐ、父と母は新婚旅行に行った。
でも、帰ってくることは無かった。
兄と二人だけの家。
兄といっても、同じ学年だし。
お互い、あって間もないし。
喧嘩するわけでもないが、ふれあいも少なかった。
それでも、一緒に居る家族がいることは良かった。
日用品の買い物も、ちゃんと一緒に来てくれるし。
スーパーも一緒に行く。

友達もいない私にできたたった一人のメール友達。
誰なのか。
どこに住んでいるのか。
何をしている人なのか。
歳はいくつなのか。
考えたら、何も知らない。

一ヶ月過ぎた時、机の上に手紙があった。
今時手紙なんて珍しい。
和音さんへと書かれている。
和音とは、私のハンドルネーム。

手紙の中を見た。
彼のハンドルネーム、空よりと書いてある。
新婚旅行に行く両親を見送った兄。
その兄も、この家に帰ってこなかった。

でも、これは兄の字だ。
10:34  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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言葉にならない気持ち

2008.11.06 (Thu)

生まれた、男の子だ。
出産までの道のりは、想像を超えるほど大変だっただろう。
まぁ、自分はどうにも出来ないが。
予定よりも早く生まれた。
それから、箱から出られるまで結構時間がかかったと思う。

「やっほ~!私!」
インターフォン越しに声が聞える。
「おぉ~」

聞いたことあるような声。
はじめてみる顔。
暖かい体。

「生まれたねぇ~おぉ~かわいい!かわいい!よしよし」
背中をリズミカルにとんとん叩く。
「寝てるの?これは・・・?」
「うん、よく半目で寝るんだよ」
「いきなり、ぱたって動かなくなるからびびったよ」
「そうそう」
急に冷たいものが当たった。
気持ちが悪い
「あら?やっぱりだめなのね」
「うん、すぐわかるみたい。やっぱりあったかい方がいいみたい」
「なるほどねぇ~」
「そういえば、お祝い何がいい?」
「ん~何だろう?」
「洋服?」
「そうだねぇ・・・肌着とか?」
「こんなん?」
「いや、もうあるから。もうちょっと大き目が欲しいかも」
「んーと、サイズは何だ?」
「70とか80くらいのやつ。先を見て」
「なるほど」
話しが続く。

欲しいものか。
何がいいだろう。
飲み物だけは切らさないで欲しい。
とはいえ、変なものをもらっても困る。
いつものがいい。
まぁ、オムツも必要だけれど。
沢山あるようだし。
おもちゃといっても、音がするだけで他にもあるし。
早々に大きなものもらっても、遊べるわけじゃない。

「あ、お昼どうする?」
「どうしましょうかね?」
「旦那帰ってくるよ~」
「あら?そうなの?それならおいとまするわ。子供とラブラブしたいでしょうし」
「今から作るし」
「なら、作ってる間見とくよ。抱っこしてる」
「悪いよぉ~」
「いいって。やっと会えたんだもん」
「んーじゃぁ、お願いします」

いい匂いがする。
もうすぐ帰ってくる時間かな。
帰ってきた。

「何してるの?」
「もしかして、鍵閉めた?」
「え?閉めたよ」
「あ、ごめん複数あるけど一個しか閉めないんだよ」
「あぁ、ごめんごめん。それで鍵を挿しまくって閉めたりあけたりして開かなくなってるのね」
「うん(笑)」
「ごめーん!!全部開けてー!!」

何やってるんだろう?

「や!お邪魔してます」
「お久しぶりです・・」
「んじゃ、おいとましますわ」
「お見送りしてくる」
「いいって、ご飯食べなよ。せっかく作ったんだし」
「すぐすぐ!じゃぁ、子供よろしく!」
「どうやって渡したらいいの?首が怖い!ふにゃふにゃ!」
「適当で・・・」
「いいのかよ!」

適当なの?

