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ティッシュの言葉の最後には

2009.04.30 (Thu)

学校から帰ってきた娘が持って帰ってきたティッシュが、なんと箱ティッシュだった。
「学校からでも取ってきたのか?」
と聞いてみると
「ううん、駅で配ってた」
というのである。
私は営業職なので車で通勤している。
電車通学の娘はいろいろなものを駅で貰ってくるが
さすがに箱ティッシュを持って帰ってきたのは初めてみた。

まさか、その箱ティッシュが自分の人生を左右するようなものとは思わなかった。

次の日の朝、どうも娘の様子がおかしい。
体調がかなり悪いようだ。
水曜日だったため私は休日だった。
あまりに熱が高いので娘に「病院にいこう」と車をだそうとすると
娘はどうしてもタクシーで行きたいと言い張るので仕方なくタクシーを呼んだ。
支えなければ歩けないほど熱も高く辛そうだ。
家から車で十分くらいのところなのだが個人病院の割りにかなりの患者がいつもいる。
待たさせるのはかわいそうだと思っていたが、不思議なことに患者はおらずすぐに受診できた。
娘を看護婦に預け診察室へ向かう。
さすがに娘の診察室に入るのはと待合室で待っていた。
待合室のテレビにはニュースが流れていたのだが、突然画面が切り替わった。
その速報ニュースを見て青ざめていたら、診療が終わった娘から妙なことを聞いた。
なんと、昨日持って帰ってきた箱ティッシュに文字が書いてあったという。

病院は明日以降に行くこと、また、タクシーじゃないと後悔する

それでタクシーと頑なにこだわったのかと納得したが、一体何なんだそのティッシュは。
家に帰り、そのティッシュを持ってきてもらいリビングで一枚とってみた。
さすがに驚いた。
自分の上司である部長の名前が出てきたのだから。

会議には必ず規格原案の資料を完成させ持っていくこと。
また、谷口部長の案は信じるな。裏切りが待っている。

ティッシュの言葉通り、資料を完成させ会社に行くとまさに完成させておいて良かったという事態になった。
また、谷口部長の案件は根回しが完璧ではなく唐突な案に社長は激昂し
その場しのぎの言い訳に谷口部長はその案件を自分が出したといい始めた。
しかし自分はまったく別の資料を作り提出している。
そして、その案件資料は会議出席者全員の手元にある。
谷口部長はその後このチームから脱退となった。
あの奇妙なティッシュのおかげだと心から思った。
この案件を駄目にすればクビになりえるほどの大きなプロジェクトだ。

家に帰り、このことを娘に話そうと思ったらなんと娘は出かけているというのだ。
「あんなに高熱があったのに大丈夫なのか?」
「熱は下がって大丈夫なんだけど、美樹ちゃんのところからまた連絡があって」
「美樹ちゃんって、またか?!」
「いくら仲がいいといってもね…あまり頼りにされるのも困るわね」
美樹ちゃんとは娘の友達だが、家出癖がありまたその原因も必ず両親との喧嘩という話。
何度かうちにも飛び込んできたことがあるが、大抵成績のことでかなり怒られているようだ。
詳しいことは聞かないが顔に殴られた痣や腫れあがった頬を見る限り
なんらかの体罰はあるのだろう。
飛び出した娘が帰ってこないと電話があるのはしょっちゅうで
いつも娘は心配して探し回っていた。

その後、娘が帰ってくることはなかった。

何故こんなことにと娘の部屋に入った。
一枚のティッシュが机の上においてある。
それには、”あと一日を有意義に”と書いてあった。
娘は自分が死ぬことをわかっていて家を飛び出したのかと思うと
何故、家にいてじっとして回避することを考えなかったのかと娘の写真の前で
返ってこない質問をしていた。
泣いている妻が涙をぬぐおうとあのティッシュ箱からティッシュを取ったとき妻も気づいた。
「何、このティッシュ」
「駅で貰ってきたそうだ、不思議なことにここに書いてあることは現実に起こった」
「嘘・・」
「本当だ」
「じゃぁ、これって・・・」
「ん?」

娘は被害者であると人々は認識している。加害者だとはわかっていない。
安心するといい。

「まさか!まさかそんな!」
私もさすがに驚いた。
そして、ティッシュをもう一枚取った。

真相を知るものは生きてはいない。
皆全て失われたものとなった。嘆こうとも戻りはしない。

もう一枚

明日、警察が来ても娘の部屋に入れるな

もう一枚

美樹の両親は関係はない

じゃぁ、誰だ?! もう一枚

あさっての葬式に男が来る、その男と会話をすると失うものがある。

葬式?誰の葬式だ?娘の葬式は今日終わったというのに・・・。 もう一枚

先を見たいのなら必要なときだけ使うほうがいい

ティッシュをとるのをやめた。

「何よ!なんなのよ!このティッシュ!!」
妻は泣き叫びながらティッシュを壁に投げつけた。
さかさまになって床に落ちた。
泣き続ける妻を抱き寄せた。
出来ることはそれしかないのがふがいないと心底思った。
泣き続ける妻の顔を拭くのに文字も見ず私はティッシュを何枚かまとめて取り
妻の顔をぬぐった。
泣き続けた三日間とこれからも泣き続ける妻の顔を見るのかと思うと
それだけでも辛い。
娘を急に失ったという現実。
そして、娘がこの事件の加害者であるというティッシュ。
しかし、真実はどこにもない。
なのに何故、加害者と決め付けるのか。
「タオルを持ってくるから」
妻をソファーに座らせて、ティッシュを渡し洗面所にタオルを取りにいった。
変死である以上警察は家に来るが何故娘の部屋に入れてはならないのだろう。
タオルをもってリビングへ戻ると、ぐしゃぐしゃになったティッシュを広げている妻の姿があった。
「もう、よしなさい」
「・・・見て」
そこには、五枚ティッシュがあった。

父ちゃん 母ちゃんへ これ見える?

美樹が突然男に襲われたの

私と美樹は全力で抵抗した

だけど、美樹と男は一緒に橋の下に落ちた

父ちゃん 早く逃げて

「これは、あの子の言葉よ!ティッシュが言っているわけじゃないわ!」
「もう、よそう。こんなティッシュの言葉なんかに惑わされてどうする」
「逃げてっていってるのよ?!」
「やめなさい」
「お父さん!あの子はもう帰ってこないの!あなたまで・・・あなたまで・・・」

狼狽する妻を二階に連れて行き寝かせて少し休みなさいと寝付かせた。
リビングに戻り自分が何故逃げなければならないのか
本当にあの言葉は娘の言葉なのだろうか

ティッシュの箱を抱えたまま考えた。

一枚取る。

もう伝えることはない

つまり、私に残された言葉は娘らしき言葉を発した最後の文言だけだった。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し一気に飲んだ。
よくわからないが妻一人にするわけにはいかない。
だからといって今家を出て娘一人残すのはあまりにもかわいそうだ。
どうすれば・・・

妻の様子を見ようと二階に上がった。
だが妻の姿がなかった。
一体、どこへ?
探していると階段を下りる音がした。
下に下りてみると妻はティッシュの箱を裏返して底を破いていた。
「何をしているんだ・・・」

すると、妻は泣きながら笑い出した。
気が狂ったのかと心配して側によると妻が私に底の一枚を手渡した。

最後の一枚が底にあるわけではない。
ティッシュに振り回される人生を楽しむがいい。

私はティッシュ全てを掴み取り投げ捨てた。
ひらひらと舞うティッシュ全てに書いてある言葉は一言だけ。

無駄遣いをするな
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07:48  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(6)

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永遠をさまよう者達

2009.04.29 (Wed)

この戦争が始まる時、世界は平和の真っ只中にあった。
私はいつも通り朝を向かえ目を覚まし朝ごはんを食べた。
いつも通りの休日。
けれど、いつもの休日と違う点はその日、病院に行こうと車に乗って出かけようとしていた。
車に乗ってサングラスをかけてふと映った眩しい光が最後。

それが、ここでの最後の記憶。

気がついたときにはまるで違う世界にいた。
宇宙人かと思う人たちが私を連れて行った。
何を話しているか言葉も理解できなかった。
しばらく私は宇宙人らしき人たちに連れられビルの中に部屋がありそこで過ごした。
色々な検査をした結果、何かがわかったようだけど、私にはさっぱり。
言葉を覚えてなんとか、お互いの意思疎通が出来るようになったとき
宇宙人じゃないことがわかった。

「これに入るの?」
「うん、これが最後の実験だから」
「あの子達も?」
「そうだよ」
「随分と、小さい子供だね」
「こんな世の中だ、いくらでも子供は余っている」
「何それ」
「実験体を提供することで恩恵を受けられるんだよ」
「売ったんだ・・・」
「そんなもんさ」
「私は泳げないし、水の中で息は出来ないよ」
「これつけて」
「マスク?」
「ここから酸素が送られるから」

私は白い服に着替えてマスクをつけ紫色した液体の中に入った。
水の中で目を開けることができないのだけれど
イヤフォンから目を開けろという指示があった。
でもだんだん眠くなってきてしまって、目が覚めたら隣にいた小さな子供は異形化していた。
沢山いた子供達も一緒の液体に入っている。
この液体が何かはわからないし、宇宙人だった人たちも何をしているのか
詳細は教えてくれなかった。

次に目を覚ましたとき、私だけだった。

その時の私の姿は、この液体に入る前とはまったく違うものになっていて
驚くべき変化をし形を成していた。
目の色も、肌の色も、肩甲骨が変化して羽のような骨組みがあって
死神を思わせるような容貌で長かった髪は色あせ白くなっていた。

「どうかなされたんですか?」
「ううん、ちょっと昔のことを思い出していたの」

背中の骨は日ごとに形を成していき今では立派な伸縮自在の羽になった。
人は空を飛ぶことを選んだのだ。
ただし、私以外の人間にあらゆる実験を行っても次世代の私となる形態は生まれなかった。

「最初はクリーチャーっていわれていたのにね」
「え?」
「呼び名だよ。私の」
「まさか、そのようなことがあったのですか」
「うん、今みたいにみんな普通に接してくれる人なんていなかったし進化した人類とは思ってくれなかったから」
「それはいつのことですか?」
「そうだね、いつかな。もう300年は前だと思うよ」

あの戦争で、地球はなくなり、残った人々は箱舟を作った。
まさにノアの箱舟だ。
宇宙へと移住先を移し、漂ったまま生きている。
惑星など降りたところで犠牲者が増えるだけだった。
私達は小さなこの船の中で生きている。

「どうですか?彼女の様子は」
「えぇ、だいぶ体調は落ち着いているようです」
「人類最後の生き残りか」
「実験体ですから、あれを人と位置づけるかは相変わらず物議をかもしているようですが」
「確かにな、あの姿は俺も人とは思えん」
「地球人とは一体どういう生命体だったのでしょうね」
「わからんな、俺達はこの星を観察し始めようとした矢先に滅びた惑星を見つけた」
「そして、彼女だけが残っていた」
「人とは随分と残酷な生物だったのでしょうね」
「この惑星の歴史は、彼女の中にしか残っていない」
「我々は本当にあの星の子孫なのでしょうか」
「それも、彼女の記憶だけが頼りだ」
「彼女はなんと言っているのですか?」

男は溜息をつき、窓の外から見える地球を眺めていった。

「自分が作り出した幻だと話したことがあるそうだ」
「え?」

ノアの箱舟はあっという間に動かなくなった。
一人は寂しかった。
私が乗ったためにみんな私の中にあった何かに汚染されて死んでしまった。
だから、みんなを取り戻そうと思った。
生きていたら殺してしまうから
ホログラムなら死なないと思って作り出した。
みんな、気づいていない。
私と同じ。

永遠を生きるの。

死が別つことのないこの小さな船の中で。
もう寂しくないわ。
07:53  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(8)

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小さな娘へ

2009.04.28 (Tue)

私が十五歳のときにあなたは生まれて小さなあなたと兄弟の二人

あなた達のママが一生懸命口にくわえて連れてきました。

随分と大きくなっても乳離れせず、ずっと飲み続けて

下の子が生まれたというのに、奪い取って飲んでましたね。

ママは本当は別のおうちの猫でした。

そのおうちの人が子を産んだという理由から追い出してしまいました。

なので、あなた達二人を我が家に迎えることにしました。

けれど、あっという間に兄弟が事故で亡くなったのが辛かったね。

あなたとはとても仲が良くて受験で苦しんでいた私の側に来て

ずっとひざの上に居てくれたのがとても嬉しかったの。

いつも一緒に寝て、いつも一緒で、雷が怖くて泣いてたら側にいてくれて

私はあなたに甘えっぱなしでしたね。

名前は、ルンと名づけました。

国語の教科書からとった名前なの。どんなお話か忘れちゃったけどいい話だったのよ。

ルンはとても頭が良く、また狩人で、殺さずの精神を持っているのか

すずめさんやらめじろさんを捕まえて咥えてきても気絶しているだけで殺すことをしませんでした。

お外に散歩に行くにしても、車のことをわかっていたし、とても信用していました。

私が帰ってくるのをずっと待っていてくれましたね。

突然、どこからか鳴いて出てくるからいつもびっくりしてました。

抱っこは嫌いだったわね・・・

気位高くて、よくそりのあわないご近所の猫さんとも喧嘩してたけど

やる気のない喧嘩してたね。

あなたが突然この世界からいなくなって、写真の中の人になって6年が経ちました。

けれど、それに気づいた私は驚きました。

私にはもう十年以上あっていないように長い月日が流れたように感じていたからです。

ずっと忘れられず、携帯の待ち受け画面も写真立てのあなたも一緒でした。

でも、それがあなたを縛り付けているような夢を見たことがあって

泣いてばかりいる私を怒ったのだろうかと思ってやめました。

今では、あなたの妹のおはなちゃんが一番の長寿になっています。

一番怖がりで一番ひ弱そうなお華ちゃんが元気です。

どうして急に思い出したのかわかりませんが私にとってあなたは大切な娘です。

小さなあなたを守れなくてごめんなさい。

何があったのかわかりません。

でも、あなたは突然いなくなってしまった。

事故だったのか何なのかわからない死だった。

その悲しみがなくなることはありません。

私の大切な娘達はとうとう家から出ることも出来ず

また、出すことも怖くなって家に閉じ込めています。

あなたはそれを許さなかったもんね・・・。

ただ、外でじっとひなたぼっこしたいだけだったんだもんね。

そんなことすら出来ない世界になってしまったのが悲しいです。

ちょっとお散歩にというのが、死と隣り合わせ。

守るには閉じ込めるしかなくなってしまいました。

星になったあなたにお願いです。

どうか 私の記憶を薄れさせないで。

あなたの鳴き声を思い出させて。

足音ですぐわかってたのに。

消えていく思い出が悲しいです。

大好きよ るん

みんなと一緒にお元気ですか?

