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葉桜

2009.04.22 (Wed)

桜が咲いている満開のときに来られればよかったと僕は思う。
小さな僕たちが来たときには既に桜は花びらを落とし葉桜になっていた。
「約束だよ」
「うん、約束だね」
多分、まだ保育園に言っていたときの話。
それだけ小さかった頃の約束。
でも僕にはこの約束を果たすため今まで生きてきた。
その道を作ってきた。
必死に勉強をして、常に成績上位を目指し中学も私立に入った。
エスカレーター式の学校だったけれど高校はもっと上を目指した。
そうやって作り上げてきた。
偽者の自分を。
あのときの約束を果たすため。
探し出すのに苦労した。
色々な手続きを取って自分を消すための準備が必要だったから。
名前も変えて。
準備が整ったのは、約束の日からもう十年以上過ぎている。
約束を果たすことが出来るようになった年の春。
満開の桜の下で会うことが約束の第一歩。
けれど、来なかった。
やはり、僕だけが覚えていたのかなと朝から丸一日待ったそのとき彼はやってきた。
「遅くなってごめん」
「本当に遅いぞ」
「そんなにいうなよ、兄ちゃん」
弟と僕はあの日を境に一度も会っていない。
あの日、僕たちの両親は僕たちを殺した。
たった一つの間違いに気づかないまま彼らは僕たち兄弟を殺した。
「もう十五年かな」
「そのくらいだと思う」
本来の僕たちは、行方不明となって両親が殺したことを二人で隠して秘密にしている。
被害者ぶった顔を見るたび吐き気がしていた。
小さかった僕たちがここまで生きるのに大変だった。
「準備は?」
「もちろん整った」
「お前は?」
「兄ちゃんほどではないけれど、ばれることはない」
僕たちがあの時家を抜け出し、どうしても行きたかったお祭りの後を見に行った。
けれど僕たちが行ったときには、桜祭りはあっていても桜は既に時期を過ぎていた。
家から抜け出したことを両親に見つかれば怒られると思った僕たちは
隣の家の兄弟に僕の家に泊まってもらっていた。
僕たちが寝ているベッドを使って。
両親も殺した後か、殺している最中に気づいただろう。
僕たちじゃないことくらい。
けれど、やめなかった。
それを桜祭りから帰ってきた僕たちは窓からずっと見ていた。
忘れられない一言がある。
「誰でもいいのよ」
そういった化け物の顔をした母の顔。
動かなくなった彼らを僕たちは桜の木の下に埋めた。
両親は驚いただろう。
自分達が殺したはずの死体が無かった事に。
僕たちがいないことに。

「約束したんだ」
そして、今、やっと両親との対面が叶っている。
青ざめた二人が目の前にいて、僕と弟と二人で。
そしてあの時僕たちのせいで殺されてしまった仲のいい友達兄弟の二人。
「生きて・・・いたのね」
この日が来ると思っていたのはお互い様のようだ。
「あれだけ、僕は賞をとってテレビにも出てたんだ。見ただろう?」
弟はこの日のために沢山テレビに出ているようになった。
「あぁ、すぐにわかった。お前だって・・・」
「何が目的だ・・・?」
その声も恐怖におびえた声にしか聞こえない。
「桜が満開のときにって約束したんだ。僕たちの変わりに殺された二人と」

動かなくなった両親の死体に、大量の桜の花びらを彼らの上に撒き散らした。
あの、桜の花を持ってきた。
ちゃんとごめんなさいを言いたかった。
あの時僕たちが、泊まってとお願いしなければ彼らは生きていたのだから。
「おじさん、おばさん。終わったよ」
携帯電話でその一言だけを伝え電話を切った。
「最後の仕上げだ」

桜祭りで伝統的に行われる火祭りの儀式。
沢山の物などを火の中に入れ天に送り届けるというものだったはず。
小さかったから趣旨は殆ど覚えていない。
ただ、桜の木がその火のせいで燃えてしまったんだ。
突然その中にいたものが動き出して桜の木に抱きついたんだ。
その時の桜が、悲鳴を上げるように花びらを散らして消えていった。
「火をつけるよ」
「うん」
僕たちも一緒に、焼かれよう。
桜の炎で浄化されよう。
桜の花びらが僕たちを包む。
燃え上がる熱い火があの時をはっきりと思い出させた。