「じゃ、お邪魔しました~」

欲しいもの。
まだ、伝えてないんだけど。
洋服になったのかな?
迷っているんだけれど。
何がいいかといわれても、何があるかわからないし。
沢山、いろんなものがあふれてて。
それが結構重なってるし。

目新しいものといっても、自分でどうにかできない。
そうか、欲しくてもこれがほしいとは伝えられない。
沢山くれるけれど、自分だけじゃ遊べない。
欲しいもの。
聞かれても、困るなぁ。

結局、何くれるのかな?
今日来たはじめて見た顔の人。
知り合いかな?
ずっと、抱っこしてくれてたけれどちょっとヘタだった。
もう少し、抱き方を覚えて欲しい。
じゃないと、ちょっと寝づらいな。
すぐ、目を覚ましてしまう。

あ、抱っこするとき急に下ろさないで。
冷たいの嫌いなんだ。
14:26  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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よく似た顔

2008.11.05 (Wed)

「最近さぁ、あんたにすっげー似た女見かけるんだよね」
「え?どこで?」
「会社の前」
「へぇ~そんなに似てるの?」
「うん、似てる。っていうかさ、話しかけられた」
「は?!知り合い?」
「まっさかぁ。そんで、あんたの事聞かれた」
「はぁ?!何を?」
「今どうしてる?とか元気か?とか子供はいるか?とか」
「気持ち悪っ、何それ」
「いやぁ、私もさなんか気持ち悪かったんだけど声もあんたとおんなじってくらいそっくりだったから聞いたのよ。親戚の人ですか?って。それなら、受付まで呼びますよっていったのよ」
「うん」
「そうしたら、会うことは出来ないからいいって言われた」
「名前とか聞いた?」
「いや、聞いてない」
「私の事は言ったのに?!」
「なんつーか、一方的に話しかけられてきてそのままハイかイイエで答えたって感じだけど」
「えぇー?!ありえない、やめてよぉ~・・・。気持ち悪いってぇ」
「ごめんごめん。いや、あんまり同じ顔してるから。兄弟とかいたっけ?と思って」
「いないよ、一人っ子だもん」
「だよねぇ・・・。にしても、他人とはどうしても思えないんだよね」
「隠し子でもいたら驚きだ」
「うわっ、何。あんたんちって超金持ちで異母兄弟とかいそうな家庭なわけ?」
「だったら、こんなショボイ会社で私働いていないと思う」
「それもそうね」
「テレビの見すぎ」
「あっはっはっは」

結局、私に似ている人というのはその後もその会社の同僚の前に現れた。
そこで、一緒に同じ時刻にいってみるがどうしても私が一緒だと会えなかった。
なので、彼女だけ行かせて私は別の場所で監視してみた。
すると、現れた。
いつの間に居たんだ?
確かに、自分によく似ていた。
でも、歳は結構上だと思う。

まぁ、会える可能性大だったので質問事項を最初に決めておいた。
①名前を聞く
②何故、私のことを聞く
③私との関係は?

簡潔にこのくらいで!と決めておいた。
私は、じっと眺めていた。
よく似ているが、私と同じ顔ってわけでもないんじゃない?というのが私の感想だったが質問の回答が気になる。同じ女性であってもある意味ここまでしつこいとストーカーだ。
やめてくれ、ストーカーなんぞに悩まされたくは無い。
人の人生に勝手に土足ではいられてはたまったもんじゃない。
あぁ!気持ち悪い。

ある程度眺めて、段々気持ち悪くなってきたので会社に戻ろうとしたら目が合った。
しまった。
目が合った。
そうしたら、相手はものめずらしいものを見るような目で私を見て口を大きく開けた。
そして、その口が笑みに変わる。
真正面から見ると、確かに私の顔だった。

誰なんだろう。

昼休みが終わり仕事中ではあったが気になって仕方なかったので、同僚の彼女に質問事項の回答を教えてよと聞きに言った。
そうしたら、答えが返ってきた。

①田中 マリ
②聞きたいから
③顔見てわからない?

