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体感型ゲーム機

2009.03.31 (Tue)

遂に来たこの体感型ゲームというもの。
発売前からそれはそれは楽しみにしていた。
アトラクションやそんなものじゃない。
家庭用ゲーム機での体感型というのが何よりも売りなのだ。
どう体感するのかというのが、一番のポイントだろう。
大きなサングラスのような透明のメガネをかけ、その先には二股に分かれており上のほうはこめかみの位置にフィットさせもう一方は耳の下の骨のところにセット。
つまり、骨伝道タイプの音声だ。
更に、このメガネにはマイクも内蔵されている。
あと、めがね自体かなり大きなもので鼻まで覆いかぶさるような感じになっている。
匂いまでわかるようだ。
手には、専用のシールを手の甲につける。
それで、セット完了だ。
 私は、あまりゲームというものが得意ではないがこの体感型ゲーム機ファイブセンスならば楽しいだろうと思ったので予約して購入。
そして今、プレイをしようとしている。
私が選んできたゲームは、アクションゲーム。
銃をぶっ放して、どっかんどっかん撃ちまくって爽快感溢れるゲームをしてみたかったわけ。
ゲームスタート
すごい!下を向いても、地面が砂だ。
「おい!何をしている!行くぞ」
「あ、はい!」
そっそうだ、会話もできるんだった。
「おい、新人。お前、名前は何だ?」
「えっと…トウコです」
「トウコという名前なのか?」
「はい」
「女か?」
「はい」
「いいか、トウコ。この地域の戦闘は激化している。あれをみろ」
指を指された方向を見ると、大きなビルがある。
「あそこが目指すポイントだ」
「はい」
「トウコの持っている銃の弾は補給部隊に出会うまでに無くなったら落ちているものを拾って補充しろ」
「わかりました」
「トウコ、俺はグレイザーだ」
「グレイザー…」
「上官だぞ!呼び捨てをするな!」
「すっすみません」
銃を構え、敵を撃つ
「よし!いいぞ、トウコその調子だ」
「はい!」
「背を低くして進め」
「はい」
銃を撃った感覚。
撃った後の反動。
衝撃。
焦げた匂い。
すごい!このゲーム!楽しい!
面白くてどんどん進む。
「おい!俺の前を行くな!危ないぞ!」
「大丈夫です!進みます!後ろの援護お願いします!」
「お前が命令するな!」
あと少し、あと少しでビルに着く。
着いた!
「トウコ、新人とは思えないタイムだ。すごいな」
「ありがとうございます」
がざっ
音が聞え、銃を構える。
「どうした?」
「音がしました」
「わかった、先に進め」
「はい」
「いた!」
連射して、敵を撃つ。
「その調子だ!進めトウコ!一番上の階にいる男を狙え!」
「はい!」
一気に階段を駆け上がり、一番上についた途端、突然飛び出して来た敵が手榴弾を投げた。
「きゃぁっ!」
悲鳴を上げつつ足でその手榴弾を蹴っ飛ばしたが、間に合わず吹っ飛んだ。
「何、これ・・・」
「手榴弾だ」
「それくらいわかります、っていうか本気で痛いんですけど」
「当たり前だ、最初に説明があっただろう?それに同意していると書類を受取っているぞ」
「何の話ですか?」
「体感型ゲームは、実際に体感した状態になる。つまり、怪我をすればその怪我の痛みもファイブセンスを通じて脳に送信される」
「えぇっ?!カットできないんですか?!私、ダメージ受けて後一個しかライフゲージないですよ?!」
「死んだらまたセーブしたところからのやり直しだ」
「そうじゃなくて!」
「他に問題があるのか?」
「死んだらどうなるんですか!」
「死ねばわかる」
「ここでセーブします!もういいです!止めます!」
「無理だ」
「はぁ?!」
「セーブポイントは、決まった場所にしかない」
「ふざけないでよ!死んだらどんな痛みが・・・」
言い合っていたら、背中から銃声がした。
たった一発の銃声が。
その、銃弾が自分の背中を通って抜けていく感覚が全身を襲った。
力が抜け座り込む。
「トウコ!」
胸を見ると血がどんどん溢れている。
「トウコ!大丈夫か?!」
「大丈夫なわけ・・・ないじゃ・・・ない」
目の前が真っ暗になった。
目を覚ましたらグレイザーの顔が目の前にあった。
「どうして・・・」
「救護班を呼んだ、今、手当てをしている。体力ゲージが戻るまでじっとしていろ」
「もうゲームを止めたいの」
「無理だといっているだろう」
「どうして?」
「説明はゲーム画面の初めにあっただろう?この世界のなすべきことをやり遂げない限りゲームは終了できない」
「え・・・?」
あの、長い説明文に確かに同意したけど読んでないよ。
そんな、いちいちあれ全部読めっての?
っていうか、このゲーム。
ダンジョンが30はあったよね?
それを、ずっとゲームし続けるの?
それって、寝ることも食べることもできないのよね?
「大丈夫だ、クリアすればゲームは終了だ。この体感は他では味わえない。味わったら最後、抜け出せなくなる面白さだ」
「・・・抜け出せなくなるって、冗談よね?」
「冗談?何を言っている、このゲームで既にゲームクリアを迎えることができずにゲームを終了したプレイヤーは沢山いる。それくらい、既に出回っている情報だ。それも、了承したことだろう?」
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08:20  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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ふたつの人生を歩む女

2009.03.30 (Mon)

目が覚めたとき、私はこの世界にいて息をしてよし!と気合を入れる。
目を瞑って、目を覚ました時、その世界でよし!と気合を入れる。
それが、当たり前だと思っていた。
「夢じゃないの?」
と、誰も信じてくれない。
だが、私は二人居る。
今は、この世界で普通に学校の先生として働いている。
専攻は音楽。
もうひとつの世界では、私ははっきりいって極悪非道の人間だと思う。
ま、この世界と比べ物にならないくらい理不尽が横行しているけれど。
学校での仕事は、昔から習っていたバイオリンがきっかけでとはいえそこまで賞を取れるほどうまいわけではなく並程度。
大学で専攻したのは教育学部。
 元々、音楽の先生に成り立ったという夢もありその夢をかなえたわけなんだけれど親からは大反対を受けた。
「今時、学校の先生なんて苦労しかない!子供なんて相手せずバイオリン教室の先生にでもなったほうがましだ!」
というのである。
両親の意見も「確かに」と思うところはもちろんある。
実際の現場を知らないけれど、あまりにも教育者の質が落ちて更にはそれにつけこむように「体罰だ!」などとでしゃばり何もいえない立場を利用して子供を押さえつけ親である自分を正当化するその姿を見ている子供は、いつまでたっても親のおもちゃでしかないだろう。
親が世界であり、すべてとなる。
先生などというものの存在というのは、単なる学校で勉学を教えるだけの人になりさがった。
教育ではなくもうすでに事務的にただ教科書にのっていることの解説者となっているのではないだろうか?
 ただ、「体罰だ!」と叫ぶ声の中には「行き過ぎた指導」があることも確か。
それこそが、教育者の質を下げた一番の要因だろう。
情けないことに、大学の教授や学校の先生など指導者たるものが性犯罪で捕まるニュースが流れるのが当たり前になってきた。
そんな中で「先生の言うことはちゃんと聞きなさいね」と言ったところで信憑性はほぼないといっていいだろう。
その信憑性を獲得するのは、その教育者の力量でしかない。
普通の会社と違って業績を上げれば腕がいいと見られるわけではない。
曖昧ではかりにかけることのできないコミュニケーションによって成り立つ信用をいかにして作り上げるかそれは確かに大変だ。
私は、生徒にも恵まれていると思う。
教育者としてそれはどうか?という意見もあるかもしれない。
けれど、今の子供たちというのは中身が子供であって情報は大人並だ。
相反するその情報を処理する能力は、子供が過ごしてきた期間で答えが出される。
子供と話してわかったがその情報に揺さぶられ、メディアを信用するのか親を信用するのか一体何を信用したらいいんだというわけのわからないまま時が過ぎ高校生にまでなっている。
本当におかしなことに基本的な部分が欠落しているのだ。
 氾濫している情報に信憑性もない。
何が危険なのか、なぜ大人がそれほどまでに騒ぐのか、作っているのは騒いでいる大人じゃないかというのだ。
まったくもってそのとおりなので言い返す言葉は、無い。
 家に帰り、私が寝ると私は目を覚ます。
「遅い」
そういわれた声は、もうひとつの世界の私。
「悪い、ちょっと残業があって」
「残業?また、例の悪夢か?いい加減にしろ」
こっちの世界でも、この私が二つの世界を生きていることをわかってくれない。
「さぁ、今日はこいつからだ」
「あぁ、こいつか。随分と派手なことをやったもんだな」
「派手だと?!ふざけるなよ、さっさと支度しろ」
「わかったよ、呪札の用意を頼むよ」
「呪札?今日は必要なのか?」
「あぁ、こいつはそれだけのことをした刻印が必要だ」
「・・・わかった」
私は、白い服に着替える。
ハイネックの白い長袖。
丈は靴が隠れるほど長い。
横には再度スリットが入っており下には白いパンツを履く。
真白いエナメルのような材質の靴を履き、長い黒髪をまとめひとつにくくりその紐には文様が描かれている。
ドアを開け、階段を下りる。
最下層まで降りたところで重い木のドアを開ける。
「呪殺の刑だ、処刑をはじめよう。悔い改めることなど無意味、死して二度とこの世に戻らぬようお前に呪縛をかける」
 この世界では、私は処刑人の死刑実行を職業としている。
教師をしている世界では考えられないが、この世界では魔術が基本的な動作を司っている。
その術の中でも、金術といわれる類の拷問を専属とする。
「味わうがいい、己の罪の深さを」
いつもどおりの言葉を目の前にいる死刑を執行におびえる受刑者の目を見つめ私は呪文を唱えた。
08:59  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(1)

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消える消しゴム

2009.03.29 (Sun)

「おやまぁ、珍しい。こんなところによく来たね、お仕事ですか?」
出てきたのは、とても人当たりのよさそうなおばちゃんだった。
「いえ、旅行で。なんとなく、通りかかったらここが気になって一泊しようと思って。部屋、空いてます?」
「・・・そう。なんとなく、ね。部屋はこちらですよ、さぁどうぞどうぞ」
一瞬、おばちゃんの顔が曇ったような気がしたが気のせいかな?
久しぶりに旅行に来た。
目的地は別の場所だけど、車を運転していてトンネルから出た先の下にある街。
気になって車を止め、街を眺めているとまるで別世界のように感じた。
旅行なんてめったに来ないし、時間も沢山あるからここで一泊してみようかなと思ったの。
旅館なんてあるかな?って思ったけど、意外とすぐに見つかってよかった。
荷物を置いて、歩いて街を散策した。
最近買った一眼レフのカメラ。
初心者用とはいえ、苦戦している。
それでも、コンパクトデジカメよりシャッターを切るのが早いのでとても楽しい。
気になった建物や看板、最後に海を撮影した。
夕方になった頃、私は旅館に戻った。
戻ると旅館には叔母ちゃんが出迎えてくれて「おかえりぃ」と笑ってくれた。
「ただいま」と返事をすると、「晩御飯もう少し待っててね」といわれ部屋に戻った。
部屋はレトロな雰囲気を出したインテリア。
意外とおしゃれな内装である。
「失礼します」
先ほどのおばちゃんの声だ。
ふすまを開けた。
「ごめんなさいね、もうすこし時間がかかりそうなの。近くにお土産屋さんとか開いてるから見てきてごらん。珍しいものが沢山あるのよ」
「そうですか、じゃぁ見てきます」
とくにおなかが減ってたまらないわけじゃなかったので、そのお勧めされた土産屋に向かった。
そこは、土産屋というより駄菓子やだと思った。
「いらっしゃい、珍しいお客さんだね」
「こんばんは。そこの旅館のおばちゃんが珍しいお土産さんがあるって教えてもらったんです」
「そうかい、そうかい。ゆっくりみていきな」
おじいさんが、にっこりと笑って答えた。
駄菓子しかなく、特に、名産のお菓子などもない。
けれど、お菓子ではないものがひとつあった。
それは、消しゴム。
それも、その消しゴムに巻かれた紙には「消える消しゴム」と買いてある。
つまり、食べるなってことを言いたいのだろうか?
いや、消しゴムなら消えて当然だろう。
「それは、中々仕入れが難しいんだよ。よくわからんが、買って行く人が多くてね」
「多いんですか?」
「あぁ、そりゃぁあんた。多いなんてもんじゃないよ」
「へぇ・・・」
百円だしと、この駄菓子屋で消しゴムを二個買った。
「どうも、ありがとさん」
そのまま旅館にゆっくりと帰った。
「お帰りなさい、ご飯でてるよ~」とおばちゃんが出てきた。
部屋に戻ると、それはそれは立派なご飯が出来ていた。
どれもすごくおいしくて、海の近くというだけあってお魚はすごく新鮮でおいしかった。
朝早く、旅館を出て目的地を目指す。
旅行はとても楽しいものだった。
「どうだった?」
会社に出社して、みんなにお土産を配った。
「写真持ってきたよ、見る?」
「見る見る!」
同僚の女子社員が写真に群がってきた。
私は、現像に出したまま、まだ見ていない。
その間、休んでいた分仕事はたまっているので色々と書類を書き込んだ。
その時、鉛筆で書いていて思い出した。
消しゴムのことを。
バックから取り出し、ひとつ封を開けて使おうと思ったのだ。
総務の私は、新入社員の名前をはんこを注文するために書いていた。
下書きをして。
普通なら、ボールペンでそのまま注文書くらい書くのだがとても珍しい名前で見たこともない漢字だったので鉛筆で下書きをしたのだ。
よくみると、間違っていた。
書き順もおかしいからだろうか、字も変だ。
書き直そうと思って、書いた苗字だけを消した。
「ぎゃぁ!」
突然、悲鳴が聞こえた。
何事?!と部屋を飛び出して廊下を見た。
そこには、半分しかない新入社員が倒れていた。
縦に半分になっている。
「なっ何なのよ、これ?!」
新入社員は「助けてくれ!助けて!」そう叫んでいる。
私は、あの消しゴムを持ったまま。
まさか、と思って書類の名前を全部消した。
苗字だけでなく、名も。
すると、突然、皆戻ってきた。
「あれ?あの子は?」
「あの子って?」
「今廊下で倒れてた・・・」
「え?誰か倒れてたの?」
「え、だって、さっき新入社員の」
「あ」
「何?!」
目線の先には消しゴムがある。
「下書きしてしてたのよ。検定の。名前まであなたの名前書いちゃった。見本にしてたの。消しゴム借りるね」
「ちょっ、ちょっとまっ・・・」
10:02  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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今だけ特化の大セール!