あまり、鳥さんをいじめちゃだめよ・・・
07:47  |  星に願いを  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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学校の七不思議

2009.04.27 (Mon)

「今日からこのクラス担任になりました、有川です。よろしくお願いします」
それが、私の初めての挨拶だった。
この小学校に配属され、そして初めてのクラス担任を任されることとなった。
小学校一年生の小さな子供たち。
少々落ち着きのない元気な子が目立つので不安がよぎるが、元気がないよりいいと思った。

「学校の七不思議って知ってますか?」

何の気なしに発言した一言で教室にいる私以外の人間がが一斉に静まり返り
入学式から教室に移動した保護者達まで目線を下げた。
大抵どこにでもある七不思議という話。
何故七しかないのかが私には不思議だ。
どこの学校も似たり寄ったりの話が多く最初はこういう話題で盛り上がるものだと
思ったのだけれど、子供たちとその保護者の視線は明らかに恐怖を感じている。
そこまで深刻にならなくても・・・というのが率直に感じた気持ち。
私はとても驚いてこの後何を話したらいいのかわからなくなってしまった。
すると、生徒の一人が手を上げた。
「はい、西田君」
入学して早々元気の良かった西田君。
ちょっと不安を感じさせるほどの元気よさだった彼が、今はとても神妙な顔をしている。
「先生、ここの学校の七不思議は調べちゃダメなんだよ」
今時の子供にしては意外だが、七不思議を信じているということだろうか?
どちらかというとそんなことあるわけがないなどとあざ笑うかと思ったのだが。
「あれ?じゃぁ、西田君は七不思議を知ってるの?」
そう聞いてみると、突然西田くんのお母さんが彼の席に駆け寄り西田君をひっぱたいた。
「お、お母様!どっどうなさったんですか!?」
さすがに驚いて私は教壇をおり西田君の側に行った。
「先生、ここでは七不思議の話しをしてはならないとしつけるものなんです」
「七不思議って…その、そこまで深刻に考えられなくても・・・」
「先生はご存じないでしょうが、七不思議は祟られるんですよ」
「祟る?」
「そうです。話をしてはならない。秘密を知ったものは口をつぐまなければ縫い付けろ」
「は・・・?」
「そういう教えを代々この周辺の家ではしつけの一環としてしているのです」
「・・・そっそうなんですか。失礼いたしました」
まったく理解できない会話だった。
しつけの一環で学校の七不思議を話してはいけないということを教え込んでいるということか。
となると、彼らは七不思議を既に知っていることとなる。
ということは、誰かが口をつぐんでいないというわけだ。
人の心理として「ここだけの話なんだけどね」などという前置きをよく聞くのは日常的なこと。
緘口令など無意味に等しい。
緘口令などしようものなら広がりを早めたい時に使ったほうがいいようなものだ。
その話の結末を知った後、その事の大きさに気づき口をつぐんだというわけだろうか。

けれど、話したくなるのが人の心理。

それを破った時点でこれだけの恐怖を与えるというのは一体何が原因なのだろう。

「では、えっと番号順にお名前をいいますので大きな声でお返事をしてください」
一通りの行事をこなし、一日目は終了を迎えた。
職員室に行くと既に私のクラスの話題は広まっており「なんであんな話したの?」と
同期の職員から言われた。
「なんでって、学校っていったら定番じゃない」
「普通ならね、でもここは違うの」
「何が違うの」
「平たく言うと七不思議を知った後誰かに伝えたら掟を破ったことで自分が祟られるのよ」
「祟られるって言ってたね、確かに。誰に祟られるか知らないけど」
「破ったら突然出て来るんだよ」
「何が」
「七番目の子供が」
「なにそれ」
「七不思議って言うのはどちらかというとそんなこと本当にあるのかっていうような話が多いでしょ」
「うん」
「でも、ここの七不思議は実際に起こった話なの」
「実話って事?何があったの」
「七番目の子供が消えたのよ」
「消えた?」
「消えたり理由が一から六までの不思議で七番目が七番目の居る場所がわかるの」
「居るってどういうことよ」
「一から六までの子供にいじめを受けて最終的にはやりすぎて死んでしまったのよ」
「死体でも埋めたとかっていうわけ」
「そうよ」
「警察が動くでしょ、本当なら」
「動いたわ」
「何でそんなに詳しいの」
「当時私がここに通っていたときに起きた話だから」
「それで、どこに居るのよ。七番目の子って」
「学校の裏にある桜の木の下よ」
「随分詳しいのね」
「私は話さなくても祟られるもの」
「どうして?」
「あの時、どうしてあんなことをしたのかわからない。でもいじめているという自覚はなくて」
「何かしたの」
「窓から落とすふりをしてたのよ、そうしたら本当に落ちてしまって。事故だったのよ」
「事故ねぇ・・・」
「それでも、まだあの子は生きてた」
「何それ、まるであなたそこに居たみたいね」
「・・・」
「生きているのがのわかってたのに、やったことがばれたら怖いからって埋めたんだ」
「・・・そうよ」
「殺人じゃん」
「ちがうわ、事故よ」
「事故か・・・。苦しかったな、助けてってあれだけいったのに」
「え?」
「居場所しってるのは私を埋めた一人ってことよね」
「・・・まさか」
「話したら私が出てくることを知ってて話すのよね。自分が悪くないと主張したいから?」
「奈々なの・・・?」
「あそこから這い上がるのは結局出来なかった。祟られるなんて本当は思ってたんでしょう」

次の日、担任になって二日目の朝を迎えた。
「おはようございます」
元気な声が返ってきて明るいクラスに戻っていた。
「先生!」
「はい、なんですか?」
「七瀬先生はお休みですか?」
「いいえ、七瀬先生は桜の木の下に居ますよ」
一瞬にして、皆の顔が凍りついた。
「私を埋めた人間達の子供達ね。よろしくね、みんな。共に苦しみを分かち合おうね」
私は、出席簿を持って教室のドアを開けた。
「さぁ、行きましょう。桜の木に。名前を呼ぶからついてきて」
最上の微笑を浮かべて言った。
「私を殺した奴を殺せって。どうして誰もしてくれないの?しなかったらお前達を殺すって言ったのに」
大きなスコップを取り出して手に持った。
「私は約束を守るわ。行きましょうか、一宮君、西田君、三谷さん、品川さん、後藤さん、六田さん」
六人は席から立ち上がり青ざめて教室から飛び出して逃げていく。
「あなた達の親が私を埋めたのよ。そのくらいすぐにわかったでしょう」
08:08  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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不幸の手紙

2009.04.26 (Sun)

ちょっと前に私は携帯電話のメールでチェーンメールというのを貰った。
内容はこうだ。

このメールを五人の友達に転送しないと
あなたは明日死ぬことになります。
また、転送した場合もその友達五人全員が転送しないと
死があなたを迎えに来るでしょう。

なんつーか、ほぼ、死亡確定じゃん。

条件きついって。
自分が五人に送って、その後人全員が五人に転送しないと私は死亡すると。
つまり、私の命は三十人にかかっているわけだ。

あほらしいと私はそのメールを削除した。

ところが次の日。
「宅急便です」
とやってきたお兄さんが持ってきたのはA4サイズの封筒だ。
差出人にここ当たりはなく、また、この封書の表にある言葉も開けることを躊躇させるものだった。

不幸の手紙在中

・・・う~ん。

不幸の手紙が、郵便じゃなくて「宅急便」で来たよ。
そんなに急いでたの?

とりあえず、中をあけてみることにした。

中には一枚の用紙が入っているだけでそれ以外は返信用封筒のみだった。
返信だけは郵便を使うようだ。

このお手紙は不幸の手紙です。
あなたが不幸の不幸を肩代わりしてもらうため
あなたが恨んでいる相手に恨みの気持ちを送りましょう。
心のスキンケアも怠ってはいけません。
恨みというのは毒以外なんでもありません。
さぁ、この手紙はフォーマットになっております。
空白の欄に相手の名前を記入するだけで不幸の手紙は完成です。
ご利用の際は返信用封筒に記入した用紙を封入後投函してください。
ご利用お待ちしております。



なにげなく、説明文だけ読んでしまった。
それがいけなかったんだと思う。
不幸の手紙フォーマットの中身を読まず、私は空欄に名前を記入した。
そして封筒に手紙を入れ切手の入らないものだったので投函。

その後、なんと空欄に名前を埋めた人物が確かに不幸になった。

だが、その後。
「宅急便です」
また、不幸の手紙が宅急便で届いた。

中身を開けてみると、確かに不幸の手紙だった。

ご利用ありがとうございます。
ご利用に関してご請求金額は費用を含め一千万になります。
お支払いいただけない場合は、あなたに不幸をお届けします。
07:57  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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村の話でございます【改定稿】

2009.04.26 (Sun)

わたくしの本家はとあるとても小さな集落をもった村にございます。

村には昔ながらの因習が伝わっており、それを粛々とまもり過ごしております。

本家筋の当主となる可能性のある子は十六になると家を出なければなりません。

本家の跡取りは誰が跡取りなのかをわからないようにしなければならないのです。

村の言い伝えのひとつあり、本家のものしか理由を知りません。

わたくしの本家筋の血を引くものは村から出ることを許されておりません。

血族を他所に出してはならないのです。

本家では薬を作っております。

その薬は本家筋の血を引くもので女児からしか作ることが出来ません。

効力は絶対ですが、集落の中だけでございます。

集落を一歩でも出れば効力はなくなります。

効力とは死んだものを呼び戻すことが出来るのです。

ですが、私たち本家筋の血族者は死を迎えます。

死は我々の一族にだけ与えられた高貴な事とされております。

村のものは死を迎えることはありません。

本家当主より死を取り除かれ新たなる生が授けられます。

男児が生まれた場合のみ里子出さなければなりません。

男児を里子に出すと村の記憶を失います。

その理由は本家筋の者しか知りません。

本家筋から生まれた男児は死ぬことはありません。

村を離れても男児は死ぬことがないのです。

本家は男児を災いをもたらす存在と言い伝えられております。

永遠の生を村を出ても効力を失わない恐ろしい力。

本家筋から生まれた男児は当主の力を借りずして力をもつ存在なのです。

村の言い伝えでは、里子に出した男児を村に呼び戻し血を抜く儀式をせねばなりません。

当主以上の力を持った毒のある力。

その効力は絶大であり、またその力は必ず災いを呼びます。

強すぎる力は人々の心を蝕むのです。

その力を欲するものが村の外に住まう人間です。

彼らはこの血を飲み永遠を求め村にとどまる者もいます。

男児の血には集落以外の場所でも効能がありますが、効力は逆になります。

その効力をを求める者も後を絶ちません。
00:07  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(6)

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村の話でございます。

2009.04.25 (Sat)

**********お知らせ************
改定稿UPしました。
*****************************


わたくしの実家はとあるとても小さな集落をもった村にございます。

わたくしの村には昔ながらの因習が現代にも伝わっておりそれを守り過ごしております。

わたくしの村には十六になると必ず家を出なければなりません。

本家の跡取りは誰が跡取りなのかというのをわからないようにしなければならないのです。

これは、村の言い伝えであり理由は本家のものしか知りません。

わたくしは村の集落から出ることは出来ません。村の血を他の地へ出すわけにはいかないのです。

ただし、男児が生まれた場合のみ里子出さなければなりません。

わたくしの実家では薬を作っております。

その薬はわたくしの家の血を引くもので女児からしか作ることは出来ません。

効力は集落の中だけでございます。

集落を出れば効力はなくなります。

本家の当主は死んだものを呼び戻すことが出来るのです。

ですが、血族者は死を迎えます。

死は我々の一族にだけ与えられた高貴な事です。

村のものは死を迎えることはありません。

当主より死を取り除かれ、新たなる生を授けられます。

男児は里子に出すと、村の記憶を失います。

その理由は、当主以下の私たち家のものしか知りません。

男児だけは死ぬことはありません。

村を離れても、男児は死ぬことがありません。

これは、災いをもたらす存在です。

永遠の生を村を出ても受け継いでいる存在です。

村に戻られば問題はございません。

ですが、男児は当主の力を借りずしてその忌み力をもつ存在です。

村の言い伝えでは、男児を里子に出した後その後引き取り血を引き抜く作業が必要です。

男児の血は汚れています。

ですが、当主以上の力を持った毒のある力。

その力を欲するものがいます。

村の外に人間です。

彼らはこの血を飲み永遠を求めます。

男児の血には集落以外の場所でも効能があるのです。

ただし、効能は逆になります。
23:22  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(9)

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臨機応変をご存知?

2009.04.24 (Fri)

****お知らせ***************
葉桜【改定稿2】UPしました
***************************

こんなに大変なことになるとは思っていなかった。
それこそ沢山の荷物になってしまったし、久しぶりに外に出たからく疲れちゃった。
家に帰ってもこの荷物のせいで片づけが沢山あるの。
ちゃんと掃除しないとどうせすぐわかってしまうこと。
でもいいの。
私の気は晴れたから。
もちろん、自己満足って事くらい知ってるわ。
でもね、しょうがないじゃない。
本当に苛々して仕方がなかったんだもの。
その原因があの男にあるって言うのなら、それをぶつけるのはそいつしかいないじゃない?
奥様が悪いなんてこれっぽっちも思ってないわ。
だって、奥様がいるなんて知らなかったし。
奥様だって青天の霹靂だったことでしょうよ。
私も同じ雷の音を聞いた気がするわ。
だからね、もう、あの時には私の中で決まっていた出来事だから。
そう。
この大荷物。
大荷物になることくらいは最初からわかっていたのだけれど
こんなにも重たいものだなんて思ってなくてさ。
本当にびっくりしてるのよ。
リュックサックに両手にビニール袋ふたつずつ持ってる。
おまけに今日は雨だし。
最低だわ。
雨なんて降るとかいってなかったじゃない。
だからね、もう、家に帰ってご飯作る気にもならなかったの。
それでこの店に来たわけなんだけど。
「いらっしゃいませ」
簡単に食べることが出来るファーストフード。
時々無性に食べたくなるのよね。
久しぶりに入った店内では人が沢山いたし、タバコの煙も嫌だったから持って帰ろうと思ったの。
あら、新しいセットも出てるんだ。
「このセットをふたつください」
「かしこまりました、現在エコのために紙袋でお渡ししておりますがよろしいですか?」
「は?」
ファーストフードのセットをふたつ頼んだ私。
両手にはふたつずつも袋を持っているし、傘も持ってて
その荷物を置かないとお財布さえ取り出せないというのは、誰が見たってわかる話。
エコ。
えぇ、もちろん、エコに対しての取り組みというのは大変すばらしいことだと思うの。
でもね。
私を見て、紙袋だけで持って帰れる状況だと思うの?
「・・・袋、お願いします」
「・・・はい」
なに?!その素っ気無いその態度は!
なにそれ?!
ねぇ?!持てないのわかるよね?わからないの?そこまで袋を渡すの嫌?!
そんな不機嫌な顔して、なんだよエコっていってんだろーって顔に書いてあるよ。
こっちは大量の重たい荷物抱えてるのよ。
そんでもってあくまで私は客です。
わかってるの?!
あぁ、せっかく苛々が取れたというのにこんなところでこんな気持ちにさせるなんて。
そうして、エコエコという顔に書いてある店員が出してきたのは異常に大きな紙袋。
あのさ、私が頼んだ分の分量はわかるよね?
どうしてそんなでっかい袋持ってくるの?
それこそ無駄なんじゃないんですか?