といわれた。

はぐらかされてんじゃねーか・・・。
期待高まっていた回答はあっという間に無意味なものになった。
名前だって、私の名前じゃないか。
まったく、ふざけんなよ。
あーもー、どうしよう?
もし、帰りに現れていきなり襲われたりしたら?!
いや、不意を付いていきなりぐっさいりとか?!
いやいや、ここは堂々と前に現れてかっさらわれるとか?!
家まで付けねらうためにずっと付いてくるかもしれない。
あぁ!!どうしよう?!怖い!怖すぎる!!
よくドラマであるじゃないか!
・・・・。
私のほうがテレビの見すぎかもしれない。
と、考えを落ち着かせた。
会社の就業ベルがなった。
帰り支度をして、同僚のいる部屋に向かった。
「今日、ありがとね。聞いてくれて、あのこっわーい奴に」
「まぁ、世の中似ている奴がいるとかいないとかいうことわざいうじゃん?」
「それは・・・そうだけど」
「うけうりだけどさ」
「すっきりしないなぁ」
「じゃ、また明日ね」
「あ、うん。また、明日」
そういって、同僚の彼女は帰っていった。

沈んだ気分のまま会社の廊下にたたずむ。
深い溜息。
そのまま座り込んだ。
しょんぼりしていると、大きなバッグを持った一緒に帰る人が来た。

「マリちゃん帰ろう。最近、ママがよくうろついてるよね。珍しいな。ここで拾ったんだよマリちゃんが子猫の時」
15:32  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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事件現場

2008.11.04 (Tue)

ベッドに入って寝付けずにいた。
ごろごろしていて、やっと眠れそうという気配が頭の中がどこかへ落ちていく感覚がしていた。
そんな時に、急にものすごいサイレンの音が響いた。
そして、急に音が消える。
何?
と思ったが、そのまま動かなかった。
そのまま目を瞑って、眠れそうな心地よい一瞬を迎えようとした時再度現実に引き戻された。
消えたサイレンの音が、また鳴り出し猛スピードでパトカーが赤色灯を回しながらマイクで声を出している。「通ります、パトカー通ります」
あまりの急発進に、タイヤは軋む音を上げサイレンの音も夜中というのに遠慮なしに爆音。
何なの?
と思ったら、急停車するブレーキ音が聞える。
近い。
さすがに目を開けた。
ベッドからは動けず固まっている。
怖くて起きれなかった。
何が起きている?
この何文字かを頭の中で考える時間くらいの間に、猛スピードで救急車が通り過ぎていく。
そして、同じような場所で音がばちっと途切れる。
止まった。
さすがに、何かが起きていることを自覚せねばならない。
これが、火事だったりしたら最悪だ。
避難を考えなければ。
しかし、パトカー?
事件だろう。
火事なら消防車だ。
枕もとにおいてある寝ながら読むための小さなランプをつける。
人が歩く音が聞える。
近所の住人が出てきて様子を確認している。
これは、起きたほうがいいか?
そう思ってやっと起きた。
寒い。
パジャマ姿のまま部屋を開けると、そこには母もいた。
「あ、起きてた?」
「あんまりすごい音だったから」
玄関を開けそっと周りを見てみる。
近所の住人たちが同じ方向を見ている。
私もそっちへ目線を向ける。
赤い光が点滅しているのが見える。
すぐそこだ。
ほんの少しだけそちら側へ近づく。
でも、道がまっすぐではあるがすこしカーブしているため確認できない。
とりあえず、火事ではない。
だが、あれだけの猛スピードを出すなんらかの事件がおきたということだ。
怖い。
寒さが体をこわばらせる。
いや、怖いという感情がそうさせるのかも。

 次の日の朝、結局寝付けずにほんの少しだけ寝た。
早く起きて、パトカーが止まっていたであろう場所に向かった。
歩いて1分くらいだろうか。
それでも、ここにはまず来ない。
随分昔、子供の頃もう名前も出てこないが友人がこの辺りに住んでいたなと思い出した。
そして、様変わりしていないその中に昨日の何かが起きた場所に付いた。

タイヤの跡。
急ブレーキで出来たようなもの。
止まっていたのは確からしい。

でも、ここは空き地。
何もない。
何なんだ?