2009.03.25 (Wed)

にこにこと女性がチラシを持ってきた。
「今だけの特別セール価格となっております」
女性は得意げにその値段を示す。
どう反応してよいかわからず、この店に来て椅子に座りだされたコーヒーを飲みながらため息が出た。
「…そうですか」
それ以外の言葉は思いつかなかった。
「大変お安くなっております。いかがですか?こちらの商品、素敵でしょう?」
女性は、カタログをめくりながら聞いてもいない説明をどんどん進める。
勝手な進行に呆れながらも、どれにするか決めなければならないので気が重い。
今まで来たことのない店でこんなにも種類があるものだとは思いもせず、驚いたのがまず一番。
その次に驚いたのが値段だった。
女性は、得意げというか最高に自信があるというような値引率を提示しているがそれでも私には驚くような値段だったのだ。
かといって、値段だけ見て安いと思うと必要なものがそろっていなかったりと。
結局は、驚いた値段に戻る仕組み。
 あぁ、面倒だ。
でも、どこかの誰かに決められるよりはと選んだ道。
そう、何かをここで決めなければならないわけだし。
逆に言えば、私はラッキーだと思うのよ。
普通は、こんなことありえないし決められるものじゃないもの。
自分じゃね。
だけど、私は自分でやれるし自分の好きなように出来るし
それまでにやってしまえば後々になってもめることも無ければ迷惑をかけることも無いわけで。
色々、やってみると案外あってさ。
大変だったのよ。
それこそ、フォーマットを自分で作ってパソコンで書いてさ。
あれやらこれやらと色々用意して。
全部、一人に対して二枚必要だから。
文章は同じでいいけどね。
あて先とかさ色々あるじゃない?
ほかには、その人がどういう関係の人かとかそういう人物の関係図みたいなのを作っておけば管理するほうも楽でしょう?
そういう期間がもてたことと、そういう時間を与えられたってことは
これも奇跡のひとつじゃないかしらって思うわけよ。
「生前葬は、最近とても華やかに行うものです。もちろん、生前葬を行っていたとしてもお葬式を別途することも可能ですから今のうちに当社で予約していただければ割引サービスございます」
人の死も、商売になるんだなと。
唯一、誰の死でも喜んでいる人なんだろう。
これほどまでに、余命宣告を受けた本人に生前葬を希望したとはいえ笑って話せるのだから。
それも、死んだ後の予約まで取ろうとしている。
なんだっけ?
こういうの。
あぁ、そうだ。
地獄の沙汰も金次第 だっけ?
まぁ、地獄に行くかどうかは知らないけれど。
この女ほど人を殺していないと思うし。
多分ね。
08:30  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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何がしたかったのか

2009.03.24 (Tue)

沢山の荷物の中から、ひとつ取り出した。
後はすべてどうでもいいように感じた。
それを手に取り、ただ、この止まることをしない人間の街を歩いた。
ただ、歩いて。
ただ、ひとつ手に持って。
それだけで、十分だと感じた。
持っているものが尽きた時は一体どうなっているのだろうか。
公園のベンチ。
駅の前にある広場。
噴水の前。
駐車場の一角。
すべてが、材料で。
すべてが、存在しないところにあって。
 気がついた。
時計をしていることに。
あぁ、なんて無駄なものを。
一番、無駄なものを捨て忘れているなんてと苦笑した。
外して、そのまま手を離した。
再び、歩き出す。
ただ、前に。
ただ、前に歩く。
それだけしか、出来ることはない。
止まっても。
それは、動きを止めるだけで何も変わらない。
否、変化というのはじわじわと起きているものだから気づきにくい。
いつのまにか変化し終わっている。
終わったときには、今になっているから進んでいる先のことなどどうでもいい。
今、どうあるべきか。
今、どう生きるか。
今、どう進むのか。
それだけが、ただ手にあるものを活かせるたった一つの理のようなものではないだろうか。
あぁ、なんて体が重たいのだろう。
すべてを脱ぎ捨てたいと思っても、纏わりついている何もかもが重たくて
それが絡み付いているからこそ失われてしまう出口がわからなくなり、失っていることさえ気づく子が出来ずにただ前に進み続けて。
 そして、死ぬんだ。
結局、思うんだ。
こうやって、たったさっきまで生きていたやつが死んだといわれても
そうかとしかいえない。
それ以上、何を言えばいい。
死ぬときなんて誰も決められない。
同じく、生まれるときも。
それと、同様に止めることが出来るのはただペンを置いたとき。
解放される。
答えが出せる日が来るだろうなどという無駄なものを背負って歩き続けるだけの先の話のこと。
体が動かなくなったら、その答えが出るのか?
生きていたという証は誰に残る?
それは、何を意味する?
一体それは、何に対する答えだと思う?
歩き続ける僕には、車の後部座先にいるようで実感が持てない。
それだけだ。
たった、それだけのことだ。
08:20  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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私の家

2009.03.23 (Mon)

小さな頃住んでいた私の家はねとても素敵な家だったの。
けれど、どうしてもそこに住むことができなくなったの。
大きな音で目が覚めてびっくりして飛び起きたわ。
ベッドの上で下の階で音がするのよ。
ドン・ドンって。
それから、走ってくる足音。
ママが叫んでるの。
「逃げて」「早く」
だけど、怖くて動けなかった。
お兄ちゃんが隣の部屋にいるのに来てくれない。
お兄ちゃんが「窓から飛び降りろ!来るな!」って叫んでる。
私は急いでベッドの下にもぐったの。
それから、ベッドの横にある本棚の後ろに入った。
誰かが私の部屋に入ってきて部屋中を散らかしていくの。
すごい音がして。
なんて言ったらいいかわからないけれど、パパの声とママの声が喧嘩してたと思う。
でもそれがいつの間にか、いつか怒られた時のようなりんごを投げつけた音に変わったの。
私は、この家が好きだったからどうしても今の家から戻りたくて帰ろうと思った。
でも、わからないの。
私の部屋の窓から見てたいつもの外の風景。
それは、白い大きな家が三軒右隣にあって。
白い家の左斜め前に緑色の家があったの。
そうそう、緑色の右隣には変な色した家があってね。
白い家の四軒先にある右の家は赤い壁をしてたわ。
その、赤い壁をした家の二軒左には青い家があってその家の左後ろに水色の家があったの。
水色の家の家の前にはパン屋さんがあってとてもおいしいのよ。
パン屋さんは、いつも四軒配達に行ってたわ。
最後の家は、黄色い屋根をした家なの。
ミルクを頼んでいるのはうちだけ。
だから、パン屋さんはいつも家を出て右に曲がって配達していたの。
斜め後ろにある黒い家はとても怖いおじさんが住んでいてあまり行かなかったわ。
黒い家の右斜め前の家の隣はピンク色の家でね、とても素敵なおうちなのよ。
いつも、虹が書いてある壁が窓から見えてその家が茶色になった時、ちょっと寂しかったな。
私の家は、すぐにわかる場所にあるから誰も迷わないの。
周りがとても、カラフルだからね。
だって私の家の色は、無いから。

08:20  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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ちょっとお休みします

2009.03.23 (Mon)

娘(猫)の容態急変 看病に徹します。
年なので難しい状態ですが側にいます。

心配かけてすみません。
コメントありがとうございます。

経過を書いておりましたが削除しました。
容態は不安定のまま変わりません。

さて、削除した追記ですが突然削除したため「どうした?!」と連絡があったので戻しますね。
それと、容態もほんのちょびっとですが落ち着いてきたとまでいかないけれど
少しご飯を食べてくれたので
だいぶいいようです。
最初のに比べると。

時折?
多分、毎日追記に経過は書くと思います。
よくなることを祈りつつ。

では、ブログを再開します。
07:04  |  未分類  |  Trackback(0)  |  Comment(14)

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ナイフとフォークとあとひとつ

2009.03.22 (Sun)

揃えれば寂しくないわ。
たった一つ足りない。
けれど、そのたった一つがどうしても見つからない。
何故かしら?
部屋の中を探しても
机の上を見ても
すべて、揃っているというのに
たった一つ
それだけ、無いの
一人ずつテーブルについたわ。
最後の晩餐。
これが、最後なの。
どうして最後なのかしら?
皆、ただ、黙ってじっとしている。
目の前に並べられたワイングラスに注がれる。
赤い液体。
嫌いな匂いとゆれる表面がその先にいる人をぼかせて見せる。
あぁ、気持ちが悪い。
足りない。
無いということが。
それから、黒い服を着た男が目の前にスープを置いたの。
とても、食べられるような代物とは思えないもの。
これを、頂くのかしら?
それが最後の晩餐なの?
「さぁ、諸君。今日は集まってくれてありがとう。最後に、この晩餐を開けたということが最大の幸せであり最大の悲しみであろうことを分かち合おう」
グラスを高々と上げて、テーブルの端にいる老けた男が枯れた声で言ったわ。
皆もそれに合わせるように、でも、仕方なくといった様子でワイングラスを手に取る。
あぁ、足りない。
これでは、食べられない。
スープが目の前にあっても意味が無いわ。
最後の晩餐でこの食事をするの?
ありえない。
いえ、当たり前ともいうかしら。
ワイングラスを手に取り口をつけその味が口の中を支配して、早く水を飲みたいと感じさせる。
スプーンがあるのに、どうしてないの?
これじゃ、スープは飲めないわ。
08:20  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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それを証明するには

2009.03.21 (Sat)

「母さん、ちょっといい?」
長男の玲が母親である真央の部屋をノックした。
「いいよ」
真央は座っていた回転する椅子をドアのほうへ向け、ドアを開けた玲が入ってくるのを見た。
その後ろに次男の涼がそっと玲をつけている姿も。
玲がドアをゆっくりとドアを閉め溜息。
振り返り真央を見る。
「座ったら?」
そのままの姿勢で真央は足を組んで玲にソファーを指差した。
玲が座ったと同時に、真央はドアに向かって声を出した。
「どうせなら一緒に入ったら?」
聞き耳を立てていたであろう涼がそっとドアを開け真央を見る。
そして、部屋の中を見渡しソファーにいる兄の眼を見て一瞬伏せた。
二人とも。
部屋に入るのを躊躇している涼の姿に真央は何も言わずただ涼がソファーに座るのを待った。
「俺、病気かな?」
それが、玲の言葉だ。
真央に向けられた目線は真剣と不安混じらせたもの。
表情はいつもと同じ。
隣に座る弟は兄の手を握って震えている。
「何故?」
真央はそれだけの返答した。
「俺は母さんに引き取られてとてもよかったって思ってる。今もすごく幸せだし沢山兄弟もいる」
「そう、兄弟は多いわね」
真央は結婚をしていないが、養子をかなりの人数迎えていた。
「俺の場合は、弟とも一緒に引き取ってもらった」
「ほかの子達は、兄弟がいなかったから。多分、いれば一緒に引き取っているわ」
「うん」
「それが、病気と何の関係が?」
「俺は、みんな好きだけど…」
「弟である涼に対する気持ちは、好きが恋愛の好きだということは病気じゃない」
言葉に詰まるのを察した真央は間髪入れずに答えた。
うつむいていた顔を上げ真央を見た。
「母親だ、そのくらいわかるさ。十人十色、いろんな考えがあるだろう。それを全員に理解を求め同意を求めるなんていうのは不可能の話さ。どう生きるか、どう人を愛するか。それも、人それぞれの話。パートナーが異性でなければならないという気持ちがなんとなく根本にあるのは動物としての記憶だと私は思ってる」
「動物?」
「つまり、子孫を残さなければパートナーは意味が無いと本能的に思うんじゃないかな?」
「・・・じゃぁ、俺は」
「私は結婚をしていない。理由は子供を生むことができない。動物として考えるなら子孫を残せない無意味な存在とされるだろうけれど、人は理性を持っている。理性は、感情をより強く動かすもので動物のように生きるために残酷にもなれない部分もあれば、感情に振り回され理性で抑えられていたものを爆発させたとき最上の悪魔のような存在にだってなれるだろうね」
「・・・うん」
「つまり、パートナーが誰であろうとそれが問題ではないって事。そして、人それぞれの考え方があり恋愛の形だって沢山ある。否定的な人が多いのは現実的に多いだろう。宗教的にも禁じているものだってあるだろうし。差別される対象になりやすいけれど、多数の考えを一旦受け止める事はしたほうがいいと思う」
「うん」
「非難されてもね」
「うん」
「非難する側は、それなりの言い分がある。その非難した人にどうしても理解を得たいときはとことん話すしかない。でも、理解を得ようと思わない人であればそれは特に説明する必要も無いだろうと思う。相手にとって不愉快なことを受け入れろと押し付けても仕方が無いだろう?」
「母さん、僕はみんなのことを愛してる。もちろん、涼のことも好きだ」
「二人ともその気持ちは同じなんだね?」
「うん」
「でも、この前母さんが仕事で家にいなかったとき男の人と女の人が来て俺達のことこの家から引き離すっていったんだ」
「え?」
突拍子も無い話に真央は驚く。
「誰?誰が来たの?」
真央は立ち上がり玲の前に座り目線を合わせた。
「わからない。でも、多分、福祉局とかそういう人じゃないかな?」
「福祉局だといったの?」
「覚えてない・・・でも、僕と涼に話があるって言って名刺貰った」
「後で名詞見せて」
「うん」
「それで、その二人は何を言った?何で引き離すなんていった?」
「僕達が、母さんに育てられるのはいい環境じゃないって。母さんは親としてのまともじゃないっていってた」
「何よ、それ」
「よくわからない。でも、理由はどうあれ引き離すことは決まってるからっていってて」
「どういうこと?」
「母さん、僕はみんなを愛してる。今のこの家族を失いたくないんだ」
「当たり前よ、私がちゃんと話すわ。大丈夫よ」
「ううん、大丈夫じゃないんだ。もう時間が無い。だからね、ちゃんと僕達がみんなを愛してみんなが大好きで母さんはちゃんと親として立派だって事を伝えたい」
玲は、目のまね意いる真央を抱きしめた。
「母さん、僕は失いたくない。それだけをわかって」
玲の体温が真央の体から急になくなった時、涼は真央の視界にはいなかった。
気がついたのは首に何かが絡みついた感触と頭に鈍い音がしただけ。
なんとなくある意識の中で、真央はリビングにいることがわかる。
リビングには子供達全員が同じように寝ている。
玲と涼は、二人で赤い帯紐を腕にくくりつけ何かを飲んで真央の側に寄り添うように横になった。
リビングに手紙がある。
それは、たった一行のメモ。
家族を愛している、奪われるくらいなら奪われないところに僕達は行くことにする。
それが、小さな子供の必死に考えた結果だった。
 真央の仕事先の人間が連絡が取れないことを不審に思い家を訪ね発見される。
福祉局と名乗ったのは、まったくの関係ない人間でありなんと時折子供の世話を頼んでいた近所のおばあさんの知り合いだということが判明した。
真央は、仕事柄時折家を開けることがあったがそれを知ったおばあさんは真央が家にいない間に勝手にあがりこみ世話を始めたのだ。
好意だと最初は思ったが、その最初の時お礼を言いに言った際そのおばあさんはこういった。
「子供が八人もいて面倒見た結果がお菓子なの?まったく呆れるわね。お金くらい持ってきなさいよ」
真央がある程度の収入があることを知っていたようだった。
その真央が家を開けるタイミングは決まっておらず、まったく知らせてもいないのに勝手に世話をしては金銭を要求するのが手口だった。
世話といっても、子供の話しによれば何もせずただテレビを見ているだけでご飯の用意も何もかもいつも通り子供達だけで留守をしていたときのように、自分達で用意をしそのおばあさんの分まで作らなければならなかったという。
 世話をしたという言い分だけ通してお金を要求するため真央は領収書を作った。
また、真央にも疑いがあったためしばらく様子を見ようとした矢先だった。
金銭が家からなくなるということが多くなったのだ。
子供がどうしてもほしいものでもあって取ったのかとでも思ったがどうもそんな様子が無い。
そこで隠しカメラを設置してすべてを録画するようにしていた。
何もかも。
福祉局などと名乗った男女二人と近所のおばあさんは逮捕されたが、逮捕時、取材陣のテレビに向かって堂々と述べた。
「子供の世話をするっていうのは、ただ側にいるだけでも疲れるの。それを、好意でしているとはいえお礼にお菓子だけなんて非常識よ。当たり前の話でしょ?そんなもんもらったってしょうがないのよ。金貰ってもねぇ、あんなはした金しかくれないのよ?二時間もいてやってるのに三万しかくれないのよ?あの女、もっと稼いでるんでしょぉ?常識の無い人間のすることなんて本当に信じられないわ。どこの子供か知らないけれど引き取って、結局あんなふうに殺されかけて。あんなもの育てたって無駄世無駄。だからね、言ってやったのよ。みんな殺して死んじゃえば連れて行かれないって。私は親切でしてるのよ?なんで逮捕されるの?まったく世の中おかしいわ」
08:21  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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名も知らぬあなたへ

2009.03.21 (Sat)

あなたが来たときの事、実はいつか覚えてません。
ただ、仲が悪かったわね。
お互いいい印象は無かったと思うわ。
けれど、だんだん年をとっていくとともにある日突然あなたはびっくりするような姿で現れた。
私はとても驚いたけど、そうやってともに生きてくれる人が見つかったのなら
よかったと思ったのよ。

でも

あなたはいつもうちに来て
いつも私を見上げていた。

どうして?