二度と、行かないと、心から思いました。

家に帰って大量の荷物をおろした。
「はやくしないと、冷蔵庫に入れなくちゃ」
独り言を言いながら私は冷蔵庫を開けて抱えていた荷物を全部詰め込んだ。
「これで、大丈夫。腐ったりしないよね?見つからない場所を探すまでここにいてね」
そういって冷蔵庫を閉めた。

それから無駄に大きな紙袋からハンバーガーのセットを取り出すと
小さな紙袋に入れられていたが、ポテトもハンバーガーもまとめて入れてあり
ポテトはハンバーガーに押しつぶされていた。
もちろん、ちょっとした心遣いの紙袋に食べ物が触れないようにという配慮すらない。
キッチンペーパーみたいなの一枚くるんでくれればいいだけの話。
そうよねぇ、エコだったわね。

でもね、ケチと節約って違うのよ。

「はい、奥様。こっちのセットだったよね?」
「うん、ありがと」
「もうこれで大丈夫、二人のアリバイは完璧でしょう」
「そうね、あれだけ人前では仲たがいしている様を見せつけたし。協力してるなんて」
「誰も思わないよ、冷蔵庫の中にいる人は今頃後悔しているでしょうね」
「後悔なんてするような人じゃないわ」
「化けで出るとか?」
二人でちょっと笑ってしまった。
「まさか、そんな根性もあるような人じゃないわ」
「このファーストフードはもう買うのやめましょうね・・・」
「えぇ、それは、冷蔵庫の人並みに最低ね」
二人で声を出して笑った。
21:30  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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葉桜【改定稿2】

2009.04.24 (Fri)

山の上にある小さな神社。
そこにある大木の桜。
その桜が咲いている満開の時をみることが出来るのは大人だけというのがこの村の習わしだ。
小さな僕たちが来たときには花びらを落とし葉桜になっている。
まだ保育園に行っていたときの話。

あの時、どうしても僕たちは桜祭り行きたかった。
けれど「行ってはいけない」という両親の言いつけが邪魔をした。
桜の周りでは伝統ある踊りと歌が披露され最後に大きな炎で神に捧げ物を煙にして捧げるそうだ。
大人たちは集いその炎を消えるまで見続けているという。

桜祭りだけではなくこの桜と神社に近づくことを禁じられていた。
理由はわからない。
一度だけ言いつけを破って見に行った桜の木はとても大きくそして綺麗だった。
けれど、葉っぱだけの桜の木。
神社の神主をしているおじいさんに見つかりこっぴどく叱られた。
あれはとても怖かった。
あのおじいさんは生きた屍のようにしわだらけの顔で目がぎょろっとして怖かった。

大人は祭りだというのに楽しそうな顔は誰もしていない。
いつもならば祭りの準備に参加している母もあの年は参加しなかった。
台所にあるダイニングテーブルに座りずっと考え込んでいる。
両親が喧嘩したという雰囲気もなくどうしたのだろうかという程度しか考えていなかった。

祭りにどうしても行きたいと言い出したのは弟。
もちろん僕も行きたくてどうにかして家を出ようと考えた。
祭りに参加せず両親が家に居るから勝手に出て行くことが出来ない。
どうして参加しないのか。
なぜそんな顔をしているのか。
父も帰宅して母と一緒にリビングでただ座っているだけ。

自分達の一階にある部屋から外に出られるが見つかったら怒られる。
そこで、僕は考えた。
僕たちの代わりに誰かが居てくれればいいと。
僕は二階に上がり隣の家の幼馴染の兄弟を呼んだ。
窓が近いため手を伸ばせば届く。
トントンと窓を叩いた。
「どうしたの?」
「おじさんとおばさんいる?」
「いないよ。だってお祭りだもん」
「じゃぁ、すぐこっちに来て。静かに」
窓から窓へ幼馴染の兄弟を部屋にそっと入ってもらう。
「おねがいがあるんだ」
「どうしたの?」
「お祭りにどうしても行きたいんだ僕たち」
「え?!でも行ったら、怒られるよ」
「大丈夫だよ、見つからなければ」
「見つかったら怖いおじいさんに殴られるよ」
「それより、今日パパとママが祭りに行ってないんだよ」
「どうして」
「わかんない。だからね、代わりにここで僕たちのフリをしてて」
「ベッドで寝てればいいの?」
「うん、すぐ帰ってくるから」

これが彼らと最後の会話になった。

桜祭りに行ったものの葉桜で誰も人がいなかった。
まだ祭りがあっていないのかもしれないと一度家に戻った。
家に帰ると両親は大声を上げて話していた。
その時に僕たちは見た。

「やめて!僕はりーくんじゃないよ!」
「うるさい!誰でもいい!私たちの子供は渡さない!」
「やめて!おばちゃん!やめて!」
「大人しくしろ!今年の神事で捧げられる神童なんだ!俺達の子供として出るんだ!」
「嫌だ!やめて!」
「私の子供を神様になんか渡さないわよ!私たちの子供が儀式の犠牲になんか!」

怖くなって急いで僕たちは神社に戻った。
境内に隠れていると桜祭りが始まった。
村の中学生の女の子が着飾って変わった服を着て舞を踊る。
僕たちと同級生の女の子達が歌を歌う。
それが終わると、子供たちは皆顔から白い布をかけられ前が見えないようにさせられ舞台上に座った。
満開の桜の木の前に二人の子供が歩いて来た。
白い服に、白い布で顔を覆っている。
手には白い紐で縛られて、足は歩けるくらい余裕は持たせてあるが紐が両足に結んである。

最後の祭儀が始まる。
沢山の物などを火の中に入れ天に送り届けるというもの。
沢山のお供え物の中心に二人の子供が立っている。
桜の花びらをどんどんちぎって大人たちは子供にふりかけていく。
何かをぶつぶつと唱えながら。

そして、火がつけられた。

火が中心にいる子供に一瞬にして燃え広がった。
子供は走り出して転げまわりながら桜の木に抱きついた。
何を言っているのかわからない声とうなり声。
異様な匂いと崩れていく体。

僕たちは幼馴染が焼かれるのをじっと見ていた。
声を殺して見つからないようにすることだけを考えて。

桜祭りが終り大人たちが家に帰った後、僕たちは隠れていた境内から出てきたときに
骨というものをはじめてみた。
僕たちの両親が僕たちだといって連れてきた彼らが
身代わりとなったことくらいはわかった。
骨は散らばっていた。
弟と一緒に集めてそばにあった桜の木の下に埋めた。

家から出る間際、彼らと約束をしていた。
「僕たちも見たいよ」
「じゃぁ、すぐ帰ってくるからその後交代しよう」
「満開の桜、みてみたいもん」
「すごく綺麗だって大人はいうからね」
「ずるいよ、こどもだってみたいよね」

満開の桜を見ることなく彼らは桜の石杖となった。

あれから十五年。

僕たちは家に帰ることが怖くて出来なかった。
隣の家に行ってあの兄弟と入れ替わった。
おじさんとおばさんはすぐに気がついたらしい。
あの炎の中にいたのが僕たちじゃないことを。
でもまさか、自分達の子供だとは思っていなかったそうだ。
僕たちが全部話したことでおじさんもおばさんもずっと泣いていたけれど
すぐに僕たちを連れその家から出て引っ越した。
ひとつの約束を果たして欲しいという願いに誓いを立てた。

この桜が花をつけなくなったのがこの年の翌年から。
それは、僕たちが桜の下に埋められなかったからだということが原因らしい。
この山に捧げる神童として埋められる子供は男児であり
六歳前の子供二人。
その子供は祭りが始まる前日にあの神社に祭られている神より選ばれる。
といっても実際はその神社の関係者が六歳以前の子供がいる家庭から
おみくじのようなものを引かせて選出していたそうだ。
その時、幼馴染の兄弟も入っていたが僕たちの両親があたりをひいた。

けれど両親はそれに従うつもりはなかった。

僕たちが桜祭りに行きたがっていたことは知っていただろう。
入れ替わった僕たちの行動を見て、身代わりにしようと思いつき二人を連れて行ったんだ。

神童に着せられる服を着れば顔が隠れる。
中身が僕たちじゃないとは誰もわからない。
桜が毎年咲くのは捧げられた子供たちの命が尽きた証だという。
捧げられた子供が違う子供だった場合捧げられるまで葉桜のままだそうだ。
つまり、ずっと葉桜で入れ替わった子供を捧げた両親は自分達の子を捧げたと
いい続ける堂々巡りになっている。
これは、引っ越した後おじさんとおばさんから教えてもらった話。

「満開の桜を見たいもん」

その約束を果たすことが出来るようになった年の春。
「遅くなってごめん」
葉桜の木の前で僕たちは彼らに謝った。
「満開の桜を見せる約束だったね」

その条件を満たす時期が来た。

村に戻った僕たちは神社に向かった。
神社の神主は驚き僕たちを見て溜息をついた。
僕たちは言った。

「降誕祭をしてください」

それが唯一、違う神童を桜の木の下に埋めたあと桜に花を咲かせる方法だといわれている。
何度か行われたらしいが捧げる人物が決まっていて
またその子供が二十歳を迎えたときにしなければならない。
捧げる人物とは、本来の神童とその両親である。
十五年ぶりの両親との対面。
青ざめた二人が目の前いる。
「生きて・・・いたのね」
「桜が満開のときをみたいといっていた。約束したんだ。僕たちの変わりに殺された二人と」

あの時、僕たちが泊まってとお願いしなければ彼らは生きていた。
それを知っても僕たちをこの年まで育ててくれた。
約束を果たすためとはいえ自分達の子供を殺した人間を育てるのは苦痛だっただろう。
「おじさん、おばさん。今までありがとう」
携帯電話でその一言だけを伝え電話を切った。

「降誕祭を行う」
神主の一言で僕は両親に火をつけた。
白い布で縛り付けられ、赤い紐で首を括られ桜の木にぶらんと垂れ下がっている。
「火をつけるよ」
「うん」
焼かれよう、僕たちも。
僕たちはあの時切るはずだった神童の服を着て両親に火がついたことを確認した後
葉桜の葉をちぎり集めた落ち葉に二人で火をつけた。
その落ち葉の中心に僕らは立っている。
火のついた桜の葉が僕たちを包む。

「あのときの儀式を終わらせていない」
「だから葉桜しかないんだ」
「そう」
「父さんと母さんまで」
「儀式を裏切ったものの命も降誕祭には必要だそうだ」
「桜が僕たちの血を感じれば花をつけるんだよね」
「そう。もうすぐ春が来る」
「満開のときを見たいっていった約束。兄ちゃんは守った」
「あぁ、遅くなったがこれで償えるとは思えないがこれしか方法が思いつかなかった」
「来年は桜が花をつける満開の桜が見られる。きっとあの二人も許してくれるよ」
07:07  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(3)

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黒猫が横切ると

2009.04.23 (Thu)

*****お知らせ******
葉桜 改定稿をUPしました
******************

私は魔女になりたての頃、こんなことを言われた。
「昔から言われていることには何かしら理由があるの。その理由が何かわからないことが多い。でもね、ちゃんとそれは守って頂戴」
でも、たった一つだけ私は守らなかった。
代々女しか生まれない血の家は、魔女の力を持った人間が生まれる。
人間との混合種が増え始めて魔女という存在は希少になった。
また、自分にない力があるという理由から時折「魔女狩り」などという無駄なことをしようとする。
大抵、その狩られている魔女達は魔女でもなんでもない人間で
単なる「魔女」というのを都合よく解釈し、血祭りにあげるのだ。
見せしめのごとく業火に焼かれ悲鳴が響く中人々は歓喜の声をあげる。
「まったく、どっちが不吉な存在なんだか」
どうしてだかわからないけれど、魔女はほうきに乗って飛ぶと思われているが実際そんなことしない。
呪文を唱えれば飛べる。
もちろん、その呪文を発揮できる力がないと出来ない話だけれど。
魔女達には共通して、人間以外の何かと話すことが出来る能力がある。
妹は花と話すことが出来る。
妹曰く、「つぼみのときはねんねしてるの」だそうだ。
だから話すことが出来ないんだって。
母が昔植物と話すことが出来た。
魔女が子供を産むと魔法は使えなくなる。
子供に魔法の力の源を渡すためといわれているが実際のところなんでかはわからない。
私はというと、唯一話せる相手が「黒猫」だけだった。
けれど、言い伝えにあったのだ。
「黒猫だけは魔女は相手にしてはならない」という言い伝えだ。
だから、私はみんなには猫と話せるよと言っているが実際は黒猫以外はなせない。
黒猫さんに協力して訳してもらって話している。
「どうして、黒猫が横切ると不幸なわけ?」
いつも一緒にこっそりいてもらっている黒猫さんが私に聞いてきた。
「さぁ、どうしてそんな事いうんだろうね」
「いつも私はあなたの前を横切ってるよ。悪いことある?」
「別に」
「失礼な話じゃない」
「人間は、何か悪いこととかとんでもないことが起きたら誰かのせいにしたいんだよ」
「何故?」
「そっちのほうが楽じゃない。自分のせいじゃないんだもん」
「まぁ!それで私のせいってわけ?!」
「黒猫さんだけのせいってわけじゃないんだけど・・・」
「黒い毛をしているからって失礼よ!毛並みの良さがわからないのかしら」
「ホント、黒猫さんって素敵な毛並みよね」
「いいでしょ?」
「うん、素敵」
そういって、私は黒猫さんをよしよしと撫でた。
のどを鳴らして気持ちよさそうにしている。
二人で空の上から魔女狩りのあっている村を見下ろしている。
魔女狩りがあっている村に、実際に魔女が降りて呪文で全てを助けるのも可能だが
そうすればまさに魔女対人間の始まりになってしまう。
手出しは出来ない。
ただ、本当に魔女に火をつけても燃えないんだけどね。
「あ」
突然、黒猫さんは思い出したように言う。
「どうしたの?」
「でも当たってるかもしれない」
「何が?」
「私たち猫ってのは結構ねちっこい性格してるから」
「猫それぞれなんじゃない?」
「それでもね、恨みは一番大きいのよ」
「恨まれたら最後。地獄の底まで追いかけてやるって勢いかしら?」
「もちろんよ。ただ、それだけの理由がないと恨んだりすることはないわ」
「それは、誰だってそうだと思うけどなぁ」
「より強く、より恐ろしく、より強い力で恨むから、そんな言葉が出来たんでしょうね」
「魔女も同じじゃない?」
「魔女を殺すとってやつ?」
「うん」
「あれは、本当の話だもん」
「え?」
燃え盛っていた炎が収まり村人達がいなくなった地に降り立った。
「ごめんね、助けてあげられなくて」
私が唯一出来ることは魔法で恨みの気持ちをなくし浄化して聖地へ送る鎮魂歌を歌うこと。
歌は魔法の呪文でもあるの。
黒猫さんは見つからないように私の服のポケットに入ってもらっている。
もう大人なんだけど体が小さい子なの。