あの夜を思い出す。
確かに、パトカーが来た。
間髪いれずに救急車も来た。
静まり返った夜。
聞き逃すはずが無い。
だから、間違いは無い。

しかし、来たはずの車がその後発進する音は聞いていない。
10:24  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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目的と恋心

2008.11.03 (Mon)

どうしても勝てない相手だった。
家柄、あまり表立っていえるような職業ではない。
その中で自分は、この家の長男の護衛をしている。
この家の跡継ぎということもあり護衛業は命がけだ。
沢山の敵からいつでも命を狙われている可能性がある。
いつでも。
この家の長男は、現在高校三年生。
自分よりだいぶ年上だ。
護衛という仕事は自分の身軽さをかってくれたこの長男のおかげだ。
デメリットとして、力では勝てない。
あくまで技を駆使して、小さな武器で対抗するしかないが身長が小さく身軽な分護衛として働いている人間たちは鍛え上げられた腕力で捕まえようとしても自分より倍も小さい人間を捉えるのはかなり苦戦していた。
 その中でも、どうしても勝てない相手が居た。
護衛をしている人間なのに、髪が長い。
いつもひとつに束ねている。
女のようにリボンのような紐で下のほうに束ねている。
本当に長い髪だ。
腰くらいまである。
護衛をしているのに邪魔じゃないのだろうか?
そして、こいつだけにはいくらやりあっても決着が付いたことが無い。
体格もそう変わらない。
少し、向こうのほうが身長が高いか?
結局、いつもどちらかが引くしかない状況になる。
決着をつけることが自分たちの目的じゃない。
 もちろん、護衛を護衛として動けぬようにするのが一番だが守るべきものを逃がすことが最優先だ。
ある時、どんな人間でもこの業界にいる場合は顔を出さなければならないパーティーが行われた。
通常、外で待っているのが普通だがこの場合だけは同伴した。
ただし、一名のみと限定されていた。
お互い騒動は起こす場所ではないということだ。
顔合わせといえば、聞えはいいが誰が生き残り誰が死んだのか誰が逃げたのかそういうのを確認するだけの場所。
後は、新参者が居る場合はそれの確認。
その、護衛の一名に自分が抜擢された。
驚いた。
外には、護衛仲間が待機しているが無線の使用は禁止されている。
パーティーが始まった。
長男からは絶対に離れてはならないが、仕事の邪魔になっても駄目だ。
やりづらい仕事だ。
「そんな怖い顔して無くてもいいよ、どうせ今日は顔合わせなんだ。何も起こらない」
「守ることが仕事です。気は抜けません」
「じゃ、これでも飲んだら?」
渡されたシャンパングラスに口をつけた。
おもいっきりむせた。
「げほっげほっつ!!」
アルコールが初めてだった。不味い。
「あれ?お前もしかして、アルコール駄目?」
「げほっ・・・ い・・ いえ・・・ げほ・・」
言葉にならない。
突然、背中をとんとんと叩かれてさすられた。
誰かとは気に留めることも出来ないくらい本気でむせていた。
ホテルのフロアレディーが水を持ってきてくれたのでそれをもらった。
飲み干す。
一息ついたところで振り返った。
「こんばんは、大丈夫?」
少し笑った顔をしていた。
それは、いつも決着の付かないあいつだった。
急に自分の顔が変化するのはわかった。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。別にやりあう必要ないし」
「仲良くする仲でもない」
「そうか?別に問題は無いだろう?」
あいつの左手が自分の腰に触れた。
「そういう趣味は無い」
振り払って、空のグラスを持ってその場を離れた。
そして、少し離れたテーブルに置いた。
その一瞬だけ、長男から離れた。
戻ろうと振り返った時、あいつの右手が何かを持っていることに気づいた。
あいつと目があう。
いつもの獲物を捕らえようとする目だ。
いつも自分をあの目で見る。
いつも自分をあの目で誘う。
いつも自分をあの目で突き刺す。
慌てて戻る。
右手が長男の背中に狙いを定めている。
防ぎきれない。
そのまま、自分を盾にして長男と背中合わせにたった。
定められた狙いの位置に、自分の胸があった。