その問いに答えてくれることも無く

あなたと同じ模様をした子供をつれてきたママが
今私の家にいついている
本当にそっくりでびっくりしたよ
ママとはまったく模様が違うから
どうして仲がいいのかと不思議だったけれど
ママが以前お世話になっていた家の人が打ちの前を通ったときに教えてくれたのよ
「この子の子供だよ」って
本当にあなたにそっくり

でも、性格はママゆずりだわ
ちっともなついてくれないの
ママはとても美猫だから色々人間が触ろうとしたり捕まえようとしたりしたんでしょう
それがとても怖かったんだろうね
だから、今でもまったく心を開かない
そんな親を見て育った子供たちも同様まったく心を開いてくれないわ

そんなあなたの子供たちが次々とうちに来るというのに
あなたをある日見たとき驚いた
姿を見せないなって思ってたよ
どうしたのかなって

でも、見つけたとき何があったのかなんて私には想像がつかなかった
仲が悪いというのはもちろん私もわかってる
私のことを嫌いだって言うのもわかってる
それでもね、差し伸べられるのなら手を伸ばしたかったの

けど、あなたは怒って背中を向けてしまった

放っておいてくれ

そういわれたのはすぐにわかったよ
その時からあなたのいるところに行くのが怖かった
それでも気になってとうとう意を決して行ったのよ

でも その場所は面影を変えてあなたがいた場所はなくなっていた

それからどのくらいかしらね
いつものようにあなたの子供たちにご飯をあげようと窓を開けたらあなたがいたのよ
いつもの顔で
顔だけすっごくかわいい顔して
きゅんっって甘えたような顔で、でも耳はもう頭の後ろにつくくらい引っ付けて怖がっている顔だけど
いつものあなただった

「あぁ、よかった!よかった!元気になったのね!」

そういったわ

うれしかった
うれしくて、本当にうれしくて
うちの子供たちをいじめたりして喧嘩して怪我させたりと
私もあなたのことを怒ったりして仲悪かったけど
すごく心配してたのよ
だから、すごくうれしかったの

なのに

目を開けたらベッドの上だった

夢だったのね
夢に来てくれたのね

ねぇ
あなたは
空に旅立ったの?
予感はしたわ
あの怪我で飲まず食わずで手当てもしなければどうなるかくらい

看取る勇気も無かったけれど
心配していた私の気持ちは伝わったのかしら
だから、夢に出てきてくれたの?

ねぇ

それとも 元気になったよって夢で伝えてくれたの?
そんなわけないよね
それなら 顔見せるよね

本当の名も知らぬあなたへ
どうか お元気で
星と月からあなたが幸せになれる場所へ行けるように祈ります

もし 元気になったら また 遊びにきてね
待ってる
怒らないからさ
おいでよ
ごはん うまいのあげるから
08:20  |  星に願いを  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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探したよ

2009.03.20 (Fri)

無言で渡されたこの小さな小さな巾着。
手作りのお守りのような小さなもの。
突然、渡されて。
突然、目が合って。
突然、理解した。
何を意味するものなのか。
何を指していたのか。
だけれど、それはどこにも思い当たるものが無くて。
あまりに突然で、どうしたらいいかわからなくて。
走れる先があるなら走ればいい。
向かうべき場所があるなら向かえばいい。
何かすることがあるならすればいい。
全力で。
すべてをかけて。
「・・・・」
無言で、ただ持っていた。
彼女が手に持っていた巾着を受け取った。
目を見て。
それがわかって。
何が彼女の意思なのか。
けれど、それがわからなくなった。
否、元々わかってなど無かったのかもしれない。
曖昧に、言葉を交わして。
曖昧に、気持ちをかすめて。
曖昧に、触れた。
「わかった」
そう答えたけれど、今では足がすくんで動かない。
どうして?
何故?
理由も、彼女の結果も。
すべて、思いつくことが無い。
何もできないという事を知る。
何かしたいという思いだけが空回り。
それでさえも、自分のエゴではないのかと。
何処にも答えなどあるはずも無いのに。

最初から巾着なんか無かったのだから。
08:05  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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羽の生えた子供 リゼット・クライトマンⅨ

2009.03.19 (Thu)

両親はすぐに私を捨てた。
教会に。
それも、教会の十字架の前で側にあった小さな十字架で私の体を貫通させた。
両親はこういいながら十字架を振り下ろしたわ。
「この悪魔の子供をお返しします。私達には何の罪もありません。この子供は悪魔の子供、どうか救済を」
けれど、私は死ななかった。
 その後、その教会のシスター・マリアが私を見つけ私を捨てた両親の元へ返したの。
「救済され浄化された子供です。育てなさい。これは、神父様からのお言葉です。従いなさい」
両親は、何も言い返さなかった。
私は地下に閉じ込められ何もできない幽閉生活が始まった。
大きくなるにつれ私の背中の羽は絵に描いたような天使と呼ばれる人に似てきた。
見た目も両親とはまったく異なる金髪で青い目をしている。
両親は黒髪だし、目も青ではない。
私が7歳になったとき、勝手に外に出た。
「リゼット?君が天使のリゼット?」
突然、教会の近くを歩いていたら同じ年くらいの子供が話しかけてきた。
「そうだよ、私の名前はリゼットだよ。どうして知っているの?」
不思議だった。
会ったこともない子供が何故私の名前を知っているのか。
どうして、彼らには羽がないのか。
「だって、君は有名だよ。天使だって」
話しかけてきた男の子は顔を赤らめつつにっこりと笑って見せた。
私は、笑ったことがなかった。
「どうして、天使なの?どうして、君には羽がないの?」
聞いてみた。私にとって不思議な疑問。
大人になったら羽がなくなるのかと思ったから。
「羽がある人間なんていないよ!」
男の子は笑いながら言った。
「私は、あるよ」
「だから、君は人間じゃないんだよ。天使なんだよ」
「天使ってなに?あの絵本に出てくる人のこと?」
「そうだよ、空にいるんだ。神様の側にいる人のことだよ」
「神様って誰?」
「教会の十字架にいる人だよ」
「どうして、十字架に縛り付けられてるの?悪いことをしたの?」
「ちがうよ、悪いことなんてしてないよ。だって神様だもん」
「会ったことあるの?」
「あるわけないじゃん」
「じゃぁどうして、そんなこと知っているの?」
「誰でも知ってるよこれくらい」
そう言い放って男の子はどこかに消えてた。
神様?
天使?
不思議な事を話す子供だと感じた。
何故見たこともないものを、当たり前のように話すのか。
 この日、私が外に出たことで村中にはやり天使があの家にいるということが広まった。
それが私にとって不都合とは感じていなかったが両親は隠しておきたい存在だったようだ。
私のことを。
何故なのか不思議だった。
村人達の反応はとても好意的で「是非天使様にあわせてくれ」という懇願する声が聞えてきた。
地下にいてもわかるほどだ。
だが、両親は決して私を村人と会わせようとしなかった。
「外に出るときはこれを着なさい。それと、絶対に誰とも口をきいてはだめ。いいわね」
母の強い口調はいつも以上にこわばったものを感じさせた。
この洋服が何を意味するのか私にはわからなかった。
けれど、その服を着ているなら外に出ていいという母の言葉。
外に出られるならと喜んで着たが誰一人私に声をかけなかった。
どうして?
でも、口もきくなといわれている。
理由を聞くすべはなかった。
私は、誰とも話すことができなくなってしまったから教会で毎日歌を歌った。
村人はそれをききにやってくる。
けれど、誰一人私と話そうとしない。
それどころか、あれほど会わせてくれと懇願していた村人達が私を恐れるようになっていた。
何故?
何故なのだろう?
私の羽はかなり大きくなってきていた。
普通に飛ぶこともできるのだけれど、飛んではだめだと父から強く言われている。
だから、教会の屋上に上る時以外飛ばない。
教会に私がいるときは、歌っているとき以外村人は寄って来ないから。
背中が大きく開いたこの洋服。
もちろん、羽を出すためなんだろうけれど。
どうして、この服を着なければならないのかな?
この服を着て、羽を見てみんな怖がっている?
でも、天使。
神様に仕える側にいる人なんでしょう?
こんな立派な建物の教会に、まったく似つかわしくない像がある。
それは磔られた人の像。
この人が神様という人らしい。
会ったことはないからわからないけれど痛そうだ。
その会ったことない人に私は側にいたと思っているのかな?
「どうして、羽が生えているのかきいてもいいか?」
それは、随分昔私に話しかけてきた男の子だ。
もうあれからどのくらい経っただろうか。
十年は経っただろうか。
口をきくなという教えに戸惑ったが、誰もいない。
少し躊躇したが答えた。
「どうしてといわれても、私は小さな頃からずっと生えてる」
「天使は空にいるものなんだ」
「私は、天使じゃないよ」
「人間でもない」
「どうして?」
「羽が生えている人間なんているわけないだろう」
「じゃぁ、私はなんなの?」
あまりの物言いに私はちょっと不服な顔をした。
羽を広げ屋上の梁からふわりと少年の前に降り立った。
まっすぐ、その少年の目を見つめ私は怒った顔のまま黙った。
少年の顔は青ざめているが私から目を離そうとしない。
「私は・・・」
そういいかけたとき、少年が私を抱きしめた。
それが、十七歳の冬。
人のぬくもりと、羽のない背中を触ったのがはじめてだった。
少年が私の耳元で一言つぶやいた。
「…好きだ」
その意味が私はわからなかった。
ただ、温かいとその少年の体のぬくもりが気持ちよかった。
08:13  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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開いた口がふさがらない

2009.03.18 (Wed)

私はただ買い物をしていただけだった。
必要最低限の買い物しかしない。
それくらい、限界値に近い経済状況である。
とはいえ、必要最低限にとどめたところで出て行くものは出て行ってしまう。
諭吉さんがお財布にとどまってくれることは殆ど無い。
食費がなによりうちは多いと思う。
子供が沢山いる。
一人、食べることが困難のためその子に合うもので食べやすい味のものとなるとこれがまた高いのである。
とはいえ、それをケチってしまうわけにはいかない。
食べなければ死ぬだけ。
そう、死んでしまうのだ。
ほかの子供達は、元気といえば元気だ。
食べるし遊ぶし後はよく寝る。
仕事柄、私は自宅待機が多い。
待機している間は、もちろん、無対価である。
そりゃそうだ。
とはいえ、取られるもんは取られていくのである。
一体何のために働いているのだろうと不思議に思う。
必要最低限すら買えない時もある。見えないからいいだけでといってごまかすかな。
髪も散髪に行けばお金が必要。
そこで、自分で切る。
出かけなくても、病院代はいるし、薬をもらうために行く病院だが
行って効果はあるのだろうかと最近思う。
二分もかからないお話と血圧計るだけで千三百円。
毎回同じ。
そして、薬局でいつものお薬代が千三百円。
薬自体の効果はある。そう、ある。
そして、それを急にやめるのは危険な薬。
実際、この病院に来て体調が救われたのは事実で色々うまくいかないのが体調に左右されてしまう現状が一番自分が腹立たしい。
普通に仕事して、仕事帰りに出かけて、お酒とか飲んで。
そういう生活をしてみたい。
していたこともある。
それが、出来なくなってしまった。
普通っていうことが何より一番幸せで、でも、入院している人から見れば家にいるだけでも幸せじゃないという言葉があるだろう。
そう、上を見たらキリがないし下を見てもキリがない。
みんな、自分の位置を歩くしかない。
良い方角がどこか解らなくとも歩き続けるしかないのだ。
そのぎりぎりの生活の中で大半を占めるのが税金で。
ちょっと前に起きた事件で、私は失笑したことがあった。
年金を二重払いしなければならない事態に陥ったときがあった。
理由が納得いかず、猛抗議した。
厚生年金も国民年金も払えというのである。
つまり、その月は年金だけで約三万必要になる。
冗談じゃない!と怒ったら、受付担当のお姉さんが「そうですよね・・・」としんみりしていた。
どうにかならないのかと。
どっちかに加入していればいいだろう!といったのだがダメだった。
そこで後ろからきた年配のおじさんが一言
「六十歳になったら両方加入してるから、支払いも両方支払われるので還元されますから」と満面の笑み。
一体、私をいくつだと思っているのだろう。
激怒していた私は、あまりのフォローの仕方に失笑してしまって笑っちゃいけないと下を向いたら最初に受け付けていたお姉さんも肩を震わせ必死に笑いをこらえていた。
私が六十になった頃は支給年齢が七十くらいに引きあがっているのではないだろうか?
もう、言う言葉をなくした私は支払いに応じた。
 季節が変わる頃、お財布にとってやさしい時期が来る。
それは商品入れ替えのための大セールという名の投売りだ。
返品のきかない商品や季節物の商品などは破格になる。
セールかごを漁って、漁って、いいものをチョイス。
最近、子供達のご飯も値上がりしてその商品入れ替えのため破格になったりもしくは商品自体が撤退するため投売りセールがよくあるのだ。
今日はありがたいことに、冬物の子供達用の毛布みたいなのがあるんだけどそれが欲しかったのね。
でも、698円もしたわけ。サイズが去年より小さくなっているのに。
買ってあげようと思ったけど無理だったのが、なんと198円に!
こりゃ買いでしょ、と二枚購入。
何故二枚かというと、これ、ひざ掛けにちょうどいいのよ。
私のね。
あと、お風呂の入浴剤。
母のこだわりで、そのこだわる理由が暖かく感じるという理由から白くにごるタイプじゃないとダメというおきてがあるの。
その、入浴剤はあったかくなるとすぐにクールタイプになっちゃうから買いだめしておかないといけなくなるのだが意外と高い。
と、思う。
で、いつもは398円(安くて)を購入していたのだけどそれがなんと298円。
そしてそれが投売り台いいるということはこの子達がラストチャンス。
肌が弱いので入浴剤はなるだけ入れている。
かゆくなるのだ。
なんでだろうね。
財政難だということで粒を我慢してたけど気が狂いそうだったから最近出来た店に行ってみたらあったのよ。
でもそれが、あたりかどうかわからなかったけれど見た目ではかなり合格点に近かったの。
でね、お店の人が「時折、大量に買っていく人がいるんですよ。食べる方はすごい量買われます。やめられないんでしょうかね?」って不思議そうに。
粒は、なんらかの成分を持っているんじゃないだろうか。
なんにしても、誰かの舌には合格した粒。
買ってみようと決心。
以前買っていたものよりも少し安い。
これも、薬だと思う。
 そう思って、レジでお財布の小銭入れのファスナーを開いた。
それからお金を出して支払った。
レシートを貰い財布におつりをいれファスナーを閉めようとした。
「あれ?閉まらない・・・」
何故か閉まらない財布をそっと鞄に入れ、家に帰り私は財布に説明をした。
「必要なものしか買ってない!安くなってたものだったの!確かにまとめ買いしたけど、なくなっちゃうんだよ!今買わないと!節約はきちんとしてるの!」