「魔女を殺そうとしたら消えてしまうって話のことよ?」
「うん、本当の話だよ」
「消えるって・・・?」

魔女は誰にも殺せない。
その理由は、殺そうとしたものにしかわからないだろう。
08:25  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(3)

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葉桜 【改定稿】

2009.04.22 (Wed)

桜が咲いている満開の時を見たことがない。

小さな僕たちが来たときには既に桜は葉桜になっていた。
多分、まだ保育園に行っていたときの話。
あの時、どうしても僕たちは桜祭り行きたかった。
けれどどうしてもいってはいけないという両親の言いつけが邪魔をした。
小さな神社の中にある大きな大木の桜。
その桜の近くで必ず最後に大きな炎を上げ
大人たちは集いその炎を消えるまで見続けているらしい。

桜祭りだけではなくこの桜と神社に近づくことを禁じられていた。
理由はわからない。
けれど、大人は祭りだというのに楽しそうな顔は誰もしていなかった。
いつもならば祭りの準備に参加している母も何故かあの年は参加しなかった。
台所にあるダイニングテーブルに座りずっと考え込んでいる。
泣いているのかもしれない。
両親が喧嘩したという雰囲気もなくどうしたのだろうかというくらいしか考えていなかった。

祭りにどうしても行きたいと言い出したのは弟。
もちろん僕も行きたくてどうにかして家を出ようと考えた。
祭りに参加せず両親が家に居るから勝手に出て行くことが出来ない。
どうして参加しないのか。
なぜそんな顔をしているのか。
その時は、気にしなかった。
父も帰宅して母と一緒にリビングでただ座っているだけ。

自分達の一階にある部屋から外に出られるが
見つかったら怒られるから、僕は考えた。
僕たちの代わりに誰かが居てくれればいいと。
そして、僕は二階に上がり隣の家の幼馴染の兄弟に声をかけた。
窓が近いため手を伸ばせば届く距離。
トントンと窓を叩いた。
「どうしたの?」
「おじさんとおばさんいる?」
「いないよ。だってお祭りだもん」
「じゃぁ、すぐこっちに来て。静かに」

窓から窓へ幼馴染の兄弟を部屋にそっと入ってもらった。
「おねがいがあるんだ」
「どうしたの?」
「お祭りにどうしても行きたいんだ僕たち」
「え?!でも行ったら、怒られるよ」
「大丈夫だよ、見つからなければ」
「見つかったらあの怖いおじいさんに殴られるよ」
「それより、今日パパとママが祭りに行ってないんだよ」
「どうして」
「わかんない。だからね、代わりにここで僕たちのフリをしてて」
「ベッドで寝てればいいの?」
「うん、すぐ帰ってくるから」

それが、彼らとの最後の会話になった。

家に帰ると、両親は大声を上げて話していた。
桜祭りに行ったものの葉桜で誰も人がいなかった。
まだ祭りがあっていないのかもしれないと一度家に戻った。
その時に僕たちは見た。

「やめて!僕はりーくんじゃないよ!」
「うるさい!誰でもいい!私たちの子供は渡さない!」
「やめて!おばちゃん!やめて!」
「大人しくしろ!お前達は、今年の神事で捧げられる神童なんだ!俺達の子供として出るんだ!」
「嫌だ!やめて!」
「私の子供を神様になんか渡さないわよ!私たちの子供が儀式の犠牲になんか!」

怖くなって急いで僕たちは神社に戻った。
境内の中に隠れていると桜祭りが始まった。
桜祭りで伝統的に行われる火祭りの儀式。
沢山の物などを火の中に入れ天に送り届けるというものだったはず。
小さかったから本来の趣旨など知らない。
ただ、桜の木がその火のせいで燃えてしまったんだ。
突然その中にいたものが動き出して桜の木に抱きついた。
それがあの幼馴染の兄弟だというのを知っているのは僕の両親と僕たち兄弟だけ。
僕たちは幼馴染が焼かれるのをじっと見ていた。
声を殺して見つからないようにすることだけを考えて。

あれから十五年。

僕たちは家に帰ることが怖くて出来なかった。
隣の家に行ってあの兄弟と入れ替わった。
おじさんとおばさんはすぐに気がついたといっていた。
あの炎の中にいたのが僕たちじゃないことを。
でもまさか、自分達の子供だとは思っていなかったそうだ。
僕たちが全部話したことでおじさんもおばさんもずっと泣いていたけれど
すぐに僕たちを連れその家から出て引っ越した。
約束をして。

あの桜祭りが終わった後、僕たちがそっと隠れていた境内から出てきたときに
骨というものをはじめてみた。
僕たちの両親が僕たちだといって連れてきた彼らは
僕たちの身代わりとなったことくらいはわかった。
骨は散らばっていた。
弟と一緒に集めてそばにあった桜の木の下に埋めた。
家から出る間際、彼らと約束をしていた。
「僕たちも見たいよ」
「じゃぁ、すぐ帰ってくるからその後交代しよう」
「満開の桜、みてみたいもん」
「すごく綺麗だって大人はいうからね」
「ずるいよ、こどもだってみたいよね」

既に葉桜だった。
満開の桜を見ることなく彼らは桜の石杖となった。
この桜が花をつけなくなったのがこの年の翌年から。
それは、僕たちが桜の下に埋められなかったからだということが原因らしい。
この山に捧げる神童として埋められる子供は男児であり
六歳前の子供二人。
その子供は祭りが始まる前日にあの神社に祭られている神より選ばれる。
といっても実際はその神社の関係者が六歳以前の子供がいる家庭から
おみくじのようなものを引かせて選出していたそうだ。
その時、もちろん幼馴染の兄弟も入っていたが僕たちの両親があたりをひいた。
けれど両親はそれに従うつもりはなかった。
そして僕たちが桜祭りに行きたがっていたことは知っていただろう。
入れ替わった僕たちの身代わりとなれる二人を見て連れて行ったんだ。
桜祭りに。
もちろん、あの桜祭りに行く子供に着せられる服を着れば顔が隠れるから
中身が僕たちじゃないとは誰もわからない。
桜が毎年咲くのは捧げられた子供たちの命が尽きた証だという。
捧げられた子供が違う子供だった場合捧げられるまで葉桜のままだそうだ。
つまり、ずっと葉桜でそして入れ替わった子供を捧げた両親は
自分達の子を捧げたといい続けている。

これは、引っ越した後おじさんとおばさんから教えてもらった話。

「満開の桜を見たいもん」

その、約束を果たすことが出来るようになった年の春。
「遅くなってごめん」
葉桜の木の前で僕たちは彼らに謝った。
「満開の桜を見せる約束だったから」

その条件を満たす時期が来た。

村に戻った僕たちは、まず神社に向かった。
神社の神主は驚き僕たちを見て溜息をついた。
迷わず僕たちは言った。
「降誕祭をしてください」

それが、唯一、違う子供を桜の木の下に埋めたあと桜に花を咲かせる方法だといわれている。
何度か行われたらしいが捧げる人数が決まっていて
またその子供が二十歳を迎えたときにしなければならない。
そして子供だけではなくその両親も一緒に悔い改めよというのが決まりごと。

そして、今、やっと両親との対面が叶っている。
青ざめた二人が目の前いる。
「生きて…いたのね」
その声も恐怖におびえた声にしか聞こえない。
「桜が満開のときをみたいといっていた。約束したんだ。僕たちの変わりに殺された二人と」

あの時僕たちが泊まってとお願いしなければ彼らは生きていたのだ。
それを知っても僕たちをこの年まで育ててくれた。
もちろん、約束を果たすためだと思う。
でなければ、自分達の子供を殺した人間を育てたくはないだろう。

「おじさん、おばさん。今までありがとう」
携帯電話でその一言だけを伝え電話を切った。

「火をつけるよ」
「うん」
焼かれよう、僕たちも。
桜の炎で浄化されよう。
火のついた桜の葉が僕たちを包む。

「あのときの儀式を終わらせていない。だから、この村に春が来なくなった。」
「だから、葉桜しかないんだ」
「そう、桜のために僕たちの命を捧げるんだ」
「どうして、父さんと母さんまで」
「儀式を裏切ったものの命も降誕祭には必要なんだ」
「新しく桜に神様が降りてくるって話だったかな」
「そうだよ。もうすぐ春が来る。僕たちの血を感じた桜は花をつけるだろう」
「満開のときを見たいっていった約束を兄ちゃんは守ったんだ」
「あぁ」
「来年は桜が花をつける満開の桜が見られるね。遅くなってごめん」
10:23  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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葉桜

2009.04.22 (Wed)

桜が咲いている満開のときに来られればよかったと僕は思う。
小さな僕たちが来たときには既に桜は花びらを落とし葉桜になっていた。
「約束だよ」
「うん、約束だね」
多分、まだ保育園に言っていたときの話。
それだけ小さかった頃の約束。
でも僕にはこの約束を果たすため今まで生きてきた。
その道を作ってきた。
必死に勉強をして、常に成績上位を目指し中学も私立に入った。
エスカレーター式の学校だったけれど高校はもっと上を目指した。
そうやって作り上げてきた。
偽者の自分を。
あのときの約束を果たすため。
探し出すのに苦労した。
色々な手続きを取って自分を消すための準備が必要だったから。
名前も変えて。
準備が整ったのは、約束の日からもう十年以上過ぎている。
約束を果たすことが出来るようになった年の春。
満開の桜の下で会うことが約束の第一歩。
けれど、来なかった。
やはり、僕だけが覚えていたのかなと朝から丸一日待ったそのとき彼はやってきた。
「遅くなってごめん」
「本当に遅いぞ」
「そんなにいうなよ、兄ちゃん」
弟と僕はあの日を境に一度も会っていない。
あの日、僕たちの両親は僕たちを殺した。
たった一つの間違いに気づかないまま彼らは僕たち兄弟を殺した。
「もう十五年かな」
「そのくらいだと思う」
本来の僕たちは、行方不明となって両親が殺したことを二人で隠して秘密にしている。
被害者ぶった顔を見るたび吐き気がしていた。
小さかった僕たちがここまで生きるのに大変だった。
「準備は?」
「もちろん整った」
「お前は?」
「兄ちゃんほどではないけれど、ばれることはない」
僕たちがあの時家を抜け出し、どうしても行きたかったお祭りの後を見に行った。
けれど僕たちが行ったときには、桜祭りはあっていても桜は既に時期を過ぎていた。
家から抜け出したことを両親に見つかれば怒られると思った僕たちは
隣の家の兄弟に僕の家に泊まってもらっていた。
僕たちが寝ているベッドを使って。
両親も殺した後か、殺している最中に気づいただろう。
僕たちじゃないことくらい。
けれど、やめなかった。
それを桜祭りから帰ってきた僕たちは窓からずっと見ていた。
忘れられない一言がある。
「誰でもいいのよ」
そういった化け物の顔をした母の顔。
動かなくなった彼らを僕たちは桜の木の下に埋めた。
両親は驚いただろう。
自分達が殺したはずの死体が無かった事に。
僕たちがいないことに。

「約束したんだ」
そして、今、やっと両親との対面が叶っている。
青ざめた二人が目の前にいて、僕と弟と二人で。
そしてあの時僕たちのせいで殺されてしまった仲のいい友達兄弟の二人。
「生きて・・・いたのね」
この日が来ると思っていたのはお互い様のようだ。
「あれだけ、僕は賞をとってテレビにも出てたんだ。見ただろう?」
弟はこの日のために沢山テレビに出ているようになった。
「あぁ、すぐにわかった。お前だって・・・」
「何が目的だ・・・?」
その声も恐怖におびえた声にしか聞こえない。
「桜が満開のときにって約束したんだ。僕たちの変わりに殺された二人と」

動かなくなった両親の死体に、大量の桜の花びらを彼らの上に撒き散らした。
あの、桜の花を持ってきた。
ちゃんとごめんなさいを言いたかった。
あの時僕たちが、泊まってとお願いしなければ彼らは生きていたのだから。
「おじさん、おばさん。終わったよ」
携帯電話でその一言だけを伝え電話を切った。
「最後の仕上げだ」

桜祭りで伝統的に行われる火祭りの儀式。
沢山の物などを火の中に入れ天に送り届けるというものだったはず。
小さかったから趣旨は殆ど覚えていない。
ただ、桜の木がその火のせいで燃えてしまったんだ。
突然その中にいたものが動き出して桜の木に抱きついたんだ。
その時の桜が、悲鳴を上げるように花びらを散らして消えていった。
「火をつけるよ」
「うん」
僕たちも一緒に、焼かれよう。
桜の炎で浄化されよう。
桜の花びらが僕たちを包む。
燃え上がる熱い火があの時をはっきりと思い出させた。

「やめて!僕はりーくんじゃないよ!」
「うるさい!誰でもいい!私たちの子供は渡さない!」
「やめて!おばちゃん!やめて!」
「大人しくしろ!お前達は、今年の神事で捧げられる神童なんだ!俺達の子供として出るんだ!」
「嫌だ!死にたくない!」
「私の子供を神様になんか渡さないわよ!私たちの子供が儀式の犠牲になんか!」

「兄ちゃん、僕たちは・・・」
「あのときの儀式を終わらせていない。だから、この村に春が来なくなった。葉桜しかないんだよ」
「桜のため?」
「そう、桜のために僕たちの命を捧げるんだ」
「どうして、父さんと母さんまで・・・」
「儀式を断ったものにはそれを上回るものを捧げなければならないからだ」
「そうだったんだ」
「もうすぐ、春が来る。僕たちの血を感じた桜は花をつけるだろう」
「満開のときを見たいって僕がいった約束を兄ちゃんは守ったんだ」
「あぁ」
「ありがとう、兄ちゃん」
07:44  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(8)

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油断が招くもの

2009.04.21 (Tue)

風邪引いたかなと思った。
のどが痛くて朝起きたとき違和感を感じた。
だが、もうすぐ新年度となり新しい部署へ移動することも決まっている。
そんな私の生活が始まろうという大事な時期。
寝込んでいられないと思ったが、次の日完全に熱を出してしまった。
扁桃腺がはれるとしっかりと熱を出すこの体。
いつも、うがい手洗いはばっちりなのにどうしてものどが腫れあがるのだ。
市販の風邪薬を服用し寝た。
次の日も完全に沈没していた。この頃にはすでに味覚がほぼなくなっていた。
三日目にしてやっと起きられるようになり、うん大丈夫かな?という日中を過ごす。

だが、その夜から異変は起きた。

夜九時ごろから何故か頭が揺れるのである。
実際にゆれているわけではない。
目に移る世界が揺れているわけではない。
船から下りた後も体が揺れているような感覚が残ったままというのが一番近いかもしれない。
そして、目を開けているのにもかかわらず寝ぼけているようで夢を見ているのではないだろうかというような感覚に襲われた。
気持ち悪くなり、すぐさま眠った。
次の日、朝起きるとなんとなくまだふらふらが残っていた。
それでも起きて朝食を取ろうと普通に過ごしたが、段々と揺れが激しくなり朝食後すぐに横になった。
あまたを抱えるように押さえつけて。
実際ゆれていないが、頭の中に振り子があるようにゆれているのだ。
そのまま寝てしまって、起きるとだいぶ良くなっていたので起きた。
だが、起きてしばらくするとまた振り子の揺れが大きくなる。
結局、寝たり起きたりを繰り返した。
病院にいきたかったが、日曜日。
次の日、起きてすぐに異変は始まった。
起きてみて大丈夫かと思ったが、テレビをつけた時点で動画が見ることが出来なかった。
映像が動くのが気持ち悪くて見られない。
また、あまりにも光が眩しくて目が開けていられなかった。
ささっと朝食を済ませ病院にいきたかったが、動けなくてちょっと寝た。
少し寝れば落ち着くだろうと思ったが、落ち着かなかった。
 さすがに、嫌な汗が全身を覆う。
家族に助けを求めるも無視されてしまい、結局病院にいくのに時間がかかってしまった。
飛込みだったが、あまりにフラフラ立ったのですぐに診察してくれた。

これだけのめまいがする。
怖い病名が頭をめぐる。
もしかして、脳が賞味期限を迎えた?!
もしかして、メニエールとかってやつ?!
いやいや、バセドウ病とか?!
正反対に、もしや、橋本病?!
どうするよ?脳腫瘍とかだったりしたら!?
いやぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!