また、目が合った。
目が離せない。
完全に負けた。
その笑った顔は、とても優しく微笑んだ女のような顔をしている。

思い切り何かが上から下へ通り過ぎた。
叩かれたか殴られたかわからなかった。
反動で、長男と共にその場に倒れこむ。
スローモーションのように、側にあったテーブルがひっくり返る。
上においてあったグラスやワイン。
料理の全てが中を舞う。
地面に自分が倒れた瞬間、あいつが再度何かを振りかざした。
それが見えた。
一気に起き上がり力の限り相手を押し倒した。
すぐに腹を蹴られ飛ばされる。
体制を整える暇もなく、自分も持っていた小さな武器で応戦しようとしたが力が抜けた。
膝が折れ、その場にうずくまった。
立てない。
目がかすむ。
あいつが側にゆっくりと歩いてくる。
靴が少しずつ近づいてくる。
声も出ない。
騒ぎを聞きつけた他の仲間が長男を連れて行くのが見えた。
あぁ、良かった。
後は、自分だけだ。
護衛は守られることは無い。
守るべき対象を守ることが全て。
それが成功したのなら自分はどうなってもいい。
あいつがしゃがみこんで、顔を覗き込む。
まったく力が入らない。
抱きかかえられるようにあいつが自分を起こす。
抵抗する力も出ない。
なんで、こんなに力が入らないんだ。
何をされたんだ。
わからない。
何とかピントが合うくらいに顔がものすごく近い。
そのまま、唇が押し付けられる。
嫌がることも出来ない。
何かが口の中に入った。
駄目だ。
飲み込んじゃ駄目だ。
そう思っても何かは口の中で溶けてしまった。
あいつの手が背中に回る。
抱きしめられる。
何をする気だ?
もう駄目だ、目を開けていられない。
耳元で聞きなれたあいつの声が優しく囁く。
「最初から狙いは君だったんだよ。男のフリをしても無駄」
16:28  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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会話

2008.11.02 (Sun)