ティラミス賞味期限前だからって二個で398円が200円だったのに目がくらんだせいだろうか・・・。

財布は、まだ、口を開けている。
08:20  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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無料の対価

2009.03.17 (Tue)

モデルをしている俺としては、姉と比べられるのがあまりいい気はしなかった。
姉と俺は兄弟で年子。
異性なのにも関わらず、瓜二つの顔立ち。
そのため比べられるのだ。
身長も男としては俺は低い。
女性としては高いほうだろうか?
モデルとして考えたら二人とも低い。
俺は、論外に低い。
 そんな時、姉が突如売れっ子モデルになった。
雑誌の特集で新人モデルとして出たことがきっかけでブレイク。
何が人生の転機になるものかわからないのが、不思議なことだ。
この特集は、雑誌に載る代わりにギャラは発生しないというものだった。
つまり、メイクや洋服など全てが自費で行わなければならない。
こういう事は新人である以上普通のことだ。
誰も、名も知れない人間にお金を出すはずがない。
当たり前の話だが。
 その時、姉は流行りにとらわれず姉の主張するファッションを取り入れたものをチョイスして撮影に望んだ。そのときはかなりのバッシングを受けて帰ってきた。
あんなものが売れるはずがないと。
ところが、本が出た後、話題となったのは姉の奇抜なファッションだった。
あれは、どこの服ですか?という問い合わせが殺到したという。
それから、その姉のセンスとファッションを組み合わせ突如ブレイクした新人も出るとして登場。
もちろん「おめでとう!」と心から祝ったが、心の隅に自分の存在の小ささを感じていた。
 そんな日々が続き、姉はモデルの仕事で生計が立てられるようになり俺はまだまだバイトとの両立だった。
姉が、ある日俺の部屋にやってきてある提案をした。
「これ、出てみたら?」
オススメだと言うその切抜きは、モデル募集の広告だった。
姉と同じように、雑誌に載る代わりに全て自分のスタイルで来いというものだ。
もちろん、ある程度の書類選考はあるだろうが行ってきなよ!私と同じチャンスがあるかもしれないんだよ!という姉の言葉と姉の姿に迷わず俺はその広告に書いてある電話番号に電話して応募した。
 撮影当日、俺のファッションの全てをつぎ込んだ恰好をして指定された撮影現場に着いた。
想像以上に撮影スタジオは立派なもので驚いた。
「あぁ、来たね!」
そういって、笑って声をかけてきたのは若いカメラマンだった。
「よろしくお願いします」と一礼をすると、カメラマンは無言のまま俺を見ていた。
不思議に思い「あの、何か?」と声をかけると、カメラマンは意味ありげな含み笑いをして立ち去った。
かなり先に行ったところで振り返り「よろしく!こっち来い!」と叫んだ。
言われるがまま、カメラマンの場所まで走りついていく。
カメラマンはどんどん先へ進み、スタジオとは別の建物に入った。
その時、声に気付いた。
女性の声とベッドのスプリングが弾む音。
嫌な予感がして足がすくんだ。
「こっちだ、来いよ」と、カメラマンがいう。
今までついていくのに走っていったが、歩いてその場所まで歩いた。
「ここで着替えて」
と、指示された。
「え?でも、俺はこの恰好がベストだと思って着てきたんですが」
と、意外な指示に驚いてそう答えた。
「君には別のモデルが似合うよ」
そういわれて、入った部屋の扉は閉まった。
部屋の中には、女性がいて俺に服を全部脱いで欲しいという。
だから、服を全部脱ぎ下着だけになった。
それから、女性はしげしげと俺を見て「よし!」とした顔をして服を探し始めた。
その後、目の前に並べられていくのは女性用の服ばかり。
段々と、嫌な予感が核心に近づいていく。
「まさか、それを着ろとか言わないですよね?」
そういうと、女性はにっこり笑うだけで何も言わない。
服は着ずにバスローブのようなものを着せられ、メイクをするという。
男性モデルでもメイクはするからその点に違和感は感じなかった。
目を閉じてじっとしていた。
メイクが出来上がって、目を開けようとしたら「ダメ!目を開けちゃ」といわれた。
そのままくるっと椅子を回転させ目の前にある服を着せられる。
これは一体・・・
そのまま、先ほど聞えていた女性の超えのする部屋に連れて行かれた。
「あぁ、やっぱり。すごく似合うよ」
「これは一体、どういうことですか?」
「いや、すごく似ているから。お姉さんに。意外と、こういう写真もいいかと思うんだ。セクシー路線でいくのもさ。別にいいだろ?雑誌に載れるんだ。これがきっかけとなるかもしれないんだぞ?衣装まで用意したんだ、メイクもしたんだ。さぁ、後は仕事をしてくれよ」
後ずさりした俺を腕をカメラマンはすかさず力いっぱいつかんで、聞えていたベッドのスプリングの上に放り投げた。
隣には、男性がいる。
「よろしく」
そう、笑う男性に俺はただ抵抗することだけしかできなかった。
男子学生の制服を着た俺を白衣を来た男がただ襲っているとしか思えない写真を撮っていく。
本気で俺は抵抗した。
 だが、逆にその表情がいいとカメラマンは言い続けた。
撮影が終わった時には、俺の着せられた服はボロボロに破かれていた。
「タダってのはそれだけで何でも許される世界だって覚えておいたほうがいいよ。お前のねーさんが売れてるだろう?それも、清純なイメージで。それが、壊れたイメージを売るには似た兄弟でもいれば金になる。簡単なことだ、何も全てが自分のイメージどおりのモデルになれるわけじゃない」
 それ以来、俺は売れっ子モデルになったことに違いはない。
姉に似た姉と同じ顔をした女顔の男が、男に絡まれている写真が売れている。
最初に出会ったあの時の白衣を着たモデルの男とは今、同居している。
人生、何があるかわかったもんじゃないなと思った。
今では、姉はすでにモデルとして成り立たなくなり普通の会社員に戻っている。
形はなんであれ、お金を稼ぎ出しているわけだ。

まぁ、姉と俺が最初から入れ替わっていることは誰も気付いていない。
09:10  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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先見師

2009.03.16 (Mon)

「入れ」
その声が広い畳の敷き詰まった部屋に響く。
先見師の女はひな壇の壇上に座っており、ひな壇には先見師の顔が見えないぐらいに薄い生地であしらえた幕がおりている。
部屋には四方にある灯籠の明かりのみ。
薄暗く、先見師の前に座布団がおいてある。
入れという言葉に、障子が黒い服をまとった男二人によって開けられ入ってきた男女が座布団を見つけそこに座った。
「あの…私は」
そう、男が話し始めたとき先見師は言葉をさえぎって話した。
「名はいらない。名に惑わされることが無きよう名を聞かぬ主義だ」
「…わかりました」
入ってきた男女は、男は神妙な顔をしておりどちらかというと何かにすがりたい一心でここにきたという表情をしている。
一方、女はうつむいたまま前を向こうとしない。
「聞くが、二人は夫婦か?」
「はい」
男が答える。
「ここへきた理由は、子が死んだ理由を聞くためか?」
先見師がそういうと、男は目を見開いて言葉を失った。
女はその言葉に体を一瞬びくつかせる。
先見師の女は、正座をしていたが足を崩し椅子の肘掛に肘をついて頭を支えた格好をした。
「子が死んだ理由を私から話してもかまわない。女、何かその前に言うことはないか?」
女は、うつむいたまま何も語ろうとしない。
「時に、子は何人だ?」
先見師は、誰もいない女の隣を見つめ質問した。
男が「三人です」と答える。
「となると、一人が長男、二人目が…、いや下は双子だな」
「そ…そうです」
何故わかるのだろうと男は目を丸くした。
「ご主人、あなたは初婚かな?」
そういった先見師の声のトーンが今までとは違う雰囲気になった。
「…はい、そうです。二人とも初婚です」
「二人とも?」
先見師の声のトーンが戻った。
「女、私は何もかも見えている。過去はひとつしかない。そのひとつが目の前に見える。そして、何よりお前の横にお前の子供が全員そろって並んでいる。ついて回ってお前から離れようとしない。お前からたったひとつの疑問に答えてもらいたいがためだ」
女の顔色が悪くなっていく。
男は、わけがわからない様子だ。
「どっどういうことですか?子供達って…」
「本来、ここは未来を占う場所。過去の過ちを暴く場所ではない。女、先を見るには過去の清算も必要だ。このまま、何も語らずこの場を去るもお前の勝手だ。だが、覚えておけ。お前に未来は無い。子供達がお前を連れ去るだろう」
その言葉を聴いた途端、女は顔を上げた。
「嫌よ!嫌!なんで、私が!私は自由に生きたいのよ!私の自由でしょ?!私が生んだ子供なのよ!どうしようがあんたに関係ない!」
女は、全身を震わせながら先見師を睨みつけた。
「あぁ、私に何の関係も無い。苦しむのはお前一人だ」
女は、立ち上がって部屋を一人で逃げるように出て行った。
男は部屋に取り残され、頭をうな垂れてこうつぶやいた。
「俺の…予感、当たったということですか?」
「…予想以上に惨いものだがな」
男の目から涙が溢れ「あなたに、違う答えが聞けたらとそれだけを…それだけを…疑ってしまう自分が嫌で…」そう最後に話、立ち上がり部屋から出る前に一礼して出て行った。

 「先見師のなど、なるものじゃないな」
先見師の女は、この館に来て日は浅い。
元々、このような占いではない類のものというのは信じる信じないはその個人によって左右されるが完璧に当てる能力とでもう言うのだろうか。
そんな力を持った人間がいる。
それが、先見師。
そういう人間は、多かれ少なかれ無自覚のままこの地下深くにある部屋の一番上の玄関の門をたたく。
「ここ、お寺ですか?」
きっかけは何でもいい。
そう、きっかけとは後で気づくものでありそのときそれが重要なポイントであるというのは先見師でさえこの地下の部屋でなければはっきりとは見えない。
地下の部屋には先見師の力が増幅されるようまじないが施されている。
そのまじないも代々受け継がれているもので根拠となるものは無いが、その部屋に入れば先見師はいやおうなしに見えてしまうのだ。
過去も未来も。
入ってきた人物の。
自分を頼ってきた人間の。
その、最後の瞬間まで。
「あの女、何が楽しくて自分の子にあんなことができるんだろうか。私には先が見えてもその人間が何を考えているかなんてわからないからな」
そう、障子を開ける男二人につぶやいた。
男の一人が答える。
「理解などできぬものが人という存在ではないでしょうか」
ふっと鼻で笑ってひな壇から先見師が降り笑って答えた。
「その通りだな」
一升瓶を片手に酒を飲む姿。
みっともないと感じるその立ち振る舞い。
だが、中身はただのりんごジュース。
同様に、人は中身が何でできているのか開けてみないとわからないだろう。
12:06  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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奇跡が迷惑だったのね

2009.03.16 (Mon)

たった、二時間の話。
それだけだったのよ。
「見てるよ」
そういったのよ。
でも、見てるの意味をわかってない。
わかってなかった。
私が目が覚めたとき、あなたは怒鳴ってた。
いえ、怒鳴った声で目が覚めたの。
もう疲れていて私も限界に近かった。
いろんなものに目をつけて音に集中して体を動かして。
どうしてなのかしら。
何故、怒鳴ることができるの?
動かなくなったほうがよかったの?
動き回るからって怒鳴るわけ?
どうして?
何をしようとしているのか
何がしたいのか
どうして聞いてあげないの?
なんでそんなことができるの?
そんなことするくらいなら、どうして私を起こさなかったの?
せっかく、せっかく、今、生きてるの。
生きてるんだよ?
冷たくないの。
暖かいのよ。
声のトーンでわかるのよ。
怒鳴られてるってことくらい。
小さくても、赤ちゃんでもわかるんだよ?
どうして?
萎縮して、怖いって言ってる。
だから、逃げ回ってるのよ?
やっと、歩けるようになったの。
やっと、動けるようになったの。
それが、少しずつでも小さな赤ちゃんは頑張って生きてるのよ?
赤ちゃんは頑張ってるの。
何を言っているのかなんて全部わからないよ。
でも、それを、理解しようと歩み寄るのは側にいいる者がすることでしょう?
何を考えているの?
「死ぬと思った」何度言った?
どうして、何度も言うの?
何度いえば気が済むの?
そんなに、今の現状が不服なの?
あの時、終わればよかったって
そのまま冷たくなっていればよかったって
そうすれば、自分の手を煩わすことの無い楽な生活が待ったと思ってたのね。
渡さない。
絶対に、渡さない。
もう、あなたを信用することなんてできない。
私は、守るわ。
私のできる全部を私はすると決めたの。
後悔したくないの。
もう、どんな結果になったとしても、後悔したくないの。
今できる精一杯をする。
そして、私はずっと言い続ける。
「大好きよ」って。
私は、ずっと、言い続ける。
あなたとは、違うのよ。
私の娘に触らないで。
側に来ないで。
話しかけないで。
もう、渡さない。
絶対に、渡さない。
誰にも、渡さない。
「大好きよ、一緒にいようね」
私は、言い続ける。
間違ってた、あなたの子供じゃないからどうでもいいと思っていたのね。
だから、どんなことがおきても最悪の事態を期待していたのね。
よく、わかった。
うそつきの言葉って、こんなことにならなければよかったというほうが本音だということが。
もう、聞きたくない。
奇跡はね、起こした後も続かなければ意味が無いのよ。
08:20  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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記憶が理解できた時

2009.03.15 (Sun)