いろんな検査を受けた結果、それは、想像していなかった診断が出た。

「対処療法というのはありません」
「そう・・・ですか」
「簡単に言うと、運動不足です」
ハイ・・・

侮ってはいけない、運動だった。
07:50  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(9)

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窓の外にいる君へ

2009.04.20 (Mon)

人が生まれるとき、大抵、魂というのはリサイクルされている。
生まれるときには既にある程度記されたその人間の一生を描いた予想図が一緒に作られる。
だが、あくまで予想図でありその人間がどう生きるかを決めるのは本人だ。
その作業が終えた人間が、生まれそして人間界で初めて息をする。
誕生の瞬間。
僕たちの仕事はここから始まる。
その人間を監視している役割が、姿かたちは綺麗な天使と呼ばれる存在だ。
ある程度決められた予想図どおりにその人間が人生を送っているかを監視している。
と、僕は思う。
彼ら曰く「見守っているんです!」といつも監視などという言葉を遣って話すと怒ってしまう。
その、監視業務をしている中で人間が予想外の行動をし始めるときがある。
それが好転的な話なら天使達の中で会議して、上司である担当地域の神様に相談して
予想図に対して改定案を書き込んでいく。
だが、それが、暗い道筋をたどり始めたとき僕たちの窓が開く。
書類が手渡され、天使達は監視業務を僕たちに委譲する。
僕たちは、いわゆる死神ってやつでその人間が犯した罪を見定めること。
それが、罪となるか、許されることとなるかは判断できない。
なんにしろ、地獄を指す印が予想図に浮かび上がった時点で僕たちの監視が始まる。
その人間の名前が書かれた札を窓の横にあるフックに引っ掛けて窓を開けると
その人間が何をしているのか、僕たちが監視できるようになる。
死神がこの監視業務をする場合、殆どの確立でこの人間の死亡時期が近いためだ。
だが、予想外な行動でこのような人生を送っているためいつ死ぬかなんてのも神もわからないらしい。
僕が渡された名前の人間は、まだ十二歳の女の子だった。
監視業務を続けていても、地獄を指すような悪いことは何一つしていなかった。
窓から見えるのは、彼女の泣き顔だけ。
笑った顔など見たことがなかった。
いつもふてくされているような、暗い顔をして、時折寂しそうな顔をする。
笑いもせず、怒りもせず、彼女は泣き続けた。
「もう、三ヶ月よね?その監視」
同僚の妹が話しかけてきた。
「うん、理由がわからないんだ」
「何が?」
「どうして、地獄印が浮かんだのか」
「私ならわかるけど」
「何?」
「これだけいじめを受けてるんならいじめた相手をどうにかするでしょう」
「そういう子じゃないんだ!」
珍しく声を大きくして否定した僕に妹は驚いた様子だった。
「ごめん・・・」
「あんまり、入れ込むなよ。兄貴」
妹の言うとおりだった。
三ヶ月間、彼女と共に僕は生活してきたようなもの。
窓をくぐれば彼女の側に行くことができる。
寝ているときまで泣いている彼女がいたたまれなくなり、僕は側に行って頭を撫でた。
とても小さな女の子。
その、同じ年の子供たちが群がって地獄の職員のような顔つきでこの子をいじめている。
理由は、特にない。
単に、クラスになじめなかったとしかいいようがないんだ。
それだけなのに、この子は必死に耐えている。
どうにか僕は印を消したかった。
地獄の印が消えることももちろんあるからだ。

けれど、次の日、予想図に僕が彼女の前に立つ日が浮かび上がってきた。
それは最後の手段だった。

「本当にいいの?」
「うん」
「僕が誰だかわかる?」
「知ってる」
「それでも?」
「うん」
「どうして?」
「このままずっと真っ暗な気持ちで生きていくのが怖い。大人になってもきっと私は恨み続けてしまう」
「それでもいいじゃないか」
「そうしたらきっと私はあの人たちを殺してしまう」
「…時間だ」
「今まで一緒にいてくれてありがとう」

僕は彼女の体に鎌を振り下ろした。
倒れた彼女の側に歩み寄り、僕は頭を撫でて「おつかれさま」と一言添えた。
魂はあっという間に回収される。
こんな高いマンションのベランダから、その小さな体にどれだけ悲しみと恨みを溜め込んだのだろう。
僕はこれから、彼女から引き受けた恨みを晴らしにいく。
それが唯一、彼女に許された命と引き換えの最終手段。
たとえ、自分だとしても自分を殺すのは許されないことなんだ。
もちろん、気持ちをちゃんと理解してくれるいい上司がいるから安心して。
「好きなだけ暴れて来い」
それが、上司の命令だから。

「ねぇ、君。この子、いじめたよね?」
毎夜、僕はこのいじめた子供たちの夢に出て、悪夢を送り届けている。
「忘れてないよね?忘れさせないよ?君が彼女と同じ道を選ぶまで僕は君を追いかけるから」
「嫌よ!やめてよ!」
「あの子もそういい続けたよね?けど君はやめなかった」
「別にいいじゃない!知らないわよそんなの!」
「僕も同じ。知らないよ、そんなの。僕はやめない」
「いやぁっ!」
夢で何度も僕に狩られる夢を見るがいい。
08:07  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(7)

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ティッシュの言葉に魅入られて

2009.04.19 (Sun)

学校に行く途中、都心の駅を通り抜けそれからまたバスに乗る。
都心の駅では、どれだけの人間がいるのだろうというほど人の大津波。
底が抜けやしないかと思うほどの人だ。
その都心の駅では、あらゆる商品のサンプルやティッシュなどが配られている。
でも、今まで見たことなかった。
箱ティッシュを配っている人を。
それも、手に収まる小さいものではなく普通にでかいやつだ。
貰ったけど、どうしよう。みたいな気分になった。
皆も、あまりのことに貰ってしまったはいいがかさばるなと思っているようだ。
脇に挟まったティッシュ箱をこんなに見たことがない。
そのティッシュ箱に手を伸ばした理由は、その箱に書いてある文言が気になったからだ。

あなたの人生をティッシュが助けます

人生を助けるティッシュ。
随分と、たいそうなティッシュだよなぁ。うん。
無料で配られているというのに。

学校について、完全な鼻風邪だった私には助かったティッシュだったので早速開けた。
一枚ティッシュをとると、模様があった。
よく見ると文字だった。

今日は帰って寝ないと風邪が酷くなる

と書いてある。
なんだこりゃ?
授業を受けようとパソコンの前に座っていたが、どうやら熱が出てきた。
授業が始まると担当の先生ではなく、違う先生がやってきて授業が休校になったと告げた。
あらま。
今日はこの授業しかないのに。
皆は残ってせっかく来たんだしと自習を始めたが、なんだかさっき言葉が気になって家に帰った。
家に帰るとなんだか体が重く、パジャマに着替えて寝た。
次の日、ほぼ使われないと思われていた連絡網で電話がかかってきてなんとインフルエンザの流行でしばらく休校だというのだ。
もし、あのまま学校にいたら確実に自分も感染していただろう。
ティッシュの言葉が頭をよぎる。
持って帰ってきたティッシュはあれ以降使っていなかった。
一枚取ってみる。
やはり、文字が書いてある。

病院は明日以降に行くこと、また、タクシーじゃないと後悔する

と書いてある。
次の日は完全に熱を出し、寝込んでしまった。
次の日さすがに高熱が酷く病院にいくことになったが、親が送るといってくれたもののティッシュのことが気になってタクシーで向かった。
病院に着いたとき、患者は誰もいなくてすぐ受診できた。
父が待合室で青ざめてテレビを見ている。
「どうしたの?父ちゃん」
「見ろ。これ、車で通る裏道じゃないか?」
「・・・あ!本当だ」
テレビに映っている映像は、車で行く場合必ず使う道で起きた多重事故。
その酷い有様に驚いた。
あのティッシュは、本当かもしれない。
そう思って、父に話した。
「それで、タクシーと言ったのか」
「うん。でも、本当にこんなことになるなんてびっくりだよ」
「そのティッシュはどこで買ったんだ?」
「貰ったの。駅で配ってて」
「家にあるのか?」
「うん」

家に帰り、父が見たいというので見せると一枚取った。

会議には必ず規格原案の資料を完成させ持っていくこと。
また、谷口部長の案は信じるな。裏切りが待っている。

と書いてある。
「谷口部長って人、いるの?」
「いる」
「うわ・・・なんか、すごいね。これ」
「規格を色々と取り決めしている最中でな。まだ作り上げなくていいといわれたが・・・ちょっとしてくる」
父はパソコンを取り出し仕事をし始めた。
休みの日にこんなことをする人ではない。

私も一枚、取ってみた。

あと一日を有意義に。

病院の検査結果は、明日にしか出ないといわれている。
何か悪いの?

次の日の朝、それを迎えることなく私は人生を閉じた。
何があるのかわからないのが人生。
幽霊になって心から思った。
殺人事件の加害者になるなんて考えてもなかったよ。
08:26  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(8)

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拾った携帯電話

2009.04.18 (Sat)

横断歩道を渡っていると、かなり損傷の激しい携帯電話が落ちていた。
誰一人それを拾うことなく「携帯じゃない?落としたのかな?最悪だね」などというだけで
通り過ぎていく。
私は以前携帯電話を落としたことがあり、その時本当に困ったので拾ってくれた人にとても感謝したことがあった。
だから、迷わずその携帯電話を拾った。
電源が入るかも怪しい状態でどうしようかと悩んだが、電源ボタンを押してみた。
すると、にわかに液晶画面に怪しい線を表示させつつも起動した。
「あ、起動した」
警察に届けようにも、交番がどこにあるのかわからない。
どうしたものかと途方にくれていると、電話が鳴った。
「もしもし?」
非通知の着信だったが、携帯の持ち主の可能性があると思い出た。
「このような形でしかお電話できなくて申し訳ございません」
とても丁寧な物言いに電話に出ている人物を、携帯の持ち主だと勘違いしているようだ。
「あの、すみません。私、この電話の持ち主じゃないんです」
「えぇ、存じております」
「は?」
「その携帯電話は、こちらからあなた様へ送らせていただいたものです」
「えっと・・・拾ったんでけど」
何がなんだか話がわけのわからない方向へ進んでいる。
拾ったのがあだとなったか?
さっさと警察に届ければ良かった。
「柏木 雪子様でお間違いないでしょうか?」
何で?!何で私の名前を知ってるのよ。
「間違いございませんね」
「・・・はぁ」
「それでは、この携帯電話についてご説明いたします」
「・・・はぁ」
「この携帯電話は、あなたの子孫が過去に贈ったものです」
「は?」
「突拍子もない話で驚かれると思いますが、そのままお聞きくださいませ」
「はぁ・・」
拾ったことを心から後悔した。
なんかの変な勧誘か?
いや、待て待て。
でも、それなら、なんで私の名前を知っている。
過去に贈った?
んじゃ、この携帯は未来から投下されたの?
この横断歩道に?
っていうかさ、この横断歩道を通ったのって偶然なんだよ?
いつも通る道じゃないのよ?
なんだか、面倒になってきた。
切ろうかな。
「あの、もういいです。変な話に付き合ってられないんで」
「お待ちください。どうか、最後まで」
「じゃぁ、失礼します」
「あなたはもう、後に二分で死んでしまいます。早くそこから逃げてください」
「さようなら!」
冗談でもね、言っていいことと悪いことがあるって事をわかんなさいよね。
あったまくる。
携帯をその辺に投げ捨てて私は歩き出した。
引っ越した会社に初出社。
自分の机の配置がどこかわかってないから早めに今日は出勤している。
新しいプロジェクトも始まるし、自分がどの担当になるかでかなり残業とか変わってくるから重要なんだよね。
さぁて、どこになるのか。
二分ほどで、会社に着く距離。
会社のビルの前に着いた途端、それは、起こった。
「ママ!駄目!!」
突然、後ろを引っ張られてあおむけに倒れた。
「どうして!どうして電話を切ったの!もう!助けに来たよ!馬鹿!」
小学生くらいの女の子が私をママと呼んでいる。
でも、私まだ二十二よ?
産んだ覚えないんですけど。
っていうか、頭、痛い・・・。
「あれ?ママじゃない・・・」
07:48  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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十五秒間の殺人事件

2009.04.17 (Fri)

あっけなく終わった。
それほど完璧な計画だったと言っていいほどだが、立場上賞賛できるものではない。
もちろん、殺人の罪は大きい。
 だが、この事件が起きる原因は殺された人間があんなことをしなければ起こらなかったと俺は思う。
人は誰しも感情を持っているし、理性もある。
だが、理性を上回る怒りを持ったとき制御が利かなくなるだろう。
そんなことは誰だってそうだ。
情状酌量の余地があるという言葉はこういうときのためにあると思う。
第一、この殺された夫婦が元々この女性の子供を殺したのだから。

「どうして、というより、どうやってと聞きたいのです」
「何がですか?」
「どうやって殺したのかを聞きたいのです」
「口で説明するのは…難しいです」
「では、どうすれば説明できますか?」
「それも、ちょっと・・・」
「では、伝えられる方法が無いということですか?」
「伝わるかどうかわかりませんが、十五秒あれば出来ることなんです」
「十五秒で?」
「はい」
「たった、十五秒ですか?」
「ええ」
「あの夫婦を殺害するのに、たった十五秒ですか?」
「そうです」
「あなたは女性で、失礼ですがその・・・力が強そうにも見えませんし。銃などで殺害された形跡は無い。それなのに、十五秒ですか?」
「はい。そうですね・・・銃といえば、銃みたいなものです」
「武器があるということですか?」
「いいえ、それはありませんけど。あの子を殺した人間なら一瞬で殺せるんです」
「すみません。まったく理解できないのですが」
「刑事さん、占いって信じます?」
「どちらかというと、信じます」
「その占いのようなものなんです」
「占い、ですか?」
「はい、人は恨みを形にすることが出来ます。その力を発揮するのにとても自分の精神を消耗しますけど、確実に相手に恨みをぶつけることが出来ます」
「占いでですか?」
「術・・・といった方がいいでしょうか」
「え?術?魔法とかですか?」
「あ、いえ。違います・・・。儀式のような、そういう感じです」
「あなたは自首していますが、あの夫婦が殺害された時刻あなたはレジでパートをしていた。完璧なアリバイがあります。けれど、あなたが殺害したという証拠もあった」
「えぇ、私がしたと示したかったんです。あいつらに苦しみを味合わせたかったから」
「お子さんのことですか」
そういうと、表情が一気に変化した。
「当たり前じゃないですか。あんな、あんな惨い殺したかをしておいて・・・のうのうと生きているなんて」
「一体、どうやったんですか」
殺害された夫婦の遺体は、鋭い刃物で瞬時に切り裂かれたように酷いものだった。
「知ってます?脳に酸素がある間は意識ってあるんですよ。首が体から離れても」
「聞いたことがあります」
「どのようにというのは、決めることは出来ません。でも、私の念をぶつけた結果がそのような形だったというだけです」
「あなたを、逮捕します。ですが、立件は正直・・・難しいですね」
「警察は、人間しか相手してくれませんからね。私が裁きを与えなければあいつらは同じ事を繰り返しますよ」
「・・・人間中心の社会ですから」
「一番いい言葉を思いつきました」
「なんです?」
俺は彼女との会話に疲れ、窓の外に目線を移した。
「十五秒間だけ殺害したんです」
その言葉を聞いてすぐに目線を戻した。
「え?」
ほんのちょっとだ。
ほんのちょっとだけ目線を彼女から外して、戻したとき彼女はそこにいなかった。
十五秒。
そう、十五秒くらいだ。
一体、どうしたんだ彼女は。何をした?!