我が家には猫が沢山居る。
猫が好きではあるが、いつの間にか増えている。
まぁ、何故か猫は猫のいる家をわかるらしく行く場所が無くなったら世渡り上手な猫はいついてしまう。もちろん、甘え方も上手なので可愛がってしまうのだが。
 おかげで近所では猫屋敷と有名になり、近所は猫嫌いが多いため完璧な標的だった。
1対何かわからないほど、敵は多い。
敵という理由は、相手が手段を選ばないからだ。
猫を減らすためならばまったく手段を選ばない。
つまり、殺すことが一番手っ取り早い。
彼らにとって自分たちに不都合な物としか思えないようだ。
そのため、猫にとってはかなり不服だろうが家の中で閉じ込めることにした。
とはいえ、出つけた猫がいきなり閉じ込められることを了承しない。
出る!と窓際で訴える。
それで、苦肉の策として犬のように長い紐をつけて庭に出した。
単にひなたぼっこがしたいだけだ。
それでも、一応近くの道など犬のように猫に紐をつけて散歩するが猫は歩かない。
ただ、じっと景色を眺めていたいようだ。
後は、猫会議にも出席したかったようだがそれはできないと説得し続けるうちになんとか理解してくれた。
脱走するという手段を覚えたのもあるが。
ピンポーン
ある日、突然インターホンがなった。
「はい」
なんだ?とおもいつつでてみるが返事が無い。
最近のインターホンではないので画面などは付いていない。
玄関まで行き、玄関のドアの横にあるすりガラスから様子を見るが何か居る。
ただ、人ではないことは確かだった。
そっと、玄関を開けてみるとそこには犬がいた。
犬種は・・・、何だろう?
中型犬で、細くて、耳がぴんと立っていて、ドーベルマンのように見えるが色は体全体茶色。
それに、ドーベルマンよりは小さい・・・とおもう。
首輪をつけていて。
何より驚いたのが、その犬と、犬のそばに置かれた犬用のベッドにドックフードにトイレシート。お気に入りであろう使った形跡のあるおもちゃ。それから、リード。洋服のセット。ドックフードにいたっては肥料か?とおもうほどどでかいのが10袋はあった。
何事だ?としか、言いようが無い。
そして、犬のベッドの中にはきちんとした縦型の白い封筒がおかれており娘さんへと書いてある。
中の手紙を読んだ。
とても達筆な字で書かれている。
「勝手な申し出ですが、急にどうしてもこの犬を手放さなくてはならなくなりました。いつも、あなたが猫を散歩させているところを見ており動物を大切にしていると感じていました。どうか、この子をよろしくお願いします。」
と書いてある。
 猫屋敷として有名ではあるが、犬を連れてこられるとはさすがに驚いた。
犬自身も、少ししょんぼりした顔をしていた。
母は玄関先を見て驚愕し、なんじゃこりゃ?!と犬よりも、犬とお供に置かれた犬グッズに驚いていた。
何より大反対するのは、うちにいる猫たちだ。
いうまでもないが、うちの猫たちにとっては犬は敵だ。
何度もいじめられてきたため、大嫌いだ。
それが、テリトリーに入るなど言語道断だ!と目で訴えていた。
説得は難しいとおもったが、放り出すわけにもいかない。
私の部屋を大慌てで掃除して、犬ベットが入るスペースを作った。
「おいで」
といったら、素直についてきた。
ちゃんと、ベッドの上に座りぺとんと力が抜けたように寝た。
置かれている状況はわかっているようだ。
今にも泣きそうな顔をしている。
困った・・・。
頭を撫でてやると上目づかいで私を見ている。
うーん・・・本当に困った。
トイレシートを近くにおいて。
犬グッズの中に不足しているものなど無かったので、寒いだろうとおもい服を着せた。
どのようなタイミングでご飯をあげるのかわからなかったので少しだけドックフードをお皿に置いた。
あと、お水も側においてみた。
にしても、まったくなかない犬だ。
首輪を見ても名前も書いてない。
これだけこの犬のことを大切にしていたのならよほどのことがあったのだろう。
 結果的に、我が家の先住猫であるもの達から嫌われたのはいうまでもない。
夕方、散歩に行こうか?といってみたら起き上がったのでリードをつけて散歩に行った。
犬の散歩など小さな頃、親戚のうちの犬を連れて歩いたこと以外ない。
トイレセットまでちゃんと用意されていたのだから驚きだ。
どうみても、この犬は毛が少ないので寒そうだったから沢山の洋服の中から暖かそうなものに着替えさせて散歩に行った。
躾けはされているというと失礼だが、この犬は私の言う人間の言葉をある程度理解しているようだ。
車が来て危ない時、待て。というとちゃんと止まるし。
行こう。というと歩き出す。
犬とすれ違っても、じゃれあうこともないし。ほえることも無い。
兎に角、大人しすぎる。
運動不足がたたって自分のほうが疲れた。
「ごめん、普段歩かないから疲れちゃった。帰っても良い?」
といってみた。
すると、くぅーんと鳴いたのだ。
「あ、やっとしゃべった!」
といって、私は頭を撫でた。
家について、服を着替えさせた。家で着ていたやつに。
リードもはずすと、そそくさと置いていたご飯を食べに行った。
散歩をした後にご飯と決まっていたのかもしれない。
ぺろりと食べて満足したようで自分のベッドに座った。
私は、手を洗い部屋に戻った。
寒かったのでココアを入れて飲んだ。
じーっとこっちを見ている。
「どうした?」
といっても、特に何もいわない。
「わんっていってごらん?わんって」
といっても、だめだ。
犬って結構、わんわんほえるイメージがあったんだけど。
こんなに何も話さない犬がいるんだな、と考えを改めた。
テレビを見ていたら、急に犬がそっと私の膝の上に乗ってきた。
かわいい奴だ。
抱っこしてテレビを見ていた。
暖かい。
体の割りに意外と軽い。
それから、毎日、猫たちからは批判を浴びるものの犬との生活は続いた。
名前は、一度だけ鳴いたくぅーんという事から、「クウ」にした。
クウ!と呼ぶとちゃんと振り向くし、お手もおかわりも出来た。
だが、いくらいっても「わんとないてみ?」だけは、だめだった。
テレビを見るときは、どうやら膝の上に座るというのがクウの癖だ。
クウもテレビを見ている。
わかるのかなぁ?
もっぱら、アニメしか見ないんだけど。
テレビを見ながら、クウに言った。
「本当にお前はなにも話さないんだね」
そうしたら、クウはテレビから私のほうをへ視線をうつし口を開いた。
「だって、わんって言えとしかいわないんだもん」

確かに、「わんっていってみ?」としかいったことなかった。
話してみ?とは言ってない。
ていうか、話すのか?!
11:46  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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