覚えていること。
記憶というのは、断片的に覚えていてそれが小さいころの話だと理解できていないことが多い。
理解していたつもりであって、本当の意味が隠されている大人の会話など特に。
言葉通りの意味を信じて大人は仮面をかぶって子供の前で笑っている。
どうせ覚えていないだろうという勝手な思い込みからだろうが。
 俺が小学生低学年のとき、父が入院した。
未だ父が死んだ理由を知らない。
入院した父は、何度も入退院を繰り返していたが見舞いに母に連れられて行っていても何の心配もしていなかった。
ただ、父は外出していてここに寝泊りしている。
そういう感覚でしかない。
その月日が長くなって、父がいないことが当たり前になってしまった家の状況も不思議と寂しいと感じたことは無い。
時折帰ってくる父に甘えるのが気恥ずかしいと思うくらいになってしまうほどだ。
 ある日、その時が来た。
学校にいると、担任の先生が大慌てで俺の名前を呼んだ。
「今すぐ帰る用意をしなさい!」とクラスが静まり返るほどで、クラス全員の注目を浴びながらランドセルに教科書を詰め込んだ。
どうしたものかと詰め込んでランドセルをからった状態のままつっ立っていると、先生は追い立てるようにしてクラスから追い出した。
追い出され閉め出された俺は、途方にくれながらいったいどこに行けって言うんだ?と思いつつゆっくり下駄箱に向かい靴に履き替えた。
履き替えた後、校門まで歩いてどうしようかとかなりの時間悩んでいた。
そこに見覚えのある車がやってきて、目の間に止まった。
「びっくりしたでしょう?乗りなさい」その母の妹である叔母の顔は笑っていた。
 その時、もうわかっていた。
叔母は俺を預けられていた状況が終わって楽になるというのが嬉しかったのだろう。
父が亡くなる前の一ヶ月間ほどだろうか。
学校があるからと、母の妹である叔母の家に預けられていた。
その間の生活は、自分の今まで暮らしてきた生活とまったく違うものでとても苦痛の日々だった。
一人っ子の自分が突然預けられた叔母の家出の生活は、同じ年の従兄弟がいたからある程度救われた。しかし、叔母の言動は棘を含み覚えていないだろうと思っているのかどうかは知らないが忘れることのできない言葉を数々浴びせられた。
 父が、もう危ないという状況であるというのは大人の叔母はわかっているはずなのに。
その子供に浴びせる言葉とは思えないようなもの。
それを理解できる今、叔母という人間の人格は明らかに異常であると思う。
 ある日、どうしても家に帰りたくなり電話をくれた母に帰りたいと駄々をこねたことがある。
ただどうしてその時、叔母から浴びせられる言葉が悲しいし辛いということを言わなかったのか自分でもわからない。
 すると、母は「ほしいものかってあげるから我慢して」といったのだ。
「欲しい物ない?」と聞かれるので、答えた。
すると、「叔母ちゃんに代わって」というので電話の受話器を叔母に渡した。
その後、電話はすぐ終わり叔母はその足で財布を取り出し千円を握り締め俺の手に叩きつけるようにして手渡した。
「我侭ばっかりいってから、貸すだけだからね」
そういわれたその千円を使った覚えは無い。
小学生の自分に千円は高額だったが、いらないと本気で思った。
その後、母からの電話で「叔母ちゃんお金くれた?それでほしいもの買いなさい」といわれたのは覚えているが「お金いらない、お金がほしいといってない!貸してほしいなんていってない!」というように母に対して文句を言って切った気がする。
 父が亡くなったそのときに迎えに来たのがその叔母だ。
その叔母は、父の見舞いにも連れて行ってくれていたがその度に車の中で言う。
「こんなヤブ医者の病院なんか」というのだ。
 だが、当時「ヤブ医者」という意味がわかっていなかった。
父が危篤という知らせを受けた担任は大慌てをしているのに、相反してにっこりと落ち着いた叔母の姿。
やっと、家から出て行ってくれると安堵したのだろう。
それくらいわかっていた。
 とはいえ、人の死など最も理解に乏しい状態でありコードだらけの父の姿にこれは一体何事?と思った。
父の弟夫婦である二人が「落ち着いてね、大丈夫よ」など声をかけるが、一体何が大丈夫で何を落ち着けというのか理解できていなかった。
第一、まったく慌ててもいなければなんで俺はここに呼ばれたの?という問いかけをする間も与えられなかった。
 誰かが自分を持ち上げコードに引っかからないように父の側に自分を立たせた。
白衣をいたお医者さんと看護婦さんが、しばらくして自分に一礼した。

その後、決まり事のような通夜や葬式が行われたが目まぐるしく進んでいく状況で疲れ果てていた。
その間、俺は悲しいとか辛いとか感じたことはまったく無い。
あぁ、ひとつだけ嫌がって逃げたことがある。
それは、骨を拾うこと。
あまりの匂いに驚いて嫌だ嫌だといい続け、どうにかちょこっとだけしたらその部屋を飛び出していった。
 すべてが終わった時、そしてすべての始まりだったのだ。
長男である父が亡くなった。
だが、父の存在はこの薬袋家にとって我侭な存在だったようだ。
薬袋の実家を継ぐであろう長男という存在だったが、父は仕事が実家からでは遠い都心部の会社に勤めていた。
弟のほうが先に結婚していたため、その実家は弟夫婦が住んでいた。
祖父と共に。
だが、どうやら折り合いが悪かったらしくまた弟夫婦は子に恵まれなかった。
 それが、父が結婚を期に実家を継いでくれるだろうというのが当たり前だと思っていた弟夫婦は「会社が遠いから」という理由で実家のあとを継ぐのやめ、家を建てた。
その時点から、すでに亀裂はあったのだろう。
子に恵まれなかった弟夫婦だが、父は結婚して二年位して俺が生まれた。
生まれたら祖父に見せたいと何度も足を運んだようだが、写真を見るたびに思う。
弟夫婦のなんともしれない迷惑そうな気持ちがにじみ出ている笑顔だと。
 父が亡くなってからというもの、一向に納骨されなかった。
納骨という儀式自体は理解していた。
何故なら、弟夫婦の住んでいる実家近くのお寺に薬袋家の墓はあったのだから。
だが、その墓に父の遺骨が納められることは無く理由は今となってはわからないが祖父が墓に入れることを拒否したそうだ。
 つまり、祖父は父を嫌っていたのだろう。
墓に入れたくないと思うほど。
家を出た父を。
結局、薬袋の墓とは別に墓を建てた。
こじんまりとしたかわいいお墓だ。
 その墓に、何度か弟夫婦は足を運んだようだが今となっては来た雰囲気はないし父が亡くなってからというもの音信不通だ。
そりゃそうだ。
いくらなんでも覚えている。
揉めていた事くらい。
財産分与についてだが、お金の問題ではなかった。
なんと、弟夫婦の住んでいた家の名義が父になっていたらしい。
つまり、父が亡くなった今、妻である母の名義になるわけで。
もし、母が「出て行けー!」なんて言えばその効力はもちろん絶大だ。
名義が母なのだから。
 その点は、すでに父が入院した直後に電話があったそうだ。
母に対して、弟嫁はこういったという。
「名義がお父さんじゃないでしょ?儀兄さんじゃない?だから、名義を変えておかないとねぇって旦那に言ったら怒られたのよぉ~」と。
笑いながら、入院した直後に母に電話した嫁の神経は父が死ぬことを前提として話しているのだ。
 実際、名義変更しておけばこのような問題にならなかったのだろうがその名義問題で何度も我が家に足を運び、もちろん母もそんな非常識な人間ではないのにまったく弟夫婦は信用しておらず、くるたびに与えられるおもちゃで遊びながら大人の話に耳を傾けて聞いていた。
 母の顔色がおかしかったからだ。
結局、かなりの費用をかけて名義変更を弟夫婦は成し遂げ、更には遺書まで書き土地も家も二人とも死んだとしても渡しませんというようなことを言っていた。

 それが、大人になった今、思う。

どの面下げて、父の法事に来るのかと。
何故、そんな人たちを法事に呼ぶ必要があるのかと。
とはいえ、子であっても夫婦間の問題と薬袋家としての問題であるから俺も普段なら堪忍袋の緒は切れているので怒っているはずだが、その点黙って大人の真似をした。
 仮面をかぶり「お久しぶりです」と笑って答えた。

何も、無かったかのように。

薬袋と言う苗字が嫌いである。
この家に縛られている以上、この記憶が理解できた今
俺は、薬袋と言うこの家を継ぐ気はない。
 それは、それこそ先祖にあたる祖父が生前拒否したことでもうわかっていること。
生まれてきて、邪魔だといわれる子供という俺の存在とは一体何なのだろうかと思う。
特に、人の死に触れた時感じるんだ。
昔から、俺は三十まで生きられないだろうと思っている。
理由は不明。
だが、きっと三十を迎えた年何らかの形で死を迎えるだろう。
きっとそれも、邪魔なものを排除するかのように。
薬袋の血を受け継いだ唯一の邪魔者として
09:37  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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最適なもの売ります

2009.03.14 (Sat)

唐突に襲ってきた発熱にフラフラしながら会社を出た。
家に帰りたかったが、仕事は切羽詰った状態でとにかく今日を乗り切れば休んでもかまわない状況下だったので目指したのは薬屋だった。
最近できたのか、小さなこじんまりとした薬屋だ。
薬屋に名前はなく、ただ立て看板に手書きで「最適なもの売ります」と書いてある。
もうどこでもいいから、薬を手に入れたい一心でその薬屋に入った。
「いらっしゃい」
奥から出てきた店主であろうご主人は、白衣ではなくなんともしれない黒い服を着ていた。
熱を出したぼーっとした顔を見て店主は一言。
「おやおや、風邪かい?」
「えぇ、たぶん。熱が出てきてでも仕事を今日中に仕上げないといけないんです。なので、薬を」
「そうだねぇ」
そういって店主は奥へ引っ込んでしまった。
私は陳列されている薬を見ていたが、メジャーな薬というべきかどこの薬局にでも普通においてあるような薬が一切見当たらず見たこともないような箱のデザインと薬の名前があってどれをとっていいかわからなかった。
その中から適当にひとつ取り箱の裏側を見てみると、薬の説明はたいてい書いてあるものだからそれで判断しようと思ったのだが。
効能:気分をよくする 体調管理を調節する
これが、効能なの?という説明文ばかりでほかの箱をとっても効能なのか?という文章ばかりがそこに記されていた。
探す気力も失せだんだん気分が悪くなってきたのでもどってこない店主を呼んだ。
「すみません、風邪薬どれですか?今すぐ飲みたいんですが」
「はいはい、ちょっと待ってねぇ。今調合してるから」
・・・調合?
え?ここって調剤薬局だったの?
いや、処方箋持ってないし。
もしかして、薬草とかってやつ?
苦手なんだけどなぁ…
「お待たせ、悪かったねきついのに」
「いえ、あの、その薬ってなんですか?いつもはパピロンを飲んでいるんですが」
「あぁ、まぁそういうやつと比べるとちょっと違うけれどここは最適なものを売るのが売りなんだよ」
「はぁ…」
「大丈夫だよ、お前さんに一番今必要なものだ。そうだな、まず熱が引くし体も楽になるだろう。で、飲むときはかならずぬるい緑茶と一緒に飲むんだよ」
「え?緑茶ですか?」
「そうだよ」
「普通、お薬って水とかじゃぁ・・・」
「緑茶、もしくは玄米茶が最適だね」
「そっそうなんですか…わかりました。あの、アレルギーとか出ないですかね?」
「そういうのは大丈夫だよ、私はあなたを見ているから何が最適かくらいわかるさ」
「おいくらですか?」
「七百円だよ」
「ありがとうございます」
もらった薬をもって、どんどん重くなっていく体を引きずって会社に戻る。
給湯室に行って言われたとおり、玄米茶を入れて少し冷ます。
薬の入った袋を開けるとなんと虹色をした粉薬。
えぇ?!と思ったが、もう藁でもすがりたいので飲んでしまえと口に入れた。
そして、粉薬がとても苦手なので一気にお茶で飲み干す。
「・・・にがっ!」
虹色のとは裏腹にまずい薬だった。
あまりのまずさに、溜息。
そばにあるソファーに座り少し休んでいるとだんだんと頭がはっきりしてきた。
効能早っ!
熱で関節が痛くなっていたのも無くなってきている。
すごい、この薬!
なんか平気っぽい?と立ち上がった瞬間、シャッターが閉まった音がしたように
頭の中の稼動が止まったのがわかった。

「あれ?お前さん、お客がきたのかい?」
「あぁ、さっき若いお嬢さんが来たんだよ」
「そうかい、それにしてもこの薬が一番よかったとはかわいそうだねぇ」
「まぁ早世するにしても楽なほうがいいと思ったからよ、これを調合したんだ」
「これで苦しまずに死ねるならいいのかもしれないねぇ、気づいてなかったのかい?そのお嬢さんは」
「気づいてなかったようだね」
「そりゃぁ恐ろしいねぇ。まぁ、お前さんが作った薬で今頃は楽になっているだろうよ」

三日後
「すみませーん!」
「はいよ」
「いつもの、くださーい」
私は笑って店主にお願いした。
「あぁ、来るころだと思っていたよ」
「当たり前じゃないですか、こなかったら私死んでるんですよぉ?」
「いい薬だろう?」
「ホント、この店、店じまいとかしないでくださいよ?」
「大丈夫だよ、移転しても連絡は必ずしているからのぉ」
「そういえば、あの薬って名前あるんですか?」
「いや、名前は付けてないなぁ」
「じゃぁ材料ってなんです?」
「死人(しびと)の脳だよ、人間は一番の薬剤じゃよ。死んだ人間が本来生きる年数を全うしなかった者のやつが一番効能があるんだよ。材料がなくなったら仕入れるのが結構大変なんだよ」
「・・・・え?」
09:49  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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忘れていた彼

2009.03.13 (Fri)

その彼を見た時、私は若い子だという印象しかなかった。
後は元気で挨拶がきちんとできるなというそれだけだ。
それ以外の事を知るには、私の居る場所と彼の存在する世界は違うところだった。
 それから私が違う世界に行くことになった。
その頃は、それこそ気になる程度。
目に付いてしまう。
実際、認めたくなかった。
色恋沙汰など馬鹿馬鹿しいなどと本気で思っていたから。
けれど、その彼の声を聞きたいと思う気持ちが存在してるのは確かだったし
何らかのきっかけがないかなって思ってた。
でも私は、すでにこの世界からいなくなる人。
だから彼の目にはただその場にいる存在している人というだけであって、特にそれ以上のものになることはないだろうと思った。
また、その頃はどうやらパートナーがいるというのがわかった。
行動すればよかったのだろうか?
そうすれば、何かしらの結果は得られただろうか。
去った後も、私は時折会う機会はあった。
それに喜んでいる自分がいることで、もう核心となっていたがそれ以上に進めなかった。
 あれからどのくらいが過ぎただろうか。
ふとしたきっかけで、その彼の話をした。
ところが、覚えていることは彼に対する思いだけであって名前が思い出せないのだ。
まったく思い出せなかった。
あだ名しか。
皆が呼んでいたあだ名しか思い出せないのだ。
けれど、その気持ちがあったことは思い出され懐かしくそして温かかった。
時というのは、ひたすら進む以外知らないもので進んでいた時の中で彼は道をきちんと歩いていた。
私はというと、まったく別の世界にいて名前すら忘れていたのだ。
 ならば、気持ちも一緒に忘れさせて欲しいと思った。
降って湧いて出た会話の一言が、失恋気分。
今更も今更。
私のことなど忘れているだろう。
それなのに。
あぁ、馬鹿馬鹿しい。
私は、人を好きになることができる?
私は、人を愛することができる?
最近、思う。
人付き合いが苦手になって、ズレが生じて体が拒否を起こして。
何も考えずただ想いに飲み込まれて溺れていた頃が懐かしい。
目に見えぬ気持ちと、如何にして私は向かい合うのだろう。
幻想を重ねたところで私の時計は進まない。
名前、何だったっけ?
まったく、情けない。
08:35  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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囚われた夢