「おい、何やってるんだ?一人で」
「え・・・いや、えっと・・・」
「あの夫婦が捕まったぞ。殺害を認め立件することになった。難しい裁判になるだろうが」
「え?あの夫婦って、殺害された?」
「殺害?!何言ってんだお前」
08:14  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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閉鎖空間の狭間で

2009.04.16 (Thu)

この世界がある日突然、限られた空間だけを残して全てが閉じてしまった。
沢山の人々が混乱し唐突に出来た透明な壁。
その壁から出ることも入ることもかなわぬようになって、もう百年になるという。
生まれたときから私はこの空間内に住んでいるからそれほど異常な出来事だとは思った事なかった。
歴史の教科書に出てくるひとコマの事件簿。
そのくらいの認識しかなかったからだ。
百年もたつというのに教科書にはこの閉鎖壁が、何で構成されているのかも、どうしてできたのかということすらも何もわかっていないということだけ。
そして、この空間内で生まれた私たちにだけあるといわれる能力がある。
それは簡単に言うと、頭脳内通信だ。
人それぞれ通信範囲というのが異なるが、目を閉じ相手の位置情報を探知できれば通信することが可能だがそれが三世代目になってやっとわかったらしい。
私たちにとっては当たり前の話で、なんでこんな生まれたときから使っていることに対して
すばらしい力なんだということを説明されても当たり前だから実感がない。
閉鎖空間などというがその直径はかなり広いし、特に「閉鎖」されているとは思わない。
 恒例行事として、閉鎖壁を見に行くのが中学における大イベントなんだけれど。
私たちの中で生まれ持った能力がとても強い人がいる。
その人たちの力を借りて閉鎖壁までの長距離移動をするのだ。
私たちは通常音声通信か頭の中で立体化した自分と相手と会話することなどが一般的に使用される方法なんだけど、行ったことのある場所にまで本体を移動させることが出来るという能力者がたまに現れるらしい。
 実際にあったことはない。
数があまりにも少ない貴重な人材だからだ。
不思議なことにその能力者本人は、その力を自分に使用できないそうだ。
一体、どんな人なんだろう。
 大イベント当日、私はとても緊張していた。
バスで移動し厳重警備の門が上がる。
上がっているところなど見たことがない。
「うわぁ!すごい!」
「すっげー!!」
席から乗り出して、運転席側に注目するみんな。
 この時、私は本来の目的を知らなかった。
何故ここに、必ず子供たちが集うのか。
何故それが中学生になったばかりの私たちにあるのか。
 バスを降りて、隔離されているビル内に入る。
ビルの一階フロアは大きなホールになっていた。
全生徒がバスから降り、クラス順に並んで椅子もないホールに座らされた。
それから説明を行うため、このビルの職員が出てきた。
このビルにいる人間は、全員がハイレベルの能力者のはずだ。
皆、一気に緊張が走り、空気が凍った。
「大丈夫、僕は君達と同じ年だよ。緊張しないで」
さわやかに笑う少年は、どこをどう見ても同じとしには見えない子供だった。
「そう、彩香さん。あなたの言うとおり、僕はこの姿で成長を止めたんです」
え?通信モードになってないのに…
「すみません。規則でここでは矯正介入して皆さんの思考をトレースさせていただいています」
のっ覗き見じゃん!!
「その通りです、覗き見です。ごめんなさい。では、説明を簡単に。今から閉鎖壁に行きます」
そりゃ知ってるけど・・・
「それだけです」
説明それだけかよ
「えぇ、それだけ」
どうして、私のを読むのよー!
「すみません、えっと、注意事項が一点。閉鎖壁を見て皆さん驚かれると思いますが、閉鎖壁がどのような状態でどんなものだったのかということを一切口外しないでください」
教科書に載ってるじゃん。
「そう、今皆さんが思ったように教科書に記載はありますが曖昧でしょ?」
曖昧どころか、何にもわかってないんだねって感じだよ。
「そう、何もわかっていないというのはその通りなんですがわかったこともあるんです」
それを見たらわかるわけ?ただの中学生に。
「見たら、わかります。では、僕が名前を呼んだ方からトラベラーズマスターの部屋に移動していただきます」

 トラベラーズマスターが、正式名称。
それが、行った場所であればどこにでも人間を飛ばせるという能力者。
「こちらです」
運のいいことに私は一番最初のメンバーになった。
あれ・・・?この部屋
「気づいた人しかいないよね?この部屋、通信が出来ないでしょ?」
「ホントだ・・・」
「彩香!」
「おぉ、李利」
「駄目だね」
「うん、出来ない。こんなこと初めてよ」
通された部屋は、真っ白な部屋で何も無い普通の場所。
目の前にいるトラベラーズマスターが、何の変哲も無いただのさっきの説明した少年よりも子供だということが何よりショックだった。
「私は特別。中学はいる前にあまりに力が強い家計だから、すぐにここに収容されたの」
え?どっどうして・・・ここで通信は・・・
「強い力の持ち主だけが通信できる部屋。もちろん、訓練は必要だけど。本当のここへ来る目的は能力者集めなんだよ」
「能力者って・・・」
「じゃぁ、行ってらっしゃい!」
「えぇぇえええええええええええ!!!」
突然、立っていた床が抜けたよう体が落ちていった。
「ぎゃぁああああぁぁぁぁああああああああ!!!」
叫び声を上げ物見事にべちゃっと着地に失敗。
「いったぁい・・・なんなのよ、まったく・・・」
ゆっくりと立ち上がると、そこに、閉鎖壁があった。
「どう・・・して」
閉鎖壁は、透明で向こう側の世界が見えた。
触ってもぷるんとした感触で、でも、向こう側に手が届かない。
「うわー!本当だ!私と同じ顔した人が閉鎖空間にいるよ!気持ちわるーい!」
私が、私を気持ち悪いと話した。
涙が出てきて、ショックだった。
でも、その側に亡くなった母が一緒に立っていた。
「・・・あなたが、閉鎖空間にいる彩香ね?」
「・・・はい」
「私も、私にあったけど。もういないわね?」
「・・・はい」
「元気で、彩香」
「おか・・あ・・・さん」
その時、向こう側の母に鉄パイプのようなものが無数に刺さって倒れた。
「え?」
それは、私の母と同じ死に様だった。
”戻っておいで、私と同じ能力の子供たち”
自然に地面が緩みすっと白い部屋に戻ってきた。
「トラベラーズマスターへの昇格、おめでとうございます。昇格にはショッキングな事件やそれに相当するものが必要なの。だから、あの壁を見てもらうのよ」
「酷いよ・・・」
「心に鍵をかけている能力者はね、危険だから排除しないといけないの。あなたは、あれほど固い閉鎖壁をあんなにやわらかくするなんて」
「え?なにも、何もしてないのに」
「その無自覚が恐ろしいのよ」
「連れて行って」
「はい」
「嫌!なにすんのよ!ちょっと!」

椅子に縛り付けられて私は身動きが取れなくなった。
最初に説明をした少年が私の目の前にいる。
「ごめんね。僕は、インサートなんだ。君の力は、閉鎖壁を破壊するのに大いに役に立つ。けれど、今のままでは役に立たない。君の今までの経験を上書きするね」
「どういう意味よ」
「今は鍵を取った状態だから、自分で帰ってこれた。けれど、心に傷があるとまた鍵をかけて力を封印してしまうんだ」
「どうして」
「自分の能力で殺したなんて、覚えていたくないでしょ?」
「なんで・・・知ってるの」
「思い出したね?ここを上書きすれば、君はいい能力者になれる。おめでとう」
08:25  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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みーたん情報

2009.04.16 (Thu)

というわけで、現在、ミーヤさんはなんとか元気になってきました。
すごいですね。
ただ、周期的に歯肉炎と口臭が酷くなり痛みがあって食べること飲むことを嫌がり
病院へというサイクルになりそうです。
これは、根本的な治療は出来ないのです。
そう、猫エイズキャリアなので。
というより発症しているということでしょうか。
簡単に言えば、免疫がないため小さなことでも悪化しまた良くなろうとする作用がないわけです。
なので悪化の一途をたどってしまいます。
悪化する前に、可能止めと点滴をしてそれから体力を落とさないようにする
という作戦しかありません。
それでも、みーたんはその薬が効いたらもりもり食べます。
普通、缶詰一日一個でいいはずが三個食べます。
お魚も食べたり、鶏肉食べたり、もりもりです。
おなかがぽんぽんで「そんなに食って大丈夫なの?」と思うほどですが
これも注射の効果がある間だけ・・・
なんで、食えるだけ食わせています。
気分がいいのか甘えモード全開です。
あんよも、ふらふらしていたのがだいぶしっかりして自分で水も飲みに行くし
トイレにも行けるようになりました。
でも、完璧じゃないからずっこけることがあるので骨折したりすると大変なので
気が気じゃありません。
目もあんまりしっかりと見えているわけではやはりないようですね。
声をかけないと、どっち?という顔をするし誰?って顔するし。
ぼんやり・・・みえてるのかなぁ~位だと思います。
当初から考えれば、信じられない快復です。
まさに奇跡ですね。
一人でお留守番させることが出来ませんでしたが、お留守番させて買出しも可能になりました。
気が気じゃないのでちゃっちゃと帰るけどね。
今も私の部屋でぐーすか寝てます。
二人がけのソファーを無理やり部屋においてるんですが、ミーヤ専用になってます。

ま、なんでもいいから、もうちょっと肉をつけてあんよがしっかりして
食べて飲んで元気でいてくれればそれでいいです。
そんなこんなで、ここ最近報告しておりませんでしたが
みーたんは頑張ってます。
皆様、ご心配おかけしました。
また、沢山祈っていただいたおかげだと思います。
本当に奇跡です。
脳神経の障害ですからね。
さすがに、ここまでの快復は考えられませんでした。

改めてありがとうございました。
これからも引き続き、頭の隅っこにでもみーたんに頑張れーって
パワーをお願いいたします。

miya.jpg

すみません・・・
超やるきない顔で・・・。
寝てるとこ起こして「ちょっと可愛い顔して」といったらこうなった・・・
07:07  |  未分類  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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正しく使いましょう

2009.04.15 (Wed)

こんな時期にと何より自分に腹立たしかった。
新入社員として出社するのは三日後。
それなのにも関わらず、俺はベッドの上でぐったりと動けなくなっている。
「そんなんで大丈夫なの?お兄」
下の妹がからかいにやってきた。
「知るか…」
相手する余裕すらない。
「いい加減、病院行った方がいいと思うよ」
「行くのもだるいんだよ」
「後で泣いても知らないもーん」
妹は部屋を出て行った。
妹の言うとおり、さすがに行った方がいいのかもしれない。
寝込んでもう既に三日はたっている。
熱は三十八度くらいあり下がる気配はない。
風邪薬を飲んでいれば、効いている時だけ楽になるが治る気配がない。
「ちょっと入るよ」
弟がやってきた。
「明日、病院行って来いって」
「誰が」
「お兄が」
「そうじゃなくて」
「姉ちゃんが」
「・・・」
弟が言う姉といっても、俺のすぐ下の妹なんだが兄弟の中で一番権力を持っている。
逆らえないのだ。
「それと、こっちの薬飲んどけって」
「何それ?」
「さぁ、風邪薬じゃない?」
「変なもん飲ませんなよ・・・」
「飲まないと後悔するってさ」
「ふざけんなよ、そんな変な色した聞いたこともないメーカーじゃないか」
「ま、ご飯だけは食べなよ。ここ、置いておくね」
「ああ」
起き上がって、飯だけ食べた。
風呂に入る力もなく体を拭いて着替え寝た。
熱が上がっているのだろうか、体が痛い。
やはり、明日病院に行こう。

「風邪ですか?」
「はい」
「では、体温計で熱を測ってください」
「わかりました」
「音が鳴ったらこちらまで持ってきてくださいね」
「はい」
脇に挟み、座って音が鳴るのを待った。
患者は少なくすぐに診察を受けられそうだ。
なんとしても朝っての入社式早々欠席などということは出来ない。
音が鳴ったので、そのまま受付に体温計を出した。
「はい、では座ってお待ちください」
そういいながら体温計を見た受付嬢は、困った顔をした。
「何か?」
「いえ、あの・・・ちゃんと、脇に挟んで計りました?」
「ええ」
「何かお薬を飲まれていますか?」
「昨日は飲んでいませんが、それまでは市販の薬を」
それを聞いた受付嬢の顔が変化した。
しばらくして、診察室に呼ばれ椅子に座るよう促される。
聴診器を当て医師が胸の音を聞いている。
それから、何かをカルテに記入し溜息をついて答えた。
「熱が高かったのかな」
「はい、体もだるくて・・・」
「うん、解熱剤を飲んだね?」
「はい」
「ちょっと、飲みすぎたようだね」
差し出された体温計は、マイナスを示していた。
「死んだ後じゃどうしようもないから。今度からは用法と容量は守ってね」
08:15  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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踏み切り前で落し物

2009.04.14 (Tue)

残業で深夜まで仕事をした帰り道、最寄り駅はかなり田舎で街灯もまばら。
薄暗い田んぼ道を歩いていくと小さな踏切がある。
疲れたなと思いながら、ゆっくりと歩いた。
高いヒールの靴を履いてきたのが間違っていた。
残業してまで必死になって仕事を仕上げたが、それは彼だった人への当て付けでもあった。
「仕事が出来るほど頭がある女じゃないだろ、お前」
冗談交じりの彼の言葉。
親しき仲にも礼儀ありって言葉を知らないらしい。
彼が私の仕事について何を知っているというのだろう。
何をしてどんなことをしているそんなこと何も知らないのに。
他部署だった彼が、人事異動で私の部署に配属された。
それから今まで以上に仕事をこなした。
もちろん、彼と別れた後の話。
そして彼は、その時いまだ仕事を終えることが出来ずにあたふたしていた。
「教えて欲しいんだけど・・・」といってきた彼に私は言った。
「仕事が出来るほど頭のない人間から、教えてもらうことなんてあるの?」
「いや、あの、それは・・・つい、出た言葉で」
「ついって、じゃぁそう思ってたんじゃない」
「いや、そんなことないよ。あのさ、ちゃんと話そうよ」
「話すことなんて、ない」
結局、彼の進捗が著しく悪く、配属され自分の役割分担をみて「簡単だ」と高をくくってまじめに取り組まなかった結果、部署内全員が彼の仕事をする羽目になった。
それも、進捗を嘘ついていたために最悪な事態になったのだ。
その帰り道、彼と沿線は一緒なのでどうしても一緒になってしまった。
最悪な、空気漂う中やっと電車を下りたわけ。
そして、小さな踏み切り前にどうしてこんな時間に女の人が立ってるの?
細い足
白い足
細い腕
長い髪
なんか下のほう見ながらきょろきょろしてる。
冗談でしょ?
「落し物探してます」なんていうなよ。

あれ?