「やめて!僕はりーくんじゃないよ!」
「うるさい!誰でもいい!私たちの子供は渡さない!」
「やめて!おばちゃん!やめて!」
「大人しくしろ!お前達は、今年の神事で捧げられる神童なんだ!俺達の子供として出るんだ!」
「嫌だ!死にたくない!」
「私の子供を神様になんか渡さないわよ!私たちの子供が儀式の犠牲になんか!」

「兄ちゃん、僕たちは・・・」
「あのときの儀式を終わらせていない。だから、この村に春が来なくなった。葉桜しかないんだよ」
「桜のため?」
「そう、桜のために僕たちの命を捧げるんだ」
「どうして、父さんと母さんまで・・・」
「儀式を断ったものにはそれを上回るものを捧げなければならないからだ」
「そうだったんだ」
「もうすぐ、春が来る。僕たちの血を感じた桜は花をつけるだろう」
「満開のときを見たいって僕がいった約束を兄ちゃんは守ったんだ」
「あぁ」
「ありがとう、兄ちゃん」
07:44  |  短編小説  |  Trackback(0)  |  Comment(8)

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コメント

こんにちはヽ(^o^)丿
リンクありがとうございます。
今日の話は、二転三転?
いい意味で、予想を裏切られて、とっても面白かったです。
毎日一話ずつ、ショートショートを書くなんて、すごいですね~♪
でも、ムリなさらないで、ちゃんと運動もしてください(笑
応援のぽち!
とまと |  2009.04.22(水) 20:44 | URL |  【編集】

とまとさんへ

こんにちわ(^-^)
>リンクありがとうございます。
いえいえ(汗)
こちらこそありがとうございますm(_)m
この話は結構てこずりました(^^;
ダークでいて桜の綺麗さを出したくて。
毎日書くのは大変ですね(^^;
日常の小さな出来事を事件に転化する。
ほぼ日記のようなものですが(汗)

>ちゃんと運動もしてください(笑
(^^;;; 多分

ぽち ありがとうございます!

ビリーを引っ張り出してこようかしら…
日下ヒカル |  2009.04.22(水) 20:58 | URL |  【編集】

この話難しいですね。ヒカルさんの軽妙な語り口を捻り、ねじれが少しジャマしてしまうところがあるような。
構成はすごくいいと思うので、再挑戦してほしいなあ。
(きみね、おもろかったら素直におもろかったって言えばいいじゃん。はい、おもろかったです。)
ペカリ |  2009.04.22(水) 21:41 | URL |  【編集】

ペカリさんへ

えっと…ねじりすぎました?
ウフフ(^^;

うーん 素直にすると…

どっどうなるんだろう?
もう少し謎を少なくしろってことですよ…ね?

この話はかなり苦戦しました(^^;
いやぁ・・・タイトルがきまらない決まらない…
日下ヒカル |  2009.04.22(水) 21:52 | URL |  【編集】

うん。謎は少しであればあるほどいいと考古学者も言ってます(ほんまか!)
隠し味もベースの味を引き立たせるために使われるのであって、隠し味が主役になったら隠せない味になってしまうと思うのです。(隠せない味ってあるんか?)
ペカリ |  2009.04.22(水) 22:42 | URL |  【編集】

Re: タイトルなし

なるほどですね~
参考になります。(うんうん)
次回、続きを読むの部分に改定稿を書きますね。
謎をひとつに絞ってやってみます。
改定稿UPしたらお知らせします(^-^)
日下ヒカル |  2009.04.22(水) 23:02 | URL |  【編集】

イメージは幻想的で素敵だけど、ちょっと欲張り過ぎちゃっているかも?
この10倍位の長さなら、イイと思うんですけど、
お話を長くするか、短編なら要素を絞り込む方がイイかもですね。

ところで、ちょっと逃亡生活に入ります。
戻ったら、また来ますね♪
ヒカルさんも、散歩してくださいね!

momocanal |  2009.04.23(木) 04:19 | URL |  【編集】

モモカナールさんへ

このお話は書き直して、書き直してと何度も繰り返し
崩れてしまって・・・うーんうーんと悩んだ挙句
まとまらなかったというね・・・
消すのはもったいないしと
ある程度要素を削って書き直して見ます(汗)

> ところで、ちょっと逃亡生活に入ります。
> 戻ったら、また来ますね♪
逃亡なの・・・?
旅行じゃなくて・・????(@@;;;;

> ヒカルさんも、散歩してくださいね!
・・・(.. ウン 
日下ヒカル |  2009.04.23(木) 09:12 | URL |  【編集】

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