2009.03.12 (Thu)

あの日以来、ずっと夢を見ている。
あの時のその瞬間までを覚えている。
鮮明に。
小さな、ちょっとしたその動作や仕草。
何もかもが。
一番印象的だった。
 ただ、ちょっとした興味本位だったといえばそうかもしれない。
なんていうのかな。
どうなるのかなっていうか、そういう不思議な感覚を見てみたかった。
普通ならそんなに、否、滅多にそんな瞬間に出会えないだろう。
だから貴重な体験だった。
爽快かなと思ったけれど、意外とそうでもなくてあっけなかったというか想像していたよりも違う感覚を覚えた。
 例えて言うならこうだろう。
目の前に出された飲み物を飲んだとき、オレンジ色をしていた。
だから、オレンジジュースだと思って飲んでみたけれど実際はミックスジュースだった。
ミックスジュースの味は知っていたけれど、オレンジジュースと思い込んで飲んでいると一体このジュースは何だ?!と味がわからなくなってしまう。
その後、「これは、ミックスジュースだよ」といわれて頭で理解して飲むとその味がするのだ。
わかるだろうか?
期待はずれとは違うということが。
ニュアンス的な問題だろうか?
否、そうじゃない。期待通りじゃなかったというだけの話かといえばそれまでだがそれとも微妙に違うのだ。
期待していたものに対して、実際はこういう現実だったということを新たに理解した。
そんなところか。
 ただ、予定外の弊害が起きた。
それは平気だとあれほど興味を抱いたものだったのに、実際にやってみたらその全てが自分に圧し掛かって押しつぶそうとする。
電気を消し、布団の中で横になった時、何故だろうか。
誰もいないはずの部屋に気配がする。
気になってもその方向を見る勇気がない。
いつの間にか眠りにつき、そして夢の中に落ちる。
夢の中では、繰り返しあの時のその光景が自分の目の前で繰り返される。
けれど、最後が違う。
あの時、動かなくなった女。
それに満足した俺の顔。
それの光景を俺が見ている。
その見ている俺に、女の顔が動き目線だけ俺を突き刺さるように見据えこういうのだ。
「許さない、絶対に許さない。あんたの顔忘れないわよ」
その声が耳元で聞えるのだ。
息遣いまでも。
そこで目を覚まして、全身に悪寒を感じながら汗を感じて起き上がる。
どうしてこんな夢にうなされなければならないのか。
まったく、不愉快だ。
飛び起きて布団の横に置いてあるペットボトルを手にとって水を飲む。
溜息を付き、ペットボトルの蓋を閉め布団の横に置いた時その忘れもしない感触が手に感じた。
冷たくなっていく女の手。
誰でもよかった。
ただ、その時その衝動に駆られたとき見かけただけの見知らぬ女。
ただ、知りたかった。
ただ、興味があった。
そのくらいだった。
それなのに。
忘れもしない、あの時の段々と冷たくなっていった俺の手を握ってつかんだ。
その手が信じられないほどの力で手首をつかんで離さなかった。
そのせいでずっと感じていた。
女の息遣いや脈、そして体温が無くなっていく感触。
それが、今、何故、俺の部屋でまた感じている?
その感覚が段々とはっきりしてきた。
そう現実であって夢じゃないという確信が自分の中で確立した時、真後ろに誰かが自分の後ろにいることに気付いた。
冷たい。
とても冷たい。
その、冷たい体が俺の背中に押し付けられる。
忘れもしない、その体の形と感触。
その腕が俺の首にゆっくりと絡み付いて、冷たい感触が体全部を支配する。
「何が、興味本位よ。何が、やってみたかっただけよ。ふざけないで。許さない。あんたをゆっくり殺してやる。私を殺したようにね」
09:11  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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来ないで

2009.03.11 (Wed)

逃げた。
逃げ回った。
目の前にある道を。
ただ、ひたすら走って息が切れても足がもつれて倒れても起き上がって必死に逃げた。
怖くて怖くて。
怖すぎて悲鳴も何も口から出なかった。
胸の中で、叫んでいた。
助けて!助けて!
涙が出て、怖くて全身震えて、必死に逃げてやっと家にたどり着いた。
急いで鞄をひっくり返し全部荷物を出した。
鍵を探し出してあけようとしても中々鍵穴に入らない。
「もうぉっ!どうして!!」
震えて鍵がうまく開けれない。
怖い!怖い!
ただ、その言葉だけが私を支配する。
やっとあいた玄関に飛び込み、すぐに鍵を閉めてチェーンをかける。
一階のドアというドアに鍵をかけて窓も閉めてカーテンを閉めた。
急いで二階に駆け上がり全部のドアに鍵をかけて、自分の部屋に入った。
 もう、どこにも力が残っていない。
自分の部屋の鍵を閉めて、出窓のブラインドを閉めた。
後は、祈るしかない。
玄関のドアが振動で響く。
唸り声が聞える。
耳を塞いでベッドから掛け布団を引き摺り下ろして頭から被って部屋の隅に行く。
鞄の中身を玄関でばら撒いたから携帯電話がない。
怖い、どうしよう、助けて。
誰か。
それしか、もう言葉はなかった。
急に静かになった。
帰った?
ちがう、庭に回った?
でもちゃんと鍵閉めたし、窓は割って入れない。
大丈夫。
大丈夫。
そう、言い聞かせるしか無かった。
追いかけてくるあの男から逃げるにはこれ以上防ぎようが無い。
どれだけ逃げても私は追われている。
もし、追いつかれたら私は何をされるのだろう。
考えたくない。
嫌だ。
怖い。
どれだけ、時間がたっただろう。
疲れ果てていた私はうずくまったまま寝入ってしまった。
もう夜も遅いのに誰も帰ってこない。
どうして?
立ち上がり、電気をつけたとき私の真後ろに男が居た。
出窓に映る私の後ろに立つ男の姿。
耳元で囁く。
「鍵を閉める前から、僕はここに居た。せっかく、君を助けようとしてくれた人が来てくれていたのに。残念、僕の勝ち」
男の手が、私の首筋を撫でた。
09:18  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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謎の隣人パート2

2009.03.10 (Tue)

正直、パート2ができることは望んでいなかった。
ただ、隣人ではないかな?
正確に言うと。
斜め隣というべきか?

この家は、一癖も二癖もある最低な人間が住んでいた。
理由は、我が家の猫を我が家の庭で寝ているのにもかかわらず木の棒を持って振り回しながら追いかけて殴ろうとする。
その家とまったく関係の無い場所をただ通って歩いていただけでも、奇声を上げながら追い掛け回して殴り殺そうとする。
最終的には毒を盛られ一匹殺され一匹は生き延び現在も健在である。
とはいえ、証拠があるわけでもなく私はただ思った。
「猫の祟りは八代たたるという、化けて出ろよ」
そう、私は言うしかなかった。
 案の定というべきだろう。
何匹も何匹も打ちの猫を理由も無くただいじめまわし挙句に殺した罪は、その人間に多大なる苦痛を与えた。
突然見なくなったなと思ったら、とんでもない病に冒されそれに散々苦しめられた挙句死んだ。
正直に言おう。
赤いバラの花を贈りつけてやろうかと思った。
その病に冒され一時退院していた時のこと。
偶然、もう近所があまりに猫に対する虐待と事故が多いため猫を自由に外に出さなくなった時散歩をさせていたらばったりと出会ってしまった。
げっ…と内心思いつつじっとしていたらなんとそのじーさんは「かわいいにゃんこちゃんだねぇ」といったのだ。
それを見た一緒にいた妻は、急いで手を引きその場を立ち去った。
もうすでに誰この人?というくらい面影はなく老け込んでおりすごいものだった。
私は猫の祟りを思い知れと思った。
 その後数年間、特に何も無かったが同じくその妻もいきなり救急車で運ばれて以来見ていない。
時折、子供の夫婦に連れられて訪れるその姿はまさに老け込んだあのじーさんと同様に見るも無残な姿だった。
そして完全におかしくなっていた。
その後、見ていない。

 そして、ある日のこと。

この謎の隣人が現れた。

まさに、見たことも無い人だ。
あんた誰?状態である。
が、家に出入りしているのである。
ちょっとした庭があって、大きな柿の木となんかの柑橘系の立派なみかんを実らせる木があって結構大きな木に育っていたのだがある日突然そのすべての大木とそこに植わって咲かせていた花も全部引きちぎってなぎ倒し、根っこからすべて取り去ってしまったのだ。

な、何事?

ここからが、この謎の隣人が登場するのだが。
それから、次々と色々な人間が出入りするようになる。
まずは、電気屋さん。
どうやら電気を止めている様子。
次に、ガス屋さん。
ガスも止めるの?
次に、水道屋さん。
え?水も?

ここ何年も、あのばーさんが救急車で運ばれ倒れてからというもの空き屋状態だったのがいきなりここにきてこのような今年はじめるということは死んだのか?
と思ったが、そならそれで今まで面倒見ていた子供夫婦が来るだろう?
なのに、まったく見たことも無い人がやってきた。

それから、しばらくおとなしかったのが今度はとんでもないことが起きた。
家中のすべて何もかもを捨てだしたのだ。
はっきり行ってもう住めるような家じゃない。
古すぎて人もずっといなかったから痛みも激しい。
それをなぜ今片付ける?
そして、住むわけでもなさそうなのに。
もし売り飛ばすにしても、更地にしたほうがよくない?
土地の形はおかしい変な形しているから売れにくいと思うけど。
などと考えていたものの、これが不定期にそれも真夜中にやってきてどんどんごみを出していく。
もう、家の前がごみの山になるほどだ。
もし家を取り壊すならわざわざ片付ける必要は無い。
つまり取り壊すつもりは無いということだ。
だが、この家を売るといっても誰も買おうとは思わない。
火をつけたらいっぺんに燃えそうなくらい古い家だ。

その真夜中にやってくる誰かさんは昼間にも見かけることがあるようになった。
とりあえず、何をしているかというと延々と片づけをしている。
真夜中までやはり電気がついているから泊まっているか住んでいるかは不明。
というか、何もかもが謎だ。

ある日、通りすがりのその家の住人を知っているらしいおばあさんが声をかけた。
「ここの人はどうしてるのね?」と
すると、「私の実家にいますよ」と笑顔で答えたのだ。

一度も見たことの無いこの女は一体何をするつもりなのか?
どうして真夜中に来てがさ後外片付けるのか?
そうかと思ったら、見知らぬ誰かがまた増えて大量の荷物を運び入れたのか?

唯一いえるのは、誰一人一度も見たことの無い人物たちが出入りしているという事実である。
12:06  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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無計画と偶然が生んだ殺人事件

2009.03.06 (Fri)

井上真澄は、後悔していた。
携帯電話につけていたお揃いのストラップ。
高校の時から付き合っていて今まで一緒だったのに、ずっと二股かけられていたという事実がわかった。
頭にきてストラップをひきちぎったら携帯が飛んでいってしまい屋上のフェンスを超えギリギリのラインで携帯留まっている。
「なんでこんなことに…」
かなりいらつきながら伸ばせるだけの手を伸ばし携帯を取ろうとしていた。
フェンスを越えられないわけではない。
実際このフェンスは意味があるのか?というほど小さなものだが超えて取ろうとは思わない。
何せこのビルは20階建てのビル。
流石に怖い。
その時、ふっと自分の視界が暗くなった。
井上真澄は何だ?と勢いよく立ち上がった。
その時、どんっと自分の頭を何かで打った。
その痛みにあたまを押さえつつかがんだ。
何が起きたかわからなかったが男の声で「うわっ」という声がしたはずなのにそれは空耳だったのだろうかと周りを見渡した。
突然、下から悲鳴が聞えた。
フェンスから顔を出して見てみると下には人が倒れてた。
井上真澄が青ざめ後ろに下がった時、自分にぶつかって落ちたであろう主の社員証を踏んでいた。
足を上げその時井上真澄には、笑顔があった。
 その井上真澄が、携帯電話で怒鳴っている光景をみていた加藤由希子。
加藤由希子は、井上真澄の彼氏と付き合っているつもりだった。
だが、井上真澄の彼氏だと知っている以上どうどうと付き合える仲ではないし「もう別れるつもりだから」というその言葉を信じていたが一向にその気配はなかった。
けれど、言い争っている井上真澄の姿をして安堵したのは事実だ。
やっと彼は行動に出たのかと。
既に両親への挨拶も済ませ、結婚する予定にまでなっているのにと正直焦っていたところだった。
だが、突然話しかけられ振り返ると彼の同僚である伊藤健太郎だった。
「ちょっといいかな?」
そういわれ、加藤由希子は屋上のドアから井上真澄の様子を見ていたかったが渋々屋上へ出て井上真澄とそう距離のない場所に行った。
「何の用?」
加藤由希子にとってこの伊藤健太郎は邪魔者以外なんでもなかった。
何度もしつこく誘ってきては自分とデートしようとする。
ストーカーまでとはいかないがねばっこい性格に気持ち悪いを通り越して呆れていた。
「今日は、用事ないよね?」
またかと同じ台詞をはく伊藤健太郎はもじもじとしていてはっきりとしない物言い。
態度もくねくねと気持ちが悪かった。
「用事がないとかあるとかに関わらず、あなたと何かするつもりは今後一切ないわ」
呆れたように言葉を吐き捨て、溜息。
目線と耳は、井上真澄の会話内容が重要だ。
その時、聞えてきたのは「あなたが二股しているのは知っているわ!木村涼子なんでしょ!この前見たもん」
それは、加藤由希子にとって青天の霹靂だった。
この時、木村涼子は屋上で話している井上真澄の近くにあるベンチで昼食をとっていた。
もちろん一緒に昼食を食べていた同僚の佐々木容子にも井上真澄の叫んだ声は聞えていた。
「…涼子、あんたまさか…」
佐々木容子は、呆れた顔をして木村涼子を見ていた。
「いいじゃない、遊びよ。遊び。結婚してないんだし、不倫でもなんでもないわ。取られるほうが悪いのよ。私だけの意志で寝ることなんてできないのよ?」
木村涼子の悪気のないその言い分を佐々木容子はまたかという雰囲気で聞いていた。
「結婚云々の前に、もう少し貞操観念持ったほうがいいんじゃない?人の男ばっかり手を出して」
「人のものって、美味しそうじゃない?人が食べてると食べたくなるじゃない?デザートとか」
「デザートと人間は違うでしょ?」
「同じよ、食べて消化するだけ。後は、欲しいもの買ってくれればそれでいいし。でも、この前バック買ってくれなかったのよね。マジムカついた」
にっこり笑う木村涼子のその顔と会話を、屋上にある喫煙スペースで見ていた藤堂美咲は自分が付き合っている男がこんなにも他に女と繋がりがあるのかとその場ではじめて知った。
藤堂美咲は、つい先日告白を受け真面目な態度に惹かれまともな付き合いをしていたつもりだった。
だが、それはあくまで体裁だったのかというのがわかった。
井上真澄が言葉にした相手の名前。
それが、とても珍しい名前だからすぐにわかった。
礼音(レノン)というのだ。