あのピアス…

「あの…」
あの男は浮気をしていた。

「え?」
私の忘れたピアスをあげるなんて。

線路前に立っていた女は振り返り私を見た。
「・・・え?」
「落としましたよ、あなたの耳」

ずっと探してたのに、こんなところにあった。
08:14  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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言葉が話せなくても

2009.04.13 (Mon)

朝、満員電車に乗った時のことである。
先頭車両から二両目がベストポイントなのだ。
そこにいち早く並び、ドアが開くのを待った。
大波が押し寄せるように私の体をぐいぐい押していく。
たどり着いた先は、入り口と反対側にある扉の前だった。
そこにはベビーカーに乗ったどうみても5~6歳の男の子だった。
お母さんらしき人はベビーカーを背にして立っていたので子供からお母さんが見えない。
お母さんは深々と帽子をかぶっていた。
何より不思議だったのは、何故この大きな子がベビーカーに乗ってるんだろう?と思った。
足もばたばたしている。特に見た目になんらかの障害を抱えているように見えなかった。
電車が動き出したので、手すりにつかまると男の子はハッとした顔をして私の手を見た。
ん?
その目線に気づいた私は、どうしたの?と顔で話した。
すると、男の子は私の手すりにつかまっている指を必死に指差してそれから私を見るのだ。
手を離し、その子の前に手をやるとなんと絆創膏をつけていた指を撫でてくれたのだ。
そう、彼は心配したのだ。
私が怪我をしていることを。
だが、彼は一言も話さなかった。
でも、表情や体で彼は私に話しかけてくれた。
だから私は、ありがとうということをその子の撫でてくれた手をよしよしと撫で返して示した。
すると、にぱっと明るい顔になって笑ったのだ。
それはそれは、可愛い笑顔だ。
朝のピリピリした雰囲気は一転、彼のおかげでほんわかした気分になった。
彼は私のまねをし始めた。
私が両手でぐーぱーぐーぱーと繰り返すと一緒にぐーぱーぐーぱーとするのだ。
ぱーのまま、左右にふってみるとまねをして喜んでいる。
ひらひら~とすると、両手を挙げて体を揺らし喜びを表してひらひら~とするのだ。
ふと、隣のあっきらかに怖そうなお兄さんが携帯を取り出した。
そこにはストラップがたらんと垂れ、ゆらゆらゆれている。
それに彼は興味を抱いたのだ。
さすがにそれを掴むのはやめてぇー!と心で願ったが無理だった。
お兄さんのズボンをぎゅっ!と掴んでしまったのだ。
あぁ!怒らないでお兄さん!と思ったら、サングラスを外してストラップを彼の前で
ゆらゆらさせて一緒に遊び始めてくれたのだ。
それから、恐持ての顔にピアスのがくっついたお兄さんと私と駅に着くまで
手遊びをして過ごした十分間。
お母さんは背を向けていたので気づいていなかっただろう。
私たちが楽しんでいたことを。
彼が言葉を発さない理由はわからなかったけれど
でも、言葉は声で出すだけのものじゃないねと最後に思った。
お母さんの前のドアが開くとお母さんはベビーカーを押して走っていった。
彼は必死に手を振って私たちにバイバイ!と叫んでいた。
元気にしているかな?
人を見かけで判断してしまったことも反省した日だった。
ごめんね。お兄さん。
顔にピアスだらけで、怖かったんだ。本当に・・・。
08:30  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(6)

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懸賞品のお届け者です

2009.04.12 (Sun)

インターフォンが鳴った。
何も考えず誰だろうかと思いながら栗田は出た。
「はい?」
インターフォンの画面に映ったのはスーツを着た若い女性だった。
「懸賞品のお届け者です」
「懸賞品?」
「はい、ご当選おめでとうございます。ご本人様の確認をする必要がございますのでお時間いただけますでしょうか?」
「懸賞って、何が当たったんですか?」
「具体的な金額は私たち担当者にも機密扱いになっておりますので」
「金額?!」
その言葉に驚いた栗田は玄関に走り扉を開けた。
女性は深々と頭を下げ一礼した後「おめでとうございます」と満面の笑みを浮かべた。
栗田は家族の誰かが応募した何かに当たったのだろうと考えた。
「奥様、申し訳ないのですが書類に記入していただかないといけないのですが」
「あ、あぁ、どっどうぞ。こちらへ」
栗田は動揺を隠せずリビングへ通した。
リビングにあるダイニングテーブルに向かい合って座る。
お茶を出すのも忘れるくらいだ。
スーツを着た女性は名刺を差し出しだ。
「・・・失礼ですが、なんて読むんですか?」
「珍しい苗字でしょう。申し訳ないのですがこの名詞をお渡しすることは出来ません」
「え?」
「当選金額が高額な方のみ直接お伺いするシステムになっております。これは、当選された方の安全を帰して考えられたことです。わたくしがこちらに伺ったことがわかれば、当選したとこが他者に漏れてしまう場合がございますのでご了承ください」
栗田は少々不服だったが、それだけの金額ならとどうでもよくなっていた。
渡された名刺を女に戻した。
「それでは、こちらの書類に記入をお願いいたします」
栗田は言われるがまま記入をしていく。
「はい、ありがとうございます」
女はその書類を確認し何かと照らし合わせている。
「確認いたしました。失礼ですが、お嬢様はこちらにお住まいですか?」
「えぇ」
「未成年ですので親権者の同意が必要でしたのでお母様で手続きを進めさせていただきたいのですが、かまいませんか?」
「もちろんです」
女は封筒と冊子を取り出し、説明を始めた。
当選金額の受け渡し方法と、その後の生活の仕方などこと細かに記載されていた。
「すごく、細かいんですね」
「昨今、金銭トラブルで肉親でさえも事件になりうる可能性がございますので絶対にご家族内でも、お子様が小さいのでご夫婦のみだけ知っていることが一番リスクが少ないと思います」
「そうですか」
「失礼ですが、小さい子供はどうしても話したくなってしまうというのがありますので」
「そうですね、確かに」
「それでは、最後に面倒かと思いますが確実にご家族全員が揃っているお時間にお電話をいたします」
「え?」
「最終確認です。まず奥様に取っていただきその後ご家族の皆様にお名前を言っていただくだけです」
「そこまでするんですか?」
「申し訳ございません」
「まぁ、それくらいなら特に問題はないんですが。家族みんながとなると、夜の八時くらいになりますが」
「それでは早い方が受け取りがスムーズに行えますので今夜でもかまいませんか?」
「ぜひ!」
「それでは、私からお電話を八時にいたしますので必ずご家族で待機していてくださいますようお願いいたします」
「はい」
栗田の目は輝いていた。目には既に先ほど自分だけが確認した金額しか頭に無いだろう。
「お電話はどちらですか?」
「え?あれですけど」
「あ、あれですね。わかりました」
「これは絶対に移動させないでください。盗聴防止の装置ですから」
「わかりました」
女はその後玄関を後にした。
栗田は急いで旦那の携帯電話に電話した。
用件を伝えると「絶対に帰る!」と残業しないように念を押した。
子供二人も帰ってきた後、遊びに行こうとしたが「絶対に駄目!」といって外に出さず夜の八時を待った。

スーツの女は栗田家の後、柿田の家にも同様の手続きをしていた。
「夜の八時ですか?」
「はい」
「かしこまりました」

それから、運命の、夜の八時を告げる音が部屋中に響いた。

「お姉ちゃん!見て!このニュース!」
「何?」
そこには二件の家が爆発した映像が流れていた。
「世の中便利になったよね」
「は?」
「こういうのすぐに放送されるじゃない。悲惨な現場とかって喜んで群がってるとしか思えないよね」
「お姉ちゃん・・・まだ恨んでるの?」
「当たり前でしょう」
「あれ、この家の人って・・・」
「命より金が大事なんだってさ」
姉は鞄から取り出した書類を妹に見せた。
そこには小さな文字で沢山敷き詰められた規約書だった。
最後に、これを受け取った人間の捺印と署名まである。
「赤いラインのところ読んでみて」
「あなたへ送られる懸賞品はこの金額をかけて依頼されたものです。これに対しどのような出来事が起ころうと不服申し立てをしないこと」
「ラインを引いていてもさ、読んでないんだよね。きっと」
「自業自得よね、人を殺してもこの国じゃ許されるんだもんね」
「そう、だから私も、許されるわよ」

その時インターフォンがなった。

「すみません。懸賞品のお届け者ですが」
08:25  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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無駄な投資

2009.04.11 (Sat)

「そのままお金をかけたところで無駄にしかなりません」
そう言い放った由利子の目は殺気立っていた。
由利子は目の前に座っている子供を前にして言ったのだ。
「でっでも、ちゃんと教えてきちんとしますから」
母親はうろたえ動揺している。
父親は目線を下に向け難しい顔をしている。
「何をどう教えるんですか?」
「ちゃんと、きちんと教育します」
「説明になっていませんね」
母親は必死になって横にいる子供を庇おうとしているがそんな姿を見ている子供の顔は
ニヤニヤと笑いながらまったくまじめに聞く様子は無い。
「何言われても別に平気だし。どうせ怒られないもん」
母親の言動むなしく散る瞬間。
由利子は「ほらね」と一言漏らした。
今まで黙って効いていた父親が口を開いた。
「いい解決策はあるんですか」
そう切り出したのだ。
「そうですね。このままだとそのうち大きくなれば力も強くなる。その頃には自分達が死体になっているでしょうね」
そういうとさすがの母親も何も言い出さなかった。
わが子を見る二人の目は既に諦めの色が浮かんでいる。
それに気づかない無法者の子供。
やりたい放題やってきて、それを適当にあしらい注意するだけで特に教育をしてこなかった。
その二人の末路が、自分達が生んだ子供に殺されるという結末だとするのなら
今この時点でそれを切り替えなければならない。
「子供はね、投資だと思うんですよ。愛情だけで育ててもある程度育って知恵がつけばどういう人間に育つかわかるでしょう。わからなくても、その時点でこんな行動をしても平気な顔してこっちの話を聴こうともしない。庇おうとしているあなたの言葉も完全になめてますね」
「いつも、こうなんで・・・」
「それじゃぁあなたはこれでいいと思っているんですね」
「私なりにやってるんですよ。主人は仕事で何もしないし」
「今度はご主人のせいですか」
「そっそんなのあなたに!」
由利子をにらみつける母親。
けれど、由利子はやめなかった。
「私に関係ないとでも?うちの子供を殺しかけておいて、小さいからってそれが許されると?」
「そうは思いません」
父親が話し始める。
「では、どうするつもりですか?」
「処分した方がいいでしょう」
「私も、このような子供が将来大人になったとき無駄な存在でしかないと思います。妥当な判断だと考えますよ」
「何言ってるの!あなた!」
「犯罪者の親になるか、それとも犯罪の被害者となって死体になるか。それが親のあなた達に待ち受ける運命なんじゃないですか?」
由利子がそういって立ち上がると、子供は一言こういった。
「お前うざいんだよ、さっさと死ね。後で包丁でばらしてやるよ」
その言葉に、由利子はゆっくりと振り向きにこっと笑って返事をした。
「それは、あなたがされることでしょうね。あなたをお金をかけて育てる価値、無いもの」
その言葉を聞いてもなお、子供は笑っていた。
次の瞬間父親が包丁を取り出し子供に向けた。
その時、子供はこれが冗談ではないということを理解した。
「・・・え?」

これ以後、新たなる被害者はいない。
08:32  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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再度、お休みします

2009.04.11 (Sat)

娘(猫)の容態が再度、悪化

ここ、2・3日歯肉炎で食べず飲まずだったので病院へ

病院行った後に余計悪くなりました。
午前中に行ったのですが、帰ってきた後錯乱状態に・・・
目もまた見えなくなった様子で離れることが出来ません。
今、寝付かせました。

猫エイズ発症というのが最大の要因で治ることは無く
体調のいい状態を維持すること というくらいしかできないそうです。
キャリアではあったんですが、発症したんですね・・・

側にいます。
すみません。
もうどうしたらよいのやら・・・
07:53  |  未分類  |  Trackback(0)  |  Comment(8)

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フェイス&フェイス

2009.04.10 (Fri)

どうしても欲しいものがあった。
どうしても譲れないと。
それは、手に届かない。
どんなにもがいてもあがいても、なにをしても手に入らない。
「なにか、欲しいものがある?」
そういわれて、自分は、答えが出なかった。
出せなかった。
あれが欲しいと。
言えなかった。
だから、手に入れるためにはということを真剣に考えた。
それから、手に入れた後のこともちゃんと考えた。
失わないように。
二度と、元に戻らないように。
やっと手に入ったこれは私にとってすべてがいい方向に向かうと確信していた。
だって、そうでしょう?
みんな、お化粧するし、流行の服も着る。
ねぇ?
欲しいものは手に入れるじゃない?
そういうのって全部、みんな、評価されるから着ているわけでしょ?
身に着けているのよね?
よく見せるために。
自分を引き立てるために。
だったら、これを手に入れたって何も問題ないはずよ。
問題なんて、どこにも無い思うの。
「なんで?」
どうしてそんなこと聞くのかな?
不思議だよね。
どうしてわからないのかな?
「私みたいな顔立ちじゃないから、地味にしたほうが似合ってるって」
「何を言っているのよ・・・」
「地味な女がもてるわけ無いでしょぉ?」
「派手にしたければ好きにすればいいじゃない」
「派手にしても、似合ってなければ意味が無いのよ」
「何?何するの?!」
「私、聞いてたのよ?ずぅっと。あなたが私のことを地味女って言ってたの。化粧したらしたでこういってたわよね?鏡見たことないんじゃない?あんな崩れた化粧してって」
「・・・だっだから・・・なによ・・・」
「自分に自信があるのよね。私ね、あなたの言うとおり自分に自信なんて持てないの。地味でおとなしい性格で、引っ込み思案でさ。女としてちっとも面白くないよね」
「ちょ・・・ちょっと・・・!いや!いやよ!やめて!」
「大丈夫」
「いやぁっ!」

