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雪女の恩返し

2010.03.02 (Tue)

気が付けば空は薄暗い雲に覆われ、先ほどまで顔を出していた太陽はいつの間にかどこかに行ってしまっていた。
今日は確かに曇りといっていたような気もするが油断していたようだ。
「帰ろうか」
雨が降ってきたため駐車場へ移動し始めたときには大雨になり、あっという間に霙になってしまった。
「車取ってくるから、ここで待ってて」
車を取りに走った背中を見て、待っている場所に中々こない事を不思議に思うと
その先を見るとどうやら行き止まりで来れないようだ。
走って車に飛び乗り「寒い!」と笑いながら言った。
やはり行き止まりだった。
雲は容赦なく天気予報に従い車を走り出したときには真っ暗になってきた。
「あれ?降ってきた・・・?」
フロントガラスに付いた霙ではなく雪の跡。
跡はどんどん増え、ワイパーで拭うも追いつかなくなっていく。
「やばい。Uターンしよう」
雪は辺りを白く染め上げ始めた。
路面は凍結し、風は強くなり、冷たい空気が抜けていく。
次第に運転手の意思を殺いでいく。
「登れるかな・・・」
そう聞いたとき、僕は焦った。
いえなかった。
僕がこの雪の原因だと言う事を。

「あ、ダメだ。動けない」
坂をあと少しで上りきるその瞬間に車は動きを諦めた。
諦めたと言うのは御幣があるかもしれない。
雪が積もる中、辺りの車も滑りながら登っていく。
危うくぶつかりそうになりながら頼りない動きを見せている。
「どうしようか・・・」
助けを待つ間、何も無いこの場所で出会った。
というより、久しぶりに会った。

「あれ・・・」
「どうした?」
「ちょっとトイレ借りてくる」
吹雪の中、僕は車を降り駆け寄った。

「やっぱり」
「・・・なにやってるの?こんなところで」
「何って・・・ちょっと人間になってたんだけど、車って乗り物で立ち往生してるんだ」
「そうなんだ。私も人間になったんだ。ここ私の寮なんだけど、異性は立ち入り禁止だから急いで」
「・・・あ、うん。ごめん。」
急いでトイレを借り、吹雪いている外に出ると彼女はホットコーヒーと紅茶を手に持って待っていた。
「これあげる」
「・・・え、あ・・・ありがとう」
「言ってないんでしょ?あの車で待っている人」
「・・・うん。言ってない」
「雪女だった事、黙っていてもいいけれどそのうち時期は来るよ」
「そうなんだけど・・・」
「まさか、本当に惚れてんの?」
「・・・」
「しかたない。ほら、これもあげる」
「スナック?」
「美味しいんだから!ほら、戻った戻った!」
「・・・うん。ありがとう」
「また、この辺来たら寄ってよ。私、この山の主になったからさ」
「そうなんだ」
「そうよ」
「じゃぁ、雪止めてくれない?あはは・・・」
「無茶言わないでよ。それは私じゃないでしょ・・・」
「そうだね・・・」

僕は雪女の子供として生まれた。
男が生まれるとき女が掟破りをした証。
その僕は隣にいるこの人と一緒にいることを幸せと思っている。
でもこれは、本当は・・・。

あぁ、僕はもう・・・意識を保てないよ。
雪に溶けてしまうから。

「おまたせ」
「どうしたの?それ」
「ジュースとお菓子貰った。大変だねって」
「え?!お礼言えばよかった」
「大丈夫だよ、あの人は溶けたから」
「溶けた?」
「ううん、なんでも、ない」
08:00  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(2)

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