 そして、すべての登場人物が屋上に揃った。

九条礼音が、屋上の扉を開けた。
その扉の音が開いた音で、井上真澄は振り返り携帯電話を切ってストラップをひきちぎった。
勢いで携帯電話がフェンスを超え落ちそうになる。
慌てた井上真澄がかがんで手を伸ばして必死に取ろうとする。
それを見ていた九条礼音が井上真澄の上から覆いかぶさるようにしてフェンスを越えて携帯に手を伸ばした時、木村涼子が昼食を終えフロアへ帰ろうとしたがその必死な姿に後ろからつんっと背中を押した。
「うわっ」
九条礼音が振り返ったときには木村涼子の姿はなかったが不安定な体勢で振り返ったため、よろめいた。
慌てて体勢を戻そうとフェンスに手をかけおちそうになった体を支えた時、加藤由希子が体を支えている手を思いっきり叩いた。
支えていた手を叩かれフェンスから手が外れる。
ぐらっと体が宙に浮きそうになり、井上真澄の上に押しつぶすように倒れそうになった時藤堂美咲が九条礼音のベルトをつかみそのまま押した。
それと同時に、井上真澄が立ち上がった。
ネックストラップの社員証だけが、屋上に落ちそれ以外の九条礼音の体は宙を舞い空を飛んで地上へと叩きつけられた。
「携帯、取れた?」
藤堂美咲が、井上真澄に聞いた。
「うん、携帯無事でよかった。アドレス保存してなかったから」
二人は見つめあい、ぷっと吹き出して笑った。
井上真澄が踏みつけていた社員証を藤堂美咲がひろいあげ持っていたライターで火をつけた。
そこに、加藤由希子がタバコの灰を入れる缶を持ってきて差し出した。
「ここに入れるのがベストじゃない?」
それから、加藤由希子は木村涼子の社員証を屋上から投げ捨てた。
「いつ、それを?」
藤堂美咲が聞きいた。
「さっき、あの女落として行ったの。いいじゃない、どうせあの女が全部きっかけを作ったんだから」
「それもそうね」
井上真澄が満足した顔で社員証が落ちていくのを見つめていた。
「木村涼子が警察に捕まる姿を楽しみにしていましょう」
三人とも屋上から去った後、佐々木容子は最後の仕上げに木村涼子のパスケースを取り出し屋上に置いた。
「私の彼だって知ってたくせに、あの女。礼音もどうしてあんな女に…」
その後、木村涼子は重要参考人として警察へ連行された。
連行される際、木村涼子は叫んだ。
「ちょっちょっと!容子!言ってよ!あんたと一緒に昼の休憩で一緒だったって!」
叫んだ木村涼子に対して、佐々木容子は答えた。
「私は、一人で昼食を取っていたわ。自分の机で。変な事いわないで」
「私も覚えてる。だって、一瞬ネットが繋がらなくなって佐々木さんに私聞いたもの。サーバー落ちてるって」
佐々木容子の続いて答えたのは、加藤由希子だ。
「ちょっと、あんた。あんたこそ屋上にいたじゃない」
「いや、俺もこの部屋にいたから覚えてる」
伊藤健太郎が加藤由希子の言葉に添えて答える。
加藤由希子は、伊藤健太郎に満面の笑みを送る。
それだけで、伊藤健太郎は顔を赤らめていた。
「みっともないんじゃない?だって、付き合ってたんでしょ?九条礼音さんと。それで、もめたんでしょ?あなたなら鞄ひとつの為に屋上から突き落とすくらいしそうだものね」
井上真澄が睨みつけて言い放つ。
「あんたの男でしょお?!」
半泣き状態で木村涼子は叫ぶ。
「そうやって、いつも人のせいにして生きてたんだ。もう今回は無理じゃない?自分の社員証落としておいて言い逃れも見苦しいよ」
藤堂美咲がつぶやいた。
08:25  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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出生の立会人 リゼット・クライトマンⅧ

2009.03.05 (Thu)

あの時、生まれた子供は教会の古びた十字架に突き刺さって死んだリゼットと俺を介して生まれた。
それは血の海の中から、産声を上げ十字架の下にある初代リゼット・クライトマンの墓から誕生した。
その子供を、次世代のリゼットから言われたとおりリゼット・クライトマンの子孫が住む生家に届けた。
産湯もできぬまま、側にあった聖水を子供にかけ血を洗い流し自分のスーツの上着を子供にくるませただ目の間にいるたった今死んだばかりのリゼットが幼い顔になった同じ声をした少女について行った。
「お待ちしておりました」
玄関に着くなり、何もしていないのにドアは開けられた。
リゼット・クライトマン。
あの姿で、話して。
あの姿を、愛した。
たった、何分かの出来事だけれど。
何故だろうか。
俺は、ずっと前からこの時を知っている気がした。
まるでデジャ・ブのよう。
「アルヴァ・オルブライト様、お久しぶりですね」
玄関に立っていた女性に会ったことはない。
だが、彼女は俺を見るなり懐かしそうな顔をして俺を見ている。
微笑んで。
「そうやって来るあなたを随分待っていました。あの時、そう…いつだったかしらね。どうぞ、お入りになって」
それから、玄関をくぐりその部屋を見たときデジャ・ブなんかではないと確信した。
「俺は、ここを覚えてる…」
全部、覚えていた。
キッチンの場所、リゼットのお気に入りのマグカップがどれなのか。
リゼットがいつも座っているロッキングチェアー。
お気に入りのひざ掛け。
お気に入りのぬいぐるみ。
いつも、着せていた洋服。
何故、こんなにも鮮明に記憶があるのだろう。
わからない。
わからない。
「混乱しているようね。まず、赤ちゃんを預かりましょう。いつも通り聖水をかけたのね。これで、リゼットは無事に生まれたわ」
教会から運んできた赤子を女性に渡し俺は力が抜けたように側にあったソファーに座った。
一緒に来たリゼットが目の前に座る。
「なんとなくじゃなくて、急に思い出したでしょう?この家のこと。リゼットのこと」
「…あぁ」
「私はね、リゼットなの。さっき生まれた子供は私が最後の歌を歌った後リゼットになる子供よ」
「…そうか」
「さっき死んだリゼットは今頃、村人達が集まって祈りの時間を始めている頃ね」
「祈りの時間?」
「リゼット・クライトマンは、神に反旗を翻し地上に落とされた不義の天使」
「天使?」
「というよりは、初代リゼットは悪魔と恋をしたのよ」
「悪魔って…」
「人間のことよ」
「人と天使の子供を生んだリゼットはその罪を背負うことになった。もちろん、リゼット自身それはわかっていたと思う。だけれど、子供にまでその影響があるなんて思ってなかった」
「影響って?」
「それは、いつか思い出すわ」
「初代リゼットの写真ってあるか?」
「こっちよ」
案内された部屋は、見覚えのある扉。
重苦しい木の扉で通常は玄関に取り付けるうようなデザインのもの。
その先に入ったことは一度もない。
それだけはわかっていた。
「この部屋は…」
「入れないことは覚えているわよね?」
「…入れないというより入った事がないと覚えている」
「そう、ならまだ不安定ね」
「なら、こっちの部屋に来て」
隣の部屋に案内され入った部屋には、飾られた写真の数々の中に一瞬で全ての記憶が戻る一枚がそこにあった。
それは、何故忘れていたのかと涙が出て止まらずその写真を手に取り抱きしめて俺は座りこんだ。
「姉さん…」
「覚えていたんだね、アルヴァ」
「アルフレッド…何故ここに?」
「検視官として、昨日から俺はこの村に来てたんだよ」
「でも、誰も来たがらなかったって…」
「そりゃそうだろうな。あの歴史的な惨劇の村といえばお前だって知っているだろう」
「え…まさか」
「そうだよ、ここがあの地に落ちた天使が生まれた場所。羽のある子供が生まれその子供の羽をひきちぎった。俺がずっと研究し続けてきたあの羽の持ち主の村」
08:32  |  リゼット・クライトマン  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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倒れていた女の子

2009.03.04 (Wed)

それは、その瞬間にすぐにわかった。
動かない。
それだけが。
けれど、見えたのは足だけ。
周りに通りかかった人だろうか。
人だかりができていて見えない。
でも、不思議だった。
若い女性が笑いながら倒れて動かない女の子に何かを話している。
笑っている。
どうしてだ?
俺には理解できなかった。
側に行く勇気もなかった。
はたから見たその状況はこうだ。
車が道路わきに突っ込み停車している。
ぶつけているわけではないが、その停車している車のちょっと後ろ側に倒れたピンク色の自転車。
そして、倒れている女の子の足。
その女の子に群がる大人の群れ。
容易に想像できる。
 そう、何が起きたのか。
けれど、それなのにも関わらず大人達は笑っている。
笑いながら女の子を囲んで話している。
どうして?
何故だ?
事故…なんだろう?
だんだんと人だかりができてきた。
気になって側にいた女性に聞いてみた。
「あの、事故…ですか?」
「違うみたいですよ」
「え?じゃぁ…」
「なんか、あの倒れている子が暴れたらしいですよ」
「暴れた?」
「えぇ、大人なんか大嫌いとかいって刃物を振り回して」
「え…じゃぁ、あの子取り押さえられているんですか?」
「まさか!」
女性は笑って答えた。
「そんな子供、教育しなおしたってもう手の施しようがないんだから。だから、あの車がとめてくれたんですよ。あの変な子供の行動を。いい教育方法なんじゃないんですか?まぁ助かればの話ですけれど。助かっても自分のしたことが理解できず改心しないのなら、育てる必要ないでしょう?人類が廃れてしまうわ。そんな無駄なことをしていたら」
俺は、興味のないニュースなど見ていなかったが最近、子供の教育について熱心だった大人達は疲れ果て無駄なことにお金をかけたくないといい始めたのだ。
だから、これは、正当な教育なんだ。と理解して俺は去った。
 その後のニュースで、暴れる子供の粛清として正当な行為を行ったと車の運転手が表彰されている姿が映っていた。
 そして、その子供の親である人たちが刑事罰を受けていた。
危険だと判断できる子供を育てていたという罪で。
未然に防ぐのが一番。
そこまで、人は人としての道を失ったのかと感じつつも自分には関係のないことだとテレビの向こう側の出来事にしか思えなかった。

あの場にいた俺なのに。
08:30  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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大移動と大改造 作者の独り言シリーズ

2009.03.03 (Tue)

というわけで<どういうわけだ?(笑)
ちょぉっと語りたくて書いてみました。

今日は部屋の模様替えをしようと決めていたのです。

明日、全身筋肉痛になるのはわかっていることですが
すでにもう腰がどうかなっている気がします。

収納付きベッドを何も下ろさずにそのまま移動させたので腕がだるくてたまりません。
その後、年末に購入したDVDレコーダーがテレビ台に入らない!という事態が起きていて
以前、購入したそのテレビ台はビデオデッキサイズだったらしく
現在のDVDレコーダーはでかいんですよ。
奥行きが。
で、扉が閉まらなくて(T-T)

うちには、いたずら好きな野獣が何匹もいますので
家電製品をぶっ壊されたら、泣くのは財布と私です。

タイトルにあるように「大改造」というのは、テレビ台のことです。
買えばいいじゃん。
と、思われた方。
お財布がこういうんですよ「贅沢言うなよ、閉まらないなら閉まるように改造しろ」って。

で、庭の倉庫にあるちょっとした?のこぎりを持ってきました。

生まれてこの方のこぎりなんて数えたくらいしか使ったことありませんが
引いたり押したりすればどうにかなるだろうと。
その結果が、これ↓

tvback.jpg

木屑が痛い!
靴下に刺さっていたい!
掃除も大変!

一度、頑張って必死に穴開けたのにDVDレコーダー入れてみたら開けた幅が足りなくて二度もギコギコのこぎりで開けたんですよ。
手がどうかなるって。
手の力、ないんだよわたしゃ(涙)
見事、入らなかった理由であるアンテナ部分などのジャックが突っかかっていたところが飛び出してくれて無事収納できました。
この作業だけで、どれだけ時間かけたかしら…

ついでだ!
と思ってやっていなかった、地震対策。
福岡はあの大震災以来時折地震があるので本気で怖いです。
あんときゃ、ホント怖かった…
TVの説明書どおりにやってみた。

zisin.jpg

黒いバンドがTVにくっついてて、穴が開いてるのね。
で、その穴に釘を突っ込んでテレビ台に固定するの&テレビのあんよのところに紐を引っ掛ける部分があってそこに針金とか以外の紐をかけろって書いてあったからとりあえずかけて結んだ。
意外と、がっちりとなって動かない。
やっとくといいかもしれない。これ。

なんとか、この作業も終わり
無謀な動かし方で移動させた収納付きベッド。
おかげで私がベッドの収納されそう。
腰が痛くてたまらない!
腕も痛い!

部屋を模様替えしたはいいものの、嫌がるのは猫達です。
猫って物の位置が変わるのすごく嫌うのね。
だから、部屋に入ってきて「うわっ!何これ?!なにしたの?!」と探検します。
で、自分のにおいを確かめて落ち着くまで結構かかるかなぁ。
うちに遊びに来ている猫達も入ってきた途端
「あ、あれ?こっこの部屋…よね?」って顔してびっくりしてた。

でよ、部屋を模様替えしたんだけど位置を結構な日数投入して計画したのに
TVを見る場所が微妙かもしれない。
TVが近すぎる・・・かな。

というかね
6条の部屋に対して物が多い気がするのよ。
気のせいじゃなくて。
多いね。
猫のいたずらから守るため、色々考慮しているんだけれど
ちゃんといたずらしたら怒ってはいるんだが
最近は、もう殆どいたずらはなくなったけど・・・
巣作りするのよね。
押入れとかにもぐりこんで、きれいにたたんである洋服の上に居座って
使えない状態で発見されたり(寝床をかむ癖とかあるんですわ)
まぁ、後は電化製品が多いのでケーブルの配線に苦戦してるかなぁ
PS3でブルーレイ見ようとしたらみれなくてさ。
アップデートしろっていいだして。
えぇ?!と思って、購入して無駄になってしまったハブを取り出しLANを引っ張って分岐させてアップデートして見れるようになった。
で、ネットつなげれるのか・・・とほったらかしていたPS3に無料でトロのゲームがあったから久しぶりにやってみたらやっぱりかわいかった♪
でも、何をどうしていいのかよくわからずそのままって感じ。
体験版とかできるみたいだね。
でも、知らないゲームだし別にいっかーというのでスルー
ほしくなっても困るしね(汗)

なんか、こう…
女の子らしい部屋にしたいなぁ…
なんとかパソコンのパーツ類は押入れに突っ込んで見えないようにしたけど
一時期、ここは何部屋ですか?状態だったこともあるし。
とても女の子のお部屋☆なんて雰囲気ゼロでさ・・・。

本来は、フリフリ大好きなんですよ。
相反して、部屋は電磁波に囲まれている。

パソコンが雷でマザーボードぶっ壊されたとき、静穏&放熱にこだわって買ったケースがやっぱり重くて。それでも一番安いケースだったけどね。
こだわるとケースだけでもすごい値段するんだね。
びっくりしたよ。それに、重くて持ち上げきれないし。
中身からなのに(笑)
本来なら、本体は机の下におきたいのですが猫が乗る可能性があるので机の上においているのね。
した畳だから、机の重さに耐え切れずへこんでしまう・・・

マックのような本体一体型でもあんなスタイリッシュなデザインだと素敵よね。
故障したときどうするんだろうっていつも思うけど。
マック、使いきれないけれど…

あぁ・・・ 疲れた _(。。

あ!
漢方薬、飲み忘れた!
飲んでくる!