「城崎から連絡は無いのか?」
「ありません」
「無断欠勤か?そんなことをするやつとは思えんが」
「そうですか?人は見かけによらないものですよ。大人しい人ほど何考えているかわかりませんから」
「君は大丈夫なのか?」
「えぇ、まったく大変でした。こけて顔面骨折なんて信じられない」
「傷が残らなくてよかったな」
「えぇ、本当。傷がつかなくてよかった。ふたつとない顔ですから」
「失礼します」
部長の部屋を出て、自分の机に戻る。
携帯にメールが入ったのでポケットから取り出した。
メールの内容を見ていたら隣にいる真山さんがじっと携帯を見ていることに気づいた。
「なに?」
「これって城崎ちゃんと同じ機種じゃん、なんで古い機種に変えたの?」
08:20  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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真夜中の披露宴

2009.04.09 (Thu)

寝ようかとベッドに座ったとき、携帯電話にメールが届いた。
「こんな時間に?」
ならない携帯電話がメールが来たとしゃべったのだ。
見てみると、それは随分と久しぶりの恩師からのメールだった。

 いうつもり無かったけど、披露宴をあげることにしたの。
 よかったらあさってなんだけどぜひ出席してもらいたいの。

という内容だった。

明後日、いつであろうと今外出できる状態ではない。
だが、恩師の披露宴。
披露宴会場は、近場だったことに意外だった。
何故なら、かなり遠くの他県に引っ越していたはずだからだ。
披露宴だけこっちでするという予定なのだろうか。
にしても、本当に急なメールである。
そして、何より行くことができないという状況に頭を悩ませた。

もちろん出席したいという気持ちが多くあった。
恩師という理由は、習い事をしていた時の先生なのだ。
先生はとても厳しかった。
辞めていく仲間、消えていく仲間を見ながら、結局残ったのは私だけだった。
それ以降、仲間は募集すれば増えるものの続く人間は十人に一人という具合。
誰にとってもそうだが、同期生というものがなくなるのである。
あの時、その授業を受けたことがいろいろな面で活躍している。
おかげで今の自分がある。

それなのに

そう、いけないという状況。
それを、どう伝えるべきか悩んだ。
そして、祝い事の前なので当たり障りの無いやわらかい言い方に変えた事実を伝え出席を辞退した。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
そこで、詳しい日時を教えて欲しいと返信した。
電報だけでも送ろうと考えたのだ。
気持ちが何より伝えたかった。
おめでとう その言葉を。
いけないという申し訳なさからの体裁ではなく、心から祝おうと思った。
ところが、あっさりと見破られ「電報とかいらないよー」という返事だった。
なんにしてもお祝いを渡したかったなと思った。
「気にしなくていいよ」
姉が言う。
「もし本当に披露宴に来て欲しいなら招待状渡すのが常識じゃない、それをメールで急に言うってことは誰かがこれなくなって席が空いたんだよ。じゃなきゃ、メールでなんてしないんじゃない?」
姉は呆れた様子だった。
「ちょっと、いくらなんでも失礼だよ。こんな明後日だなんて。急すぎるし、用意もあるじゃない?呼ばれるとしてもさ、ご祝儀だっているんだし。あからさまじゃない、席が空いてるからメールしたって。だって元々いうつもりなかったってメールに書いてあるくらいだし」
そういって、姉は携帯を閉じた。
「気にしないでいいよ、薫」
姉はいつものちょっと不服そうなときに出す声で私に言った。
どこにもいない私に。
08:25  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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嘘つき女と正直男

2009.04.08 (Wed)

カラスだけが全部見ていたのだろう。
空き家になったこの家に残ったのは、たった一羽の庭の木に止まっているカラスだけだった。
「本当に君は何も知らないのか!」
警察署内での取調べに、赤木は疲れていた。
まったく話が進まないからだ。
「知らないって言ってるでしょ」
家の中で、見知らぬ人間が死んだいた。そんな通報を受け駆けつけたが、状況から判断して他殺と断定された。
だが、この家のセキュリティーは高く部外者がそう簡単に入れないことから、住人に疑いがかかったのだ。ところが、自分の家で人が死んだというのにその住人夫婦は、自分には関係の無いことだといわんばかりに、気にしていない様子で捜査に対してもまったく協力的ではなかった。
「あなたの家はかなり高いセキュリティーをしている。それが他人が勝手に入れるのか?!」
「入れるわよ、どうにかすれば」
「何を言ってるんですか。じゃぁ何のためにそんなセキュリティーをしているんですか?!」
「主人がしたいって言ったのよ。私が何してるかなんて誰も知らないから」
「何って、何ですか?」
「無粋なことを聞くのね」
「浮気ですか」
「浮気なんてしてないわ」
「じゃぁ、なんですか!」
「一人の方が気楽だから好きなのよ」
時間となり、女の取調べが終わった。
青木婦人は、まだ二十三歳。対してご主人は六十三歳。
ご主人には前妻との子供が三人おり、一番下は二十八歳。
つまり、自分の子供よりも若い嫁をもらったことになる。
「どうぞ、ご主人座ってください」
物腰の低いご主人は少し動揺した表情を見せるが、座ると落ち着いたようだった。
「ご主人、この自宅で亡くなっていた男性に心当たりはありませんか?」
写真を見せると、主人の顔色は悪くなり目をそむけた。
「はい、知っています」
「え?!知っているんですか?!」
「はい、妻の葬式に来ていましたから」
「どういうご関係ですか?」
「妻の以前結婚していた相手の連れ子だったはずです」
「何故それを早く言わないんですか!」
「妻が、いうなと・・・」
「名前はなんと言うんですか?」
「確か、木色さんだったと」
「名前は?」
「知りません、妻なら知っていると思います」
「奥さんがですか?」
「はい」
「今の奥さんとどういう関係が?」
「わかりません」
「わからないのに、どうして知っていると思うんですか」
「話しているのを見たことがありますから」
「どこでですか?」
「家の中です」
「それは、いつのことですか?」
「この方が家でなくなっていた日です」
「ちょっと待ってください、それなら奥さんが招きいれたということですね?」
「いえ、それはありえません」
「どうしてですか?!」
「妻は、家にいませんでした」
「は?」
「妻は、あの日、家にいなかったんです」
話がややこしくなる主人の会話の内容は、何度質問しても会話がかみ合わなかった。
赤木は捜査を近所への聞き込みに切り替えた。
「あぁ、あの奥さん?あの奥さんうそしか言わないのよ!絶対信じない方がいいわよ!!」
「そうですか」
この話は何軒回っても、どの家からも聞こえてきた。
同様に
「あそこのご主人は正直者でね、言わなくてもいいことまで言っちゃうから。ちょっとね」
という声も。
つまり、これが本当だとすると証言が怪しくなるということも。
だが、一方でご主人が正直者とすればあの日妻はいなかったが
妻と知り合いの人間が死んでいたということになる。
否、あながちご主人も顔を見ただけで葬式に来た前妻の知り合いを覚えているというのもおかしな話だ。
再度、事情聴取をすることにした。
「この被害者と面識があるそうですね」
「ないわ」
「ご主人がそう証言されましたが」
「私の話を聞きたいんじゃないの?私の言葉を聞くの聞かないの?」
「ではご主人の勘違いだと」
「さぁ、どうかしら」
「ご自宅でパンを食べますか?」
「何言ってるの?」
「パンきり包丁ってご存知ですか?」
「あたりまえでしょ」

「ご主人、あなたはどうして葬式に来ていた一人という人を覚えていたのですか?」
「挨拶されたからです」
「では、奥さんの知り合いが亡くなっていることに口止めされた理由はなんですか?」
「妻が殺したからです」
「何故そう思うんですか?」
「妻は、人を殺すのが好きなんです」
「ご主人、パンきり包丁って知ってますか?」
「いえ」
「のこぎりのような包丁です」
「のこぎりなら、妻のクローゼットに沢山あります。血で錆びて使い物にならないでしょうが」
「何の血ですか」
「妻は人間以外殺しません」
「あなたは自分の妻が殺人をしているというのですか」
「えぇ、だから結婚したんです」
08:01  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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焼きましょうか

2009.04.07 (Tue)

「パーティーをすればそれでいいんじゃない?」
パーティーの趣旨は単なる掃除。
パーティーに呼んだのは、ある同好会で一緒に過ごしてきているメンバー達だ。
とはいえ、皆、同好会の活動どころじゃなくなってきたため中々同好会として集まることは少なくなりたまに集まるといえばこのようなパーティーだけになっていた。
「ねぇ、今どうしていらっしゃるの?」
「今は会社に勤めてますわ。秘書をしているの」
「そう、秘書を。大変なお仕事ですわね」
「いいえ、とんでもないわ」
「あら、そういえばあなたは今何を?」
「え?あぁ、普通に働いてますわ」
「普通にって、あなた面白いこというのね。仕事してないなんて子供じゃないんだから当たり前じゃない」
「そっそうですね」
「そういえば、あの方。ご結婚されるそうよ」
「あら?そうなんですか?まぁ、意外ですね。お見合いかしら?」
「さぁ、そこまでは。随分といいご主人みたいですよ。確か、弁護士だったかしら?」
「まぁ、それは素敵じゃないですか」
「えぇ将来も安定してお幸せでしょうね」
「本当、うらやましいわ」
「あ、そうだ。先日、素敵なカフェが出来たんですよ」
「へぇ~そうなんですか?」
「よろしかったら行きませんか?お昼休みでも抜けられますでしょう?仕事してないんだし」
「え?今なんて?」
「ごまかさなくても知ってますよ。ねぇ?」
「えぇ、わたくしも存じてますわ。いいですわよね、楽できて」
「本当ですわよ、わたくしたちは必死に働いているのにねぇ。同好会の活動ばかり。今回のバーベキューだって幹事をされたんでしょう?」
「お暇ですから何でも出来ますわよね。うらやましいわ」
「本当とですね」
一同、笑う。
笑うといえば笑うだろうけれど、嘲笑という言葉の方がもちろん適切だということはわかっている。
けれど、そんな彼女達が私をどういう風に見ているかというのが面白い。
いいの。
笑いたければ笑えばいい。
そうやって下がいないと、自分が上という自覚を持てない連中なんだ。
確かに、彼女達を羨む事もある。
けれど人として彼女達より落ちたいとは思わない。
そう、だからね、ちょっとわからせてやろうと思ったのよ。
「ところで、あなたの婚約者の方は?」
「今日一緒に来る予定だったんですが昨日から連絡がつかなくて。仕事が忙しいのでしょうね」
「まぁ、それは心配ですわね」
しばらくして、彼女達の会話は途絶えた。
そう、肉が焼きあがったのだ。
「会費が無料って伺いましたけど、いいんですか?」
そう私に尋ねてきた人に私は言った。
「無料でいいことなんてあるわけないのに、あんな風に群がる女にはなりたくないよね」
「え?あ、まぁ・・・あの人たちは自分が常識だと思ってる人ですからどうしようもないですよ」
「振り回すだけ振り回して、散々けなした挙句全部知ってるのにあんな風にいうのよね」
「お仕事の話なら人それぞれですから。一概にとは・・・。私も働いていませんし」
「準備にすら手伝いもせず文句ばかり。汚い安いこんな場所でとか。疲れるわ」
「どうかされたんですか?」
「ううん、タダでお肉が手に入っただけ。処分に困ってたの。でも、私は食べない方がいいと思うわ」
食べ始めた彼女達は群がるようにしてどんどん食べていった。
「これ、何のお肉なんですか?美味しいですわね」
そう私に微笑んだ彼女に私はにっこり笑って答えた。
「気に入っていただけて、きっと喜んでると思いますよ」
08:22  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(4)

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魔法きのこ

2009.04.06 (Mon)

どこをどうみたって、しいたけだった。
インターネットの通信販売で購入したこの怪しいきのこ。
写真では、なんと言ったらいいのだろう。
こんなの食べていいの?と思うような色をしたきのこだったが、そのきのこの説明文に私は半信半疑で購入した。
そこまで高くない。
否、高いかな。
ただ、どうしても、それがもし本当ならって思って購入した。
届くのを待ちわびていたが、開けてみると大嫌いなしいたけだった。
困った。
どうやって、これを食すのか。
まず、生のしいたけというものにはじめてであった。
ぷにぷにしてて気持ち悪い。
嫌いだからこそ余計にそう感じるのだろう。
何が嫌いなのかというと食感である。
この、むにゅむにゅ感が駄目なのだ。
からからに乾いたしいたけを戻したときに出るお出汁の味はすきなんだけどね。
このきのこを食べれば魔法使いになれるというのがキャッチコピーだったんだが。
笑うなよ、憧れてるんだよ魔法使いには。
人間追い詰められるとこういうものに最後はすがってしまうものなんだ。
毎夜のごとく悪夢にうなされて、追いかけられる夢や追い詰められる夢を見る。
飛び起きて、汗をかいて、溜息をついて、また眠る。
それでも、また違う夢だけれど、また見るんだ。
怖くて恐ろしくてそれから逃げているのに、それを殺そうとする夢に出てきた友達を止めるんだ。
不思議なんだよ。
逃げて怖くてたまらないのに。
必死に逃げてドアも閉めているのに部屋の中にいるんだ。
叫んで次の部屋に逃げても逃げてもそれがいる。
でもそれを攻撃しようとするのを、私は必死で止めるんだ。
不思議だろう?
なんでこうなってしまったのか。
それは、自分でもわからないさ。
自分で進んできた道で、それなりに安定した時期もあった。
だが一変して自分の意思とは反してその道を外れた。
けれど、それでもどうにかなってきていたんだ。
なのにもう、手のうちようが無いんだ。
もう、どうしようもないんだ。
これを食べれば魔法が使えるというのなら願おう。
何もかも。
今の全てを。
いい方向へ向かうように。
大嫌いなしいたけを少し焼いて、塩をひとふり。
一気に丸ごと口に突っ込んだ。
必死に感でごっくんと飲み込んだとき、世界が揺れた気がした。
あれ?
「警察だ!」
ん?けいさつって聞こえた?
でも、もう、魔法使いなんだし、きっと大丈夫。
「なにか、御用ですか?」
「食べているぞ」
「駄目だ!食べてしまっている!」
「くそっ!これじゃかなわないぞ!退避しろ!全員退避!」
え?そこまでおびえなくても。
別に何もしませんよ。
「うるさいなぁ、もう静かにしてよ」
一瞬で、静かになった。
さすが魔法。
なるほどね、こうゆう風に使うんだ。言ったことが実現するって仕組み?
最高じゃない?
あれ?体動かないや・・・

「おい、こいつ何で急に動かなくなったんだ?」
09:14  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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