では!
必死に頑張ったのよ!って誰かに言いたくて(笑)書いた一言でした。
あぁーもぉ、本当に疲れた・・・
21:49  |  作者の言葉  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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覚悟を送ります。

2009.03.03 (Tue)

これが、私の決意といえば決意だと思う。
私なりに色々考えて過ごしたこの数年間は、無駄に終わったと感じている。
否、無駄というものは本来無いものだろう。
多分、存在しないものだ。
 それを、無駄という存在にしてしまったのは誰のせいかというと要因がありすぎて思いつかない。
ただ、私の中でけじめをつけようと思う。
この数年間、一緒に過ごしてきた。
一緒に過ごしてきたその中で私も大変だった。
大体、ここがどこだか知らない。
一体、何故ここにいるのかわからない。
どうして、こんな事になったのかも理解できていない。
そう、私は自分のことですらこの数年間であっという間にわからなくなってしまったのだ。
気がつけば、側にこの男がいてその男と暮らすようになって。
気がつけば、女が増えて。
気がつけば、子を産んだ。
 子は産めといわれたから産んだ。
それだけのことで、それ以外の感情は一切無い。
生んだ後も不思議なくらい、ただ、事務的な世話はするものの抱いていても他人にしか思えなかった。
男がある日、私と籍を入れると言い出した。
私に拒否権は無い。
だから、籍を入れその私の子供もその男の子供となった。
実際は、わからない。
だれが、父親なのかなどということは。
まさに愚問だ。
子供はいう。
「ママは笑わないの?」
「どうして、ママは話さないの?」
ママという言葉にいまだ違和感を感じる。
何故だろう。
覚えていることは、学校から帰る途中だったということ。
覚えていることは、私にもママがいたということ。
覚えていることは、あの車に乗ったとき初めて自分の父親を見たということ。
写真でしか見たこと無かった死んだといわれていた父親だったが、車の中に私を招きいれた。
私はそれ以来、ずっとその車を運転していた男と一緒にいる。
父親という人物は、車が発進して高速に乗っている間に私は寝てしまった。
目が覚めるといなくなっていた。
何故。
後は、もう覚えていない。
あまりの時間の過ぎる速さに私は記憶が追いついていかなかった。
入り込む時間が多くて。
抜けていく時間が多くて。
ただ、進むがままに。
それが、一体どれだけの時間かというのは一番わかるだろうと思って覚えている住所に送ろうと思う。
自分勝手に行動できないから、とても大変な作業だけれど私が今どこにいるのかくらい伝えたいと思う。
そしてもし叶うなら、私は目を覚ましたい。
もし叶うなら、迎えに来て欲しい。
もしこれが、届いたら私のことを思い出してほしい。
ママ
あなたの顔だけは忘れていません。
私の髪を送ります。
これだけ長く伸びました。
私があなたの元からいなくなってどのくらい経ったのでしょう。
どうして、私はここに居るのでしょう。
ねぇ、ママ。
どうして?
なんで、私を探してくれないの?
あの髪を送って、どのくらい過ぎたのだろう。
子がすでに一人で出歩くくらいになりました。
だけれど私の時間はあの手紙を送ったときから止まったまま。
動かない時計を持って私はただあなたを待っています。
理由が聞きたいの。
時が止まってから私は自由に動けるようになった。
覚悟を受取っているあなたの姿を見ているわ。
あなたの後ろから。
ママ、振り返って。
私が見える?

どうして、私をあの人と一緒に殺したの?
08:14  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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消える人

2009.03.02 (Mon)

それは、大きなお屋敷だ。
この辺りではほとんど昔から住んでいる住人が多く古い家が多い。
その中に、大きな敷地。
一軒は建ちそうなくらいの庭。
剪定された敷き詰められた芝生と樹木。
白い壁に大きな家。
 ある日、その家が増築されていた。
二階建ての家だったが、二階部分を一回と同じ面積ほどに広く増築した。
完成した家は、出窓がふたつ出来てとても綺麗に仕上がっていた。
ところが、そこにいた住人に変化が起きた。
学校に行く途中間ならずその家の前を通る。
高い塀に囲まれているとはいえ、坂道に立っているため上から下ってくる時に家の中は丸見えだったのだ。
最初は、白い綺麗なレースのカーテンが引かれて奥様だろうか?という人が家の中うろうろしている姿を見た。
洗濯物も干されていたし、洗濯物の量からして一家四人くらいだろうかというところだ。
それが、ある日レースのカーテンではなく遮光カーテンが一階部分の窓全部にひかれていた。
朝なのに?と不思議だった。
それから、毎日学校に行く時その家をなんとなく見ていた。
けれど、奥様の姿はなくご主人だろうか?という人がちらちら遮光カーテンの間から見えた。
だが、洗濯ものは明らかに減っていた。
子供の服と大人の男性の服が雑に干されている。
それからどのくらい経っただろう。
ふと、見たときとうとう雨戸が閉まっていた。
 そして、二度と開くことはなかった。
一体ここの家族はなんなの?と不思議だった。
確かに人の気配は最初はあった。
だからといって、家族を見たかといわれると見たことはない。
出かける姿も、かえって来る姿も。
見たことがあるのは、庭師の人だけ。
それから、更に時を重ねる。
時折見える誰に雇われているかわからない庭師が大きな広い庭の芝生を刈っていく。
沢山の樹木の剪定もしている。
けれど、その家に住人はいない。
いや、いないというより消えたのだ。
表札もあるし、玄関の電気もついている。
つきっぱなしか?というとそうでもない。
消えているときもある。
つまり、誰かはいる。
けれど、人の気配というのは感じられない。
家は人がすまなければどんどん朽ちていく。
不思議だが、使っていないのにもかかわらず古ぼけた家になっていく。
増築して半年も経たぬうちに、その家の住人は一人ずつ消えていったのだ。
奥さん、子供、そして、主人。
 だが、ある時笑い声がしてびっくりした。
なんと、人が沢山いたのだ。
庭でバーベキューをやっている。
一体どこから?
どこから来たの?
居たのか?
にしても、屋根は剥がれ落ちエアコンの室外機は台風で吹き飛んだままだぞ?!と私は驚いた。
 次の日、学校に行く時その信じられない光景を見た庭を覗いたときバーベキューをした後もなく人が居る気配はまったくなかった。
ただ、今まで閉まったままの雨戸と遮光カーテンがなく、白いレースのカーテンになっていた。
その先に、見知らぬ女性が立っているのが見えた。
さすがに気味が悪かった。
急いでその家の前を通り、学校へ向かった。
 次の日の朝も、やはり気なってその家を見てしまった。
昨日はなかったはずの、バーベキューをしたままの後がほったらかしてあった。
一体、何がこの家に起きているのか私は気になった。
学校が休みの日、その家の玄関のところまで歩いて行った。
すると、消えていた玄関の明かりが付き、中の明かりも付いた。
心臓がドクンと音を立てた。
怖い。
だけど、そこから動けなかった。
玄関のドアが、錆びた音を立てながら開いていく。
私は、誰が出てくるのか怖いという思いがありながらも興味があった。
開いた玄関からは、白いワンピースを着た女性がぼさぼさの頭をしてつっ立っていた。
「どうして、私の家をずっと見てるの?入る?」
私は、怖かった。
でも、その家に入った。
だって、この人、私知っていたから。
まさか、こんな所で会えるなんて。

「行方不明?!」
「しっ!声が大きい…」
「あ、ごめん。何?家出とか?」
「違うみたいだよ、なんか警察に捜索願は出したらしいけど」
「梨花子が家出とかありえないじゃん」
「だから、やばいってみんな口には出さないけどびびってんのよ」
「誘拐とかってこと?」
「違うよ、あの家だよ」
「家?」
「そう、入った人が消える家が梨花子の家の側にあるじゃん」
「あんな気味の悪いところに入るわけないじゃない」
「でも、あそこに行った可能性があるって警察が行ったらしいんだけど帰ってこないんだって」
「え?」
「警察官二人とも」
「嘘…」
08:49  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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溜息と待ちぼうけ

2009.03.01 (Sun)

あの日、ずっと寒い風が吹いて雪が空から降ってきて冷たい日だった。
どのくらい待ったのかなんて、もう時間も見たくないくらい時は過ぎ日は落ちて真っ暗だ。
溜息をついたら白い息が出てきた。
そんなに寒いのか。
足の感覚はなくなってきた。
携帯電話も何度かけても通じない。
留守番電話にも入れた。
メールも何通も送った。
 だけれど、返事はない。
いつまで待っていればいいのだろう。
これが、終わりという合図って事なのかな?なんてそんなことを考えながらずっと待っていた。
立ち疲れて近場のコーヒーショップに行き温かいコーヒーをテイクアウトし、待ち合わせ場所に戻りシャッターの閉まった店の前に腰を下ろした。
 その時、時計が12時を示していた。
「そんなに待ってんだ」
と、突然声をかけてきた人が自分の横に座った。
学生服を着た男の子だ。
そんなに疲れた顔してたのかなと苦笑して返事をした。
「まぁ、結構、待ってるね」
「寒くない?」
「寒いよ、とっても寒い。だから、今コーヒー買ってきた」
「そっか、お腹減らないの?」
「減った」
「じゃ、待ってて」
そういって男の子は、自分がさっき入ったコーヒーショップに入っていった。
戻ってきた彼の手には、自分用の飲み物と二人分のブラウニーとサンドイッチがあった。
「はい、あげる」
「あ、お金払うよ。いくらだった?」
「いいよ、待ちぼうけして元気のない顔をした人からお金もらえないよ。早く食べて少しでも元気出せば、待つことくらいできるんじゃない?」
十歳は年下であろう男の子に励まされるとはと、美味しそうなサンドイッチとブラウニーを受取った。
男の子も隣に座って一緒に食べた。
「君は、どうしてここに?」
「ずっと見てた」
「見てた?」
すると、彼は道路を挟んだ目の前の大きなビルを指差した。
そこには進学塾の教室にまだ明かりが点いていた。
「あそこに通ってるの?」
と聞き返すと、サンドイッチを食べていたので彼は頷いた。
「で、見えてたんだ。私」
更に頷く。
「って、こんな時間まで勉強してるの?!」
「そうだよ、勉強だけができることだから。俺んち成績でしかみてもらえないし」
もらったサンドイッチを一口食べて聞き返す。
「成績でしかみてもらえないって?」
「学歴主義ってやつだよ。親戚連中もそうだけど、親も成績が基準で子供を判断してるから」
そういった彼はちょっと寂しそうに見えた。
もらったサンドイッチがとても美味しかった。
食べてから気付いたが、かなりお腹が減っていたようだ。
「私はちっとも勉強できなかったな」
「親は何も言わないの?」
「まったく言わないってわけじゃないけど、だからといって怒ったりもしなかったかな。単に物覚えが悪いというか要領が悪いというか。自分なりに必死にやっているのは親も見てたから文句いわなかったんじゃないかな。受験の時とか泣きながら勉強してたもん。プレッシャーに押しつぶされてさ怖くてたまらなくて」
「そうなんだ」
「で、結局空回り。まぁ、なんとか私立の学校に受かったけどね」
「俺んちとは大違いだね。成績表とテストの点数が俺と他の兄弟のステータス。それ以外は考慮されないし。お小遣いも携帯も渡されるけど決まった額を毎月同じ日に渡されて、それ以外で話すのは成績の話だけだから」
「テレビ見ながら話したりしないの?」
「一緒にテレビとか見たことがない」
「えぇ?!」
「え?そんなに驚くことなの?」
「…私にとっては、ね」
「そうなんだ」
「こんな時間になってもご両親は心配してないの?」
「してないよ。何しても文句言わない。ただ、成績のことだけしか頭にないから。それ以外に対しては関心がないみたいだね」
「そう…」
「ねぇ、誰、待ってんの?彼氏?」
「いや、彼氏じゃない」
「え?!じゃぁ、誰待ってんの?俺が授業受けたときからずっとここで立ってたよね?俺、塾で五時間は授業受けてたけど」
「五時間も勉強してたの?!」
二人とも目を合わせて目を丸くする。
お互い噴出して笑った。
「私が待ってるのはね…」
「あ!」
「何?!どうしたの?!」
「終電逃した…」
「…タクシーで送るよ。家どこ?」
「あの駅から三つ目の駅だから歩こうと思えば歩けるからいい」
「夜だから危ないよ」
「ならさ、もっと温かいところで話さない?」
「どこで?」
「美海さんのうちってどこにあるの?」
名前を呼ばれて驚いた。
彼の顔は自分のすぐ側にあり、唇がつきそうなくらい側にあって。
でも、触れていた手が震えているのがわかった。
そうか、そうだったんだ。
私が待っていたのは…
「気付かなかった」
「本当に?」
「全然、気付かなかった」
「そんなに変わった?」
「そうだね」
「何で気付いた?名前を呼んだから?」
「どうして私が死んだのか、知ってるの?」
「いや、知らない」
「そっか」
「でも、ひとつ違うことがあるんだけど」
「何?」
「死んだのは、私じゃなくて」
「俺達だよね?わかってるそれくらい」
溜息をついて、空から降ってくる雪を見て。
顔をあわせて、溜息をついて。
大笑いした。
「何いってんの?」
「適当にあわせてみた」
「大人をからかうのもいい加減にしなさい」
笑って彼のおでこを軽く叩いた。
彼も子供のように可愛い笑顔を見せた。
「帰ろうか」
「待たなくていいの?」
「十二時の鐘がなったんだろうね。来ないって事はさ」
立ち上がって、タクシーを止め乗った。
「姉ちゃん、いい加減諦めたら?待っててもあの人は帰ってこないよ」
それは、そっぽ向いた弟からのアドバイスだった。
「姉ちゃんか…」
「癖、つけないと。俺、知ってるから全部」
つながれた手を握ったまま、私も窓の外を見ながら泣いた。
「十二時の鐘が鳴っても、魔法をまたかければいいじゃん」
そういう海の声は震えている。
「魔法使いはどこにいるの?」
私は、待ち続ける事を演じるしかない。
そうすれば、誰も気付かないと思ってた。
私が殺した事を。
殺さないと私は生きることを許されなかった。

それだけの話よ。
08:19  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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